2−33.最弱ウサギさん、悪魔を地獄に返送する
「さ、ここからは私が相手よ」
対峙すると、最初の人型からかなり膨れている。
ケイオスビーストよりも大きい。
これで硬いのか。
ゲッコウの刃でも切り裂けないとなると、凍炎の夢魔王御旗でも厳しいかもしれない。
「■■■、■■…!」
悪魔がせせら笑う。
上位者でもないくせに。
いいよ、解ったわよ。
アンタが誰を相手に選んだか、その命で教えてあげる。
「ーーー《■■■■■■》」
不意打ち、クイックドロー。
悪魔らしいじゃない。
放たれるのは私もよく知る豪炎。
これは《焔の射手》の火だろう。
但し乱発。
四方八方に放たれて、私に向かって収束する。
魔王の焔でなくとも、火は恐ろしい。
ただの最弱のままだったなら、今頃骨も残さず塵になっている。
だが、あいにくと私の槍には焔は効かないのだ。
「焔は効かないわよ?」
槍を掲げて焔を食らう。
槍の熱は十分。
距離をとって馬鹿の一つ覚えみたいに焔を乱射する悪魔。
森が焼けるから止めてよね。
直撃しそうなものだけを槍で吸収しつつ、カルシャは一直線に悪魔に詰め寄る。
まずはお試しだ。
「やあぁ!」
横薙ぎ一閃。
下半身を狙ったスイープは、悪魔の腿の辺りをなぞる。
確かに表皮は硬く、分厚い筋肉も鎧のようだ。
物理的にはすこぶる強い。
「なんだ、その程度なの」
だが、武器に強いだけでは足りない。
槍の熱を放射すれば、表皮は爛れ、肉は焼ける。
ギフトでないため火力は低いが、普通にギフトを使えばダメージは通る。
「■■?!■■■■、■■!」
そう取り乱すなよ。
エイリはまだ転生したてなんだ。
しばらく魔王してる私の方が強いのは当たり前でしょ?
アンタはもう…いえ、最初から詰んでるのよ。
この魔王アーデカルシャを目の前にした時から、ね。
怒り狂って暴れだす悪魔。
冷静さを失えば終わりだと、未だに理解していないらしい。
「バカね」
目くらましに焔。
「焔を吐き出せ、凍炎の夢魔王御旗!」
槍にて地面に円弧を描く。
切っ先から吸収した焔を吐き出して、焔の壁が出来上がる。
悪魔が一瞬たじろいだ。
同時に蛇尾が這い寄り、噛み付く。
「ーーーー《夢幻鏡の刃》」
噛み付いている間、カルシャには敵のギフトが視える。
なんだ、2個しか無いじゃない。
脳筋の雑魚かよ。
5位《焔の乱射》に、5位《竜紋強化》。
前者は《焔の射手》の強化版で、後者は擬似竜化の変身ギフトだ。
有用性から考えて《竜紋強化》を剥奪。
ネタは割れた。
こんな奴に反射など要らない。
極上の魔王フルコースをご馳走してやろう。
蛇を振り払い、焔を抜けてくる悪魔。
見越して後退、次のギフトを開ける。
「ーーーー燃え盛れ、《業火の射手》!」
槍で作った焔の壁を、更に分厚く補強する。
焔の威力も数段アップだ。
流石の悪魔も悶える熱さ。
だが、まだまだカルシャの攻勢は止まらない。
「ーーー煌めけ、《煌氷牙》!」
横一閃の斬撃、そこから飛び出す氷結晶。
焔を潜ればそれは一瞬で蒸気に変わり、体積が一気に増大、水蒸気爆発を引き起こす。
髪を攫う熱波。
焔が立ち消え、悪魔は茹で上がった姿で立ち尽くす。
「…………………■、■■、■■」
しぶとい奴だな。
そろそろ止めを刺してやる。
両手に構えた槍。
一足飛びで兜割り。
脳天かち割って終わりにしてやる。
「喰らえ!」
だが、敵も見上げた根性だった。
なんとか腕を掲げ、カルシャの兜割りを防いだのだ。
ならば次はこうだ。
「ーーーー砕けろ、《砕けぬ神剣》!」
槍と鉤爪が触れていた事は、悪魔にとって不運であった。
カルシャの新しい革命ギフトは、接触しているモノをー例えば武器なら武器、防具なら防具をー壊すためのギフト。
槍に触れた鉤爪は武器としてカテゴライズされ、ギフトの破壊対象となる。
「?!!」
掲げた爪が砕け散った。
同時に、付随効果で腕をも破壊した。
高圧でぺしゃんこにされたみたいに腕が飛び散る。
着地したカルシャからは、その様子がつぶさに見て取れた。
さて、引導を渡してやろうか。
「地獄に舞い戻れ」
大きく踏み込んで、腕を突き出す。
槍の穂先は焼き爛れた皮膚を貫き、骨を砕き、心臓を串刺しにした。
「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」
断末魔はビリビリと空気を震わせる。
悪魔はそれきり静かになった。
槍を引き抜くと、鮮血が零れ落ちる。
…………なんか、もったいないな。
ふと思い立って、カルシャはエイリを呼びつけた。
「エイリ。アンタ中に戻ったら、この場に食事を持ってくるよう指示して」
「え?この場で食事するの、お姉様?」
「今から私自身を改造するわ」
*
魔獣の皮、渾沌の角、強欲の骨、悪魔の鮮血、背徳の竜尾、傲慢の爪、邪竜の翼。
これらが悪魔“竜呑の堕聖者”から手に入れた素材である。
思ったとおり、ケイオスビーストたちの素材である水竜よりも強い素材ばかりだ。
「ーーーーー《改造の王笏》」
改造の項目を見繕う。
様々あるが、形態変化を出来るだけ伴わないものを選ぶ。
ーーーまずはコレだな。
「眼球魔眼化、適用」
ブチブチッ!
瞬間、血管が千切れて視界が赤く染まる。
思わず顔を押さえてうずくまる。
痛っ……。
これは想像以上だ。
改造は自身でやるもんじゃないな。
ケイオスビーストたちはよく耐えたものだ。
滲む視界で両手を見ると真っ赤だった。
血の涙を流すことになるとはね。
あぁ、くそ。
痛いじゃないの。
怪我ではないから、耐えるしかない。
素材である悪魔の血が消費され、カルシャの眼が魔眼へと変質する。
「ーーーッ、魔眼化、完了」
備えられたのは、沸騰の魔眼。
ギフトで言えば《灼熱の魔眼》に近いが、この魔眼はギフトには存在しない。
本物の魔眼は、魔剣や聖剣、その他凄まじいアイテムと同じで、ギフトのような効果が埋め込まれた道具の一種だと言える。
それは容易に切り札足り得るものだ。
なんせギフトの数を詐称できる。
あー、ダメだわ、コレ。
エネルギーも一気に持ってかれたし、一気に改造してやるつもりだったけど、ここまでにしとかなきゃブッ倒れる。
…あとで素材だけ回収しなきゃ。
後書きウサギ小話
便利な魔眼・・・?編
「お姉様!ちょっとお風呂入りたいんですけど!」
「はいはい、ちょっと待ってよ…沸騰の魔眼!」
「お風呂が沸きました」
「カルシャ殿、雨で薪が湿気って料理がままならないのですが…」
「お湯なら用意できるわ!沸騰の魔眼!」
「あっという間にすぐに沸く!」
ティファールゲイズ!
完!




