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2−35.悪夢の魔王さま、悪夢を振りまく

ケラスの街。


聖都アラスラクトより東に3街区進んだ場所に位置するその都市は、肥沃な大地とシルカルト霊峰の湧水とが共存する栄えた都市である。


聖都から地方に流れる傭兵や商人の宿場町であり、比較的一神教の司祭も多く割り振られた東の交易の要所。


今、そんなケラスの街では、民衆に知れぬ事件が起こっていた。


司祭の暗殺、惨殺、失踪。


夜警担当傭兵の失踪、血痕。


特別司祭の来訪を直前に控えた時点での襲撃と思われる事件に、新しく任命されたばかりの街区長は経歴に汚点がつく事を嫌い、すぐさま聖都に報告を行わなかった。


結果として、特別司祭が到着するその日までに、司祭8人、転生者を含む傭兵13人、商人2人の23人が犠牲となった。


司祭が消え、傭兵が消えて、噂は拡がる。


夜な夜な人を食い荒らして回る獣の噂だ。


星灯りの下で蠢く影。


ケラスでは奴隷化した魔物の持ち込みは禁じられておらず、狂った飼い主が魔物を解き放った事もある。


そのため夜間の外出はことさら少なく、酒場も大通りにしかなく、独り帰路の小道を急ぐ傭兵ジラムは悪態をついていた。


「…ったく時間超過したからって報酬半減とか聞いてねぇぞ、クソ」


比較的ギフトに恵まれなかった転生者であるジラムは、傭兵の中でも下っ端の方だった。


そのため劣悪な依頼が多く、今日のように過酷で時間のかかる依頼を押し付けられる上に、様々な理由でピンハネされる事も多い。


固定宿があるだけ転生前の浮浪者暮らしよりは多少マシではあったが、それでもとても裕福とは言えなかった。


従って、ジラムの悪態はいつもの事であり、また、彼に運が無いこともまたいつもの事であった。


ズル、ズル。


路地の奥の闇に引きずる音。


不運のうちの一つは、街に流れる獣の噂を知らなかった事。


「…なんだ?」


この近道は、ジラムしか通らないような夜の路地。


何かを引きずるとしたら、それは大概良いものではない。

不穏な気配からは逃げるべきだ。


ジラムの本能はまっさきに危険を察知、ジラムの踵を返させる。


不運その二。


ジラムが振り返ると、別の路地からは血の匂いが漂ってくる。


転生者になって以降、汚れの傭兵として暮らしてきたジラムは血の匂いに敏感になっていた。


風のほとんどない路地で血の匂いがした事実に嫌な予感を覚えた。


まだ新しい。


さっき通り過ぎた時はそんな匂いは無かった。


…この辺りは確か教会の裏手あたりだったな。


一神教は好かないが、駆け込む事に躊躇はない。


なんせ二度も死ぬのはごめんだからだ。


足音、気配を出来るだけ消して教会へ向かう。


大通りから1本入った広めの路地だが、星が雲に隠れて暗い。


いつもは精緻な彫刻が映える礼拝堂の門も、この暗がりではよく見えない。


礼拝堂の門は閉まっていたが、教会の性質上、礼拝堂の横の夜間通用扉は空いており、誰でも入る事ができる。


礼拝堂まで入り込んで、隠れてやり過ごせれば御の字だ。


ジラムは警戒を強めながら礼拝堂の扉を開ける。


ギィィ、と軋む木扉。


中は静かで、目が慣れるまでは暗闇が広がっている。


だんだんと慣れてくる。


木製の長椅子、重厚な躯体、偶像。



ーーーーそして、いくつかの死体。



「!?」


完全に闇に慣れた目に映るのは、ここに寝泊まりしていたであろう宿無したちの惨殺死体。


一つではない。


複数だ。


その瞬間、ジラムは己の選択が間違っていた事に気付いた。


柱の影に潜んでいた獣に。


礼拝者の長椅子に座るフード姿に。


死体を貪る獣に。


気付いてしまったから。


「ーーーこんな夜更けに礼拝とは、信心深いのですね」


フード姿から声がかかる。


びくりとしてから、その声がうら若い少女のものだと理解するのに少し時間がかかった。


どうやらヤバイ奴には変わりないが、一応は会話できる奴らしい。


もしかしたら話せばわかるかもしれない。


「そんな風に信用して扉を開けるなんて、司祭っていうのは不用心よね。そう思わない?」


ジラムのそんな淡い期待は、無惨に打ち破られた。


フード姿が立ち上がる。


それに合わせて獣たちも動く。


退路を塞がれている。


それが解っていながらも動けないのは、動けば退路だけでなく命を断たれると解っていたから。


「…確かに、不用心、だな」


だから、少しでも可能性のある方に賭ける。


会話を繋いで、なんとか生き残らなければ。


「あら、お話してくれるんだ?良いわよ、付き合ってあげる」


最初の橋は渡った。


ただ殺されるよりは足掻いてやる。


背中に薄ら寒いものを感じながら、ジラムは言葉を探した。


「今晩はパーティー、か、何かか?やけに、散らかっている、よう、だが」


反応を伺いつつ、ジラムは言葉を発する。


何が正解なのか。


何がゴールなのか。


そもそも助かるのか。


背中を汗が伝う。


「そうね。パーティー。そんな感じだわ。正しくはその前夜だけどね」


フードがジラムに近づいてくる。


退路は完全に塞がれ、もはや会話を続けるしかない


「主役は、君か?」


問いかける。


決して正体など知りたくないが。


少なくともマルチギフト。


歴戦の強者には違いない。


「どちらかというと私はもてなす側ね。明日には主賓がくるのよ。準備をしなきゃいけないの」


間近にきたフード。


背は小さい。


顔は見えないが、やはり声は少女のもの。


異質で、不気味で、恐ろしい何かを感じる。


それでも会話を続けなければ。


「誰が、招かれて、いるんだ?」


少女は笑う。


「特別司祭さま、よ」


一神教の特別司祭とは、大きく出たものだ。


勇者にも劣らないと言われる神官。


それを狙うというのか。


まさか、魔王…?


いや、まさかな。


そんな奴が、居るはずない。


一神教と勇者が滅ぼしているはずなんだ。


「ーーーそれにしても、よく喋るわね、アンタ」


声色が変わる。


あ、これは死んだな。


完全に終わった。


喋りすぎたんだ。


「ギフトは何を持ってるの?」


今更何を聞いているんだ?


そんなにハズレギフトを嘲笑いたいのかよ。


「い、《湖月複製(イマジナリコピー)》だけ、だ」


見たものに似たモノを作り出す。


材料は自分持ちだし、何を作っても性能は低いし、一日の複数限界も少ない。


戦闘こそ努力してなんとか人並みだが、ギフトは非戦闘系な上にハズレ。


こんな傭兵を嘲笑って何が楽しいんだ、クソ。


だが、フード少女は意外な反応を示した。


「アンタにチャンスをあげるわ」


フードを外す。


雲が晴れて星灯りが礼拝堂に差し込むと、少女の姿が露になる。


「選択肢は2つ。ここで死ぬか、私に忠誠を誓うか、選びなさい?」


見上げる瞳。


黒髪に狼の耳。


口元だけが邪悪に歪む。


…従うしか、なかった。


「貴方に、忠誠を」


ゆっくりと跪く。


「我が名は魔王アーデカルシャ・グリムレクス。その魂に刻むが良い」


同時に、ジラムの中で何かが崩れていく。


あぁ、強者とはこういうモノか。


浅ましくも生き残った男は、一筋の涙を流し、新たなる主君を仰ぐ。


「私の魂を捧げます、我が君」





今宵もまた犠牲者が増えた。


司祭とその侍従、礼拝堂にいた宿無し、合わせて数名。


その中にはジラムの名前は無く、しかし、その名前は誰に語られることも無い。


ただ、弱者が一人消えただけ。


魔王の饗宴の前夜。


準備に勤しむ魔王たちの戯れ。


それに巻き込まれた、取るに足らない男の話であった。


夜が明ける。


特別司祭を乗せたドラゴンは、着実にケラスに向かっていく。


そこに何が待ち受けているかを知らぬまま。


悪夢の歯車が、カチリと時を刻んだ。



後書きウサギ小話

手料理・・・?編



「さ、パーティーの準備よ!」


「生首の活造り!」


「腹肉のロースト!」


「手先の唐揚げ!」


ケイオスビースト)ウガァ!(喜)


ただの猟奇的食卓!


完!

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