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第3話「勇者の帰還(アンリエッタ視点)」

 ──アンリエッタ視点──




「まずは私がドラゴリオット帝国の第一帝位後継者になるところからね」

「できるとお思いですか? 姫さま」

「ええ。父は利にさといお方。私が戦後の国をまとめあげると言えば、利用しようとするはずよ」


 声をひそめて、アンリエッタはつぶやいた。

 ここは、ドラゴリオット帝国、その帝都にある宮廷。


 砦を出てから、すでに10日以上が経っている。

 勇者アンリエッタと神官クレアは船を乗り継ぎ、魔王討伐の復命に帰ってきたのだった。


「勇者にして、魔王討伐の功労者。第1王女アンリエッタ=ドラゴリオット殿下、ご入来!!」


 目の前の扉の向こうから、楽団が音楽を鳴らし始める。

 やがて、ゆっくりと扉が開き──


「ああ……あれは王立楽団。貴族の皆さまも……大臣もおります。懐かしいです。魔王の城に攻め込む前に一度戻ってきたはずですが……なんだか遠い昔のような気がします。やっと……やっと帰ってきましたね。姫さま!」

「カイルは元気かしら」

「ちょっと黙っててください。姫さま」


 楽団の音楽に合わせて、アンリエッタとクレアはゆっくりと歩き出す。

 アンリエッタが身にまとっているのは最強の『神聖なる鎧』。

 左手には『神鏡の盾』を持ち、聖剣を背負っている。


 謁見の前に入る前に、侍女たちが装備品の汚れを落としてしまった。

 汚れも傷も、カイルと一緒に戦った証なのに。

 泣きたい。


「我が娘アンリエッタよ。よくぞ使命を果たし、戻って来た」

 

 やがて玉座の前にたどりつき、アンリエッタとクレアは膝をついた。

 目の前にいるのは父皇帝と皇后──アンリエッタの義母だ。


「陛下のご威光と神の加護により、なんとか魔王を討ち果たすことが叶いました」

「うむうむ。さすが勇者だ。これでこの国も救われるであろう」


 そう言うと、父王は左右を見回して、


「ところで……カイル=バーゼルと、ミレイナ=ジーニアスの姿が見えぬようだが」

「ふたりとは、(たもと)を分かちました」

「なんと!?」

「魔王を討ち果たすまでは一緒だったのですが……方向性の違いで」

「なんということだ」


 玉座の間がざわめきはじめる。

 やがて、一人の大臣が声をあげた。


「いやいや陛下、アンリエッタ殿下と、大神官さまの娘であるクレアさまとは違い、他の2人は小国の民。魔王亡き今、彼らがここにいる理由はありませぬ」


 大臣は笑みを浮かべ、周囲を見回しながら、続ける。


「特にあのカイル=バーゼルは国王に引き取られただけの庶民。そんな下賤(げせん)の者を玉座の間に入れるなど、あり得ない話で──」

「はぁ!?」


 ぞくん、と、空気が震えた。

 玉座の間を満たしたのは、勇者アンリエッタの殺気。

 彼女の殺気に触れれば『ドラゴンさえも逃げ出す』と言われている。

 それを受けた皇帝、皇后、大臣、貴族、楽団は、全員まとめて震え出す。


「ひ、姫さま。姫さま、抑えて。抑えてください!」

「カイル=バーゼルは私と肩を並べて戦った英雄! 魔王討伐で私と同等以上の功績をあげた大人物です。その彼を愚弄(ぐろう)する者は、帝国に存在するべきではないと考えますが!?」

「い、いや。そうだ。まったくその通りだ!」


 国王が、ぱん、と手を叩いた。


「アンリエッタは正しい。衛兵よ。無礼な口を利いたものをつまみだせ!」


 腰を抜かさなかった兵士たちが、貴族の一人を連れて行く。

 玉座に深々と腰を降ろして──立ち上がれないことをごまかした皇帝は、アンリエッタを見て。


「そ、それで、アンリエッタよ。魔王討伐のほうびを与えよう」

「ありがとうございます。父上」

「なにか希望はあるか? 言ってみなさい」

「では私に──次期皇帝となり、魔王軍によって荒れ果てた国々と人々を救う権利を」


 透き通る声が、玉座の間に響き渡った。


「ドラゴリオット帝国が中心となり、大陸を新たな発展へと導くことを。そして、その中心的役割を私に果たすように命じていただけないでしょうか。それが、この私、アンリエッタ=ドラゴリオットの希望でございます。陛下」



次回、第4話は今日の夕方6時に更新する予定です。

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