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2−36.悪夢の魔王さま、黄昏に舞う

レイジの観測によって、処刑配達人(ドラゴンギフター)が到着したのは解っていた。


各所の司祭を襲って手に入れた情報によれば、特別司祭が到着後はそのまま宿泊予定の屋敷に案内され、晩餐会が開かれる事になっている。


出世欲の肥大した街区長の事だから、巷の噂話は特別司祭の耳に入れることはないだろう。


その晩餐会が狙い目だ。


カルシャたちは夕闇に紛れて隠れ家を出ることにした。


ちなみに、隠れ家は元・商人の家である。


家族共々最初の犠牲者だったが、それも今日で噂の一つに加わって風化していくだろう。


新しく臣下となったジラムは微妙な表情をしていたが、どちらにせよ、カルシャにとっては隠れ家にいた人間だったに過ぎず、既に興味はない。


今のカルシャが気にするのは、敵の配置と強さだけだった。


「特別司祭……やっぱり強いのかしらね?」


特別司祭ジノス・ギア。


勇者に仕える司祭では無いものの、地虫を捕らえ、異端の処理を任されるくらいだから、相当な手練の可能性がある。


ライナ付のエスト・フラメなる特別支勇司祭は簡単に燃え尽きたが、ああも簡単に行くと思わない方が良いだろう。


特に、今回は警備もいる屋敷の襲撃だ。


言わば、敵の陣地。


こちらが不利なのは間違いない。


そんな事を考えていると、エイリは首を傾げた。


「悪鬼羅刹も地獄送りにできるお姉様なら、司祭くらい敵になんてならないんじゃ?」


エイリちゃんめ、可愛い仕草しながら人を最終兵器的な扱いで見るんじゃない。


いちいち可愛いのは良いけど、ベース思考が物騒なのよ、アンタ。


「嬢ちゃん、脳筋魔王さまやもんな!」


アンタは黙ってなさい。へし折るわよ。


やっぱ脳筋やん…。


うるさいポンコツ神剣め。


傍から見たら一瞬のラグの合間に神剣ゲッコウとの漫才をしながら、カルシャはエイリに言う。


「そんな事無いわよ。聖女ライナとは前に刺し違えたくらいだし」


ライナにはかなりダメージを与えたが、鉄砲水に流された後は知らない。


傷的には死んでそうではあるのだが、感覚的には生きてても不思議じゃない。


そんな鬼のような聖女。


あの時は私も死んでもおかしくない怪我だった。


最後はツワブキに助けられたしね。


カルシャの言葉にエイリはふぅんという気のない返事だった。


強くなったカルシャしか見ていないので想像がつかないのだろう。


どちらかと言うと、ジラムの方がいい反応を示した。


「え、聖女ライナ?」


そりゃそうか。


一神教の発表じゃ、病死扱いだからな。


「あぁ、アンタは知らないわよね。アイツ、病気なんかじゃないわよ?」


あんなのが病気くらいで死ぬなんてあり得ないわね。


地の底からでも這い上がってくるタイプでしょ、アレ。


「………マジかよ」


「ま、復讐なんていう病気は持ってたけどね」


おまけに病気どころか種まで発芽してやがる始末だもの。


はー、アイツの話はやめやめ。


気分悪くなるわ。


大事なのは臣下の体調よ。


「アンタたちは調子はどう?」


言葉を向けたのはケモノズ。


凶悪な面構えの魔物がちんまり鎮座してるのはちょっと可愛い。生みの苦しみを経て、ちょっと愛着があるのは秘密だ。


この件、ゲッコウはなんか喋ったら容赦なくぶん回す。


そしてそんなカルシャの思考など知らず、ケイオスビースト三人衆は、めいめいに良好だと返答する。


露払いはアンタたちの仕事だから、しっかりやってよね。


そんなやり取りも、新しい臣下には目新しい。


「あの…この獣たち、何なんです?」


そりゃそうか。


「ウェアウルフ亜種、ケイオスビースト、だね」


こんな獣も魔物も存在していなかったのだから、知るはずが無いよね。


レイジの端的な表現に助けられる。


付け加えるなら、こうだ。



「ーーー魔王の所業によって力を得た獣よ?」



改造によって水竜の力を得た魔狼。


前にツワブキが言っていたが、ケイオスビースト1体で小型ドラゴン程度の強さはあるらしい。


ジラムは弱者だ。


「力…」


故にこういう言い回しには、多分思うところがある。


「ーーーアンタも改造してあげよっか?」


その証拠に、やはりまた微妙な表情をした。


「………考えときます」


いい答えね。


アンタのその悩みごと、上手く利用してあげるわ。


「さて、そろそろ出撃よ」


会話は終わりだ。


暖かな光は沈んだ。


「改めて言っておくけど、絶対死なない事。死んだら私が殺すから、そのつもりで生き残りなさいよね」





ここ数日で把握した路地、物陰を伝って目的地へ駆ける。


カルシャはそのまま、レイジたちはケイオスビーストに乗って移動だ。


静かに、力強く跳ぶ。


目的地の屋敷は街の中央。


中央区を囲う大通りに飛び出せば目視され、そこから先は時間との勝負になる。


出来るだけ高い建物から跳び超えるが、発見は避けられないだろう。


特別司祭を殺れるかどうかは、このひと跳びから。


「ーーーーッッ!!」


声なく踏み出す1歩。


追随する3つの四足。


襲撃、開始!


一つ、二つ。


目線がカルシャたちを捕らえ、それはすぐさま恐怖の叫びに変わる。


数日で恐怖を振りまいてきた成果が、ここに来て発揮されていた。


噂の獣を見て喚き騒ぐ民衆の声を背に、カルシャたちは建物から建物へ。


街区長の屋敷はもうすぐそこ。


屋敷の庭を囲う塀。


その廻りには武装した僧兵が警備にあたっている。


向こうが目視して警戒の声を上げたのと、カルシャたちが最後の踏み込みを終えたのは同時だった。


眼下で叫ぶ僧兵。


弓を番える者もいたが、あまりに遅く、カルシャたちのはるか後方をすり抜けていく。


そのまま庭園に着地すると、衝撃でレンガが割れた。


「侵入、成功」


ここからはひたすら司祭を探す。


レイジとケイオスビースト1体だけは別行動。


「頼んだわよ、レイジ!」


「任せてよ」


さて。


まずは晩餐会の会場からだ。


巡回の僧兵を突き殺し、次に現れた僧兵は切り裂き、なるべく音の出るギフトを使わずに突き進む。


庭を抜け、玄関を蹴破って侵入。


晩餐会会場へと一気に駆け抜ける。


バァン!


観音開きを吹き飛ばし、ビースト共々飛び込めば、そこには一人の司祭が食事をしている所だった。


「ようこそ、我等が晩餐会へ。歓迎は致しませんが、もてなしは致しましょう」


その男に、カルシャは見覚えがあった。


見覚えどころか、殺したはずの男。


「お前は……!」


特別支勇司祭。


カルシャの炎に焼かれた男。


エスト・フラメその人が、独り晩餐をしていたのだった。



後書きウサギ小話

モンスター・ヘンジン・・・?編



「ようこそ、我等が晩餐会へ。歓迎は致しませんが、もてなしは致しましょう」


「お前は……………………誰だっけ?」


「え、いや、そこはビシッと名前覚えて……私だ」


「お前だったのか」


「暇を持て余した」


「魔王と司祭の」


「「遊び」」


神!

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