表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/143

2−38.悪夢の魔王さま、暴走勇者と戦う

カルシャの言葉に、特別支勇司祭エストは嘲った。


「後は私だけだと?」


嘲りの意図に、押し殺したような笑い。


「本当にそう思うか?」


ゆらり。


視界の端に立ち上がる者。


腕の裂けた新米勇者である。


「まだ終わってない!」


だが、うっとおしいのは要らない。


「ーーー《業火の射手(ブラストアーチ)》」


手のひらだけを向けて焔を放つ。


弱者に語る資格はないのだ。


そんな事よりも不敵に笑う司祭の方から目を離す方が危ない。


そう考えた時には、司祭の仕込みは終わった後だった。


「それで終わったと思うか?」


司祭の言葉より早く、業火の渦から拳が飛び出してカルシャを殴りつけたのだ。


「!?」


「お姉様!?」


重い!


驚愕と共にミスリルが悲鳴をあげる。


壁まで吹き飛ばされ、背中に衝撃。


肺の空気が押し出され、息が止まる。


なんだ?


混乱するカルシャが見たのは、焔を背にして飛びかかる新米勇者。


その瞳に理性はなく、エストは相変わらず嘲っていた。


「あああああああぁァァ!!!」


意味の無い絶叫。


殴る、殴る。


勢い余って壁まで殴って穴が開く。


槍を掲げてなんとかガードするが、背中側の壁に阻まれて逃げる事も出来ない。


ケイオスビーストが勇者を掴みにかかり、ようやく壁際から開放されるが、勇者はビーストたちさえ振り払う。


燃える瞳が、一直線にカルシャを捉えていた。


あ、ヤバイな。


「ーーーー《烈覇獣王拳(レッパジュウオウケン)》ンン!!」


下位ギフトだ。


しかし、威力がバカ高い。


バーサーカーかよ!


「ーー《生命の泉(リジェネレイト)》」


最初に衝撃と焔でボロボロだった建物の壁が。


次にガードを固めた両腕が。


最後に攻撃にさらされた両足が。


耐えられずに身体は宙を舞い、中庭まで吹き飛ばされる。


咄嗟に再生回復ギフトを開けていなければ、大怪我で動けなかった所だった。


ダメージは大きい。


だが、まだ動ける。


さて、ここからどうしたものか。


荒い息を落ち着けながら、カルシャは槍を構え直した。


耐えかねて倒壊する迎賓館から、まずはエイリたちが飛び出して、次に勇者とエスト司祭が歩いて出てくる。


「カルシャお姉様、大丈夫?」


「傷は浅いわ。それより敵を見なさい」


余裕ぶっこいてんじゃないわよ、勇者とお付きのクセに。


低木、生垣の拡がる庭園にて、星明りが敵味方を照らす。


陰気司祭は未だに形だけの笑いを作ったままだ。


「いでよ、模造聖遺骸・試作(ドール=ドミニオン)


そりゃそうだろう。


こんな隠し玉まで出してくるのだから。


「まーた厄介そうな奴ねぇ…」


庭園のレンガが割れる。


地中から突如として現れるのは、石でできた翼人。


一神教の経典にも登場する、神に愛された者。


翼を授けられし聖人、その石像が動いているのである。


確実に面倒くさい奴。


間違いない。


だが、危険だと感じるのはやはり勇者と司祭の方だ。


少し迷ったが、石像はエイリたちに任せる事にした。


「アンタたち、悪いけどまた露払いしてちょうだい」


「任せてお姉様♪」


「…嬢ちゃん、アイツのはギフトやない。気ィつけや」


解ってる。


アンタもへし折られるんじゃないわよ?


アイアイキャプテーン!


シリアスなのかギャグなのか、どっちかにしなさいよね、全く。


神剣の軽口を受けて、カルシャは改めて暴走勇者と対峙する。


「《煌氷牙(プリズムライナー)》!」


横に斬撃を二回。


細かな氷の牙が飛ぶ。


氷の嵐のようなギフト攻撃に、勇者は怯みもしない。


血塗れになってもこちらに進む。


どうやら即座に再生しているらしい。


あのクソ司祭…。


やはり何か仕込んでいる。


限度はあるのだろうが、無謀に突っ込んでくるあたり、この場所では無限なのかも?


「ーーー《茨蛇の領域(スパイクヴァイパー)》」


相手が上位者でないなら、私の豊富なギフトが役に立つ。


徹底的にやってやろうじゃないの。


庭園が植物園へ。


繁茂するは茨の精霊。


突き刺し、食い破る獰猛な棘刺しだ。


勇者は氷の傷を直し終わり、茨ゾーンに突っ込んだ。


再生、被弾、修復、裂傷。


止まらないなら、さらなるギフトを重ねるまで。


「《疾風の剣舞(リッパーダンス)》」


茨の隙間に風の剣。


突き刺さり、切り裂く。


まだまだ再生が上回っており、暴走勇者はついにカルシャの前に。


「《烈覇獣王拳(レッパジュウオウケン)》!!」


厄介な奴だな、攻撃を意に返さないってのは!


距離を取ることができる屋外で、先に一度攻撃を見ており、下位ギフトだから耐えられる。


逆に言えば、そうでなければ太刀打ちできそうも無い。


エストの野郎は相変わらず勇者に掌向けて何かしている。


痛みがダメなら次は熱だ。


拳を受けるたびに熱を奪う。


素手で鉱石を打つので、勇者の拳は砕けては再生する。


一神教って奴は駒に厳しいな、全く…!


いい加減、凍り付けっ…!


「??!」


ようやくだ。


拳が凍りついて、それが腕まで拡がり、ようやく勇者の手が止まる。


その隙を見逃さずにカルシャが槍を突き入れると、魔王の焔に燻された鎧は呆気なく貫通。


その心臓に容易にたどり着いた。


「燃えつきろ!」


その瞬間、カルシャは奪った熱を解放する。


引き起こる爆発。


蒸発する体液。


最後に見た勇者の顔は、正気に返った恐怖の表情。



「ーーーーーー悪夢は終わりよ、お嬢さん」



御旗越しに聞いた断末魔。


それは魔王アーデカルシャが、魔王として勇者を初めて殺した証であった。


後書きウサギ小話

ハンドパワー・・・?編



「…嬢ちゃん、アイツのはギフトやない。気ィつけや」


解ってる。


「ほら、あれ見てみ」


掌を勇者に向けて。


むーん!瞑想!


あー!


ゆ、指が取れたー!


「って、手品じゃねーか!」


司祭というより奇術師!


完!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ