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3−9.底辺転生者さん、問答する

「では、ジラム様。今後はこの部屋を自室としてお使い下さい」


都市内を案内された後、ジラムは居住区の一室を自室に充てられた。


魔王の都市という割には、他の人間の都市とさほど変わらないのは驚きだ。


もちろん造形や建築の仕方は違うのだが、住民の雰囲気や表情が似ている。


特に、奴隷証をつけている者が普通に生活しているのには驚いた。


例えば、目の前にいる案内役とかな。


「ありがとう。ニーフェさん、だっけ?」


奴隷証をつけてはいるが、都市内ではけっこう重要なポジションにいるらしい。


「申し遅れましたね。ニーフェ・ラムナムと申します」


奴隷だが、健康そうで不自由を強いられている訳ではない。


案内役している間の様子を見ても、至って普通だった。


「現地人、だよな?」


会話から判断するに、転生者ではなさそうだが。


「元々の出身はアルノーです。ここに来る前はケラスの街で孤児院を経営しておりましたが、故あって今はカルシャ様の奴隷兼都市建築管理をさせて頂いております」


ケラスの街?


だとすれば、孤児院は一つしかない。


「ケラスの孤児院…ひょっとしてアーラ孤児院か?少し前に院長が死んで潰れた?」


アーラ孤児院といえば、経営難から院長が自殺したとかで潰れたと言われている孤児院だが。


ジラムの問いに、ニーフェは頷いた。


「私はアーラ・ラムナム院長の義娘でした」


関係者どころか当事者だったか。


悪い事を聞いたな。


「前を通りがかる事が多かったからよく覚えてるよ。雰囲気の良い孤児院だったのにな」


互助会の近くだったから、子供の声がよく聞こえていた。


ある日、気付いたら声が止んでいて、潰れたことを知ったが、ニーフェは子供たち共々借金整理で売られたんだろうな。


その後奴隷市場に流れて魔王の元に、か。


転生者でもないのに、災難な人生だな。


「義父は騙されて殺されました」


「…それは災難だったな」


転生者として底辺のジラムから見ても、不幸な人生だった。


居場所を失い奴隷落ちか。


院長はドミナスの商人に騙されたか何かだろうな。


人の良さそうな院長だったからな。


だが、その割にはニーフェの表情は晴れている。


「もっとも、義父を騙した商人は、すでに報いを受けました」


なんとなく、魔王が関与している事は察した。


「…あの魔王か。酔狂なもんだな」


それはどうやら正しいらしい。


「今にして思えば、単に奴隷を買い叩くついでだったのでしょう。けれど、私にはそれで十分でした」


おおかた脅したかなにかで二束三文で買い取ったのだろう。


その様子を見たニーフェは何か感じるものがあったらしい。


「吹っ切れた、というか、大きなモノをみて畏怖する感覚と言いましょうか」


ジラム自身、命の危機を感じて降伏したようなものだが、ニーフェの言うことも理解できなくはない。


あまりにも強すぎる相手の力を見たら、それが畏怖になるのは正常な反応だろう。


「カルシャ様に必要とされるのなら、私にはそれだけで意味がある、と思えるのです」


だが、ニーフェのそれは少し度が過ぎているように見える。


「…もはや崇拝だな」


転生者で傭兵だったために色々と見聞きしたジラムと、孤児院しか見てこなかったニーフェ。


同じものを見ても、考え方に対する影響力はかなり差がある。


立場的に助けられた側と脅された側という違いもあるしな。


「?」


「いや、なんでもない」


それを指摘しても仕方ないだろう。


わざわざ平穏を乱すことも無い。


そんな事を考えていると、ニーフェに問いかけられる。


「貴方はどうなのですか?」


「俺か?」


ニーフェはジラムについてこう言及した。


「転生者ではあるものの、生産系ギフトで、底辺の傭兵暮らし」


転生者としてのジラムは、簡単に言ってしまえばハズレだ。


転生者に求められる戦闘能力は高くなく、ギフトも戦闘に利するものでなく、傭兵として目立てる隠密などの技能もない。


「そこから一転、魔王に拾われてチャンスかもしれない」


カルシャが何を見出して拾い上げたのかは謎だが、少なくとも改造や妖精のギフト贈与を受けられる可能性のある状況。


客観的にみて、ジラムにとってこれは変化するためには良い機会なのだ。


「カルシャ様に忠誠するかはさておき、自身に真に意味が生まれる。そんな気がしませんか?」


そういう機会に対して、貴方はどういう選択をするのですか?


ニーフェは、ジラムに対して現状か変化か。


変化をするとすれば、どのような変化を望むのか。


そんな問いを投げかけていた。


変化、か。


ジラムには、答えなど無かった。


「…さてな」


転生者になどならなくて良かった。


死ぬのが怖くて生きていただけの奴に、二度目の人生など皮肉でしかない。


「俺は自分に希望なんてもっちゃいない」


故に、ジラムには希望も絶望もなく、あるのは漫然とした死への恐怖だけ。


変化を厭い、無事で居られればそれで良い。


改造もギフトも、何ら求めてなど居ないのだ。


「そのうち、きっと解りますよ」


だから、ニーフェの言葉に、ジラムは曖昧にしか返事を返せなかった。


「カルシャ様は貴方に何かを見出した。だから殺さなかった」


「…俺には気まぐれに見えたがね」


カルシャがジラムに見出した生き汚さ。


それがどのような結末になるのかは、まだ誰も知らない。



後書きウサギ小話

とあるウサギとオオカミの雑談



「あの男には、何を期待しているのです?」


「何も?」


「気まぐれに拾い上げた、という事ですか?」


「アレは生き汚いのよ、私と同じでね」


「化ける、とお考えで?」


「さあね。似ているから拾った。あとはギフトがちょっと面白そうだわ」


「気まぐれ、ですね」


「遊びが全く無いんじゃつまらないでしょ?魔王たる者、余裕を持たないとね」

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