表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

書き出し祭り参加作品

誰か、私にネタを下さい!!

作者: 三撫 浩司

第10回書き出し祭り参加作品

 あたしは追われていた。

 締め切りに。


「ああああっアイデアが浮かばない。ここからどうしたらいいのよ!」


 私の名前は太田葉子(ようこ)。17歳の高二。文芸部所属。

 一応、小説書きです。

 賞を取っても本を出してもないけど、ずっと書き続けてるし、アマチュアくらいは名乗ってもいいでしょ?

 後輩へのお手本(テンプレ)を部誌に投稿して欲しいと頼まれ、安易に引き受けちゃって。

 ゴールデンウィークなのに、執筆部屋(自室です)に絶賛引きこもり中。


『それで、有名小説の冒頭をパクった現実逃避ですか』

「こういうのはオマージュとかリスペクトって言うのです。

 そんな事より、この続きどうしたら良いと思う? ユウ」

『……主人公に未来の展開を聞くなんて、ずいぶんと斬新な執筆方法ですね』


 視野の端に映るAR-AI『ユウ』は、大げさに手を広げ呆れて見せる。

 長髪のストロベリーブロンドに魔導士風のローブを纏った少女の見た目は、友達のデザインです。

 どうせなら、身内に知られてるこの子を主人公にしようと考えたのですが。


「どうにも行き詰まっちゃって、悩んでるんですけど?」

 ボスとの対決直前まで書いたのに、最後の展開が浮かばなくって。

『産みの苦しみは、成長するために必要な事です』


 AR-AI管理デバイス(通称アーゲイト)は、見た目は首にはめたリングです。

 高いのになるとチョーカーみたいなお洒落なのもあるけど、高校生には手が届かない。

 これには初期設定として、あらかじめ汎用人格データがインストールされています。

 けど、そのまま使っている人は少ないと思う。

 ネットで公開されているAIデータを取り込めば、誰でも簡単にカスマイズできるし。

 よりこだわるなら、自分で学習させてくのもありです。


 私の場合は、自分の過去作品と好きなラノベを、ありったけ学習データに詰め込みました。

 その結果、出来上がったのが『ユウ』

 私が産み出したキャラの中で、一番頭は良いのだけど……。


「そんなつれない事言わないで。あなたの未来視能力で、こうぱぱーっと見えたりしない?」

『安易なカンニングには協力しない事にしています』

 ぜんぜん可愛げがない。


「もう! こんな融通の利かない堅物に育てたの誰よ」

『作者である、葉子さんです』

「何てことしてくれたのよ、過去の私!!」


 溜め息をついて、椅子の背にもたれかかる。

 本当は、進まない理由に自分でも気が付いてます。


『どうしました?』

「ユウって、有能(でき)すぎるんだよ。

 頭の回転が速くて、未来視の能力まで持ってるせいで、トラブルは事前に回避しちゃうし。

 面倒ごとに巻き込まれても、あっさり無難に解決。

 最初は目を引くけど、安定し過ぎて物語が盛り上がらない。

 せっかくボスを前にしても、ユウが苦戦する姿が浮かばないのです」

『はあ』

 さすがに返答に困っている。

 ほめてるんだか、責めてるんだか判断がつかないようです。


「この壁を越えるには、別の仲間が必要だと思うんだよ。

 世界観変えちゃうくらい型破りなタイプ。

 でも、考えても考えても、納得できないキャラばっかりで」


『……ならば、外部から刺激を受けるのはいかがでしょうか』

 少し考えて、ユウが回答を返してくる。

「取材に行くってこと?」

『はい。葉子さんが興味持ちそうな噂話をピックアップしておきました』

 この辺の手際の良さは、さすがAI。


 首に着けたアーゲイトに手を触れて、プライベートHUDからスクリーンモードに切り替える。

 周りの人からも見える大画面は、調べ物や説明をする時に便利です。


「型破り、破天荒、無茶と無謀が大好き……」

 呟きながら、画面をスクロール。

『何か、不穏な事を考えてませんか』

「あ、これ面白そう」

 ユウのツッコミは聞き流して、とある記事に注目する。


“嘘か真か。AR-AIが実体化?〟


 創作キャラが生身の人間になったのを見た、という話を友達から聞いた、らしい。

 正直、噂の信憑性は低いと思います。

 だけど、この記事に興味を持つような同類(なかま)に会えたら、役立つ話が聞けそう。


『承知しました。目的の湾岸地区までナビゲーションを設定します』

「うん。道案内は任せました」


 お気に入りのトートバッグを肩に掛け、久しぶりの外出。何か見つかるといいな。


        ◇        ◇


「「待ちやがれ!!」」

 後ろから追ってくるのは、いかにもチンピラ風な男2人。


 現在、迷路のようなコンテナ置き場で、身を隠す場所を探して逃げ回り中。

 捕まったら何されるか分からないのに待つわけないでしょ!



 10分前の私は平穏だった。

 取材に来たのに、全く人気がないのは期待外れだけど、埠頭の公園は緑が豊かで涼しかったし。

 風にまざる潮の香りに心が浮き立っていた。

 波の音を楽しみつつ、目的地のコンテナが積まれた倉庫エリアに入るまでは。


 誰かの話し声が聞こえて、やっと取材が出来ると近寄って。

 角を曲がって出くわしたのは、言い争う黒スーツの男達とガラの悪そうな集団。

 話が違うと食って掛かかる姿は、けっこう深刻な様子。


 何これ、ドラマの撮影現場?

 だったら、ぜひ資料にしないと。

 後先考えずにスマホを取り出したところで、男達が私に気が付いた。

 そうして、冒頭のシーンに至る。



「なんで、怪しげな取引現場、なんてお約束なシーンに出くわすのよ!」

『作家だからじゃないですか』

「いま、世の中の作家さんを敵に回したわよ、ユウ!」

 走りながらも、あんまりな運命を呪わずにいられない。


『警察には通報しておきました。頑張って逃げ切ってください』

 まずい。言われた側から、息が切れてきた。


 そもそも AR-AIが実体化したなんて話が本当なら、こんな時こそ助けにくるべきでしょ!

 ダメもとで、助けてくれそうなキャラの名を空に叫ぶ。


 スタン、と音を立て、誰かが私の前に降り立った。

 ほんとに願いが叶っ…………誰?

 そこにいたのはポニーテールの黒髪に紫のパーカーを着た女の子。

 背は高めで、ちょっと整った顔立ち。


「ボーっとしてないで、下がってろ」

 力強いハスキーボイスに、びくりとする。

 こんなキャラ知らないんですけど??


「てめえ何もんだ。大人しくそいつを渡しな」

 ぎゃあ、追い付かれてるし。


「こいつら、あんたの知り合い?」

 こちらを見る彼女に、ぶんぶんと音がしそうな勢いで首を横に振る。


「だ、そうだけど」

「うるせえ! ごちゃごちゃ言うなら、お前も叩きのめすぞ」

 どこからか取り出した木刀を構えて脅してくる。

 女の子相手に武器って、反則でしょ。


「少しは人の話を聞けっての。言っとくが、あたしは強いぞ」

「やかましい!」

 手に持った木刀を振りかざし、男達が襲い掛かった。


 危ない!

 肩口に振り下ろされる木刀を無視して、彼女は男の懐に踏み込んだ。

 武器を持つ手に手刀を叩き込むと同時に身を沈め、下からアゴを突き上げる。

 あっけにとられるもう一人の鳩尾に一撃を入れ、うずくまった後頭部に肘を落とす。

 一瞬で、チンピラ達は地面と仲良しになった。


 今、木刀が身体を突き抜けてなかった?!


「怖くないんですか」

「ちっぽけなナイフなんて、変に怖がる方が危ないだろ」

 なんか、会話がかみあってないです。

 見下ろすと、気絶しても握られたままの木刀と、地面に転がった()()()


 不自然な光景に、部屋で読んだ記事を思い出した。

 アーゲイトの違法改造品。

 他人のPHUDを乗っ取ってデータを送り付けるそれは、幻覚を見せるに等しい機能があるとか。

 危険すぎるので、所持するだけで重罪だそうです。


 でも、なんで平気なの。

 疑問とともに、彼女の襟元に視線を移す――この人、アーゲイト着けてない!

 いまどき珍しい。でも、お陰で助かったのも事実です。


「ありがとうございました」

「あたしは、鳴砂。

 何の用だか知らんが、当分ここには来ない方が――っ、離れろ!」

 鋭い声に思わず後ずさる。


 目の前で、気絶していたはずの男達がヨロヨロと立ち上がった。

 虚ろな眼のままジリジリと迫ってくる。

 空気が気持ち悪い。

 これが怖気(おぞけ)だつ感覚。怖いけど、小説のため絶対覚えとく!


「ターゲットはこいつらだったのかよ。しかも憑依済みって面倒な。どうするか」

 鳴砂さんが、ちらりとユウに目を向けた。

 見えてないはずなのに分かるの?


「そいつを借りるぜ、紫陽剣!」

 広げた手にユウの姿が吸い込まれていく。

 組み合わせた手の間から、紫色の刃をした剣が現れた。

 パチパチと放電音まで聞こえる。

 凄いARね、って違う! これ現実?!


「でやああああっ」

 気合とともに、二人に刃を叩きつける。

 惨劇に思わずつぶった目を恐る恐る開くと、男達はまた地面と抱き合っていた。

 血の跡は無い。

 ただ、さっきの異様な空気が無くなってる。


 目の前で剣がみるみる短くなり、柄ごと消えた。

 同時に、視野にユウが復活する。


「助かったぜ。中々の『想いの力』だな」

「か、かっこいい」

 私は震えていた。

 後になって、強い思念は魔を祓う助けになると教えてもらうんだけど、この時はそんなのどうでもよかった。


 お姉さまと呼びたい。

 じゃなくて、これこそ私が求めてた突破口です。

『葉子さん、よだれを拭いて下さい』

「ああん? 変な奴だな」


 これが、科学とオカルトを使いこなす現代の降魔師(ユニークなそざい)

 鳴砂紫乃さんとの出会いでした。


 リアリティあふれるファンタジーが書けそうです!

書きたかったのは、被造物の実体化でした。

その舞台として、AR-AI と言う現代に合わせた設定を捻り出したのですが。

これが思った以上に興味を持ってもらえたようです。


なので、ただのツールとして書いたつもりのアーゲイト(AR-Gate)が、

どんな形をしているのか、どんな風に機能するのか、に気を向かせてしまい

本筋を一気に読ませる構成になりませんでした。


このあたりは、一層の工夫が出来そうなポイントです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ