序章
我が武勇伝をお聞かせしよう。
そのいち、生まれてすぐ落とされた。
医者の野郎が手を滑らしたらしく、こうつるっとぽってっと……ざけんな!
そのに、自転車にはねられた。
あれは競輪用の奴だったろうか? まあとにかく車道を走っても文句ないスピードのチャリが、リーマン風のおっさんがのったチャリが、僕をボーンとはねて逃げやがった。慰謝料はらえ!
そのさん、洋服ダンスにつぶされた。
あれ? 今揺れた? ってくらいの、のちの調べによると震度2の地震で倒れたたんすがガーン、あのせいで僕の成績は芳しくないに違いない。軟弱な箪笥め!
そのよん……と続けてもいいのだが、いい加減聞くほうも飽きたろうし、話すほうも痛い、心が。
僕は小さなころから幾度も死にかけている。絶対に何かがとりついているのだろう。
かつてお祓いにいったとある神社では『きえ~い! 呪いじゃ! 呪いを持ち込む出ない!』とか言われて神社の入り口で追い返されたこともある。
おみくじは凶以外ひいたことがないし、タロット占いではカマもったガリガリ野郎ばっかりが、まるでマジックのように現れる。種も仕掛けもございません。
そんな死相に愛された、いらねーけど、愛されてしまった僕にとっても、その日は最悪だった。
朝、お茶をこぼした。それはいい、が、その模様がどう見ても『死』と読めたのはまずい。ひらがなではない、漢字で『死』。なんて器用なお茶なんだろう。
登校時、突如便意に見舞われた僕は公園のトイレに駆け込んだ。何の気なしに飛び込んだ男子便所一番奥の個室で、やれやれどっこいしょと腰を下ろした僕が見たものは、
落書き
『これを見たやつ今日しぬからマジで』
……マジで?
そして今。僕の目の前には見知らぬ女の子が。
本日転校してきた星野ひかりさん。しゃれた名前がうらやましい、僕なんか名前の最後が“たろう”だというのに。いや話がそれた。名前のことなんかどうでもよくて僕が言いたいのはつまり
「ええと、今何と?」
これだ、でもって彼女の回答は。
「君、近日中にしぬよ、たぶん」
これだ。
夏休みも間近に迫った7月、中途半端な時期にやってきた彼女はいきなり予言しちゃったのです。
なにを?
僕の死を。
勘弁してくださいよ。