学校の怪談
幽霊はいるだろうか?俺はいると思う。
そしてそいつらは、人に危害を加える。
入ったら出られないトンネル、人を食べる家。
人に憑いて悪さをする霊、殺された人を悪霊に変える霊。
幽霊は恐ろしい存在だ。
だが、科学が発展しインターネットで情報が氾濫する中、霊は忘れられつつある。
それではいけない!
俺は幽霊研究会を立ち上げ、霊の恐ろしさをみんなに伝えるべく動き出した。
学生であることを考え、まずは学校の霊からかな。
・・
・・・・
【特集!ブラスバンド中学校の怪談!】
”みなさんは、学校にどんな霊がいるかご存知だろうか。”
”トイレの花子さん、襲い掛かるテケテケ、グラウンドを走る陸上部員の霊。”
”学校を徘徊する人体模型、水の中へ引きずり込むプールの霊。”
”霊は、恐ろしい存在である。”
”しかし、霊を信じない者もいる。”
”だからこそ、私は実際に霊の存在を検証してみることにした。”
”とはいえ、私が霊に殺されては元も子もない。”
”危険なことは避けられるよう、霊に詳しい生徒の協力を得て行うこととなった。”
”もし、私が殺されたらこの新聞は出ないだろう。”
・・
・・・・
私「今回、協力してくれるAさんと共に、霊の存在を実証します。」
私「Aさん、よろしくお願いします。」
A「こちらこそよろしくお願いします。」
A「今回は比較的安全なもの・・ということで、3つの怪談を用意しました。」
私「3つ・・非常に気になります!」
私「まずは何の霊でしょうか?」
A「十三階段です。」
私「というと、十二段しかない階段が、十三段あるという・・」
A「ええ、その通りです。」
私「うわさによると、十三段というのは、絞首台を上る階段の段数と聞きました。」
A「絞首・・つまりは首つりですね。」
A「十三段目まで行くと、首に縄がかかった状態になります。」
A「この状態からもう一歩前へ進むと・・突然床の感覚がなくなり首をつられてしまいます。」
私「恐ろしい・・死なずに済む方法はありますか?」
A「もちろんあります。十二段目に戻ってください。」
A「十三階段は、現実と霊の世界の境目が非常に近いので、戻るのが容易なのです。」
私「意外と簡単そうですね。」
A「言葉で聞けばそうでしょう。」
A「しかし、十三段目まで足を踏み入れた人は、恐怖のあまり冷静に考えることができなくなるのです。」
私「なるほど。」
A「今回は私がいるので安心してください。」
A「取材、成功するといいですね。」
私「ありがとうございます。」
私「では早速十三階段へ行ってみましょう!」
・・
・・・・
私「うわさの階段へ来ましたが・・昼間でもいいのでしょうか?」
A「絞首刑は夜には行われません。」
A「そして刑の執行は囚人と刑務官が必要です。」
私「昼間に起こるなら、普段からもっと人が亡くなりそうですが・・」
A「刑務官に相当する人は、そうそういませんので。」
私「刑務官の条件はなんですか?」
A「刑の執行に詳しいこと。」
A「囚人の罪状を知っていること。」
A「刑務官だと自覚していること、ですね。」
私「ああ、それだと日常では中々起こりえませんね。」
A「十三階段は、刑務官がすべてを見届けることになります。」
A「このうわさが語り継がれるのは、そういう理由からです。」
私「なるほど、十三階段で亡くなれば、本来なら他の人へ伝えることはできませんよね。」
私「必ず見届け人がいるということですか。」
A「はい、今回は私が刑務官を担当しましょう。」
A「逆でも構いませんが、刑の執行に詳しいですか?」
私「まぁ、私は詳しくないですね・・わかりました。」
俺は、階段を一歩、また一歩と足を進めた。
十・・十一・・十二・・あれ?
もう一段ある!
私「Aさん!じゅ、十三段目があります!」
A「では、十三段目まで上ってみましょう。そこが霊の世界です。」
霊の世界・・そこは、どの様な世界なのだろうか?
俺は・・足を前に進めた。
・・特に、おかしな感じはない。
私「Aさん、十三段目までのぼ・・」
後ろを振り向こうとして違和感に気付いた。
首に・・見えないなにかがかかっていた。
それはまるで・・ロープのような・・
危険を察知した俺は、十二段目に戻ろうとした。
しかし・・足が動かない。
俺は後ろを振り向き、Aさんに助けを求めた。
A「・・戻れませんよ。罪人はね・・」
私「ちょ、冗談でしょう?」
A「囚人の罪状を読み上げる。」
A「我ら学校の幽霊は、ただただ大人しく存在していた。」
A「あなたの学校で、本当に霊によって殺された子供はいるか?」
A「それなのに、我ら学校の霊を悪霊呼ばわりし、傷つけた。」
A「これは罪である。」
私「ま、待ってください!そんなことで殺すんですか!?」
A「お前たち人間と同じだ・・悪人のみ殺す。」
あ、足が・・勝手に前へ進む・・
A「我らがどれだけ傷ついたか・・」
止まれ、俺の足よ止まってくれ!
A「よって、あなたを・・」
もうだめだ!!!
十四段目の感覚はなく、俺は気を失った。
A「脅かしの刑に処する。」
・・
・・・・
目を覚ますと、Aさんが俺の頬をぺちぺち叩いていた。
A「ああよかった!突然気絶したから驚いたんですよ!!」
え?
あれは・・夢?
A「もしかして、霊に会ったのですか?」
霊?・・そうかもしれない。
だけど俺は死んでいない。
あれは・・霊の悲痛な叫びだったのかも。
私「俺・・もしかしたら霊を誤解していたかもしれません。」
私「危険な存在だと決めつけ、傷つけていたのかも。」
私「この企画は間違いでした。」
私「最初から結論ありきで考えていたのが恥ずかしいです。」
A「・・きっと霊たちもそれを聞いて喜んでいるでしょう。」
A「ただ、あなたの企画は間違っていないと思います。」
A「そのおかげで何が正しいか知ることができたのですから。」
私「Aさん・・そう言ってもらえると救われた気持ちになります。」
A「では続きをしましょうか。他にも新たな発見があるかもしれませんよ。」
私「そうですね。」
霊の新しい一面をみんなに伝えよう!
私「2つ目の怪談はなんですか?」
A「テケテケです。」
私「悪霊やんけ。」
右手に鎌、左手に大ばさみを持って襲ってくる下半身のない霊。
宙を舞い時速100キロ以上の速さで追いかけて来る。
逃げられない・・と思いきや、伏せていればそのまま通り過ぎてくれる。
A「テケテケは、人々が大きな誤解を抱いている霊です。」
私「誤解?」
A「テケテケの人物像はいくつもあります。」
A「女性だったり、坊主頭だったり、凶器を持っていたりいなかったり。」
A「また、飛ぶ場合もあれば腕の力ではってくるパターンも語られています。」
そういえば・・確かに。
A「それはなぜか?」
A「テケテケは、人々のイメージで姿形、行動が決まるんです。」
A「色んな人が色んなイメージをするから、色々なテケテケが存在するのです。」
みんなの考えで姿も行動も変わるのか・・
A「しかし共通部分はあります・・下半身がないことです。」
A「この学校にもいるんですよ。」
A「さあ行きましょう・・美術室へ。」
私「はい!・・美術室?」
・・
・・・・
A「これが、この学校のテケテケです!」
私「・・どう見ても石膏像なんですが。」
A「下半身はないでしょう?」
私「まぁ・・いわゆる胸像(胸像)というやつですね。」
胸より上の部分だけの像。
私「下半身はないけど・・違う怪談になりそう。」
というか、手すらない。
A「紹介する怪談は危険を避けるという条件でしたから・・どうですか?」
私「・・記事にしにくいです。」
A「ひとつくらいこういうのが混ざっていてもいいと思いませんか?」
A「お笑い枠です。」
この流れだと、最後も不安なんですが。
お笑い枠よりオチ枠がほしい。
テケテケ「オチ枠やります。」
A「では、最後の場所へ行きましょう。」
A「・・少々危険と隣り合わせですけどね。」
A「旧校舎です。」
私「っ・・」
俺は、唾を飲み込んだ。
どんな霊が出てくるのだろうか。
・・
・・・・
この学校の旧校舎は、戦前に建てられた由緒ある建物だ。
それだけに、霊のうわさも多い。
有名なのが、軍人さんの霊。
戦時中、疎開で生徒が少なくなり、一部の学校が閉鎖された。
この学校も同様だったが、代わりに軍の研究に使われていたそうだ。
しかし・・研究中に爆発事故が起こり、大勢の軍人さんが亡くなったとか・・
多くの旧校舎が取り壊される中、この学校の旧校舎は今でも残ったままだ。
明るみにできない事実がここに眠っているからだ・・なんてうわさも・・
A「旧校舎のうわさを知っていますか?」
私「戦時中の軍人さんの霊ですね。」
A「そのうわさは囮です。」
A「ここには、”K”と呼ばれる霊がいるんです。」
私「K?」
A「なにかの頭文字らしいのですが・・ここは、Kを封印しているんですよ。」
軍人さんのうわさは、Kを隠すためのもの・・?
A「Kは戦後に生まれた比較的新しい霊です。」
A「Kの生前・・なぜかKの周りで立て続けに殺人が起こっていました。」
A「状況は常にKが怪しい、しかし・・いくら調べても証拠は出ませんでした。」
A「何度も取り調べられ、周囲に偏見の目で見られ、耐えられなくなったKは母校で自殺しました。」
犯人だったの?
A「わからないままです。」
A「Kが犯人だという証拠も、他に犯人らしい人もいないまま・・」
A「その後、Kの亡くなった教室に入った人が、立て続けに亡くなる事態が起きました。」
A「全員ではありませんが、無視できない人数が不審な死を遂げたのです。」
私「Kの呪い?」
A「どうでしょう・・生前と同じ・・常にKが怪しくも、決め手がないのです。」
A「事態を重く見た学校関係者は、Kの現れる教室を使用不可にして・・事なきを得ました。」
私「あの、ガチでやばい霊じゃないですか?犯人かはともかくとして。」
A「その教室は鍵がかかってて入れません。入らなければ危険はありませんよ。」
A「そういう意味で安全なんです。事実、それから不審死は起きていません。」
じゃあやっぱりKが犯人だったんじゃ・・でも、怪しいだけで犯人と決めつけていいものじゃない。
A「ここを曲がったすぐの教室・・あ、開いてる!」
私「ええ!?」
Aさんの目線の先・・確かにドアは開いていた。
男「おんや、ここの生徒かい?」
私「はい。あ、あなたは?」
男「旧校舎のメンテをしてほしいって雇われたもんだけど。」
男「旧校舎は使ってねーんだろ?どしてこんなとこ来たんだ?」
私「が、学校の怪談を調べていまして・・」
男「おんやー、オレの若い頃もあったよ学校の怪談。」
男「七不思議とか、トイレの花子さんとか。懐かしいなあ。」
男「あーそっかー。旧校舎ならそういうのあるだろうなあ。」
男「この教室もなんかあんのか?」
私「は、はい・・入った人が亡くなるという・・」
男「ははは、じゃあオレが死ぬんか。」
私「あ、いえ、必ずそういうわけでは・・すみません。」
男「いいっていいって。別に信じちゃいねーからさ。」
男「はー、それで鍵がかかってたのか。」
私「鍵、持ってたんですか?」
男「まっさか。先生方も持ってないからってことで、壊して入ったんだ。」
男「ちゃんと調べなきゃメンテできねーからさあ。」
まぁ、そうですね。
男「さ、もう帰った帰った。仕事の邪魔だよ。」
私「は、はい。失礼します。」
俺とAさんは、旧校舎から出た。
そのまま今日はお開きになった。
・・
・・・・
次の日・・俺たちが旧校舎で会った男の人が亡くなったというニュースが流れた。
そして、その男の家には・・子供が監禁されていたと。
”K”は確かにいた。
封印が解かれて早々に人を殺したのだ。
俺は昨日の出来事を記事にまとめた・・が、果たして公開していいのか?
この記事を見て旧校舎へ行く生徒が現れたら・・
先生に事情を話すと、別に構わないと快諾してくれた。
・・・・が、すぐに公開を待ってほしいと言われた。
旧校舎の見回りをした先生が、Kのいる教室前の廊下で血文字を見つけたからだ。
”私は犯人ではない”
再び、Kのいる教室は封印された。
新しい鍵を取り付け、出入りできなくなった。
旧校舎の怪談は公開しないよう教頭先生に言われた。
俺は記事を修正しながら、教頭先生から聞いた話を思い出していた。
―――――
教頭先生「”K”は、私が子供の頃に実在した人物です。」
教頭先生「まだあそこにいたのですね・・」
教頭先生「当時の先生方は、こう呼んでいました。」
教頭先生「KEEP IN THE DARK.」
教頭先生「闇の中に隠す・・秘密という意味です。」
教頭先生「もしかしたら、当時の大人は何か知っていたかも・・が、今となっては・・」
―――――
記事の修正が終わった。
俺は椅子の背もたれに体を預けながら、心残りを感じていた。
当時の未解決事件。
その真実がわかればKは成仏するだろうか?
だが、もはや時が経ち過ぎた。
・・
・・・・
記事の評判はまあまあだった。
怪談の数が少ないことを考えれば、上々の結果だろう。
幽霊研究会に入りたいという生徒も現れた。
すべて順調・・なのだが・・
・・・・Aという生徒はこの学校にいなかった。
旧校舎のKについて記事が書けないことを伝えようとして、わかったことだった。
あの日、俺は最初から霊たちの世界に迷い込んでいたのかもしれない。
・・
・・・・
俺は今、美術の授業を受けている。
いやさ、テケテケの記事は書いたよ。
みんなのイメージがテケテケの姿や行動に影響を与えるって書いたよ。
だからってさぁ・・
美術室にいたテケテケは、イケメンになっていた。
どことなく、アニメの人気キャラに似ている気がする。
テケテケ「見事なオチ要員。」
お前のせいでシリアスかコメディーかわからなくなったよ。
まったく、霊とは恐ろしいものである。
END.