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第七十五話

 今年の体育祭はかなりのんびりして終わった。去年ほどの目新しさもなくダラダラしていたらいつの間にか終わっていたという感じだった。

「この生活に慣れてきた証拠じゃない?」

話を聞いていた加奈がそう言ってきた。

「そう?」

「うん。今まではこの高校の生活に慣れてなくて常に新しいことばっかりで驚いていたけど反応しなくなったってことは生活になじんだってことでしょ。」

「由宇もついに農高生近づいたってことだね。」

なぜか麻衣が嬉しそうにつぶやいた。

「なんでちょっとうれしそうなのさ。」

「別に嬉しくはないよ。」

「そういえばそろそろ豚の出荷日だね。」

「あー、もうそんなか。」

半年ほど前から私たちで育ててきた豚たちだが来た頃より何周りも大きくなっていた。

「それで解体の時どうする?」

「どうするって?」

加奈の言葉に愛理が質問した。

「解体に立ち会ってもいいって。」

加奈の言葉に愛理と麻衣の顔が少しゆがんだ。私も「えっ」っと声が出てしまった。

「いやー、こういうのはプロに任せた方がいいんじゃないかな。そこに私たちいたらねー、邪魔になっちゃうよ。」

「そうそう。」

私の言葉に愛理と麻衣の二人がうなずいた。

「そういえば去年授業で見たか。」

加奈の言葉にうなずいた。


 一年の実習の授業で急に先生が

「今日は豚の解体やるから。」

と言った。専門のクラスの子たちは慣れている子がいるのかあんまり驚いた様子がなかったが、私たちのクラスは「えっ?」という感じでみんな固まっていた。なにせ今までの実習と違いかなり傾向の違うものでその上急なことなので気持ちの準備ができていなかった。

「まぁもちろん刺激が強い光景が続くから無理だと思った人は離脱してくれていいから。」

先生がそう言うことで一気に空気が変わった気がした。

 いつもの実習の場所に行くと今から解体される豚がいて周りには業者の人たちが準備を始めていた。

「なんか独特な雰囲気だね」

「うん、、、」

 業者の人たちは慣れているのか淡々と作業を進めているように見えるがどこか重たい雰囲気が流れていて、そのせいか豚の鳴き声も心なしかいつもより訴えてくるものがあるように感じた。

「私たちってこの子たちを一から見てるわけじゃないし、世話したのってこの短い期間だけだけどさ、なんか悲しいっていうか寂しいよね。」

加奈が豚たちをなでながらそう言った。

「なんだかんだ愛着沸いたからね。」

麻衣もすこし寂しそうにつぶやいた。

 話していると着々と準備が進み解体の作業が始まった。加奈は雰囲気にやられ早々に離脱していた。もともと血とかが苦手ということなので耐えることが無理そうな雰囲気だった。

「ふぅ、はぁ。」

鳴り響いていた豚たちの声が途切れる瞬間思わず声が漏れてしまった。後ろの方では「ぐすっ」と泣いている子たちもいた。麻衣がいつの間にか私の袖をつかんでいた。

 そこからは業者の方が手早く血抜きを行い各部位ごと説明しながら解体を行っていった。

「私限界。」

途中で麻衣が離脱してそこからしばらくして私と愛理も離脱した。

「はぁー、空気がぁ。」

 部屋を出てつぶやくと三人ともうんうんうなずいた。

「愛理ゲテモノ好きなのにこういうのはダメなんだね。」

「映像で見るのとか大丈夫なんだけど本物は全然違うね。雰囲気が。それにあの子たちの事知ってるから余計に。」

「鳴き声が途切れた瞬間なんか涙こぼれそうになっちゃった。悲しいのもあるけど目の前で命がなくなる瞬間の空気感はすごいね。」

 その日はその後の授業はみんないつも以上にぐったりしていた。


 「私見なくてよかった。絶対泣いてたわ。」

去年のことを思い出して加奈がそう言った。

「じゃあ絶対無理じゃん。絶対泣くよ。」

麻衣の言う通りあの時と違い今回は私たちが育てた豚たちだ。一緒にすごした時間も思い入れもあのときとはくらべものにはならない。

「でもせっかくなら悲しくてつらい思いするよりも、明るく見送っておいしく食べたいよね。」

「うん、そのつもりで育てたわけだからね。」

「こっち側の立場に立つと難しいよね。愛情込めて育てないとおいしくならないけど、その分思い入れが強くなっちゃう。だからって同情して欲しいわけじゃないからね。」

 加奈の言葉に「うーん」とみんなでうなってしまった。こういうジレンマみたいなのは体験してみないとわからないことだ。普通に生活していればただおいしいとしか感じないことだけど生産者側に回ると色々なことを考えてしまう。今回は私たちが生産者であり消費者であるが、売り出すとなった時は、値段でもジレンマが生まれそうである。

「ペットとかとは違うとはわかってるけど、だからって愛情が無いわけじゃないどころか思いっきり愛情込めて育てたからね。」

「でも由宇がおいしくしてくれるから。たぶん大丈夫だよ。そういうの全部含めて愛情を込めるってことだと思うから。」

麻衣が外を見ながらそういった。普段はさばさばしているが生き物に関しては結構親身に向き合っていた。そういう麻衣にとっては多分今までこの高校で過ごして一つの答えみたいなのを見つけていたのかもしれない。

「まぁ、そうだよね。寂しいかもしれないけど悲しむことはないよね。」

「そうと決まればどう食べるか決めないとね。」

 麻衣の言葉ですべてを受け入れられたわけじゃないし、加奈と愛理もそうだろうけどそれでも多分今はこれが一番正しい考えな気がした。

「たくさんあるからね。せっかくならみんなにも配ろうよ。」

「そうだね。部活でも使えるし。それじゃあ色々試してみようか。」

とりあえずどの部位がどれくらい取れるのか調べてからみんなで何を作るか話し合った。

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