3−17.鋼の勇者さん、問い詰める
アーロはこれまでに何体ものイヴレインの眷族を殺してきた。
「奴等はどこにでもいる。少しずつ自分たちの勢力を強化している」
それはアーロの偽らざる体感だろう。
「オレは奴等を駆逐するために各地を回っている」
アーロの噂は通信技術もないこの世界でも広く知られていた。
一神教の勇者でもないのに有名なのは、本当に各地を回っているためなのだろう。
「すると、この辺りにも眷族が?」
そして、ここに来る理由もその眷族とやらがいたからに違いない。
「あぁ。些細な噂話だが、確認する必要があったからな」
アーロは明言しないが、疑わしき情報があるという態度。
「それはどんな噂でござるか?」
ツワブキが質問を重ねると、アーロの視線がツワブキを射抜く。
「最近急に力をつけた魔物の話だよ」
雰囲気が変わる。
急に威圧感が増す。
「正体不明で多彩なギフトを使う魔王」
アーロが言及するモンスター。
「名前をアーデカルシャ・グリムレクス」
それはカルシャの事だった。
ツワブキを見据えたまま、アーロは犬歯を見せて笑いの表情を作った。
「一神教とも対峙したって噂だが…」
だが、そこには生易しい感情はなく、烈火が燃え盛るがごとき威圧だけが肌を刺す。
「さぞかし強力な魔王なんだろう?」
それはまるで、カルシャがイヴレインの力を授かっていると決めつけるような物言いだった。
発言、言葉ひとつが致命的な状況。
そんな中でも、ツワブキは飄々としていた。
「何を言っているか、小生にはわからぬでござるが…」
本当に何も知らないかのように首をかしげる。
よくもそこまで平然としていられるものだ。
「しらばっくれても無駄だ」
アーロの方もわかりきっているとばかりに否定する。
「何か勘違いしているようだけど、僕らは単に依頼で森に入った傭兵だよ?」
レイジの方も平然と答える。
普通の人間相手であれば、これでやり過ごす事も出来ただろう。
「あくまでも白を切るか」
しかし、アーロには確信があった。
「白を切るも何もーーー」
言葉を遮り、アーロは一つ低い声で告げる。
「少し前に、ケラスの街で暴動があった」
ケラスの暴動。
それは一神教が発表した偽りの事実であり、実際はカルシャたちとの交戦を指す。
「街に入り込んだ魔物、殺された一神教の関係者、消された目撃者が数名に、中心部の一神教施設の破壊」
よく調べている。
目撃者まで聴き込んだか、情報屋を頼ったか。
ともかくアーロはケラスでの一件をよく知っていた。
極めつけは懐から出てきた紙切れだ。
「手配書が回っているのを知っているか?」
ウェアウルフの幼女が描かれたもの。
二人の転生者が描かれたもの。
魔獣の描かれたもの。
間違いなくカルシャとその臣下レイジとエイリ、ケイオスビーストたちであり、レイジに関していえば、それとなく特徴を捉えている。
「このレソルガ樹海にはウェアウルフの集落があるらしいな」
まるでそこにカルシャが居を構えている事を知っているかの様。
例えこのままアーロをやり過ごせても、この男はいずれグリムソルガにたどり着く。
そう思わせる言葉の重さがあった。
「ーーーそこまで掴んでいるのであれば、隠しても仕方無いでござるな」
故に、ツワブキは肩を竦めた。
「ツワブキ」
「どうせ小生らではこの御仁には敵わないでござる」
「…………」
狩られるか、対話か。
選択肢は無いも同然かもしれない。
力があればまた違ったのだろうが、無いものを願っても変わりはしない。
「なに、カルシャ殿を裏切る訳ではない」
仕方無い、か。
ここはツワブキに任せよう。
「この際正直に明かすが、小生らは魔王アーデカルシャの臣下」
アーロは小さく鼻で笑った。
ツワブキは気にせずに続ける。
「小生からの要望は一つ。我が魔王と敵対めされるな」
魔王イヴレインとやらに心当たりはなく、カルシャが関わりを持っているとも思えない。
アーロとは敵対する理由はない。
「ーーーーー」
アーロは沈黙し、それからもう一度形だけの笑みを作った。
「それで?オレにメリットはあるか?」
疑わしきは滅ぼす。
勇者の表情は、それをはっきりと語っていた。
今現在、それを示す方法はない。
恐らく、カルシャ本人にもないだろう。
「正直、イヴレインなる魔王にはとんと心当たりはない。
ただし、解った事があれば情報提供はいたそう」
だから、今アーロに示せる条件はこれだけだ。
納得してくれなければ打つ手がないが、果たして。
アーロは少し考えこみ、それから再び問いかける。
「一つ聞くが、魔王アーデカルシャの目的はなんだ?何故一神教と敵対した?」
アーロにとって、そこだけが疑問だったのかもしれない。
新興の魔王がわざわざ危険を犯す理由を問いかける。
「臣下を殺された報復でござるよ」
だが、カルシャは意外と単純だ。
アーロが考えているような大層な理由などない。
「ーーーーーー」
「ここで早急に答えを出さずとも、我らが魔王と話してからでも遅くはあるまい」
結果として、アーロはこの場での結論付けを諦めた。
「…良いだろう。お前たちの主と会ってから答えを決めよう」
後書きウサギ小話
寡黙なる男?編
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「あのー、黙りこくられると話が進まないんでござるが・・・」
「お、スマン、考えごとをしていた」
マイペース!
完!




