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第五十八話

 十二月に入ってから新たに水産の実習が始まった。

「ここも広いね。」

「うん。それに畜産の時みたいににおいがきつくないからいいよね。」

「まぁ匂いはするけどね。」

「私はこっちのほうが落ち着くなぁ。静岡にいるときはよく嗅いでた匂いだから。」

この場所は海水魚を養殖していた。

「ほんとはな、この辺の魚の養殖は海で行うのが一般的だけど学校に海はないからね。学校でいろいろ研究を重ねた結果できた、いわばこの学校の代表作だ。」

この実習での先生が自慢げに話していた。この向かいにある建物では淡水魚が育てられていさっき説明を受けた。こっちの説明の方が熱がこもっているから先生は相当気に入っているのだろう。

「じゃあ早速みんな作業に移ってくれ。」

先生の合図とともにみんなが動き出した。今回の実習は作業工程は少ないけど大がかりの作業が多いので班は二つしかなく、いつもの四人に加え凪ちゃんや早霧ちゃんも同じ班だった。

「こっちの班は水槽の掃除だから。とりあえずこの機械をを使って水槽を空にしてくれ。」

先生が巨大な掃除機のような機械を何個か持ってきた。その機械で水の入った水槽とからの水槽をつないで電源を入れると大きな音とともに見時と魚が移動し始めた。

「おー、意外と重労働だね。」

「ちょと。麻衣もうちょっと力入れて!」

「むり、これ重すぎる。」

みんなでホースを抱えているのだが、なにしろ大量の水がすごい勢いで吸われているので腕にかかる負担がものすごい。

「水を抜き終わったら水槽の中に入ってみんなできれいにしてなー。」

と先生が今度はブラシや洗剤を持ってきて私たちに渡してくれた。

「この中は結構独特なにおいするね。」

「独特の匂いっていうか生臭い。」

「それに結構汚れてるね。」

ゴムブーツとゴム手袋とマスクの重装備で取り掛かっているけど体中に生臭さが伝わってくる。水槽の壁や底には糞や餌の食べ残しがこびりついていた。

「くさーい。」

「麻衣うるさーい。」

麻衣がさっきからずっとぶつぶつ言いながら掃除をしていた。

「魚って思ったより気持ち悪い。なんか思ってたのと違う。」

「まぁ確かにね。ぬめぬめしてるし顔もブサイクだよね。」

「加奈は魚にかっこよさ求めての?」

「そんなことないけどもっとかわいい顔してたら愛着も沸くじゃん?」

「そんなことしたらまた食べるのに躊躇しちゃうじゃん。」

「確かに!じゃあこのままでいいか。」

「やっぱくさーい。」

文句を言っている麻衣に愛理が近づいて麻衣の鼻にティッシュを詰めてあげていた。

 水槽をきれいにし終わった後、新たに水を入れ込み移動した魚たちを戻してあげた。

 そのあと別の場所に移動した。こっちには魚ではなく甲殻類が育てられていた。

「こっちは落ち着くわー。」

さっきまでと打って変わって麻衣が元気そうにしていた。

「あっ、ウニってキャベツ食べるんだよね?」

「あーそうらしいね。ここのも食べるのかね?」

「おー食べるぞ。そっちの奥で育ててるのはキャベツで育ててるから今あげてみれば。」

私たちの話を聞いていた先生が教えてくれた。そのついでにキャベツを持って来てくれたのでちぎって水槽に入れてみた。

「ゆっくりだけど食べてる!」

「どっから食べてるの?」

「よく見ると口があるんだよ。」

先生が近くにあった黒板を持って来て解説を始めてくれた。

「ちなみに味も違うぞ。食べてみる?」

「食べたい!」

先生の提案に麻衣が真っ先に食いついた。ちなみに私は苦手なので遠慮しておいた。

「おいしい。」

「うん。だけどちょっと普通のとは違うね。」

「生臭さが少ないかな?」

「さすが鳥山だな。違いが判るな。生臭さってのは魚もそうだけど海藻を食べてるからにおうんだよ。川魚とか夏の魚が臭いって言われるのはそれが大まかな原因だな。このうにもキャベツしか食べてないから生臭さがしないんだよ。でもそれがウニっぽくないと言われることもあるからあんまり世間には流通してないな。」

「へー。」

食べた三人は「これもおいしいのにね。」「うん。むしろこっちの方が好きかも。」「ぜんぜんこれでいいよー。」と世間の評価に納得していないようでおいしそうに食べていた。

「これなら家で育てられるんじゃない?どう思う、由宇。」

「いやー、淡水系ならまだしも海水は絶対めんどくさいよ。匂いも結構するし。」

私が反対すると露骨に残念そうに加奈が落ち込んだ。

「でも何か育てるのはいいよね。」

「それなら畑で作れば。ハウス使えば温度管理とかもできるし。」

愛理が提案すると麻衣が早速反応した。

「それって何でも育てられる?」

「まぁ広さ的には限度あるけど大体は行けるんじゃないかな。ハウスで育てる方法もありますよね、先生?」

「あるぞー、最近は魚を育てた水で野菜を育てる方法とかも注目されてるぐらいだしな。それよりお前ら自分たちの畑なんか持ってるのか。」

「まぁ私の力にかかればぁ?」

愛理が珍しくお嬢様口調で言うと加奈に「語尾、語尾!」とつっこまれていた。

「そっか、先生に言えばいつでも手伝うぞ。海水魚育てたいなら結構準備とか大変だしな。」

「本当ですかー?ありがと―ございまーす。」

「畑に魚に家畜も育てるのか。あの空間凄いことになりそうだね。」

「そういえばそろそろその小屋もできるよ。」

「工事ずっとしてたもんね。」

動物に襲われた後、対策の工事とともに家畜小屋の工事が行われていた。小屋なので建物ほど時間がかからないのでもうすぐ完成とのことらしい。

「雑談はここまでだ。授業に戻るぞー。」

先生の言葉で今は実習中だったのを思い出し「はーい」と返事をして作業に戻った。

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