3−10.復讐聖女さま、魔王の都市にあらわる
それは新たなケイオスビーストを3体ほど作成し終えた頃の事であった。
カルシャがケイオスビースト候補を選定し終えていたツワブキに対してやや悪態をつきつつ栄誉補給をしていると、御所に伝令が飛び込んできたのだ。
「カルシャ様!広場に敵です!エリス様、エイリ様では歯が立ちません!」
伝令とともに広場に出れば、そこには敵に手玉に取られるエリスとエイリの姿があった。
敵はカルシャの姿を認めると、軽く二人をぶっ飛ばし、前に出るカルシャと対峙する。
「こないだぶりね、魔王様。復讐に来てあげたわよ」
聖女にして復讐者、ライナ・クロムウェル。
カルシャを滅ぼすための不死種として蘇った者。
僅かに狂気を感じる笑いを以て、侵入者ライナはカルシャを見据えた。
「別に再会なんて望んでないんだけど」
挑発に身構えるカルシャ。
槍を握り、いつでも改造変身を行えるように気を張る。
聖女の強さは未知数であり、どれだけ警戒してもしたりないくらいだ。
なんせ、コイツはケラスの街でエスト司祭と戦っているのだ。
新たに魔術を習得していると言われても正直違和感はない。
だが、聖女はカルシャの態度に反して、構えを解いた。
「残念ながら、今日は復讐目的じゃないのよ」
はぁ?
何言ってんの?
構えを解かず、カルシャは続きを促す。
「今日此処に来たのは、別に用があるのよ」
無駄にカッコつけやがって。
「じゃあ何しに来たってのよ、ド腐れ聖女さん?」
おっと、ついつい心内が言葉に出ちまったぜ。
その瞬間、ライナの額の血管がピクリとした。
「人が下手に出てるってのに調子に乗るなよ、魔物風情が」
人をただの魔物扱いとは恐れ入る。
それ、挑発だよな?
「あぁん?」
「やんのか、コラ」
「あ?かかってこいよ?」
一歩ずつ詰め寄るカルシャとライナ。
一触即発かと思いきや、間にツワブキが割り込んだ。
「止めるでござる。今日は戦いに来たのでは無いのでござろう?」
互いに舌打ちをする。
「…コイツに免じて引いてやる」
「…ここじゃなんだから、御所に来なさいよ」
*
御所。
「で、なんで此処に来た訳?」
いつものメンバーに加えて、末席にライナ。
カルシャとちょうど対面する形である。
ライナはしばし言葉を選ぶと、こう答えた。
「端的に言うと、一神教をぶっ潰すためって事になるわね」
「はぁ?」
意味が解らない。
一神教を潰すなら、他にもっと選ぶべき共闘相手はいるだろうに。
何故よりによって私なんだ。
だが、カルシャのそんな想いは、次の一言で興味に置き換わる。
「貴女、魔術師アデルカの遺産、って気にならない?」
目の色が変わったカルシャを見て満足したライナは、ニヤリとしてから話し出す。
「順を追って話すわ」
そりゃあそうだろう。
こっちとしては、ライナは一応死んだものとして認識していたのだから。
「以前、貴女と戦った後の事から話すわ」
鉄砲水に流された後の話だ。
「貴女も気付いてるとは思うけど、私の身体は死んで、今では不死種になっている」
レソルガ樹海でほとんど相打ちになったあと、ライナは鉄砲水に流されて、死んだと思われていた。
だが、実際には、ライナは何処とも知れぬ牢獄で目を覚ましたのだという。
鎖で巻かれ、吊るされての目覚めだった。
で、ここが核心。
聖女ライナは以前、謎の神アトロポスなるものによって上位者化しており、今回はさらに不死種として改造されて目覚めたらしい。
…色々と情報が盛りだくさんである。
…ちょっと待って。
こめかみを押さえる。
少し整理しようか。
まずライナは上位者で不死種。
それは事実として解っているが、それを与えたのがアトロポス。
つまり、一神教の神として扱われている存在だって?
上位者化と不死種化を行うと言う事は、アトロポスは妖精女王の系譜であり、改造を行えるという事。
妖精女王が異形の上位者として覚醒した存在って事?
…うん、ややこしいな。
「アトロポスの正体については、私もよく知らない」
聞けば、アトロポスはライナに正体を明かした後、最低限の世話をしたらいつの間にか居なくなっていたらしい。
その時に、不死種については教わったらしいが、余分な情報…特に自身については全く語らなかったそうだ。
…なんというか、隠遁した魔王みたいな奴だな。
存在を隠していたいのか?
一神教の神様が?
しかも、一神教によって生み出された聖女を一神教の敵に仕立てておきながら、今更一神教の邪魔をするなとは矛盾した事を言う。
正体不明だというのなら、アトロポスという名乗りも信じない方が無難かもしれない。
「アトロポスの正体は真偽不明だし、探っても仕方ないわ」
ライナもそこは同意見らしい。
それに重要な部分はそこじゃない。
「重要なのは、私が目覚めた場所が、聖都の地下深くだったって所。一神教の破棄された地下倉庫だったって事なの」
アトロポスに復活させられ、場所は聖都。
意味深ではある。
そこには焚書を免れた数多の書物があり、今では一神教の司祭ですら知らないような知識も保管されていたらしい。
「私はそこで色々と読み漁って、魔術についての概要を知った。魔術師アデルカ・クロトについてもね」
その知識はアデルカを称える英雄譚であり、アデルカの所業がまとめられた史書であり、アデルカの魔術を僅かながら紐解いた解析書が元となっている。
それは技術を学ぶには不完全ではあるが、魔術師アデルカが実在し、魔術を扱っていた証左としては十分なものだった。
「私は不死種になった事で、魔力の流れが多少見えるようになった。英雄創造魔術についても知っていたし、書物によって、魔術については存在の確証を得た」
アデルカの遺産とやらにも、そこで触れたのだろう。
ライナはそこで情報を漁った後、迷宮のような旧聖都を彷徨い、どうにかして地上に這い出た。
「その後は色々あってエストと戦った。ホントは貴女を探してただけなんだけど、貴女が逃げたからここまで来たって訳」
ケラスでのエストとの一戦の事か。
あの時、知っている気配を辿ったら、そこでカルシャとエストが戦っていたのだという。
「貴女に共闘を持ちかける理由は単純よ。一神教とまともに戦える魔王が貴女くらいしか居ないから」
情報を消して隠遁している魔王は除外するとして、現存する魔王は数えるほどしかいない。
それらは名前持ちで賞金首として扱われているモンスターの中に名前があり、常に一神教のハンターに狙われている。
カルシャのように上位者ギフトを集める事もままならず、少ない臣下とともに逃げ回っているような状況らしい。
では、魔王がダメなら勇者はどうかと言うと、それも難しい。
「勇者連中は一神教の手駒ばかりだし、そうじゃない勇者もいるけど、到底交渉できる相手じゃない」
話すらできない奴って何なの。
仮にも勇者でしょ?
「貴女はウザいけど話はできる」
…まぁ、襲われなければな。
「それに、貴女にもメリットが大きいでしょう?」
後書きウサギ小話
探知機・・・?編
「ねぇ駄犬」
「なんすか狂犬」
「不死種になればお姉さまの気配辿れるの?」
「少なくとも僕にはムリっすね。匂いは辿れるけど」
「じゃあなんで気配なんて辿れるのよ」
「さあ?気合とか執着心じゃないっすか?」
「・・・つまり、愛?」
「・・・いや、違うと思うっす」
「そこ、煩いわよ!」
謎のダウジングマシーン!
完!




