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出会いがしら

作者: 柴野弘志

 出会い頭によく人にぶつかる男だった。


 せっかちな性格で落ち着きがなく、後先を考えるより目の前の起きている出来事で頭は一杯なのであった。


 仕事に遅刻するとなったら、まず家を飛び出すなりぶつかり、道路の曲がり角を走り抜けてはぶつかり、電車に乗り込もうと階段を下りたところでぶつかり、会社のエレベーターに乗り込もうとしてはぶつかった。


 男は厄年を迎えると、「オマエはそそっかしくて危ないから絶対に厄払いに行った方がいい」と周りから言われた。

 せっかちで面倒くさがり屋な男は、自宅の裏の空き家の、荒れ放題の庭に設置された古い社に赴き、さっさと終わらせようと考えた。礼拝のしきたりもめちゃくちゃに男は適当な柏手を打った。


「神様。どうかこのそそっかしい性格を直してください。そしてわたしに降りかかる災いをお(はら)いください。お願いします」


 そう言って、もう一度パンパンと手を叩き念を入れた。


 当然そんなことでこの男の性格は直るはずもなかった。相変わらずせかせかして、慌てて向かった先が違う取引先であったり、改めて到着すれば本来の目的を忘れてしまうのであった。


 ある朝、寝坊をして慌てて家を出ると、また出合い頭にぶつかりそうになった。思わず体をのけぞらせたが、いつものような衝撃はなく、空を切ったような感じになった。相手はこちらを見向きもせず、何事もなかったように歩き去った。

 いったい何だったのだろうか。起きぬけでまだ頭が働いていないのか……そんなことを考えつつも、ふと急がなければいけないことを思い出した。


 道路の曲がり角を走り抜けると、今度はやってきた車にぶつかりそうになる。ハッと息を呑み体を硬直させると、またしても衝撃はなかったのである。

 なにかがおかしい。体に異変が起きているようだ。なんだかよく分からないが、すり抜けているようである。


電車に乗り込むときも、エレベーターに乗り込むときも、ぶつからずにすり抜けてしまう。


(そうか。神様はそそっかしさを直さず、ぶつからない体にしてくれたんだな)


 男は支離滅裂(しりめつれつ)な結論に納得した。そんな訳がないのに、これならぶつかる危険もなくなったと喜んでさえいる。


 その喜びのままに事務所に入ると、男のデスクの周りに人だかりができていた。男が声をかけても誰も答えてくれない。その中から誰かの呟く声が聞こえた。


「バカなヤツだ。いつかこうなると思ったよ」


 男の机には花が手向けられていた。


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