一章 その8
木造2階建て、ざっと5LDKってところかな、
学校から、駅の反対に向かって少し歩いたところに、星野家はあった。僕の町は駅から離れるにつれて田んぼと畑の面積が指数関数的に増加するため、この辺はすごく田舎くさい。
なんだかその田舎くささが星野さんの雰囲気にそぐわない気がする。
「ぎょぎょが(ここか)」
ここに来るまで無言だった大山が口を開いた。
「ここだ」
僕らはどちらともなく顔を見合わせ、インターホンに指を伸ばした。
ピンポーン
確かに鳴った。でも誰かが出てくる気配はない。
再びピンポーン。誰も来ない。またまたピンポーン。やっぱり駄目。
「いないみたいだね……」
そうして僕は何の気なしに、2階を見上げ。
「うぎょっ!」
大山みたいな声を出して尻もちをつくことになった。
「大山……あ、あれを見ろ!」
震える指が2階の窓をさす。
そこには、
窓に顔を押しつけ、ゆがんだ表情で僕らを見下ろす老婆の姿があった。
「びょしの! (星野!)」
突如大山が叫び、生ハムのような腕でもって星野家の玄関扉に手を伸ばす。鍵がかかっていたのだろうその扉は、数秒の抵抗も空しくあっさり降伏、大山は巨躯をぷるぷると躍らせ室内に侵入した。
「まて! 大山! 室内には妖怪がいるぞ! っていうか不法侵入だ!」
「びょ~しの~!」
だめだ、まったく聞こえていないらしい、しかし、大山にはあの妖怪が星野さんに見えたのか? まさか老婆の妖術?!
大山をおって自分も家の中に入るべきか、いやその答えは明確にNOだ。まだ前科はほしくない、そうではなくて、次にどうするべきか迷っていた僕は、
「ぎゅうお――――――――――――っ!」
巨大な黒板を巨人が爪でひっかいたような、心臓に悪い音にすくみあがった。
今のは絶対に人間の声ではない、魔物だ!
「お、大山!」
あ、足がすくんで動けない、どうしよう。大山が……大山がっ!
「ぎょうぇ――――――――――――――っ!!」
「ぐっ……お―やま――――――っ!」
僕はなけなしの勇気をかき集めて星野家に突入した。肝心な時にビビっていて何が男だ!、何が戦友だ!!
勝手のわからない室内で、目につく部屋を片っ端から確認し、ようやく階段を発見、
まってろ大山!
駆け上がった階段の先には木製の引き戸が開け放たれ、僕をいざなっているようだった。
どこへ?
どこだろうと構うものかっ!
僕は勢いに任せて部屋に飛び込み、
デジャビュを感じた。
妖怪が大山に首を絞められて白目をむいていた。
what is this?