一章 その3
大山大、上から読んでも下から読んでも大山大。人名である。
身長180cm(推定)、体重100kg(推定)、生物学的分類は人類(推定)。
僕のクラスメイトにして我が校の誇るアンアイデンティファイドミステリアスアニマル、
生体は不明。話したことがない。
彼と仲のいい鈴木君曰くいい人らしい。
なんでもふるまいの中にそこはかとなく相手への思いやりを感じるのだとか。そこはかとなく?
しかしまあ、僕とは接点のない人なわけで、だからいきなり『ぎょい』と話しかけられるのはイレギュラーな出来事なわけで、もっというなら2人きりで屋上にやってきて向かい合っている今のこの状況はベリーイレギュラーなわけで、
「……」
僕は気まずいわけなのだ。
そしてどういうわけか大山君は先ほどから黙りこくったままうつむいている。なんとなくだが、きっと気のせいなのだが、いやもう間違いなく勘違いなのだが、
彼が恥じらっているように見える。
まるで恋する乙女のように、
屋上に意中の彼を呼び出して、
長年の片思いを今まさに告げようとする乙女のように、
相手はだあれ?
僕なのでしょうな。
いやないないないないないないないないないないないないなっ――――!!!!!!!!
しまった『ない』が途中で『いな』になってしまった。
じゃなくてっ! そんなことはどうでもよくてっ!
これはどういうことなのだ?
なぜ顔をあからめる?
なぜつま先でのの字を書く?
僕は男で、大山もたぶん男で、無理なんです。男と男で子孫は残せないのです、人間の運命なのです
人間?
しまった! 大山は人間じゃない! まさか、まさか無性生殖ができるのか?
……と冗談はこの辺にしておいて、気まずすぎて変な妄想をしてしまったではないか。
いい加減待つのにも飽きてきたし、大山は話し出す気配がないし僕は自分から話しかけることにした
「何か話があったんじゃない…ですか?」
何敬語で話してるんだ僕!
「……だ」
「え?」
いまとんでもない言葉が聞こえたような。
「好きだ―――――っ!(ずぎだ―――っ!)」
「え――――――――――っ?!」
妄想が! 妄想が現実に!!
「だいっ好きだ―――――――っ!!(だいっずぎだ―――――――っ!!)」
この日僕は死んだ……と思った。