第七十六話
「よっし!じゃあやろうか」
「ちょっと、切り替え早くない?」
「いや、だってさっきまで泣きそうだったじゃん?」
「いやー、加奈の気のせいじゃない?」
「いやいや、みんな見てたから、ね?」
愛理の言葉に加奈と麻衣もうんうんとうなずいていた。
ー三十分前ー
「やっと授業終わったー、放課後どうする?」
「昨日電話してた時に今日は部活だって言ったじゃん」
「そうだっけ?」
加奈の言葉に麻衣が私の方を見て聞いてきたので答えた。
「昨日電話してるとき麻衣半分くらい寝てたからねー、覚えてないのかも」
「もー、由宇は麻衣に甘すぎだよ」
私が麻衣の頭をなでて「しょうがないよねー」と言っている様子を見て加奈がほほを膨らませていた。
「そういえばみんな何も持ってないじゃん。今日も学校のもので何か作るの?」
「本当に何も聞いてなかったんだね、、、」
愛理が苦笑いしながら今日の部活はすることがまだ決まっていないから何も持っていないことを伝えた。
「じゃあ、行かなくていいってこと?」
「いや、そう言うことじゃないけど」
「まぁ、行かなくてもいいんじゃない」
「今日はさぼっても先輩怒らないんじゃないかな?」
愛理の言葉で麻衣が完全に帰る気になっている時に先生に呼び止められた。
「あっ、良いところにいた。そこの四人暇でしょ?今から職員室に来て」
「あっ、はい」
返事をすると先生はするすると行ってしまった。
「ちょっと、麻衣なにしたの?」
「なんで私って決めつけてんの?由宇かもしれないじゃん」
「いや、この中で呼び出しの可能性があるのは麻衣だけでしょ」
「ぐっ、それなら全員呼ばないで私だけ呼ぶでしょ」
「まぁ言われてみればそうか」
結局何の呼び出しかわからないまま職員室に向かった。
「失礼しまーす」
「あっ、やっと来た」
「ん?」
先生の机の上にはいくつか箱が置かれていた。
「これ届いたから持っててくれ、俺の仕事が進まん」
「なんですか、これ?」
「何って、豚の解体頼んでだでしょ?それが届いた」
「え?だってそれってしばらく先だって話だったじゃないですか」
先生の言葉に驚いて聞いてみた。本来なら解体して熟成など加工などある程度下処理をして送ってもらう予定だったのでもう少し先だと聞いていたので全く予想していなかった。
「あー、それがこの豚はうちの生徒のでー、みたいな話したら優先してやってくれたんだよね。熟成も最新の機械でやってもらったんだぞ。先生にくれてもいいんだぞ」
「まぁ、それは全然いいんですけど、、ぐっ」
私の言葉に後ろに立っていた麻衣が背中にグーパンしてきて思わず声が出てしまった。
「どうしたんだ?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「これ、どうするんだ?」
箱を受け取りながら先生が聞いてきた。
「どうする?」
「うーん、せっかくなら部活に持ってく?」
「それだとみんなに食べられちゃう」
「良いんじゃない。これだけあると私たち四人だと大変だし」
「でも、そうすると私たちのお肉が」
「それなら道具とかいろいろ使っていいぞ、必要なものあったら俺に連絡してくれればいいから」
「ほんとですか?ありがとうございます」
「でもでも」
「それじゃあ行こうか」
「じゃあ先輩に連絡しておくよ」
さっきから何か言っている麻衣を引っ張りながらお肉を持って部室に向かった。
「どうしたの由宇。そんなに箱じっくり見て」
「いや、全くこのことだと思ってなかったから急にあの子なのかーって」
ずっと箱を見て暗い顔をしている私を見て愛理が聞いてきたので答えると「たしかにー」とうなずいた。
「まぁびっくりだよね。現実感がないっていうか」
話しているとまた色々な感情がわいてきて思わず目に涙が浮かんできたので慌てて袖で拭いた。
「みたいな事あったじゃん」
「いや、もう気持ちの整理付いたから」
加奈が私を見てつっこんできたけどなんか自分で思ったより気持ちの切り替えがすんなりいったので始めようとしたのに止められた。
「いいの?なんかこうもっと感傷に浸ったりしなくて」
「うん。それより早く麻衣に料理あげないと」
「麻衣の方が上だったかー」
さっきから麻衣が自分の量のお肉を必死に確保しているのを見ていると気持ちは切り替わっていた。
「それにしても量が多いねー」
「だね。先輩たちに協力してもらってよかった」
大量にある肉をチャーシュー、ウインナー、ベーコン、燻製など様々な種類の物に調理したので終わったころにはかなり時間が経っていた。
「私にも頂戴」
麻衣は早々につまみ食いにまわっていたのでみんな作業が終わって味見してみることにした。
「いやー、おいしいね」
「うん。もしかして私たち育てるの上手だったかもね」
「どうだろー、でもまたやってみてもいいかも」
加奈も一緒に食べながらそんなことを話していた。これから先、受験だったり学校が離れ離れになったりするので簡単ではないがまたやってみたいという気持ちが湧いてきた。
「それなら豚以外もいいよねー、牛とか鶏とか。ジビエとかも育てられるのかな?」
「魚も育てていたけど今はすっかり任せっきりだもんねー」
「あれはまだ早かった、、、」
「ふふっ、たしかに。素人が気軽にできる感じじゃないし、並行してできる感じじゃなかったねー」
加奈と談笑しながら料理に夢中の麻衣に話しかけた。
「麻衣どう?おいしい?」
「あう、おいひい」
「それはよかったー」
「ほんと由宇はご飯作るの上手だよねー」
「慣れてるだけだよー、そういえば加奈は?」
「さっき先生に用があるって出ていったよ」
「早く帰って来ないと麻衣が全部食べちゃうよ」
「まぁさっきちょっと食べてたから良いともうよ」
「そうなんだー、でも麻衣は食べすぎだよ。夜ご飯どうするの?」
「それはそれ、これはこれ。今食べないとどんどん食べられちゃう」
「じゃあ後これだけね」
放っておくと食べ続けそうなので残りは保存用に取り上げておいた。
「ただいまー」
珍しくテンション高めに加奈が戻ってきた。
「遅かったね。麻衣がほとんど食べちゃったよ」
「その辺はさっき一口貰ったからいいよ」
「それ何持ってるの?」
「気になる?なんだと思う、加奈?」
「なんか嫌な予感してきた」
愛理の言葉に加奈は笑顔で持っていた箱を机の上に置いた。
「なんだと思う?」
「愛理が焦らすなんて、ロクな物ではない、、、」
「珍しい部位も全部入ってたよね?」
「それでなんなの?」
麻衣が聞くと愛理が箱を開けた。
「うへぇ」
「ぎゃっ」
「うっ」
愛理が箱を開けた瞬間私たち三人は変な声が出てしまった。
「豚の頭としっぽでしたー、後ホルモンの一部」
愛理の言う通り箱の中身には加工された部位が入っていた。
「そういえば無かったけど、、、無かったけどだよ」
「うん。一部食べる地域があるとは聞いたことがあるけど」
「ってわけで由宇調理してくれる?」
「えっ、まじですか?」
「うん、まじです」
「何して食べるの?」
「わかんないから調べながらやろー」
「おっ、おー」
意気揚々と腕をあげる愛理に続いて私たちもつられて腕をあげた。




