強者どもが夢の跡 過去編
序
龍神を体内に宿す少女、神尾龍子はいつ自分の中に龍神が宿ったのか知らずにいた。これは1000年程前、ある村で祀られていた龍神が荒ぶる神となり、鎮められる物語である。
第1章 水上湖の龍神
あたしは天薙神剣でアンジェラさんと模擬戦をしていた。このあたしが唯一、絶対に勝てないと思う相手はアンジェラさんだった。金色に輝くドラゴンスレイヤーがアンジェラさんの得物だ。あたしのと同じ神代の剣であり、そこにアンジェラさんの力が加われば、地球を滅ぼすことも出来るだろう。
僅かな隙に剣を弾かれあたしは両手を上げた。土台歴戦の勇者であるアンジェラさんに勝てるわけがないんだ。
「油断したな、リュウコ。僅かな隙が死を招く。良く心得ておけ」
あたしは疲れきって闘技場の壁に寄りかかって座った。
「少し休みましょうよ、アンジェラさん。もう2時間はぶっ通しでやってるんですよ」
「ん?そうか、そんなに経っていたのか。仕方ない休憩にするか」
あたしはペットボトルの中身を飲み干さんばかりの勢いで胃袋に流し込んだ。
(やれやれ、この程度で根を上げるとは、身体強化が足りんな)
龍神がここぞとばかりに指摘する。
(うるさいな、アンジェラさんが規格外なんだよ。世界でも数少ないSランクだぞ)
(ぬしも、いずれはSランクになる宿命。泣き言を言っても仕方あるまい)
(あたしにSランクなんて無理だよ。A+ランクになれば魔王とも戦える)
(ぬしに死なれても困るからのう。だからSランク目指して頑張るが良い)
(くそー、他人事だと思って好き勝手言ってくれるよ)
そこまで話した時、あたしはある疑問が頭に浮かんだ。いや、本当は子供の頃から抱いてた疑問なのだか、今はアンジェラさんがいるから、ちょうど良い機会だ。
「アンジェラさん、聞きたいことがあるんですけど」
「ん、なんだ?」
「なんであたしの体内には龍神が宿ってるんですか?今まで色んな夢想士と会ってきましたが、他にそんな存在はいませんでしたよ」
あたしの質問を受けてアンジェラさんは天を仰いだ。コンクリート打ちっぱなしの天井があるだけだ。
再び視線を戻した時、アンジェラさんの碧い瞳には決意が宿っていた。
「そうだな。お前もそろそろA+ランクに手が届く頃だ。もう話しても構わないか」
アンジェラさんも壁を背にして座り込んだ。
「お前の中にいる龍神はな、1000年前にある村で祀られていた神様なんだ」
と、そんなとんでもないプロローグから龍神にまつわる話が始まった。
およそ1000年以上前、朝廷は京に都を構えた。帝は現人神であり、絶対の権力者だったが、都にまつろわぬ勢力もまだまだ多かった頃、鬼と呼ばれる妖魔も各地で勢力を伸ばしていた時代。
村人が100人ほどの水上村では、古来より水上湖に棲まう龍神が祀られていた。実際、湖底には金色の龍神が棲んでいたのだが、実際にその姿を見せたことはなかった。
だがある年、村は飢饉に見舞われ朝廷に献上する米が不足していた。そこで水上神社の宮司が雨乞いを行ったが、雨は全く降らず地面は乾燥してひび割れる状態となった。困った村長と宮司は話し合い、生け贄を捧げることになった。
(やれやれ、人間というのはどうしてこう知恵が足りぬのか)
湖底では龍神が呆れていたが村人たちは本気だった。宮司の娘で巫女でもあるお凛がその生け贄に選ばれ、村を上げての大行事となった。神社の本殿の奥にある小さな社にお凛が閉じ込められ、村人総出で雨乞いを始めた。
(やれやれ、仕方ない。我が雨を降らせてやるか。本来、我は雨神などではないのだかな)
小さな蛇に化けて湖から抜け出し、遥か上空に至った時本来の姿に戻って雨雲をかき集めた。そして水上村に滝のような雨が降った。村人たちは歓喜し、龍神に平伏して感謝の言葉を口々に語る。龍神はそんな言葉には興味がなく、この地に雨が降りやすいように天候を弄った。そして、人知れず人の姿に化け、神社の奥の社に赴いた。いつの間にか気配を感じ取ったお凛は、振り向いた。そこには直衣を着た殿上人のような人物がいた。
「あ、あなた様が龍神様なのですね。なんと勿体ない」
娘は平伏して動こうとしない。龍神は苦笑して、
「面をあげるが良い」
その言葉でようやく娘は顔を上げた。なんとも美しい娘であった。だが、生け贄にされたということは、この娘はここで死に、骨身をさらすことになる。
(そもそも、生け贄など要らんのだ。この地はしばらくは普通に雨が降ろう。ならばこの娘は我がかくまわねばならない)
龍神は膝を折り手を差しのべた。
「我と一緒に来るが良い。ぬしが死ぬ必要などないのだ」
「でも、龍神様。雨が降らなくなればまたこの村は・・・」
「心配するな。天候を弄ってこの一帯は雨が降りやすいようにしてある。さあ、一緒に来るのだ」
ようやく立ち上がった娘を抱きしめ、龍神は村の外へと空間転移した。そうして安住の地を求めて、手に手を取って旅に出たのだった。
一方、京の都では陰陽師である賀茂保憲が丑寅の方角にて、巨大な存在の動きを察知していた。
(これは、大怨霊ほどの存在が天候を動かしたのか?京の都に入らぬよう手を打たねば)
保憲は本殿の近くにある離れへと赴いた。実はこのことは予言者が事前に告げていたことだ。だが、龍神が現れるなど半信半疑だった保憲は帝にも報告せず、棚上げにしていたのだ。
「千歳殿はおられるか?」
襖を開けると侍女たちが平伏し、その奥には一人の少女がいた。白い髪に白い目という目立つこと、この上ない外見だが、朝廷は必ず当たる予言者として、都の中に軟禁しているのだ。
「これは保憲殿、いかがされたのじゃ?」
帝が権力を維持するために、千歳を手元に置いていたのだが、まさか、こんな凶事が現実になるとは思っていなかった保憲は、千歳の前にどっかと座り込んだ。
「千歳殿の言っていた通り、大きな災厄が起こりそうになっております」
それを聞いた千歳は目を閉じて息を吐いた。
「妾の予言が外れたことがあったかのう?当然、対策はしておられるでしょうな?」
痛いところを突かれ、保憲は首を振る。
「しておりませぬ。まさか、龍神が顕現するなど、誰が信用出来ましょうか」
「それでは妾が予言する意味がない。陰陽寮のお歴々は、蹴鞠でもして遊んでおられたのか?」
侍女たちから忍び笑いが漏れる。
「いくら千歳殿でも、侮辱は許しませんぞ!」
いよいよ、眉間にシワが寄った千歳は、
「陰陽師の方ではどうにもならん。夢想士の影野忠正殿に依頼すべきじゃ」
と、不機嫌に吐き捨てた。
「陰陽師が当てにならんというのは、予言者としての忠告ですかな?」
「無論。妾は本当に起きることしか口に出さん」
「委細承知、では夢幻寺を訪ねてまいります。千歳殿、それで災厄は回避出来るのですかな?」
「まずは、動かれることじゃ。未来には一定の振り幅がある。人が動けば未来もまた動く」
「分かりました、それでは失礼!」
呪術といえば陰陽師という認識が一般的だが、陰陽道は星の動きを読み、暦を用いて吉兆を占う現在でいうところの占星術師であり、実際に術を使ってあやかしを退治するのは夢想士や禁呪師、密教僧たちであった。
慌てて夢想士たちの住まう夢幻寺に向かった保憲だったが、門の前にはすでに一流の術士である影野忠正が立っていた。
「忠正殿!一大事ですぞ!」
「まあ、まずは中に入り、茶を飲んで落ち着かれよ」
忠正は屋敷のほうに戻って行くので、保憲も仕方なく後を追った。寺の中には誰もおらず忠正自身がお茶を入れてくれた。
「大変ですぞ、忠正殿。丑寅の方角に大いなる災いが目覚めたようですぞ」
「なるほど、その件ですか。また予言者殿の予言が当たりましたな。我々も早くに察知し、現地に偵察の者を送っておきました。まずはその者が帰ってから対策を練りましょう」
「忠正殿、そのような悠長な・・・」
お茶を一口飲んだ忠正は手で保憲を制した。
「その大いなる厄災、とやらはまだ何もしてません。都からも遠く離れている。まずは正体を見極めるべきだと思いますぞ」
言われて保憲は確かに、と思った。不吉な存在とゆうなら、鬼の酒呑一族や土蜘蛛一族のほうがよほど危険な存在だ。
「しかし、忠正殿。もしそれが我々に仇なす存在だとしたら、どうされる?」
「我々、夢想士は朝廷の庇護がない代わりに自由に動ける。海の向こうには龍と戦い、これを倒した英雄がいるそうですぞ」
「なんと!龍を倒す人間がいると申されるか?」
「いざとなれば、その英雄に来てもらうことも可能。最も、海の向こうのお方ですからな。来て頂くのに数年はかかるやも・・・」
「それでは遅すぎる!今から来て頂くことは可能ですか?必要なら私が帝に国家存亡の危機が迫ってると説き伏せ、費用を出すこともいとわぬ!」
保憲は本気だった。吉凶を占ってここまでの悪い目が出たことはない。すぐに何か起きずとも、起きた時に備えて万全の準備をしなければならない。
それに、もし、保憲が予言者の言葉を伏せていたことがバレたら大変なことになる。
「なるほど、本気のようですな。しかし、そのお方。世界中で起きる大災厄の度、現地に赴くお忙しい方ゆえ、ちょうどこの国で事が起きた時におられるとは限りませんぞ」
「構いませぬ!この国で大災厄が起きると知ってもらえるだけで!」
湯呑みを畳に置き、忠正は目を閉じて腕を組んだ。しばし、考え込んだ後、口を開いた。
「分かりました。かのお方に連絡をとってみましょう。本当に都に災厄が迫ってるなら、あのお方なら放っておけぬはず」
「よろしくお願い申す!」
水上村から十分離れた山間の麓に、小さな庵を構えて暮らすことになった。お凛は田畑を耕し、龍神は狩りをして食い扶持を稼いだ。時には川を泳ぐ岩魚や山女魚を釣って囲炉裏を囲んだ。
「龍神様、これは焼けております」
「おいおい、以前にも言ったであろう。我のことは神威と呼べと」
「あ、申し訳ありませぬ、神威様」
「そんなことはないと思うが、もし村の追っ手が来たら厄介なことになるからのう」
「あいすみませんでした。神威様、どうぞ、一献」
お凛は酒の瓶を手に勧めてくる。
「うむ。人間とはなかなか侮れん。このような旨いものを作れるのだからな」
愉快な気持ちになって酒を楽しんでいた龍神だったが、気配を感じてお猪口を置いた。
「どうされました?」
「いや、なに、ご不浄に行ってくる」
立ち上がった龍神は表に出て、庵をかなり離れてから声を上げた。
「それで隠れたつもりか?隠形の術など我には通用せんぞ!」
すると、二~三人の狩衣を来た者たちが姿を現した。
「流石ですね、龍神殿。我らの術をあっさりと看破されるとは」
三人の中で一番の夢想士、雨野叢雲が龍神の前で膝を折った。後の二人もそれに習う。
「ぬしらは夢想士か。朝廷お抱えの陰陽師より、よほど巧みな術を使うそうだな」
「それほどでもございません。こうして術を看破されましたゆえ」
「ふん、ところで何用か?まさか我を討伐に来たのか。それにしては人数が少なすぎるぞ」
龍神がほんの少し殺気を出した途端、後ろの者たちがどさりと倒れる。それを確認した叢雲は、
「ご覧の通り、我らではあなたを討伐するなど不可能でございます」
「うむ、ぬしは我の威圧が効かんか。面白い。何故我のもとに現れたのか仔細を話すが良い」
こうして許可を得た叢雲は、京の都にいる陰陽師たちが、龍神の出現を察知し、上や下にと大騒ぎになっていること。そこで夢想士たちに詳しい調査の依頼が来たことを語った。
「ふん、我が現れたくらいで大袈裟な。我は水上神社に祀られておる龍神じゃ。飢饉に見舞われた民草どもが生け贄まで捧げて拝むゆえ、雨を降らせてやった。先ほどの庵で我と暮らしておるのは、その時生け贄にされた娘じゃ。そのまま生け贄として朽ちるのは憐れ過ぎるので助けてやったのだ」
「お話を伺っている限りでは、龍神様はその女性のことを気に入っておられるようですね」
その言葉に一瞬、鋭い目付きになった、龍神であったが、すぐに目線を反らして頭をかいた。
「生け贄にされた憐れな娘だからな。我がかくまってやらねばならん」
その言葉を聞いて叢雲は吹き出してしまった。
「貴様、何を笑うておる!」
「失礼しました。そうすると龍神様はしばらくここに住まわれるのですね?村には戻らず」
「言ったであろう。村に戻ればお凛は生け贄として殺されてしまう。さりとて京まで行くほど酔狂でもない。呪術師たちが山ほどおるじゃろうからのう」
良く言う、と叢雲は思った。その気になれば京の都も一日で滅ぶだろう。
夢想士二人が威圧されただけで気を失ったのだ。この事態は上手く制御しなければならない。
「分かりました。しかし、都には臆病な連中も多いゆえ、月に一度、庵を訪問することを許して頂きたく」
「何故じゃ?」
「あなた様が京に触りをなす鬼神ではないと、証明するためでございます」
龍神は顎に手を掛けて沈思黙考していたが、決心したのか、再び叢雲に目線を戻した。
「良かろう。ただし我は平和な生活をしたいだけ。来るのはぬし一人だけ。それと土産に酒を持ってくるがいい」
「ほう、龍神様も酒を嗜まれますか。それでは唐から取り寄せた、ぶどう酒をお持ちしましょう」
「なんと!ぶどうで酒を作れるのか?」
「大変、美味ゆえ、龍神様もお気に入りになるかと」
「それは楽しみじゃ。ところで我のことは神威と呼べ。龍神などと呼ばれては全て台無しじゃ」
「これは然り!」
二人は月明かりの下、大いに笑いあった。
こうして、月に一度、龍神と叢雲の酒席が設けられることになった。唐から取り寄せた酒は確かに美味で、お凛の作る肴にも良く合った。
京の都では夢想士の手により問題は解決したことになっていた。手柄は陰陽師の賀茂保憲のものになったが、夢想士たちは目立つことを嫌うので、異を唱える者もいなかった。
夢幻寺では雨野叢雲が酒を携えて月に一度、庵を訪ねる日々が続いていた。
「いつも、ご苦労だな、叢雲」
「いえ、忠正様。私も月に一度の訪問が楽しみになっております」
「ほう。仮にも神と崇められる存在を、お前は楽しみと言うか」
「神威様は荒ぶる神ではございません。生け贄の娘であったお凛殿を助けるほど情けの深い方にございます」
「ふむ、都の者たちは未だに恐れている者がいるというのにな」
「実情を知る私からすれば笑い話ですが。それでは今日もご挨拶に行って参ります」
「ふふふ、酒を持って訪ねるのは理に叶っておるな。お神酒上がらぬ神は無し、と言うからな」
「はい、それでは行って参ります」
叢雲は本当に月に一度の頻度で龍神の元に通っていた。龍神は酒が好きで良く笑う。叢雲も仕事というより、ちょっとした息抜きのつもりで庵に通っていた。
庵に到着すると、龍神は不在でお凛が向かえてくれた。
「良く来てくださいました。叢雲様、中にどうぞ」
お凛に満面の笑顔で迎えられると、何だか面映ゆい心持ちになった。他ならぬ叢雲もお凛を密かに慕っていた。
「今日は神威様はご不在ですか?」
「お昼過ぎに釣りに行かれたので、もうそろそろ帰って来られると思います」
囲炉裏の下座に座った叢雲は持ってきた酒の瓶を差し出した。
「この間は呑み足りないと申されていたので、二つ持って来ましたぞ」
「まあまあ。ありがとうございます。あの方も喜ばれますわ」
その時、叢雲は何か違和感を覚えた。はて、お凛殿は少し太られたのかな?などと考えていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「はっはっは!待っておったぞ!叢雲!」
「神威様、一月ぶりでごさいますな」
「うむ、ぬしの持ってくる唐の酒が恋しくて仕方なかったわ。それ、お凛。今日の釣果じゃ」
龍神の持っていた竹籠には、たっぷりの鮎が入っていた。
「ありがとうございます。それでは早速焼いて頂きましょう。あ、いま塩を用意します」
お凛の姿がなくなると、叢雲は気になっていることを尋ねた。
「ところで、神威様。お凛殿は何だか健康的になりましたな。よほど、今の生活が合っておられるのですね」
龍神は自分のと叢雲のお猪口に酒を注ぎ、満足そうな笑みを浮かべた。
「ふふ、分かるか?あれの腹が少し大きくなっておることを」
「なんと!それでは神威様!」
「うむ、あれのお腹には子が宿っておる。もう三月になるかのう」
「か、神威様!それはもう少し秘密にする約束です!」
真っ赤になったお凛が慌てて塩を持って囲炉裏端に座った。
「はっはっは!叢雲は月に一度やってくるのだぞ。ばれるのは時間の問題じゃ」
龍神は楽しそうにからからと笑った。
「あの、叢雲様、このことはどうかご内密に!」
「もちろん、私は秘密にしますが、夢幻寺にいる仲間たちはこういうことには聡いですからな。いずれ知られることになるのも時間の問題かと」
「はっはっは!諦めろ、お凛。それに目出度いことではないか。盛大な式などは上げられぬが、この叢雲が山ほど唐の酒を持ってきて祝ってくれるであろう」
確かに叢雲自身はお目出度いことであると喜んでるが、この変化がお凛のいた村や京の都にどのような影響が出るか、それが心配であった。
しかし、生まれるのはあと七月ほど後。その間にももしものことがあれば・・・。
「神威様、この庵と周辺に結界を張ってもよろしいですか?」
「うん?何故だ?」
「あなた様が触りをなす神ではないと信頼を勝ち取ってる最中、しかし、お子が生まれるとなると良からぬことを企む者が現れるやもしれません」
頭を下げる、叢雲の姿を見て、龍神にも多少の危機意識が芽生えてきた。
「そうじゃな。我がいる時ならば良いが、いない時を狙われてはいかんともし難いのう。叢雲、ゆるす。結界とやらを張ってくれ」
「お任せを!」
かくして、庵とその周辺は結界で守られ、十月十日はあっという間に過ぎた。
龍神とお凛の間に生まれた子はお龍と名付けられ、すくすくと育っていた。一方、京の都では龍神が相変わらず消えず、それどころか新しい厄災が生まれたということで、陰陽寮に詰めている陰陽師の間では、何としても調伏すべしという過激論まで出てくる始末だった。
もちろん、影野忠正は何度も呼び出しを受け、仔細を問われた。叢雲が友となって龍神が京の都を襲う心配はないと主張するも、帝に召し抱えられた陰陽師たちがその主張のことごとくを否定するのであった。
「保憲殿。私は何度も龍神は驚異ではないと教えたはず。なのに何故今頃蒸し返すのですかな?」
「来年より私が陰陽寮を束ねることにあいなった。懸念事は今のうちに解決しておきたいのです」
やれやれと思った。権力は人を変える。だから夢想士はあえて殿上人とならず、野に下ったのだ。
「保憲殿。龍神は一睨みするだけで、弟子を昏倒させた。あなた方陰陽師に調伏など出来るのですかな?かつての安倍晴明ほどの実力者ならともかく」
安倍晴明。日本人なら知らぬものはいないほど、優れた術士であった。しかし、彼を頂点にして、陰陽師の力量は目に見えて下がった。安倍晴明が弟子を取らず、己の術を後世に残さなかったからだ。
「我々、陰陽師では役不足と申されるか!?」
「鬼や怨霊、あやかしの類いは今や野にいる術士が退治し封印している。陰陽師の方々は殿上人となられて、なまってしまわれたのではないですかな?」
「不敬な!恐れ多くも帝の方針に異議を唱えるおつもりか!」
「いえ、我々は貴族ではありませぬゆえ、政に口を出すつもりはありませぬ。ただ、これだけは申しておきましょう」
忠正の目が細くなり、まるで光を発しているかのように、鋭くなった。
「龍神に手を出したら、都は滅びます。もうすぐ海の向こうから勇者と呼ばれたお方が来られるが、それを待たずに軽率な行動を取れば京の都も終わります」
「べ、別に龍神に手を出そうとは思っておりませぬ。ただ、かつて龍神が祀られていた村が、再び飢饉に見舞われてるから、手を打とうと思ってるだけで」
「村が飢饉?なるほど、その件我々が何とかしましょう。保憲殿、どうか、早まったことはなさらぬよう」
頭を垂れて忠正は部屋を出ていった。すると襖が開き刀を携えた侍たちが保憲の前で平伏した。
「き、聞いておっただろう?あの影野忠正とそれに連なる夢想士どもは、危険な龍神を飼い慣らしたつもりでおる。事が起こってからでは遅すぎるというのに」
すると、侍大将の源雷光が、すっと顔を上げた。
「我らはかつて鬼の一族を退治した実績がござる。夢想士などという野にいる術士ごときに頼る必要はございませんぞ」
「うむ。しかし、あの影野忠正は確かに優れた術士ではある。一応は筋を通しておかねばならん」
「それでは保憲様。我らが飢饉に襲われている村を調査しましょう。その上で善後策を練ればよろしいかと」
「うむ。出来れば龍神を敵に回したくはないが、詳しく調査すれば打開策も見いだせるかもしれん」
侍たちは立ち上がった。いずれも一騎当千の猛者揃いだが、龍神に通用するかどうか。
「それでは、保憲殿。行って参ります」
「うむ、くれぐれも夢想士どもに感づかれないよう頼むぞ」
「御意」
侍たちが出ていった後、賀茂保憲は速やかに千歳の元に向かった。
「千歳殿、お知恵を拝借したい」
ちょうどお茶を飲んでいた千歳は、閉じていたまぶたを開いた。見るものを全て吸い込むようなその白い瞳は、保憲の苦手とするところだった。
「保憲殿、龍神が現れることも、人間との間に子を成すことも予言していたはず。後はあなたの職掌の範囲ではありませぬか?」
「千歳殿、以前は運命には振り幅があるから、やり方次第で未来を変えられると申されましたな?」
「確かに申しましたが、今のままでは愚かな者たちの手で台無しとなり、龍神が荒ぶる神となる」
「何とか防ぐ手はありませぬか?」
「水上村の者たちが暴走するのを止めるより他ない。しくじれば京の都も滅びる結果となるじゃろうな」
「水上村は三年振りに飢饉に見舞われているとか。それと関係あるのですか?」
「村人たちは生け贄にした娘がまだ生きておることを問題にするが、飢饉はそれとは関係ない。だから、生け贄の娘が今後の鍵を握っておる」
「なるほど、雷光殿が戻ったらそう進言しましょう」
保憲が部屋を辞した後、千歳はやるせないため息をついた。
「やれやれ。もはや後手に回っておることは言えんのう。妾は異国からの勇者が来るのを待つしかないか」
千歳は再び目を閉じ、来るべき未来を待った。
第2章 歴戦の勇者
水上村の村長、源兵衛は突然村にやってきた侍たちに仰天し、額を地面に擦り付けて平伏した。
「お許しくだされ!今年は三年ぶりの飢饉に見舞われ、献上する米が満足に収穫出来ませんゆえ!」
侍大将、雷光は村長に面を上げさせた。
「この三年はちゃんと雨が降ったと申すのだな?」
「は、はい!生け贄を捧げ、龍神様にお願い申し上げましたところ、たちどころに滝のような雨が降りました。そして、この三年ほどは順調に雨が降っていたのですが、今年は何故かまた飢饉に見舞われまして」
「生け贄を捧げたと申したな。それはどこじゃ?」
雷光の鋭い眼光にすっかり萎縮した村長は、素直に洗いざらい吐いた。
「水上神社の本殿裏の社でございます」
「うむ、案内せい」
村長を先頭に侍たち、村人たちが一斉に神社を目指した。長い石段を登りようやく神社に到着した。
「さ、お侍さま、こちらでございます」
村長が先に立ってぞろぞろと本殿裏の粗末な社に到着した。
「ここに、生け贄に選ばれた巫女のお凛が眠っております」
村長は閂を外し、扉を開いた。
「やや、これはどうしたことじゃ!?」
「如何いたした?」
「生け贄に捧げたはずのお凛の骨がありません!わずか三年で骨まで朽ちるはずは・・・こ、これです!この村に再び飢饉が訪れたのは、生け贄が逃げたからにございます!」
「まあ、待て。本当にこの社は抜け出すところはないのか?」
村人たち数人が内部に入ってあちこち調べたが、ネズミ一匹通れる穴もなかった。
「ということは、何者かが生け贄の娘を逃がしたということだな」
雷光の言葉に、再び村長は平伏して身を震わせた。
「そ、そのような罰当たりな真似をする者は、この村にはおりません!信じてくださいませ!」
雷光は側近たちと何事か話し合っていたが、結論は意外と早く出た。
「何者かが逃がしたことは明白。しかし、村にそんなことをする者がいないとなれば、山賊の類いであろう」
「な、なんと!それでは村には・・・」
「うむ、飢饉でやむなく米が採れなかったと注進しよう」
「あ、ありがとうございます、お侍さま!」
雷光一行は京の都への旅路についた。その途中、侍ながらも不思議な力を持つ飯綱が、山間に結界が張られていることに気づいた。
「雷光様」
「飯綱、如何いたした?」
「ここに結界があります。この奥に何かが隠されておるようです」
「結界か・・・しかし、それは龍神が張ったものか?」
「いえ、いずれかの術士による術式です」
「野には呪禁師や夢想士など、術士は山ほどいる。我らの敵はあくまで龍神。放っておけ」
「ははっ!」
こうして、龍神やお凛は危機を回避出来たと思えたのだか、愚かな人間の画策は確実に忍び寄ってきていた。
水上村の神社には大勢の者が集っていた。いわゆる山賊の類いや、民間の呪術士など、20人ほどはいようか。村長の源兵衛は両手を上げて注目を集めた。
「みなさま、ご苦労様にございます。今日、こうして集まって頂いたのは、逃げ出した生け贄である、お凛を捕らえて欲しいのです。生死は問いません。ただし、死んだら死体を村まで持ってきて欲しいのです!」
「それは構わんが村長、報酬は出せるのであろうな?」
筋骨隆々の山賊の親玉が尋ねた。
「もちろん、ございます。村が潤っていた頃に手に入れた、金の延べ棒がそちらの宝物殿に保管してあります。朝廷には米でなければ受け付けられませんから、今回のような事態を想定して準備しておりました」
「ほう、金か。して、どれほどの量がある?」
「そちらの宝物殿の中をご覧下さい。満足頂けるかと」
山賊の長が、格子の隙間から覗くと金の延べ棒がうず高く積まれていた。
「なるほど、これだけの量なら文句はねえ。で、ここからは争奪戦というわけだな?」
「はい、一番にお凛を連れて来たお方に報酬は全額支払います」
「そうとなったら、グズグズしてられねえ!行くぞ、野郎共!」
おーっと、勇ましく雄叫びを上げた連中が神社の石段を掛け降りてゆく。残ったのは何らかの術士の連中で、様々な方法でお凛の居場所を特定しようと躍起になっている。
(早く、見つかれば良いが。死体であっても構わぬ)
己の可愛いさに画策を図ったことが、自らの命で代償を支払うことになるとは、思いもしない源兵衛だった。
夢幻寺にて、瞑想をおこなっていた影野忠正は、突然の振動と眩い光に目を開いた。これは、もしかすると。急いで立ち上がり、襖を開いて縁側に行くと、懐かしい姿がそこにはあった。
「これは、アンジェラ殿!お久しゅうございます!」
庭園には流れるような金髪と、海のように碧い瞳の異国の者が立っていた。
「これは、久しいな、忠正殿。七年・・・いや、八年振りになるかな?」
何事かと縁側に出てきた者たちは、アンジェラの姿を見ると、慌てて平伏した。
「止めてくれ、畏まるのは。私も皆と同じ夢想士なのだからな」
「はっはっは、無理もありませんよ。最強の鬼であった酒呑童子と茨木童子を退治した勇者のことは、この夢幻寺では知らない者はおりませんゆえ」
アンジェラは皮の履き物を脱ぎ、座敷へと上がった。異国の戦場の装束が珍しいのか、みな、小声で話し合っていた。
「遅くなったことは謝る。いや、私は空間転移を用いればすぐにでも来れたのだが、肝心の手紙が私に届いたのはついさっきのことだからな」
「そうでしたか。これから連絡する時は、飛心の術を用いたほうが良いですかな?」
「それも難しいだろう。世界のどこに私がいるか、知っていれば別だが」
「ん?それでは今回の手紙の宛先には、アンジェラ殿はおられなかったのですか?」
「その気になれば世界中に呼び掛けることが出来る、優れたテレパシストの住所だ。彼女が私に呼び掛けたので手紙が来ていることを知った」
「テレ?パシ・・・」
「ああ、異国の言葉だ。無理に覚える必要はない」
アンジェラは荷物の中から水晶玉を取り出し、小さな座布団の上に据えた。
「これから連絡はこれで行おう。力のある夢想士なら、これで私と連絡が取れる。非常事態にもすぐ対応出来る」
「これは、アンジェラ殿、感謝してもしきれません」
忠正は頭を垂れて礼を述べた。
「それで、龍神の件はどうなったんだ?」
「我が弟子の雨野叢雲が月に一度、訪問しております。驚いたことに龍神は生け贄にされた娘を憐れに思い、密かに助け出して、今は小さな庵を構えて娘と、その間に出来た子供と共に穏やかな生活を送っているようです」
「龍神と人間の間に出来た子供か。古今東西、神やあやかしと交わり子を成すこと自体は珍しくないが・・・」
アンジェラは出されたお茶を一口飲み、腕を組んだ。
「何かひと悶着あったようだな、忠正殿」
「はい、都では龍神の威光を恐れて、討伐すべき、という声が俄に高まりつつあります」
「ふむ、だろうな、人間は自分が理解出来ない者を恐れる傾向にあるからな」
「一応は私が釘を刺しておきましたが、しょせん野にいる術士の言い分。素直に聞き入れてもらえるかどうか」
アンジェラは立ち上がると縁側に向かった。
「アンジェラ殿、どちらへ?」
「聞き分けがないのなら、私が直接言い聞かせようと思ってね」
「それは危険です、アンジェラ殿!」
忠正は素早く縁側を降りると、膝を折って頭を垂れた。
「都には異国の者を見たものがいません。失礼ながらアンジェラ殿の金の髪に碧い瞳を見れば、あやかしの類いに勘違いされること、間違いありませぬ!」
「はっはっは、あやかしを討つ者があやかしに見られるか。しかし、心配は要らない。私は手を出さないし向こうに手出しもさせない。信用してくれ」
「・・・本気なのですね?それではこの私が随人を勤めます」
「大袈裟だな。まあ、分かった。私の外見ばかりに拘って、話を聞いてもらえないのでは意味がないからな」
「それと、アンジェラ殿、これを頭に巻いてください」
忠正は、空中から一枚の風呂敷を取り出した。鮮やかな桜色と緑の染め物がしてある。
「あなたはこの国では目立ちすぎる。どうか、それを頭から被って誤魔化してください」
「ふむ、まあ、道中でいちいち人に驚かれても困るな」
ふわりと頭に風呂敷を被る。その姿はまるで天女のようで、居合わせた夢想士たちは密かに頭の中で手を合わせていたのだった。
京の都に入ると、アンジェラと忠正の二人連れを見て、こそこそ話をするものが多くなった。
「やはり、完全に誤魔化すわけにはいかないか」
「アンジェラ殿の背が高く、透き通るような白い肌は目立ちますからな」
「しかし、この気配。ようやくの邂逅というわけか」
「どういうことですかな?」
「私が今回、この国に来たのは龍神の件だけじゃない。ある者を保護するためだ」
話しているうちに宮中に入り、陰陽寮のほうに向かった。
「私が保憲殿を呼んで参ります。アンジェラ殿は、この座敷でおくつろぎを」
忠正の姿が消えると、アンジェラはテレパシーで呼び掛けた。
「予言者はいるか?」
僅かに遅れて返答があった。
「勇者殿。一日千秋の思いで待っておったぞ」
「およそ八年振りだな。私たちのように、輪廻の輪を外れた者にとっては瞬きほどの時間だが」
「勇者殿が都に来たということは、いよいよ龍神が荒ぶる神となるわけじゃな。しかし、貴重種を手に入れる絶好の好機ゆえ、多少の犠牲はやむを得まい」
「ここから先の展開は以前と同じなのか?」
「まあ、概ねはのう。細かい動きまではさすがに予知できぬ」
「おっと、来たようだ。予言者、また来る。次は迎えにな」
「早くそうしたいものじゃ。この時代は娯楽が少のうて、かなわん」
予言者の愚痴を聞いたところで、忠正がやって来た。
「陰陽師たちと帝がお待ちになっています。どうぞ、こちらへ」
広びろとした座敷に通されると、御簾で隠された帝と、い並ぶ陰陽士たちが勢揃いしていた。ざっとエネルギー量を視ても、龍神どころか鬼にすら苦戦するレベルだと、アンジェラは素早く見て取った。
遠く離れてはいるが、帝のいる御簾の対面にアンジェラたちは座した。
「異国からきた勇者とやら。そなたは龍を倒したことがあると聞くが、真か?」
「西洋のドラゴンと東洋の龍とは少し違いがあるが、私は剣とスキル・・・能力で確かにドラゴンを倒した」
場が騒がしくなったが、保憲が手を上げて皆を制す。
「勇者殿、あなたなら龍神を退治出来ると、そう解釈してよろしいのかな?」
「龍神となると神でもあるから苦戦するだろうが、まあ、倒せるだろう」
再び場が騒然となった。
「馬鹿な、神を倒すことなど出来るのか?」
「鬼やあやかしを封印するは容易いが龍神となるとのう」
「それに勇者殿は女人であられる。本当に術など使えるのか?」
「女人が龍を退治する話など前代未聞であるな」
好き勝手なことを言って盛り上がっている。忠正が口を開きかけたところを、アンジェラが手で制した。
「皆さん、術士として相当な自信をお持ちのようだ。ならば、この妖魔も退治出来るのかな?」
アンジェラが手を一振すると、三つの頭を持つ魔獣が座敷に現れた。陰陽師たちは突然のことに、唖然とし、我先にと座敷から遠ざかった。
「これは私が使役する妖魔、あなた方がいうところの式神だ。さあ、退治して見せてもらおう」
アンジェラと忠正は座敷の角に座して見物しているが、感心にも帝を守ろうと御簾の前に陣取った陰陽師たちが、あらゆる術を施しても妖魔を倒すどころか、妖魔の発する壮絶な妖気に当てられ、次々と倒れてしまった。
「よし、戻れ!」
アンジェラが手を前方に差し出すと、妖魔は瞬く間に手の平に吸い込まれて消えた。後には白目を向いて、のたうち回る陰陽師たちの不甲斐ない姿であった。
「なんと、恐ろしき術よ。そなたなら龍神退治も任せられようぞ!」
御簾の向こうで帝が、威厳を保とうと必死だ。アンジェラは忠正に目配せして見せた。
「ははっ!必ずや討ち取って参ります!」
その言葉をしおにアンジェラたちは宮廷を出て、夢幻寺に戻った。
「アンジェラ殿もお人が悪い」
「忠正殿も楽しんでいたようだが?」
「いや、先ほどのあやかしは迫力ありましたな。そこらの術士では相手にならんでしょう」
「まあ、あの程度の妖魔を倒せないようでは、いずれ命を落とそう。陰陽師たちも切磋琢磨すれば良い」
「手厳しいですな。さて、叢雲の奴は上手くやっているかな?」
忠正は龍神のいる庵の辺りを眺めながら、ポツリと言った。
「本当にこの辺りにいるのか?」
盗賊の頭が訝しげに辺りを見渡した。何てことのない山の麓の林にしか見えない。村長の源兵衛と村の若い集、そして呪術士も一緒だ。
「うむ、この辺りに結界らしきものが張られている。この林の奥にある物を隠すためにな」
呪術士はしかつめらしくそう言い、様々な手印や呪文を試し始めた。そうしている間に、目の前の林が霞んで見え始めた。
「おお、これは本物の林ではないぞ。獣道を隠すための幻術だったのか!」
山賊の頭が感心して見いっている。
「さて、儂は術士ゆえ荒事は苦手じゃ。後の事は熊八殿にお任せしよう」
「ふん、報酬は半分もやらんぞ。僅かばかりだがそれで良いのか?」
山賊の頭、熊八が確認を取る。
「構いませんとも。儂はここから先は傍観者とさせて頂こう」
「ふっ、欲のない奴め。野郎共、行くぞー!」
山賊たちは刀を抜き、威勢良く駆け出した。獣道をしばらく走ると、小さな庵が見えてきた。
「あそこか!野郎共、抜かるな!」
山賊たちと村長、村の若い衆が庵を取り囲んだ。
「そらっ!」
熊八が勢い良く扉を蹴破った。
「あっ、だ、誰ですか、あなたたちは!?」
料理の仕込みをしていたお凛は、とっさに包丁を掴んで身構えた。
「お凛!やっぱり生きておったか!」
「そ、村長様!」
「大変なことをしてくれたな、お凛!大人しく生け贄になれば良かったものを!」
「村長様、龍神様は生け贄など必要ないと仰ってました。現に私を助けてくださったのも龍神様です!」
「おのれ、妄言を!熊八殿!なるべく生きて捕らえてくだされ!」
「うむ、任せておけ」
お凛は包丁を手に、抵抗の意志を見せたが、捕らわれるのは時間の問題だった。
「うむ、またかかったぞ!」
龍神こと神威はサオを上げて、岩魚を釣り上げた。
「やれやれ、神威様には敵いませんな」
「父上、凄い凄い!」
もうすぐ三歳になるお龍はきゃっきゃっとはしゃいでいた。
「それに比べて少ないね、叢雲殿」
「はっはっ、面目ない」
こうして三人で川に釣りにくるのが、最近の叢雲の楽しみであった
「しかし、姫。これからが勝負ですぞ。必ずや大物を釣り上げますゆえ」
「叢雲殿、頑張れー」
可愛い声援を受けては、張りきらずにはいられない叢雲であった。
その時、何やら違和感を感じた。自分の結界が効力を失った感じだ。まさか、誰かが結界を破ったのか?
「神威様!」
「うむ、何やら良からぬ気配を感じる。戻るぞ、叢雲。お龍の面倒を頼む」
「はっ!」
釣り道具と魚籠を手に三人は家路を急いだ。
「まったく、手こずらせおって」
お凛は羽交い締めにされ、喉元に刀を突きつけられた。山賊たちは何人かが、お凛の包丁で傷つけられたが、軽傷であった。
「しかし、良い女よな。殺す前に楽しませてもらおうか」
熊八の手がお凛の胸を掴む前に、
「何をしておる!不敬な輩どもめ!」
庵の中にいる者たちの視線が一身に集まった。直衣を来た殿上人のような場にそぐわぬ者の姿がそこにあった。
「貴様こそ何者だ!この女はしきたりを破った罪人ぞ!さては貴様が逃がすのを手伝ったのか!熊八殿、やってくだされ!」
「その前に一つ聞こう。何故お凛を探していた?雨は十分降ったであろうが!」
その言葉に眉を釣り上げた源兵衛は、冷笑を浮かべた。
「確かにしばらく数年は降った。だが、今年はまた飢饉に陥ったのだ!全てはこのお凛が逃げたのが原因だ!」
「むう、天候を弄って雨が降りやすくしたが、気候が乱れたか。よし、それではまた雨を降らせてやる。だからお凛を離すのだ。警告は一度しかせんぞ!」
その言葉を受けて源兵衛は下卑た笑いを漏らした。
「雨を降らせてやるだと!?こやつ龍神様気取りか。この痴れものめ!熊八殿、遠慮は要りませぬ!」
「おお、任せておけ!」
刀を構えた山賊たちが龍神を取り囲んだ。
「この愚か者どもが!身の程を知れ!」
討ちかかっていった者は、目に見えない何かに弾き飛ばされ、地面を転がった。状況が飲み込めない熊八は刀を握り勇敢にも斬りかかっていった。
「ぬうっ!刀が動かん!?」
龍神が刀身を片手で無造作に握っているだけで、押せども引けども動かない。ここに至ってようやく自分達が相手にしてるのが、ただ者ではないことを悟った。
「そ、村長!何とかしろ!」
「むう、かくなるうえは、この場で生け贄を!」
「!?よせっ!」
叢雲がお龍を抱えたまま、警告を発したが遅かった。村長の握った包丁でお凛の喉笛はかっ斬られた。
「お凛!」
「か、神威・・・様」
鮮血が迸り、お凛は静かに目を閉じた。その途端、金属音が鳴り響いた。熊八の刀を素手の龍神がへし折ったのだ。
「この愚か者どもがー!」
急激なエネルギーの放射で熊八の身体はバラバラに砕け散った。その場に現れたのは小山ほどはあろうかという、巨大な金色の龍の姿だった。
「ま、まさか!本当に先ほどの者が、り、龍神様!?」
「村長!貴様、雨を降らしてやると言ったのに、何故お凛を殺した!」
まるで雷のような大音声が辺りに響いた。源兵衛はその場に平伏し、死に物狂いで命乞いをする。
「お、お許しくださいませ、龍神様!飢饉がやって来たのは、生け贄にしたお凛が逃げたからと勘違いしてしまったのです!お許しくださいませ!」
龍神は再び怒りの咆哮を上げた!
「馬鹿者が!生け贄など要らぬ!ただ供え物でもして懸命に祈れば雨などいくらでも降らしてやるのに・・・この大馬鹿者が!」
天から稲妻が迸り、源兵衛は炭のように真っ黒になって絶命した。
「神威様!お静まりください!姫のためにもどうか!」
お龍を抱えたまま、叢雲はその場に膝を折り、懸命になだめた。だが、愛する者を失った龍神はもう止められなかった。
「叢雲よ。ぬしを友と見込んで頼みがある。お龍を守ってやってくれ。信用出来る人間はもはや、ぬししかおらん!」
「もちろん、姫はお守りいたします。ですから、これ以上のことはお止めください!」
「ならん!我はこれから村を滅ぼし、全てを滅ぼす!京の都もだ!」
龍神の巨体が宙に舞い上がり、水上村のほうに向かった。
「なんてことだ!愚か者たちのお陰で神威様は荒御魂になってしまわれた!」
「母上、母上ー!」
その声で我に帰った叢雲は、飛心の術で忠正に一刻を争う事態が起こったことを説明した。報告を終えると、泣き叫んで母の亡骸にすがるお龍の頭を撫でた。
「姫、ご母堂はお隠れになりました。私が背負いますので、後をついてきてください」
水上村では突然降りだした雨に欣喜雀躍していたが、金色の龍神が姿を現すと皆が平伏してお礼の言葉を口々に発した。
「止めろ。我はこれよりこの村を滅ぼす。貴様らがどんな罪深い存在か、自覚しながら果てるが良い!」
途端に黒雲が広がり雨の如く雷が降り注いだ。直撃を食らって炭になる者。逃げ込んだ家に雷が落ち、炎に飲まれて焼け死ぬ者。神の怒りは分け隔てなく全ての生き物を殺し尽くす。自らが祀られていた水上神社も火の手が上がり、村はあっという間に全滅した。
「この程度では収まらぬ!愚かな人間どもめ!」
龍神は空中で方向転換し、一路京の都を目指した。
一方、都では混乱が広がっていた。忠正が叢雲の連絡を受け、龍神が愛する者を殺され荒御魂になった顛末を知った。人間なら村まで半日はかかろうが、龍神なら数刻で都に到着するであろう。忠正が帝や陰陽師たちに事態を報告すると、皆が浮き足だってしまった。現在都を守護する兵は2万人。龍神相手では少なすぎる軍勢である。
「こうなると、帝には他の町にお隠れ頂き、我々で対応するしかない」
深刻な忠正に比べてアンジェラは落ち着き払っていた。これが勇者としての貫禄の違いかと思ったが、
「よし、この混乱に乗じ予言者を連れだそう」
と、とんでもないことを言い出した。
「ア、アンジェラ殿!この非常時に何を仰るのですか!」
「いや、これは以前から予定されていたこと。他ならぬ予言者自身が以前、私がこの国に来た時に聞かされた龍神伝説の一部だ」
「龍神が荒御魂になることは事前に分かっていたのですか?それなら何故秘密にしていたのですか?あらかじめ分かっておれば対策を立てられたであろうに!」
「龍神が荒御魂になってから倒さなければ、必要な駒が手に入らない。今のあなた方に言っても理解出来ないかもしれんが、今より1000年後、世界の終わりを止める大事な駒だ」
「確かに理解の範疇外ですが、アンジェラ殿が龍神を鎮めてくださるのですね?」
「ああ、というより戦えるのは私だけだ。夢想士の皆さんは出来るだけ都に被害が出ないよう、協力して堅牢な結界を張って頂きたい」
「やれやれ、我々ですら龍神の相手は務まりませんか?」
「というより、都をあなた方が守っていてくれれば、私は龍神との戦いに集中出来る。適材適所でいきましょう」
「適材適所ですか、なるほど。それでは龍神の相手はアンジェラ殿に一任いたします。御武運を」
流石に夢想士の頭目を勤める男。状況判断が早い。夢幻寺に方々から夢想士が集結し、全員で広大な都に一重二重に結界が張り巡らされてゆく。
アンジェラは皆が逃げ出して無人となった宮廷に赴き、予言者の元に向かった。侍女たちですら逃げ出したのに、そこには白髪白眼の少女の姿があった。
「やれやれ、ようやく迎えに来てくれたか、アンジェラ」
「状況が整ったからな。さて、これからだが、龍神の娘が必要なんだな、千歳?」
「うむ、龍神が滅んだ後、魔水晶の依り代が必要じゃ。そちらは大丈夫なのか?」
「ああ、忠正殿の一番弟子が面倒を見てるはずだ」
「さて、それでは参ろうか。平安の世にもおさらばじゃ」
「私の固有結界の中に避難していてくれ。例え地球が滅んでもそこだけは安全だ」
「滅びの未来もそれくらい簡単に回避出来れば良いのじゃがな」
アンジェラが手をかざすと、まばゆい光が辺りを照らし、また暗くなった。そして、予言者の千歳の姿は消えていた。
「さて、最終局面だ。」
第3章 荒ぶる神との戦い
「アンジェラ殿!」
結界を潜って叢雲が夢幻寺に到着した。その背には血まみれの女性の姿があった。
「むう、これが生け贄にされたという娘か。まだ十八かそこらだろうに、憐れなことだ」
と、そこで叢雲の隣に立つ幼女に気づいた。
「叢雲殿、その子が龍神の娘か?」
「はい、もうすぐ三歳になります」
「そうか、それは憐れな」
アンジェラが頭を撫でようとしたが、素早く叢雲の背後に隠れてしまう。
「無理もありませぬ。アンジェラ殿のお姿は、この国では少々異質ですからな」
「ああ、どちらにせよ連れていかねばならんから、早く慣らしておきたいものだが」
「連れていかれるとは?姫は龍神様から守るようにと、私が仰せつかっております」
「まあ、今はとにかくその娘のために墓を掘ってやろうじゃないか」
「そうですな。幸いにもここは寺ですから、墓地もありますゆえ」
叢雲は何人かの夢想士たちを集め、鍬を持って墓地のほうに向かった。お凛の亡骸は縁側に敷かれた布団の上だ。お龍はその側から離れようとしなかった。
「なあ、名前はなんと云うんだ?」
縁側に腰かけたアンジェラが声をかけるが、お龍は押し黙ったままだ。
「まあ、母親が殺されたのだから、無理もないか」
アンジェラは握り拳をお龍の前に突きだし、ぱっと手を開いた。そこには色とりどりの菓子が乗っていた。
「食べるか?美味しいぞ」
お龍はしばらくアンジェラの顔と手を見比べていたが、そっと手を伸ばし饅頭を手に取った。口に頬張ると少しだけ笑顔が戻った。
「沢山あるからゆっくり食べると良い。って、おいおい」
お龍は両手にお菓子を掴んで誰にも渡さない構えだ。
「まあ、お前に上げたものだから、どうしようが勝手だが」
と、てっきりお菓子を一人占めしたのかと思ったが、お龍はお凛の亡骸の胸にお菓子を乗せてゆく。
「これは、母上の分」
憐れに思えたアンジェラはお龍を抱き上げ、膝の上に乗せた。
「ほら、お前もまだ食べるだろ?」
手の平にお菓子を出して、お龍の頭を撫でる。
(お前には過酷な運命を背負わせてすまない。だが、必ず世界の終わりを止めて見せるからな)
アンジェラはそっと目を閉じた。
しばらく飛行した龍神だったが、それを阻もうと云う連中が現れた。侍大将の源雷光率いる2万の軍勢だ。
(我が都に入る前に討伐しようという気か?だが、その程度の兵力で何が出来る?)
「弓兵、矢をいかけろ!」
号令に応えて雨あられと矢が襲ってくるが、龍神の頑丈な鱗に弾かれるばかりで全くダメージを与えられない。
「ふん、これでは力量差があり過ぎるか。よかろう、ぬしらの蛮勇に敬意を表して人型で相手をしてやる」
天から雷が落ちると、直衣に身を包み、両刃の剣を持った人物が現れた。
「なんと!貴様は龍神か!」
雷光の問いに、
「我が空にいたのでは、侍どもは何も出来まい。戦える状況を整えてやったのだ。有り難く思うが良い!」
雷光はようやく自分達が不利な状況だったことに気付き、剣を一旦下げた。
「龍神殿!気遣い感謝申す!者ども、討ち取れ!龍神討伐の栄誉を手に入れよ!」
雷光の命令に侍たちは一斉に刀を抜き、咆哮を上げて斬りかかっていった。
「天薙神剣、使うのは何百年振りかのう?さて、覚悟せよ人間ども!天薙ぎー!」
龍神が無造作に横薙ぎに剣を振ると、竜巻が生じ兵士たちがバラバラになって宙を舞った。龍神はそれを開戦ののろしとし、剣を持って大群に向けて挑みかかった。
それはある意味、大虐殺だ。だが、犠牲者は2万の軍勢で、獲物であるはずの龍神に一方的に斬り伏せられてゆく。
「流石に神を倒すのは容易ではないな。飯綱、術で龍神を抑え込めるか?」
「雷光様、先ほどから金縛りの術をかけようとしてるのですが、一向に効く気配はありません!」
「仕方あるまい。俺が出よう。飯綱、結界で俺を保護してくれ」
「雷光様、龍神の持つ剣は神代の剣。結界が保つかどうか分かりません!」
「ならば武士として、華々しく散るのみ!」
雷光は夥しい死体が転がる戦場から移動し、龍神の注意を引き付ける。
「龍神殿!いざ、尋常に勝負!」
一振で数百名の死体を量産していた龍神は、そちらを見やり、ニヤリと笑った。ドンッとひとっ飛びで戦場を抜けて雷光の前に降り立った。
「貴様が大将か?その覚悟だけは褒めてつかわす」
「我こそは都を守護する侍大将、源雷光!いざ、参る!」
その時、龍神は雷光の持つ刀が雑兵のそれとは別格であると見抜いた。
「ほう、その刀は妖魔を殺す祈りが宿った一振か。よかろう、相手になってやる!」
双方が素早く動いて雷光の初手の太刀筋が龍神の首を狙う。それは龍神の片手に握られた神剣によって弾かれた。身体が泳いだ雷光の隙をついて龍神の剣が振るわれるが、ガキっと見えない壁に阻まれた。チラリと視線を移すと、一人の侍が手印を組み、一心に真言を唱えている。
「はっはっはー!人間の割にはなかなかやりおる。だがな!」
龍神が剣を大上段に振りかぶり、振り下ろすと、結界はパリンと砕け散った。飯綱はガックリとその場に腰を下ろした。
「くっ、やはり龍神相手では私の術など、そよ風に等しい」
再度、斬りかかってきた雷光の刀を無造作に弾くと、
「思い知るが良い!人間の力では我を倒すことは叶わん!」
一太刀で雷光の身体は真っ二つになった。
「無念、ここまでか・・・」
雷光はその言葉を最後に動かなくなった。大将が討ち取られことで、兵団の間で動揺が広がった。
「雷光様が討ち取られた!」
「やはり、神殺しは不可能なのか?」
「ええい、どけっ!勝ち目のない軍などやっておれん!」
雑兵たちは乱れに乱れ、もはや戦にはならなかった。
「よし、これまでだ。貴様たち残さずお凛の贄にしてくれる!」
再び龍神は本来の姿に戻ると、雷を雨のごとく降らせて殲滅にかかる。最早、都を命懸けで守ろうという者は皆無だった。全て殺し尽くして都に迫った龍神の身体に鎖状の輪が巻き付いた。
(む、これは?)
地上に視線を落とすと、数百名の僧侶たちが一心に真言を唱えている。
(陰陽師や夢想士とは違った系列の術士か。よかろう、この我を止めて見せよ!)
次々と鎖状の輪が龍神の身体に巻き付いてゆき、ギリギリと締め付けるが、龍神は黒雲を四方から集め雷のエネルギーを溜めてゆく。
「食らうが良い!龍神瀑布!」
前代未聞の巨大な雷が僧侶たちの頭上に降り注ぐ。果たして、黒焦げになった僧侶たちの頭上を通過し、いよいよ都に迫った時、
「待っていたぞ、龍神」
宙に浮いた見慣れぬ戦闘服を纏った異国の夢想士が行く手を遮った。
(むう、この者は異国で戦いを重ねた夢想士か。この圧倒的な量の霊気はもはや人間の範疇を超えておる)
「名乗らせてもらおう。私は歴戦の勇者、アンジェラ!かつて、私自身が戦場の女神と呼ばれていた」
「なるほどのう。このデタラメなほどの霊力は確かに神の境地。よかろう、いざ、尋常に勝負じゃ!」
龍神は稲妻を何本も打ち込んだ。だがアンジェラは取り出した剣で全ての稲妻を吸収して見せた。
「その程度では足りないぞ。このドラゴンスレイヤーは龍を倒すことに特化した、神話の剣。次はこちらの番だ!」
空中で一気に加速したアンジェラは、迫り来る稲妻や雷を剣に吸収させて、エネルギーを溜め込んだ。
「食らえっ!」
アンジェラの振るう剣は凝縮された雷エネルギーを帯びていた。凄まじい破壊音が響いて、龍神の翼の片翼が切り落とされた。
「むうう!ただの剣ではないと思ったが、本当に龍を倒せる剣のようだな」
「私は嘘は言わないさ。覚悟しろ、龍神!」
素早く空中を移動し、二の太刀を浴びせようとするが、
「ならばこれでどうだ!天地開闢!」
天空と地上から極大の雷が発生し、アンジェラはまともに食らったかに思えた。だが、
「一万度を超えるプラズマか。これならあらゆる生きとし生けるものは、全て消し炭になるな」
アンジェラは無事だった。卵のような形状の結界が全ての雷エネルギーを跳ね返したのだ。
「むうう、ぬしは本当に人間か?これほどの使い手はかつて見たこともない。可能性があるとすれば・・・」
自分と同じ神と呼ばれる存在しかいない。
「ぬしは戦場の女神と呼ばれていたと言ったな。それはそう呼ばれていただけではなく、本当に神ということか?」
「そこは人間の都合でどうとでも変わる。人から恐れられ崇められ嫌われ愛される。神とあやかしは表裏一体。いずれも人間の都合で変わるだけだ」
「むう、その神殺しの剣と戦うには、人型になったほうが有利なようだな」
龍神は再び人型になり、大地に降り立った。その手には天薙神剣が握られていた。
「剣で雌雄を決するか?良いだろう」
アンジェラも重力を操作してふわりと地面に舞い降りた。
「行くぞ、歴戦の勇者よ!」
龍神の動きは人間離れしていた。どんな達人でも遠く及ばない速度で剣を繰り出す。観戦者がいてもこの二人の攻防を視認できる者は皆無だ。二人は神速の早さで剣を打ち合わせる。
「百花繚乱!(ソード・イリュージョン)」
アンジェラの剣技が龍神の全身に穴を穿つ。
「ぐはあっ!」
すでに二度は死んでるはずの龍神は、刀を杖代わりにして立ち上がる。
「むう、何故だ?すでに二度、命を奪ったはずなんだが・・・」
アンジェラの眼が、龍神の全身を精査すると、その理由が分かった。
「本来の姿に戻った時に手に握っていた水晶玉。あれは途轍もない生命エネルギーを溜め込んだ、龍神のもう一つの心臓か!」
「ふっふっふ、気付いたか?我は数百年生きた生命力を凝縮して、水晶玉として保存してある。ぬしは後何回我を殺せばいいか分かるまい」
「良かろう。溜め込んだ生命エネルギー、全てを無にしてやるまで!」
アンジェラの速度はますます早まり、もはや時間が止まってるに等しい斬り合いの中で龍神を何回も殺した。だが、次の瞬間には復活してくる。
(このまま持久戦に入ってもキリがない。唯一有効な方法は・・・)
「異世界転移!」
戦闘中に気が遠くなるほどの演算を繰り返して、アンジェラは遂にその場所を突き止めた。
広大な宇宙空間が広がっている。星々が瞬くその異世界に龍神の本体がいた。美しい金色の龍は宇宙空間でも異質な美しさがあった。
「ば、馬鹿な!貴様はどうやって我の本体のいるこの世界に来れたのだ!?」
「戦闘中に演算を繰り返していたのさ。どんなに離れた異世界であっても、別身体を自在に動かすには必ず本体との繋がりがある。それを辿るのに随分と時間がかかったが、ようやく突き止めたってわけさ」
龍神が押し黙っていたが、
「はーっはっはっは!面白い!我をここまで追い詰めた者は皆無!愉快だぞ、勇者よ!愉快だ!」
「あまり時間をかけてはいられない。その魔水晶、破壊させてもらうぞ」
巨大な龍神の右手には、大きな岩のような魔水晶が握られていた。
「来るが良い、勇者よ!今こそ決着をつけよう!」
「究極之守護!」
アンジェラは卵型の結界を纏った。それは防御のためではなく、攻撃のためだ。一万度の超高温でも破壊出来ない結界を纏ったまま、高速で相手にぶつかればどうなるか?それはあらゆるものを破壊する、絶対攻撃になる。
「行くぞ、龍神!」
「来るが良い!超高温の波で消し炭にしてくれる!」
両者一歩も引かず、猛スピードで接近してゆく。両者がぶつかった瞬間、空間が歪むほどの大爆発が起こった。それは超新星に他ならない。アンジェラは最初から龍神の右手に握られた魔水晶を狙っていた。数百年溜め込まれた生命エネルギーも全てが灰塵と帰した。
「み、見事だ、勇者よ。我の負けだ」
「よし、それでは元の世界に戻るとするか」
アンジェラが元の世界の座標に向けて転移を行った。
元の世界に戻ると、アンジェラが剣で龍神の別身体を袈裟斬りにしたところで、時間が動き始めた。龍神は天薙神剣を自らの身体に刺し、体内に収めた。そして、その場に腰を下ろし徐々に身体が崩壊してゆくのを待った。
「勇者よ、頼みがある」
瞑目したまま龍神は口を開いた。
「我がこのまま肉体を失い、魔水晶になったなら、我が娘の肉体に納めてはもらえぬか?」
このやり取りはもう慣れたものだが、アンジェラはあえて繰り返す。
「あんたの娘、お龍のことが心配か?」
「当然であろう。すでにお凛を失った。だからせめて娘の体内で、成長してゆくのを見届けたいのだ」
「本来なら夢想士としては、そんな提案は受け付けられないが、今回は特別に許そう。あんたの娘は世界の終焉を回避するために必要な、特別な存在だ」
「?それは一体どういう意味だ?」
「いや、まあそのうち話そう。世界が滅びを迎えるのは、今から1000年後だからな。時間はたっぷりある」
「1000年後だと?そんな未来に我の娘は何か役割りを負っているのか?勇者よ」
「アンジェラで良い。そうだ。一流の戦士になれるよう、あんたも応援してやってくれ」
「ふうむ。我が娘のためなら是非もない。よろしく頼む、アンジェラ」
その会話を最後に龍神の姿は完全に消え去った。後に残されたのは龍神の魔水晶だけだった。アンジェラは剣を収めてそれを拾うと、夢幻寺に向かって歩を進めた。辺り一面焼け野原となっているが、時が経てばまた町が復興されるだろう。
都に戻るとすでに結界は消えていた。龍神の気配が消えたからだろう。夢幻寺に到着すると、忠正と叢雲が出迎えた。
「やりましたな、アンジェラ殿!」
「お疲れ様でした。しかし、もう神威様と会えなくなったのは、少し寂しくはありますな」
「お二人とも、都の守護をありがとう。お陰で気兼ねなく戦闘に集中出来た」
アンジェラは笑顔で二人を労った。
「アンジェラ殿、その手にしてるのは龍神の魔水晶ですかな?」
忠正は抜け目なくアンジェラの手にする魔水晶を指差した。
「ああ、そうだ。ところで、お龍はどこかな?」
「姫なら、お疲れになったのか眠られたので、布団の中ですが」
「よし、お二人も立ち会いになりますか?」
「何の話ですか、アンジェラ殿」
「龍神との約束を果たすのですよ」
アンジェラはそれだけを言い残し、案内も無しに夢幻寺の中を迷いなく歩いてゆく。そして、中庭が見える大座敷に敷かれた布団の中で、静かに寝息を立てるお龍の姿を見つけた。
アンジェラはお龍の枕元に正座した。遅れて来た忠正と叢雲も対面に座した。そして、アンジェラは布団を半分捲って、小さな身体の胸の上に龍神の魔水晶を置いた。
「どうするおつもりです、アンジェラ殿?」
「この娘は龍神の娘。父である龍神の想いを宿らせるのです」
忠正と叢雲は顔を見合わせた。
「そんなことをして大丈夫なのですか、アンジェラ殿?また龍神が荒御魂として復活するということは無いのでしょうな?」
忠正は慎重な性格の男だ。その心配は最もである。
「龍神は無尽蔵の霊力が宿ったもう一つの魔水晶を失った。その心配はない」
アンジェラは魔水晶に手をかざし、念を込めた。すると、お龍の胸に乗せられた魔水晶が、すーっと体内に飲み込まれていった。
「おお、これは!」
「これで姫の中に父親の想いが宿ったのですか?」
「その通り。念のため私もしばらく夢幻寺に逗留します。許可いただけるかな?」
「無論です。どうぞ気兼ねなく滞在してください」
そうして、アンジェラとお龍は夢幻寺の食客となったのだった。
一月が経った。お龍は元気いっぱいに夢幻寺周辺を駆け回っている。
「それにしても、本当に予言者を拐かしていたとは驚きですな」
大座敷の囲炉裏をアンジェラ、千歳、忠正、叢雲の四人が囲っていた。
「忠正殿、アンジェラについてきたのは妾の意志。拐かされたわけではない」
白髪白眼、人形のように美しい少女が厳かに言った。
「いや、それは分かっております。しかし、宮廷では大騒ぎですよ。今まで政は、予言者の託宣に頼って来ましたからな」
「ここに、千歳殿がいることがバレたら、我々は皆、死罪になろうな」
あまり気にした風ではないが、忠正は何度も宮廷に呼ばれて行方を探すよう、要請を受けている。しがし、どういう術を用いているのか、千歳やお龍の存在は陰陽師たちにも突き止められてはいない。
「そのことなら心配はない。失認結界を張っているから、私と千歳、お龍の存在は完全に秘匿されている」
アンジェラは立ち上がり、縁側に移動した。そこへ元気に駆けてきた幼児が、その足にすがりついた。
「ねえ、アンジーも一緒に遊ぼう!ねえ、ねえ!」
すっかりアンジェラに懐いたお龍は、縁側に座ったアンジェラの膝の上に座った。その顔の前に握った手を差し出すと、
「そら、甘いものでも食べろ」
開いた手のひらの上にはお菓子が山盛りだった。
「わーい、ありがとー、アンジー!」
早速菓子にかぶりつくお龍の頭を撫でながら、アンジェラは何気ない風に話し始めた。
「忠正殿、叢雲殿、名残惜しいがそろそろお別れの時だ」
「異国へ戻られるのですか?」
尋ねた忠正に対し、アンジェラは首を振った。
「いや、もう二度と会うことはない。我々は1000年後の未来に行かなければならない」
「なんと!1000年後ですと?」
「想像もつきませんな、あまりにも話が大きすぎる」
忠正と叢雲は困惑を隠せない様子で、頭をかいている。
「実をいえば私と千歳は輪廻の輪から外れた存在。加えて、時空間転移を繰り返している。あなた方との対面と別離は何度も繰り返している。無論、それを覚えているのは私と千歳だけだ」
忠正はただ唸るしかなかった。あまりにも壮大な話についてゆくのがやっとだ。
「1000年後の滅びの運命を変えるため、私たちは何度も何度も、時空間転移を繰り返している。つまり、何度やり直しても滅びの運命を変えることが出来ないのですよ」
アンジェラは遠い目をして、過去繰り返してきた運命の改変に想いを馳せた。
「しかし、何度目かの旅路で、龍神を宿したお龍の存在が、僅かにではあったが、未来の一部を変えることが出来た。ほんの僅かだが光明が見えた」
「そのために、龍神が荒御魂になることを、あえて阻止しなかったのですか?」
忠正は公明正大な男であった。万単位の人命が失われた事件が、1000年後の未来のためと言われても、なかなか承服しかねるのだ。
「滅びの未来では億単位の人命が失われる。というより、人類は絶滅してしまう。それを知ってしまった我々には、他に方法がなかった。心を鬼にして、龍神を暴走させ、お龍の体内に宿らせる必要があった。それでも、まだ完全には滅びの未来を回避するのは難しい。何しろ前例がないですからな。後、いくつかの必要な駒があるのかもしれない」
忠正と叢雲は腕を組んで考え込んでいた。あまりにも遠大過ぎる話に、正直ついてゆけないのが本音だった。だが、とにかく、アンジェラたちとは、もう二度と会えなくなるということだけは分かった。
「アンジェラ殿がいなくなると寂しくなりますな」
「私は姫に会えなくなるのが残念です」
忠正と叢雲は、とりあえずもう会えなくなる勇者に、いや、友人に悲しさと寂しさが入り交じった、何ともいえない心境を味わわされた。
「お龍は寝てしまったようだ。この隙に未来に飛ぶとしよう」
アンジェラはお龍を片手で抱いて、立ち上がった千歳と手を繋いだ。
「なんと!もう行ってしまわれるのか!?せめて別れの宴だけでもしませぬか?」
「それでは、ますます別れが辛くなる。他の夢想士の皆さんには、挨拶出来なかった非礼を詫びておいて頂きたい」
「お安いご用ですが、別れがたいですな」
「姫、健やかにお育ちくだされ」
忠正も叢雲も流れる涙を拭い、アンジェラたちの前に平伏した。
「みなさん、御武運をお祈りします」
「ありがとうお二人もお元気で」
座敷の中にキーンと高い音が聞こえ始め、アンジェラたちの姿が光り始めた。一際輝いた後、三人の姿は座敷から消えていた。忠正と叢雲は涙ながらに酒を酌み交わし、今はいない友たちの手向けとしたのだった。
第4章 鳴神学園の神童
アンジェラと千歳、そしてお龍はいつものごとく、21世紀の鳴神市にやって来た。より正確にいうと鳴神学園の教員棟の寮の一室だ。そこは12畳ほどの畳の部屋だが、60インチのプラズマテレビとゆったりとした皮張りのソファー、ダブルサイズのベッドが置かれた、くつろげる部屋だった。
千歳は十二単を脱ぐとクローゼットを開け、白いワンピースに着替えた。
「それで、アンジェラ。早速やるのかえ?」
「ああ、まだ十数年の余裕はあるが、ここからは慎重にやらないとな」
アンジェラはお龍をベッドに寝かせて、頭の上に手をかざした。
「お前はもうお龍ではない。龍子。神尾龍子がお前の新しい名前だ」
お龍、改め、神尾龍子の過去の記憶を魂の奥深くに封じ込める。
〈アンジェラよ。お龍をこんな未来に連れてきて、何をさせるつもりなのだ〉
それはすでに滅びたはずの、龍神の声であった。すでに承知しているアンジェラは、テレパシーの会話を続ける。
(龍神、あんたが自らの血を引く龍子の中で意識を取り戻すことは分かっていた)
〈龍子とは、我の娘のことか?〉
(ああ、この時代ではそぐわないからな。今日からあんたの娘は神尾龍子だ)
〈改名は別に構わんが、我の娘に何をさせようというのだ?〉
(話せば長くなるんだが・・・)
アンジェラはこれからやってくる、滅びの未来のこと。その運命を変えるには幾つかのキーパーソンがあって、龍子はその一人であることを語った。
〈なんということだ。娘には普通の人間として幸せになって欲しかったのだがな〉
(私も、もう数千年に及ぶ未来改変の活動には、正直疲れた。今回の世界線で滅びの未来を回避したい。そのためには龍子を鍛えて成長させる必要がある。あんたにも手を貸して欲しいんだ、龍神)
〈我は肉体を失くし娘の中で辛うじて意識を保ってる存在だ。大したことは出来ぬぞ〉
(だが、少なくとも、龍子の中には二つの生命エネルギーが存在することになる。このアドバンテージは大きい。それと龍子が問題に直面した時などに、適切な助言をしてくれるだけで構わない)
〈その程度なら容易いが、自分の中にもう一つの人格があることに、龍子は戸惑うのではないか?〉
(ああ、だから悪いが龍子の中から過去の記憶を封印しておいた。次に目覚める時には龍神を体内に宿す、神尾龍子として生まれ変わる)
などと話していると、龍子がパッチリと目を覚ました。
「お目覚めか、リュウコ?」
「アンジェラ・・・さん?」
龍子は上半身を起こし、室内を見渡した。千歳の存在を認めると、
「あ、ちーちゃん。おはよー」
「いや、そこは千歳さんじゃろ!?」
千歳がツッコむが、龍子はそんなことはお構い無しだった。
「ちーちゃん、ゲームしようよ。パワステ5!」
「よかろう。返り討ちにしてくれるわ」
その様子を観察していると、龍神がまた話しかけてきた。
〈おい、アンジェラよ。龍子は何故すでにこの時代に適応しておるのだ?〉
(平安時代の記憶のままでは混乱するからな。だから龍子はこの時代に生まれた、夢想士として生きていくよう、事前にある程度の設定をすましてあるんだ)
すると、龍子が振り向いて抗議を始めた。
「アンジェラさん、それに龍神も!静かにして!ゲームに集中出来ないよ!」
「それは済まなかったな。ゲームに戻れ」
アンジェラはテレパシーの周波数を変えて龍神に呼び掛けた。
(これから私と話す時は、この周波数で頼む、龍神)
〈今、呼び捨てにされたぞ。我が呼び捨てにされたぞ!どうなっておるのだ、アンジェラ!〉
(仕方ないだろう?過去の記憶を封印したから、今の龍子はあんたのことを、もう一人の自分のように捉えてるんだ。それとも、また父上と呼ばせたいのか?)
〈むう、多くの命を奪った荒ぶる神の娘だと思うよりは、そっちのほうが良いのか。しかし、複雑な気分だのう〉
(龍子は滅びの未来を変えるためのキーパーソンの一人。あんたも心の中でしっかり指導してくれ)
〈我が意識を取り戻したのには、理由があったのだな。分かった。可愛い娘のために、出来るだけのサポートをしよう〉
こうして、龍神を体内に宿す夢想士、神尾龍子は誕生した。
「ねえ、アンジェラさんはなんでいないの?」
鳴神学園付属小学校の入学式の日。鳴神学園の教師にして夢想士の育成を担当している、マディ土屋は龍子の頭を撫でて言い聞かせる。
「言ったでしょう?アンジェラさんは忙しい人で、今はアメリカにいるから入学式には来れないって」
「むー、折角の門出の日なのに」
「難しい言葉知ってるのね、龍子ちゃん」
繋いでる手はこんなにも小さいのに。
〈アンジェラには仕事がある。あまり聞き分けのないことを言うな、龍子〉
(だって、龍神。アンジェラさんは幼稚園の入園式にも来てくれなかったんだよ?)
〈どんなに離れていても、ぬしとアンジェラは固い絆で結ばれておる。だからワガママを言うな〉
(ちぇっ、龍神っていつも同じこと言うんだから。分かってるよ、そんなこと)
入学式にはマディが付き添った。入学式が終わって生徒が各教室で自己紹介などをしている時に事件は起こった。
「神尾龍子です。みなさん、よろしくお願いします」
と、龍子が挨拶をした時に笑い出す生徒がいた。
「はははー、龍子だって!変な名前ー!」
髪の毛が茶色いいかにも悪ガキといった感じの男子生徒が、龍子をからかったのだ。先に挨拶をしていたから名前は分かる。剛猛志だ。
「何よ、あんた。何がおかしいの?」
龍子はキッと悪ガキを睨み付けた。
「変だから変って言っただけだぜ」
龍子がダッと駆け出すと、猛志は席を立って廊下に出た。
「来いよ、相手してやる!」
「ちょっと、あなたたち、止めなさい!」
担任教師や保護者たちが止めようとするが、一歩遅かった。左手を前に出した龍子の手から、龍神が姿を現したからだ。
「ヒィッ、なんだそれ!?」
猛志を含めた数人だけがそれを目視出来た。夢想士か、その才能のある子供だけが金色の龍神の姿を目撃したのだ。マディは慌ててテレパシーで龍神に呼び掛けた。
(ダメでしょ、龍神!あなたが姿を現しちゃ!)
〈しかし、この小わっぱが娘を侮辱しおったのだぞ!〉
(いいから、早く龍子ちゃんの中に戻って!)
不承不承、龍神が気を失ってる龍子の左手の中に戻った。マディは急いでその手に封印の手袋をはめた。幸い、その光景を見たのは能力のある者だけだったので、子供たちの喧嘩ということでその場は収まった。
マディはぐったりして帰り道、龍子に軽くお説教をした。
「ダメじゃない、龍子ちゃん。喧嘩なんかしたら」
「だって、あいつがあたしの名前、バカにしたんだもん」
マディはため息をついて、今度は龍神に矛先を向けた。
(あなたもあなたよ、龍神。あなたが先にキレてどうするのよ。あなたは龍子ちゃんを影から応援する立場でしょ!?)
〈むう、面目ない。しかし、この時代は子供の躾がなっておらんのう〉
(それを教導するのがあなたの役目でしょ?もう、先が思いやられるわ)
2週間後、鳴神学園に顔を出したアンジェラに、マディは入学式の顛末を語った。方術研究会の部室には、他の人間は今はいない。
「はっはっは、悪ガキ相手に一歩も引かなかったか。成長が楽しみだ」
「アンジェラさんから、事前に封印の手袋をもらってなかったら、どうなっていたか。考えただけでゾッとします!」
「まあ、そう怒るな、マディ。龍神は顕現してもほとんど力を失っているから、大した被害は出ない」
「アンジェラさん、龍子ちゃんに甘くないですか?仮にも成年後見人なんですから、責任を自覚してください!」
「おっと、かつての教え子も、すっかり一人前の教師になったな」
「話をすり替えないでください、龍子ちゃん、その時の男の子をボコボコにして、担任から苦情が来てるんですから!」
「ほう、空手を習ってる男子を返り討ちにしたか。夢想士としては先が楽しみだな」
「あ、あれ?私、男の子が空手習ってること、言いましたっけ?」
「ああ、いや・・・」
何度も繰り返してる会話なので、ついうっかり喋ってしまう。これではまるで予言者だ。
「千歳から聞かされてただけだ。それより、方術の修行のほうはどうなってる?」
「あ、修行ですか?かなりの才能がありますね。もうすでに身体強化と疾走状態に関してはCランクに達しています」
「ふむ、予想以上に成長してるな。これからも龍子の指導をよろしく頼む。さて、久しぶりに顔を見せてやるか」
立ち上がったアンジェラに、マディは長年の疑問をぶつけてきた。
「ところで、アンジェラさん。龍子ちゃんはどこから連れて来たんですか?あなたが直々に鳴神学園の理事長に、龍子ちゃんを預けたと聞かされてますが、龍神を体内に宿してるなんて、ちょっと特殊なケースですから、気になってしまって」
「まあ、お前もキーパーソンの一人だから、この際だから事情を話しておくか」
アンジェラは再びパイプ椅子に座り、龍子にまつわる顛末を語った。
「龍子ちゃんが龍神の娘・・・なるほど。まだ幼いのに途轍もないエネルギー量を誇っているのは、そのためなんですね」
「龍子には滅びの未来を変えるための、可能性と実力がある。だから特別扱いになるのは仕方ないんだ」
「それにしても、本当に私の生きている間に、人類が絶滅の危機に陥るんですか?」
「真実だ。だからお前には龍子はもちろんだが、他の夢想士たちの指導もしっかり頼む。龍子が17歳になれば、幾つかの予兆が起こる。その時までに頼れる夢想士を一人でも多く育てて欲しい」
「責任重大ですね。アンジェラさんも協力してもらえるんですか?」
「もちろん、時間のある時には協力するが、私は世界中のキーパーソンとなりうる夢想士を育成中でな。あまり帰っては来られそうもない」
「ですよね・・・あー、聞かなければ良かった」
マディはこめかみに指を当てて目を閉じた。
「お前はキーパーソンの一人なんだから、今、聞かなくてもいつかは聞かされてたさ」
アンジェラは苦笑しながら立ち上がり、部室を出た。今日は久しぶりに龍子と模擬戦でもしようかと、そんなことを考えながら。
アンジェラは手の平に水球を出現させて、適度なスピードで発射させた。龍子は疾走状態に滑り込み、飛んでくる水球を器用にかわして見せる。
「よーし、良いぞ龍子。久しぶりだが成長してるな」
「本当?あたし、凄い?」
「あー、凄いぞ。その年で疾走状態が使えるとは、大したものだ」
「へへへー、アンジェラさん。もう少し早くても大丈夫だよ」
「おっ、挑発するとは良い度胸だ。ならスピードを上げるぞ」
アンジェラの手の平から飛び出す水の弾丸は、徐々にスピードを上げてゆく。すると、途端に手や足、顔に直撃を食らうようになる。
「わわっ!うにー!」
負けん気の強い龍子はそれでもまだ、止めようとはしない。
「おい、龍子。そろそろ・・・」
「ダメ!止めないで!絶対にかわして見せる!」
と、言ってるそばから顔面に直撃を食らった。
「うーーー、もうっ!!」
龍子が右手を前にかざすと、稲妻が迸り、水の弾丸を全て蒸発させてしまった。
アンジェラは込み上げる歓喜を抑えることが出来なかった。
「やったじゃないか、龍子!遂に雷を操れるようになったんだな!」
アンジェラは駆け寄り、小さな身体を持ち上げて、思い切りハグをした。
「ア、アンジェラさん、苦しい~」
「お前の属性は雷だ。今後はその能力を伸ばすことに専念するんだぞ」
「さっきのビリビリ?あれがあたしの能力?」
「ああ、そうだ!将来、必ずSランクの夢想士になるんだぞ」
アンジェラは龍子の身体を持ち上げて、嬉しそうにぐるぐると回った。
「その辺りは、あたしも覚えてますよ、アンジェラさん。初めて電撃を出せた瞬間ですからね」
時は再び現代。方術研究会の闘技場でアンジェラと龍子が壁を背にして話し合っていた。
「自分の中に龍神がいる理由は分かったな。今日の修行はここまでにしよう。お前も心の整理をする時間が必要だろう?」
アンジェラはそう言い残し、闘技場から姿を消した。
すると、他の夢想士のパーティーたちが、
「あの、そろそろここを使っても良いですか?」
恐る恐る訪ねてきた。方術研究会の部長と伝説の夢想士の模擬戦を観戦して、かなり緊張しているようだ。
「あ、こりゃ悪いね。良いとも、あたしも今日はもう寮に帰るから」
そのまま背を向けて退場しようと思ったのだが、
「あ、あの部長!」
1年生の女子部員が声をかけてきた。
「ん?なにかな?」
「さっきの模擬戦、凄かったです。早すぎて私たちには良く見えませんでしたが、私たちも部長を目標に頑張ります!」
興奮気味にまくし立てる後輩に、龍子は何とも面映ゆい気持ちになった。
「どうせ目指すんなら、アンジェラさんにしておきなよ。目標は高く設定したほうが良い」
「あ、いや、あの人はもう、何て言うか、次元が違い過ぎますから」
「はっはー。違いない!」
手をひらひらと振って後輩のために闘技場を譲った龍子は、自動販売機で缶コーヒーを買った。
「それにしても、滅びの未来か。初めて聞かされたが、そんな強力な妖魔がいるのか?そりゃ魔王たちが結束して仕掛けてきたら、人類滅亡もあり得るかもしれないけど」
〈信じられないのも無理はない。我もアンジェラにビジョンを見せられるまでは、信じられなかったからのう〉
(そういえば、龍神。なんで黙ってたんだ?アンジェラさんに口止めされてたのか?)
〈お前が我の娘という話か?〉
(おかしいとは思ってたんだ。あたしには両親の記憶が全く無い。アンジェラさんに聞いてもはぐらかされるしな)
〈アンジェラを責めるな。お前とて、いきなり龍神の娘と言われても、困ったであろうに〉
(そりゃあな。でも、そうか。あたしは厳密にいえば人間じゃないのか)
缶コーヒーのプルタブを開け、ベンチに座り込む。
〈少なくとも半分は人間であるぞ。お凛が母親なのだからな。ぬしは母親に良く似ておる〉
(今さらそんなこと言われてもな。会ったこともないのに)
〈では、我の記憶を少しだけ見せてやろう〉
龍子の脳裏に着物を着た、慈愛に満ちた笑顔を見せる、母親の姿が刻まれた。
(美人だな。凄く優しそうな人だ)
〈そうであろう?我の妻だったのだからな〉
(何だよ、おのろけか?父上とでも言って欲しいのか?)
〈ば、馬鹿者!今さらそんな呼び方は止めい!〉
(冗談だよ。あたしだって今さら、父上なんて言えるもんか)
〈そもそも、輪廻の輪から外れた者に父も娘もあるまいて。アンジェラや千歳など、もはや神人の域に達しておるしな〉
(半分神ってか!?そりゃアンジェラさんに勝てないはずだ)
〈他人事みたいに言うでない。ぬしとて、半分は龍神なのだからな〉
(半分は妖魔か。そういえば、中等部に入学した時に、そんなこと言われたことがあったな)
鳴神学園中等部に、早くもCランクになった神童が入学したという噂が飛び交っていた。その神童というのは勿論、龍子のことだった。ダブダブの制服の片袖にCランクのワッペンは良く目立った。
(やれやれ、噂が独り歩きして尾ひれが付いてるぞ。いくらあたしでも、上級妖魔を一人で倒せるかっての)
〈まあ、中級妖魔くらいなら、もう一人で十分じゃろう?〉
(うーん、それもどうかな?そもそも、Cランクならパーティーを組んで討伐の後方支援くらいしか、やらせてもらえないよ)
1年A組になった龍子は、入学式の時から、周りをざわつかせる有名人だった。しかし、窓際の席に頬杖を付いて座っている龍子に、話しかける者がいた。
「なあ、自分が神童って呼ばれてる、神尾龍子なん?」
聞き慣れない関西弁に、龍子が顔を向けると、ちびっこい同級生がいた。
「ウチは大阪から編入してきた、霧崎風子って言うねん」
ダブダブの制服を着てるのはお互い様だが、この同級生は小学生並みに背が小さい。セミロングの髪だが、凄い癖毛だ。
「あたしは神尾龍子。何か用かな、霧崎さん?」
「あー、風子でええよ。龍子さん、方術研究会に入ったんやんな?」
「そうだけど、それが何か?」
「いやー、良かったら模擬戦、ウチとせえへん?」
途端に周りがざわつき出した。神童と呼ばれる龍子に、他の土地からやってきた編入生が挑戦してきたようにしか見えない。いや、多分その通りなのだろう。1年生で早速模擬戦を申し込むとは、自分の力量に余程自信があるのだろう。
「いやー、地方やけど、ウチも一応Cランクやねん」
風子はニヤニヤ笑いながら、自分の片袖を示して見せた。
(へー、あたしと同じレベルか。関西の夢想士がどれ程のレベルか、ちょっと興味あるな)
〈挑発に乗るな、龍子。お前は特別な存在だ。いち生徒の挑発など無視しておけ〉
龍神が忠告するが、ここで断れば何だか、負けたようで癪だ。
「いいよ、放課後に闘技場で模擬戦やらせてもらえるか、先輩に聞いてみるよ」
「よっしゃ!そう来な面白くないわな」
そこで、予鈴が鳴り響いた。
「ほな、また放課後にな、龍子さん」
風子は手をヒラヒラさせて、教室を出て行った。
〈まったく、負けず嫌いじゃのう、ぬしは〉
(挑戦されて受けないなんて、そんな無様な真似は出来ないよ)
〈まあ良い。くれぐれもやり過ぎるでないぞ〉
(ハイハイ、分かってますって)
担当教師が教室にやって来たので、とりあえず話はそこで終わった。
放課後。方術研究会の部室に顔を出した龍子は、中等部の部長に模擬戦をさせてもらえるように頼んだ。
「えー、神童の神尾さんと模擬戦やりたいなんて、どこの命知らずかしら?」
部長は冗談めかして言ったが、霧崎風子の名前を聞いて顔色を変えた。
「き、霧崎風子!?やたら模擬戦ばかりして故障者を量産して、関西から追い出された問題児じゃない!?」
「そうなんですか?へー、こりゃ腕が鳴りますね」
「待って、神尾さん!やっぱり模擬戦は・・・」
「いやー、遅なってスンマセン!授業が長引いてもうて」
何かを言いかけた部長のセリフに、食い気味で風子の関西弁が部室に響いた。
「あー、龍子さん、ちょっと待ってな。すぐに体操服に着替えるから」
いそいそと着替えを始めた風子を見て、部長は顔に手を当ててため息をついた。
「仕方がない。模擬戦は認めるわ。でも、行き過ぎだと判断したらすぐに止めるからね」
「ありがとうございます、部長」
龍子はパイプ椅子から立ち上がり、先に闘技場に向かった。
柔軟運動をしている龍子の前に、体操服姿の風子がやってきた。
「何や、龍子さん。制服のままやん。汚れてまうで」
「いやー、今日は体育の授業なかったからね」
「そうかー。まあ、実戦では制服着て討伐することになるから、かまへんか」
そこに部長が遅れてやって来て、二人の前に立った。
「えー、それじゃあこれから模擬戦を始めます。あくまで模擬戦だから、お互い本気にならないようにね」
気がつくと他の部員たちが、遠巻きにしてギャラリーとなっていた。神童と呼ばれる龍子と関西の暴れ者、風子の模擬戦はかなりの見物なのだろう。
「武器はこの木刀を使ってね。出来るだけ寸止めにするように」
木刀を受け取ったが、風子は少し首を傾げていた。
「うーん。ウチは術士やから、あんまり武器は使わんのやけどなー」
それでも、一応は両手で握り構えて見せる。
「それじゃ、良いわね?よーい、ファイト!」
スタートの合図と共に、龍子は疾走状態に滑り込んだ。風子に接近しようとしたが、途端に猛烈な風が吹き付けてきて、接近を拒まれた。
(風を操る術士か!)
しかし、身体が吹き飛ばされるほどではない。龍子は風に逆らって猛然と特攻をかける。
「ええ根性してるやん。ほな、これやったらどうや?」
風の音が変わると見えない刃物で切られたように、龍子の制服のあちこちが切り裂かれた。
「はははー、どうやウチのカマイタチは?その気になれば首をかっ切ることも出来るでー!」
龍子の中で何かが切れた。
「アンジェラさんが買ってくれた制服を、制服を・・・よくも切り刻んでくれたなー!」
龍子のオーラが一気に爆発した。周囲にバチバチと稲妻が走る。
〈落ち着け、龍子!あくまで模擬戦なんだぞ〉
龍神の声も、もはや聞こえていない。
「な、なんやあんたのオーラは?まるで妖魔みたいな雰囲気やで!?」
風子が気圧されて後ずさった。持っている木刀に稲妻が迸り、真っ黒な炭みたいになる。
「マジかい!?まあ、どうせ木刀なんか使わんから、ええわ」
風子は両手を前にかざして術を発動した。
「死之暴風!」
猛烈な突風が吹き荒れ、ギャラリーたちの何人かが飛ばされてしまう。だが、龍子は両足を踏ん張り微動だにしない。すでに重力操作を身につけているので、闘技場に荒れ狂う突風など物ともしない。
「稲妻狙撃!」
龍子の突きつけた指先から稲妻が迸り、風子はそこに金色の龍神の姿を見た。
「ちょっ!あんた、やっぱり妖魔・・・」
何かを言いかけた風子だったが、稲妻をまともに食らい、ドサッと地面にひっくり返った。
「ス、ストップよ、神尾さん!やり過ぎよ!模擬戦は中止!落ち着いて!」
風子の死之暴風で地面に張り付いて、飛ばされないようにしていた部長が必死に叫んだ。
〈ええい、いい加減正気に戻らんか、馬鹿者!〉
部長と龍神の制止の声で我に帰った龍子は、被害者たちがあちこちに倒れてる様子を見て、
「あ、やり過ぎた」
からんっと木刀を落とした。
夕食前にお茶を買おうと、自販機にお金を入れようとしたら、誰かがチャリンと硬貨を投入した。
「好きなもん買うて。ウチのおごりや」
風子は目を逸らしながらぶっきらぼうに言った。
「あ、こりゃどうも、ありがとう」
龍子がお茶を買うと風子も飲み物を買った。何となく近くのベンチに二人で座り、とりあえず一口飲んだ。
「いやー、世の中広いな。ウチより強い奴なんか、ごまんといてるわけやな。思い知ったわ」
龍子は何と言っていいか分からず、とりあえずもう一口飲む。
「せやけど、あのオーラは何や?僅かにやけど妖魔の気配を感じたで?まさか、妖魔とのハーフかいな?」
「あー、そうそう。普段は表に出てこないけどね。それより風子さんこそ、Cランク飛び越える実力だったね」
「風子、でええよ、龍子。いやー、ウチの初黒星やな」
話し込んでいると、男子生徒が二人の元にやってきた。
「よう、二人ともなかなかやるじゃねえか。今度は俺とも模擬戦やろうぜ」
そこには、同じく新入生の剛猛志の姿があった。
「え、誰なん、自分?」
その言葉にずっこける猛志。
「クラブのオリエンテーションの時に挨拶しただろ!?」
「風子、こいつはあたしの幼なじみで剛猛志っていうんだ。格闘戦が得意な体育会系のバカだ」
「龍子、テメーなんて紹介しやがる!」
「はははー、ウチは体育会系、嫌いやないで。よろしゅうな、タケちゃん」
「タケちゃん!?いきなり距離をつめるな、おい!」
「ま、新入生同士、仲良くやろうか」
龍子の言葉に、二人は賛同した。
こうして、後に鳴神学園最強パーティーの最初の駒が揃ったのだった。
「懐かしいなー」
缶コーヒーを飲んでいると、風子が前を通りかかった。
「ん?何やってんの、龍子。もう晩飯の時間やで?」
「いやー、ちょっと昔のことを思い出してた。覚えてるか、風子?あたしたちの出会い」
「あー、最初の模擬戦かー。懐かしいなー」
風子も自販機で飲み物を買い、龍子の隣に腰を下ろした。
「関西じゃそこそこ強いほうやってんけどなー」
「まあ、実際強かったよ」
「しゃあけど、体内に龍神を宿しとるとはなー。お陰でその後、ランク上げでは差をつけられっぱなしや」
「これでもあたしも、結構キツかったんだよ。アンジェラさんにしごかれまくったからな」
「あー、あの人はもう次元がちゃうもんなー」
龍子はプッと吹き出した。
「ん?どないしたん?」
「いや、さっき後輩の子も同じこと言ってたから」
「考えることはみんな同じっちゅうわけやな」
二人で笑い会う。大切な仲間たち。滅びの未来ではこの風子も、必要な駒なのだろうか?なんにせよ、滅んでたまるかと龍子は思う。どんな未来が待っていようと、自分は仲間たちと共に歩んでゆく。改めて龍子はそう誓うのだった。
了
こんにちは。チョコカレーです。本編のほうで当たり前のように登場する、龍子の体内に宿った龍神の過去が語られるストーリーとなっています。もう少し平安時代のエピソードを入れたかったのですが、いつものように言霊に任せて書き進めると、結構コンパクトにまとまりました。次はいよいよ、本編の血起集会編に入ります。鳴神市の秘密の結界に集う4人の魔王たち。いよいよ、滅びの未来の予兆が始まります。どうか首を長くしてお待ちください。それではまた会いましょう。