13話
「僕…大っきくなったらかよちゃんの旦那さんになるんだ!」
「え?」
「僕…かよちゃんと将来は結婚したい…かよちゃんが好きだから…駄目かな?」
「そんな事無い!かよも…かよもたっちんの事好き!大好き!結婚!結婚したい!」
目を開けると見慣れた天井……は見えない。
暗いのだからあたりまえだ。
手探りでスマホを手に取り時間を見ると朝の5時か…
出勤まで2時間は余裕がある。
もう少し寝るか…
出勤の時間になると体が自動的に目覚める様に既に調教済みなので二度寝のリスクは少ない。
正に社畜体質様々だな。
しかし嫌な夢を見た。
少々脚色されている気もするが幼少期にあんなやり取りを交わした気がする。
あの頃はガキだったこともありあんな恥ずかしいセリフを平気で吐いていたのかと辟易する。
ガキとは恐ろしいモノだ。
無駄に行動力にあふれている。
だから告白も容易く出来てしまうし、裏切りも容易く出来てしまう。
思い返せばアイツを食った教師は当時はイケメンの眼鏡教師だったか…。
やたらと女性徒にモテていたからアレ以外とも宜しくやっていたのだろうな…。
ヤツが高校を解雇されて何処かに行ったその後なんて興味無かったし知らないが、その後あの女はクソ教師を追っかけてそのまま学校を中退。
家にも連絡をいれる事なくその後約10年間行方知れずだったのだが半年前に突然俺の前に現れたのだ。
一応クソ女の両親にはコイツを預かっているという連絡はしてある。
これでも幼い頃から色々と世話になった人達だから礼儀は通しておく必要はある。
当初彼等はクソ女を引き取ると言って来たがクソ女側が断固としてコレを拒否、駄々をコネクリ回したので妥協案として俺がコイツが落ち着くまで預かるって話になったのだ。
彼等も俺の事を幼い頃から知っていたし、なんなら高校時代に家出した馬鹿娘より信頼されているまである。
そんなわけで俺がこのクソ女を預かる事になったのだ。
このためクソ女の生活費がその両親から振り込まれているのだがその額が洒落にならないレベルで高額だったのでビビってこんなにはいらないと言ってしまったのを少し後悔している。
貰えるものは貰っとくべきだろ常識的に考えて。
ちなみにクソ女には親から仕送りされている事は話してない。
それでマウント取られても嫌だしアイツにはギリギリの生活を送っていると思われていた方が都合がいいのだ。
以前みたいに結婚やらなんやら言って来た時の言い訳になるからな。
とかなんとか考えてると部屋の外からいい匂いがしてくる。
朝早くから朝食でも作ってるんだろう。
いつもご苦労な事だ。
それも結婚へのポイント稼ぎでやってるんなら無駄な事なのだからいい加減諦めてくれたらいいんだけどな…。
もう眠気も無くなったので俺はグダ〜と布団を押し退けて立ち上がる。
目指すは洗面所だ。
顔を洗って歯を磨いてさっぱりした気分になる。
これから仕事かと思うと辟易するが今は前と違って大分やりやすくなったので以前程の嫌悪感はない。
ただ人間…いや、俺に限った話かも知れないがこのまま休んでどっかに遊びに行きたい衝動に駆られる。
まぁそんなの普通に無理なのだが…。
休んで結局誰が一番苦労するかと言えばそれは俺自身なのだ。
自分の為にも毎日真面目に仕事に行く。
そう言うモノだ。
「おはようたっちん」
「あぁ…おはよう」
「今日はね…ハムと卵焼きだよ…?」
「あぁ…ありがとう」
「ささっ、食べて食べて」
今ふと思ったのだがコイツの家事スキルは何処で養われたのだろうか?
中高の頃もそれなりには出来ていた気はするがここまで上手くはなかった。
おそらくはあのクソ教師の所で料理をしていたのだろう。
腐っても幼馴染だ。
コイツの将来を俺なりにだが心配はしている。
ならもらってやれば良いじゃんと思われるかも知れないが恋愛感情以前に結婚にメリットを感じられない。
おそらくだがコイツは結婚したと同時に今のへりくだった態度を消して本性を現してくると見ている。
色々と後の事を考えると面倒くささしか感じない。
ガキの頃みたいに結婚は良いものだと夢を見続けるには歳を取り過ぎた訳だ。
コイツに加えて子供の養育費や学費、家だっていつまでも賃貸では駄目だろう。
考えれば考える程結婚なんて自分には重荷にしかならない。
「どうしたの?難しい顔をして…?」
「え…?あぁ…いや、なんでも…」
「ふーん、変なたっちん」
「……」
お前…俺の所に来るまで何処で何してたんだ?
喉元まで出かかったそんな疑問を飲み下す。
聞いてどうするのだ…
面倒くさい事にしかならないだろう?
結局俺はその日も黙々とコイツの作った飯を食い職場に向かった。
通勤のためにチャリを漕きながながらも考えは続いていく。
。
今のままでは駄目な事は分かっている。
俺もアイツも互いに為にならない。
依存しあっているのだ。
俺もアイツも…。
飯を作ってゴミ出しや買い出しもしてくれる便利な存在を手放したくないという我儘。
俺がアイツを家に置いている理由はコレに尽きる。
大層な理由なんてない…それだけだ。
俺にはアイツへの恋愛感情は無い。
それは間違いない。
でも幼馴染としての情は残っているつもりだ。
別に不幸になって欲しいとは今更思わない。
もうそんな気持ちを持つ程アイツに興味がないのだ。
ただ俺の知らない何処かで死なぬず幸せに生きててくれたらそれで良い。
俺のエゴでアイツを縛って良い訳は無いのだ…。
アイツと添い遂げる気も無いならアイツをここから解放してやらないといけない。
わかってはいても結局は現状に甘んじてしまう。
しかし思わぬ所で状況は動く。
俺の意思とは関係なく…。




