二章 その17
クラスメイトと夜通しの勉強会、なんていうと青春しているように聞こえるが、実際にやってみるとな~んだ、こんなもんかとという程度のものだった。僕を除く二人は周囲の雑音を任意にシャットダウンする能力を持っているらしく、途中から僕の質問、および文句(ね~無視しないでよ~)に何の反応も示してくれなくなったため激しく疎外感を感じたりもした。でも、ひとりでやったら絶対に長続きしない勉強が、真面目な二人に囲まれてやると長続きするものだと学ぶことができた。なんと昨晩のトータル勉強時間は2時間38分プラスマイナス10分(過去最高)、誤差が生じたのは僕がそのくらいの時間で眠ってしまったためで、いったいいつの間に寝てしまったのか、星野さんに足でけり起こされたときには東の空が輝いていた。かしこさんのお母さんは、いつも朝の6時に食事を持ってくるということで、鉢合わせしないよう、余裕を持って5時30分にお暇させてもらい、後は昨日と全く同じ。ゾンビな星野さんと、元気な僕は朝からかしこさんをストーカーして登校したのだった。
「だから、今日こそはお前を倒すっ!」
「だから、ってなんだよ」
斎藤は朝からつれない。テスト前の高揚した気持ちを伝えているというのに。
「今回の僕は一味違うのだ。なんたってあの、かしこさんに教えてもらったんだからな!」
「な、なんだって~」
「棒読みかい!」
「どうせ、あのフリフリハンカチを頭に巻いて勉強したとか、そんなのだろ? この変態野郎」
「失礼な……まあ、いいや、男なら結果で語ろうぜ」
精一杯男らしく言ってみる。ダンディーなつもり。
「お前に負ける気しないけどな、こないだも50点くらい点差があったし」
「ふっ、後で泣き目をみることになるぞ」
「いや、もうやめろよ。お前にダンディー路線は無理だって」
カチンときた。
僕は自信があった。昨晩―ほとんど今朝か―の勉強で感じたあの充実感。かしこさんのつくる頭よさげフィールドが僕のポテンシャルエネルギーを底上げし、地球の脱出速度を上回っている、なんて意味不明な妄想が頭をよぎるくらい来ているのだ、閃き的な何かが。一体テストで何を閃くつもりなのか分からないけれど。
で、いよいよテスト開始。並んでいたのはいつも通り宇宙語でした。
「しくしく」
「突っこまねーぞ」
机に突っ伏す僕に斎藤がひどいことを言う。こんな有様になってしまった以上、ギャグにするよりほかないというのに、だから頑張ってぼけているというのに、斎藤は突っ込んでくれないというのだ。そんな、そんなことって!
「ボケはな、突っ込まれないと、そこで終わってしまうんだーっ!」
「まあ、あんまり落ち込むなよ。今回のテストは難しかったからな、平均点も低いだろうよ」
「低いって、どのくらい?」
「知るかよ。俺は半分くらいしか解けなかったぜ」
「半分って、じゃすと50? それとも30から70? それとも40から60?」
「細かいやつだな、お前らしくもない、いつもみたいに『テストより大切なものがある』って開き直れよ、ちなみに答えておくと、たぶんジャスト50くらいだ」
「負けた……補講が」
「補講? ああ、でもあれ下から50人だったろう? うちの学校、生徒が何人いると思ってんだよ、そうそうワースト50なんて
……って、お前は前回50切ってたんだったな、あッはッはッはッはッはッはッは! すまん、すまん」
ばしばし背中をたたかれる。くそっ! 泣きそうだ。
「うるせ――――っ! ちょっとトイレ行ってくるっ!」
「ハンカチはいらねーか? あッはッはッはッはッはッは!」
「このっ! 地獄に落ちろ、バーカっ!」
僕は席を立った。