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第五十六話

 翌日寮を出て下宿先のアパートに麻衣と一緒に戻った。

「荷物おいたら管理人さんのところに猫受け取りに行っておいで。」

「うん、行ってくる。」

麻衣が出て行ってしばらくして猫を抱えて戻ってきた。

「なんか管理人さんの部屋に先生がいた。」

「ん?担任?」

「違う。熊谷先生。」

熊谷先生とは畑を作ったときにお世話になった先生で、管理人さんとは意外と交友があるらしい。

「なんか酔っぱらってた。」

「いい大人がこんな時間からー。とりあえず片づけ終わったら畑行こうか。加奈たちもくるから。」

「えー。」

麻衣が猫たちと一緒にごろごろしたそうなので無理やり引っ張って片づけをさせた。

 片づけ終わってジャージに着替えて畑に行くとすでに二人が来ていた。

「もう来てたんだー。」

と声をかけても反応がなかった。

「あれ?どうしたの?」

「来てたんだ、、」

二人が振り返るとひどく落胆した顔をしていた。

「あっ!」

私と加奈も畑を見ると声が出た。ようやく出てきた芽がほとんど無くなっていて、盛られた土が崩されていた。

「なにこれ。」

「たぶん何かの動物が来て食べちゃったんだろうね。ほらここに足跡っぽいのがある。」

加奈が指さす先を見るとたしかにそれっぽく土がくぼんでいた。

「ここは人がそこそこ多いから油断したぁ。」

愛理が残念そうにつぶやいた。様子を見る限りハウスの中は大丈夫だけど外に植えたのはほぼ全滅だった。

「ちゃんと対策しないとダメなんだね。」

「多分野菜育ててる人からすれば無いことはないことなんだろうけど、今回に関してはちゃんと準備してたら防げただろうなぁ。」

たしかにここは杭とロープで囲まれているだけで他は何も対策をしていなかった。

「あれぇ、どうしたのー。」

声のする後ろを振り返ると酔っぱらった先生とそれを支える管理人さんがいた。

「あの、畑なんですけど動物に荒らされちゃったみたいで。」

愛理の言葉を聞くと先生が「ふんふん」とふらつきながら畑を見た。

「これは鹿だねー。まさかここに出るとは。」

「わかるんですか?」

「大体だけどね。それにほら、、、調べたら最近この辺で目撃情報あるし。」

先生が携帯で見せてくれると確かにこの辺で鹿が出たというニュースがあった。

「ううー、せっかく育てたのに。初めてだとうまくいかないなー。」

「ここまで先生も予測できなかったなぁ。今度対策もしよっか。」

「お金はいくらでもありますから!」

愛理が食い気味に言うと冷静になった先生が

「うんうん、でもそこまで物騒なものしなくてもこの辺は大丈夫だと思うよ。また先生が考えとくから。」

と言ってくれた。

「お願いしまーす。」

「責任もってしっかりしたの考えとくから。」

ひとまずみんな落ち着いたので散らかった畑の復元作業に入った。

「あー、かまくらができてる。」

先生が奥を指さすとそこにはそこそこの大きさのかまくらが三つできていた。

「こっちは無事なのかー。」

愛理がそう言って中に入り半球状の骨組みを抜いても自立していた。

「畑を見ながらご飯食べたりおしゃべりしようと思ってたのにー。」

それを聞いた先生が「うーん。そうだなー。」とぶつぶつ言いながら何かを考えていた。

「よしっ!また明日ここに集合ね。明日ならかまくらもまだ崩れないだろうし。」

「明日ですか?なぜに。」

「いいからいいから。」

「それじゃあ。」

とりあえず今日はここで作業は終わりなので加奈と愛理は帰っていった。

「由宇さん、麻衣さんちょっといいですかー。」

「はい?」

「今から学校行くんですけどついてきてくれないですか?」

「今からですか?いいですけど。」

麻衣もうなずいたのでとりあえずついていった。


 翌日荷物を持って畑に向かうと加奈や愛理に加え早霧ちゃんや凪ちゃんと他のクラスメイトや先生も何人か集まっていた。

「なんでこんなんに人いるの?」

「せっかくなので近場にいた人に声をかけてみました。こういう時はみんなで集まってワイワイするのが一番ですから。」

「おおー、先生みたいなこと言ってる。」

「先生ですから!」

「それよりこれは何使うんですか?一応持ってきましたけど。」

加奈が話をスルーして聞くと先生が「あっさり無視された。」と落ち込みながらも答えた。

「そちらは後で使いますので。とりあえず由宇さん、頼んだものは持って来てくれましたか?」

「はい。」

昨日先生に連れられて学校に向かうと大量の野菜や食材をもらった。

「明日あそこでパーティーをしましょう。なのでこれで何か作ってくれますか?鍋とかシンプルなもので大丈夫です。」

「はぁ。」

「君たちもショックでしょうが野菜を作る以上こういうトラブルはつきものです。動物の被害にあうのはもちろん、病気になったり自然災害にあうこともあります。しかしどんなに嘆いてもまた新たに位置から作っていくしかありませんからね。切り替えるためにぱーっとはしゃぎましょうか。」

さっきまで酔っぱらっていた先生とは思えないほど真剣な言葉につい「ほー」と聞き入ってしまった。

「しれなら先生が作ればいいんじゃない?」

と麻衣が聞くと先生はまた酔っ払いに戻って

「そんな料理スキルあったらとっくに結婚しているもん!」

と膨れて答えた。

「あー。」

「あー、っていうなよぉ。」

「絡み酒だ。とっとと行こうか麻衣。」

「置いてくなよー。」

 ということがあったので私たちで準備していた。学校から持ってきた大きな鍋を三つガスコンロの上に並べて作った料理を入れた。

「これは、、、おでんですか。」

先生がそう言うと、近くにいた別の先生が

「いや、それにしては色が黒いですね。これは静岡おでんですよ。」

と言った。

「そうです。私は静岡出身でちょうど具材もあったので作ってみました。」

「私初めて食べる。」

「私も。楽しみー。」

二人も料理に興味を持って来て、元気になってきたように見える。先生とうんうんとうなずきながら火にかけてあっためた。

 できあがったおでんを持ってかまくらの中に入った。

「思ったより広いね。」

「うん。座って過ごす分には十分すぎるよ。それに暖かいし。」

「それじゃあ、いただきまーす。」

おでんは熱いのでみんなはふはふ言いながら食べていた。

「おー、これはおいしいね。」

「この青のりとだし粉がいいね。」

みんなおいしそうに食べてくれたので嬉しくなった。加奈と愛理もすっかり元気になっておいしく食べてくれていた。

「これはお酒が合いそうですね、先生。」

「生徒がいますが休日なのでいいでしょう。」

と先生たちがすっかりくつろいでいた。

「それにしても黒はんぺんは思った以上においしいね。」

「私は白の方が好きだな。」

「先生は黒派になった。これはお酒に合う。」

「由宇的にはどうなの?」

加奈に聞かれたので

「それは黒一択だよ。白ははんぺんとは認めない。」

と答えるとみんなからブーブー言われた。

「そんなに?白もおいしいよー。」

「初めて白はんぺん食べたときびっくりしたよ。黒はんぺんの方が何倍もおいしのにみんなはこっちを食べているなんて。」

「たしかにちょっと癖はあるよなー。」

先生たちは完全にお酒のあてにしていた。

「そうですか?」

「うん。白はんぺんに比べるとね。」

みんながうなずいているのでそうなのかもしれない。そもそも私は白はんぺんは小さいころにちょっと食べただけなので正直いまいちどんなのか覚えていない。

「ちょっと焼いてわさび醤油でもおいしいですしフライとかすっごいおいしいですよ!」

「じゃあ今度作ってね。」

と麻衣が興味津々に言ってきた。

「先生も興味あるなー。お酒に合いそう。」

「今度静岡のおばあちゃんから届いたら先生にも上げますよ。」

というと先生たちが喜んでいた。

「そろそろ無くなってきたね。」

愛理が鍋をかき混ぜながら言うので、中を見ると知るだけ残ってほぼ具材はなくなっていた。

「じゃあここからみんなに持って来てもらった食材の出番ですよ。」

「あっ、なるほど。」

私と加奈は先生がしたいことを察した。麻衣や凪ちゃんは何のことやらという感じだった。

「せっかくみんなでおなべやってるんだから闇鍋だー。」

「うわー、なんかジェネレーションギャップを感じる。」

「ぐっ。」

愛理の一言は先生にクリティカルヒットのようだった。

「いや、でも私が学生に頃見てたアニメや漫画の学生ってみんなしてたし。」

「それって十年近く前の情報なんじゃ、、、」

「んん??」

「いや何でもないです。」

ついうっかり言葉にしてしまい先生ににらまれたのでおとなしく隅っこに隠れた。

「そうい訳で電気消して―。」

「先生が一番楽しんでるじゃん。」

明かりにしていたランタンの電気を消すと自分の手元が何とか見えるぐらいになった。

「うわー、暗いね。」

「意外と見えないもんだね。」

「あれ?俺の酒はどこだ?」

「それじゃあみんな入れて―。」

先生の合図とともにドボン、ちゃぽん、どぼどぼと音がした。

「明らかに液体が入る音がしたよ。」

「何か大きいものも入る音がしたね。」

みんながワイワイ盛り上がっている中一つの懸念事項を思い出した。

「ちょっと待って、愛理が何入れるか確認するの忘れた。」

「え?」

いくら闇鍋をするとは知らなかったとはいえ、ゲテモノ好きの愛理が普通の物を入れるとは思えない。

「ちょっと愛理、何入れたかを教えて。」

加奈が慌てて聞くと

「ふっふっふー、安心して。ちゃんと食べられるものだよ。」

と見えなくても悪い顔をしたのがわかる愛理が答えた。

「くっ、食べられるものなのは当たり前だ。問題はおいしいものなのかだ。」

「それは秘密だよー。ルールを守らなきゃ。」

仕方なくルール通りみんな鍋から具材を取り出した。

「それじゃあ、いただきます。」

「ふぐぅ。」

食べるとみんな変な声を上げた。

「これはするめ?」

「こっちはトマトだ。思ったよりおいしい。」

「これは、、これはなんだ?」

「そもそもスープの味が変わってない?なんの味だろう?」

「うーん。味噌汁じゃないかな。」

みんながわちゃわちゃしゃべっていた。

「それじゃあ電気つけようか。」

先生がそう言って明るくすると鍋の中身の正体が見えた。

「おおー。」

味噌汁が加えられたスープの中には豚足やら皮が剥かれていない野菜やらが入っていた。

「いやー楽しかったねー。」

「ありがとうね、先生。私たちのために。」

「いやいや、先生も責任感じてたから。みんな元気になったことだし片付けしようか。」

周りも暗くなってかなり冷えてきたのでそろそろお開きするにはいい時間だ。

「それじゃあ先生の頃よろしくねー。」

「よろしくー。」

「あっ、おうちにもって帰るなら容器貸しますよ。」

みんな先生にそう言ってかまくらからでて行った。

「うっそーー。」

かまくらから出ると中から大きな声がした。

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