ユウ・アソボーという男
ここまでが書き溜め
次はいつになることやら
ほんと我ながら心配
でもでも頑張る
ほんと頑張る
仮想現実という存在はとある天才科学者が発明したフルダイブ技術によって人類と切れない関係になった。
そして物語の主人公はそんな世界の恩恵を多大に受けた一人の夢追人。
男の名は遊場 遊。
彼は幼い頃から人を笑顔にすることが好きだった。
当然のようにお笑い芸人になった彼は慇懃無礼で胡散臭い紳士というキャラクターで一世を風靡しそこそこの人気者の地位を築き上げた。
この頃になると芸能界という闇社会でスレたのかそれともただ単にネジがどこかに行ってしまったのか、彼の考え方は歪んでしまっていた。
彼はなぜか払われたお金と人々に与えた幸福度をイコールで繋げるようになってしまっていたのだ。
楽しければ楽しいほどお金を払うというのはあながち間違いとも言えないがお金が笑顔に見えてきている彼は流石に異常であった。
「笑顔……へへっ。もっと笑顔が欲しい、笑顔が見たい……!どうすれば金儲けできる?ただ金儲けしてもダメだ、人を楽しませて無意識的に財布を軽くさせなきゃ…………そうか、遊園地だ!」
彼が目をつけたのは遊園地という存在。
彼の経験や一般論から見ても遊園地といえばついテンション上がって散財してしまう場所である。
人を楽しませて金儲けするならこれ以上のものはない。
しかし、もちろん問題もあった。
が、それはこの時代の彼には全く壁にはならなかった。
「ひひひ、土地がないなら仮想現実に組み上げればいいよなぁ……」
遊園地に必要な広大な土地問題。
「流石にリアルアトラクション建設は無理だが仮想現実内に組み上げるのはできる」
アトラクション建設問題。
「資金は……これでもそこそこ人気芸人だ、仮想現実で好き勝手できるくらいの金はある」
資金問題。
「従業員は……わたくしと、あとはAIでいいか」
従業員問題。
「これでOKかな?ああ、レイアウトも大事か?素人には難しいしとりあえず一番快適なようにAIに演算させよう」
デザイン問題。
「おお、仮想現実内に遊園地ができていく……!最高だぁ!ヒヒヒ、ここからはお客様の声と売り上げ統計を参考にわたくし自身も勉強しながら運営していくだけッ!これはこれは最高の楽しみができてしまったなぁ……」
この時の彼の表情はまさしくヤク決めて飛んでる人の顔であった。
もちろん誰も周囲にいないので気にしない。
「おっとそうだ、支配人のわたくしにキャラ付けしなくては。性格は……いつものネタのキャラで行こう。名前は、ユウ・アソボー。デスティニーランドの支配人ユウ・アソボーだ」
そう、カント大陸という場所に超夢特区デスティニーグラウンドを持ちこんだのは彼である。
しかしそれはまだまだ先の話。
ひとまずは続きを話そう。
そうして運営開始した遊園地『デスティニーランド』は運営者が有名な芸人ということもあり順調と言える滑り出しであった。
しかし、それで満足しないのが遊場 遊ことユウ・アソボーという男。
彼はネットの評判、園内アンケート、利用者の生の声、様々なものから得た情報をもとに遊園地をグレードアップしていった。
例えば、シンボルが少ないと聞けば山を作る。
例えば、水落ちが欲しいと聞けば滝とそれに付随するアトラクションを作る。
例えば、仮想現実でもパークフードが食べたいと聞けば園内に飲食パッチと味覚データ、食物データを取り入れる。
例えば、料理があまり美味しくないと聞けば高性能調理演算と高級食物データを導入。
例えばスリルが欲しいと聞けば過去データから演算した最強のお化け屋敷を作る。
例えば、子供向けが少ないと聞けばヒーローショーを取り入れる。
例えば、音楽的イベントも欲しいと聞けば本格的な歌唱AI導入と大御所との作詞作曲契約を結ぶ。
例えば、大人向けも欲しいと聞けばカジノエリアを作る。
例えば、シンボルの城が寂しいと聞けば王城を越える出来栄えに組み替える。
例えば、例えば、例えば……。
そうやって改築、増築を繰り返したデスティニーランドはその規模からデスティニーグラウンドへと名前を変え、仮想現実内どころか歴史上最高の遊園地として名を馳せるようになったのだった。
そして、いつからか現実の遊園地由来の二つ名が呼ばれ始める。
最高のひとときを味わえる夢の国、楽しすぎる混沌こと超元気特区。
二つを合わせて『超夢特区デスティニーグラウンド』、最高最強の遊園地誕生の瞬間であった。
それからデスティニーグラウンドは悠久の時、人々楽しませた……とはならない。
どんなものも栄枯盛衰、終わりは来る。
とはいえ、超夢特区デスティニーグラウンドの人気がなくなったわけではない。
その終わりの一瞬まで人気は翳りも見せなかった。
なら終焉の原因は何か?
それはユウ・アソボーという支配人の寿命であった。
どんなにAIが優秀でも、人のためのものにはどこかに必ず人の手が必要。
それを理解していたからユウ・アソボーは己の夢の結晶を自らの手で終わらせることを選んだのだ。
もちろん、後継者を選ぶという手もあった。
しかしながらユウが運営しなければ超夢特区ではない、という意見が少なからずあったのだ。
改悪される可能性があるのなら綺麗な思い出のまま終わりを迎えて欲しい。
そんなゲストの声を真摯に受け止めた超夢特区デスティニーグラウンドは閉園となったのである。
だが、物語はここからが始まりだ。
デスティニーグラウンドの閉園を惜しんだのは何も人間だけではなかった。
誰もを楽しませる、どんなものも、楽しむという心があるのなら楽しませてみせる!そんな理想を掲げていたが故に、人間以外も楽しませていたのだ。
その存在の名は神。
人類とは格の違う存在すらも楽しませた、いや楽しませてしまった。
なればこそ、神々がたかが人間の寿命程度でこれほどの娯楽が潰れることを許すはずがないのである。
『ユウ……遊場 遊。いえ、ユウ・アソボー支配人』
「ん?なんだ……?わたくしは死んだのでは?」
『ここは転生の間。神に認められた選ばれし魂が贈り物と共に次の人生へと向かうための場です』
ユウはわけがわからなかったが適当に泡沫と理解して流されることにした。
それに話を聞く限り、どうやら悪い知らせではないらしかったのだ。
『あなたの作り上げた遊園地は最高でした。故にあなたの寿命という粗末なことで失われるのは惜しい。して、ならばこのままあなたにデスティニーグラウンドを持たせて転生させればいいと結論づけたのです』
ユウはなるほど、自分勝手で傍迷惑な存在だなと思った。
人が死ぬことをなんとも思っていないし、自分が気に入らなければなんでもねじ曲げる。
そんなひねくれた精神性を垣間見たのであった。
しかし、まだあの夢の結晶を運営できるというなら利害は一致している。
自分だってあんなところで終わりたくはなかったのだ。
本当なら地球を飛び出して宇宙にまでその名を轟かす予定だったのだから。
『さて、ユウ・アソボー。あなたに聞きたいのはデスティニーグラウンドを運営する上で必要となる処置はありますか?我々は機嫌が良い、今ならなんでも叶えますよ』
ユウは考えた。
目の前の存在はおそらく本当になんでも叶えてくれる。
だからこそ慎重にならなくてはならない。
下手を踏めば己の遊園地が汚される可能性すらあるのだから。
考えて、考えて、一つだけ願いを引き出す。
「よし、園内AIたちに生成時からの記憶を付与、そして設定通りの存在となるように変換してくれ」
『それはつまりエミニコたちは幸福エネルギーを糧に生命活動をする妖精に、ティナは音楽神に愛された歌姫の人間に、というわけですか?』
「ああ、そういうことだ。おっとそうだ、その上でわたくし含め不老不死にできますかね?」
『可能ですよその程度なら。ついでに園内を稼働させるエネルギーも幸福エネルギーにしておきましょうか?』
「それも頼むが電気やガスも使えるままにしておいてくれよ?」
『もちろんです。せっかくの発電施設や採掘施設が無駄になりますからね』
「そんなもんで十分かな。あとは適当にやるさ」
その言葉を聞くと不確かな何かは笑った。
改めて考えても悍ましいものに目をつけられたのだとユウも笑いたくなった。
そして次第にユウの体は薄くなっていく。
きっと転生するのだ。
ユウは覚悟を決め、来世に期待した。
『それではユウ・アソボー、来世でも魂持つものを楽しませるために精進してください』
「わかっているさ。それがわたくしの生きがいですから」
そう言い残してユウは来世へと旅立った。
後に残されたのは満足そうな存在だけが残された。
『さてさて、それでは遊園地が運営開始して5年後あたりに来園しますかねぇ?おおっ!これはこれは、クオリティが爆上がりしていますね!やはり元AIたちに魂を与えたのは正解でしたか。チームワークが以前とは段違い、良いですねえ実に面白い。ふふふ、しかし彼も意外と迂闊だ。なぜ言語が通じるのか、なぜ味覚が同じなのか、なぜ文化が近いのか、そこらへんの機微を考えてはいないようですねえ?まあ、だからこそ色々仕込み甲斐があるのですが……』
神なのか邪神なのか、はたまたそんな上等なものではないナニカなのか。
しかし、わかっていることは一つ。
ユウ・アソボーとデスティニーグラウンドが彼らを楽しませている限り、強大すぎる後ろ盾は存在するということである。
テラワロス
先行き不安すぎてテラワロス
むしろペタワロス
\(^o^)/オワタ