一章 その2
本日のお務めも終わり、いざ我が家へ、と教室を後にした直後のことである。
「おい」
潰れたかえるみたいな声が後ろから聞こえた。
正確に文字にするとむしろ『ぎょい』だ。それはほとんど雑音のようにしか聞こえず、ゆえに僕は特別な注意を払わずに、もちろん振り向いたりなんてするはずもなく、今日の晩御飯何かなぁ、と平和ボケまっしぐらに教室を去ろうとしていた。
が、
ぼってっとした何かが僕の肩にはりついた。
ぼてっとではない、ぼってっとだ。この微妙なニュアンスの違いが伝わるとは思わないが、肩に乗った後、ワンテンポははさんで密着する感じに、それはそれは気持ち悪い何かが僕の肩に乗ったのであった。
僕は思わず息をのんで振り向いた。
ぼってっとしたものがそこにあった。
人間で言うと頭に当たる部分にはぼってっとした何かがのっかり、
人間で言うと体に当たる部分にはぼってっとした何かが小山を作り、
人間で言うと手に当たる部分がぼってっと僕の肩に連結され、
なんとそれは人間なのだった。
「おい、お前、ちょっと来い(ぎょい、おびゃえ、ちょっぎょい)」
たぶん、、それはそう言ったのだと思う。