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2−32.狂犬JKさん、悪魔と踊る

カルシャが門を飛び越えて外に出ると、件の来客は既に目視出来る距離まで近づいてきていた。


目視する限り、人型をベースに翼と角、尻尾を併せ持つモンスターだ。


肌はつるりとして浅黒く、口元からは蒸気のような靄が吐き出されていた。


かつて聖女ライナと対峙した時のような威圧感。


御旗を握る手にも力が入る。


ここは鵺になって、蛇によるジャブを打つか。


それとも遠距離からギフト斉射するか。


カルシャがどう攻めるか考えていると、カルシャと同じように門を乗り越えてきた者がいた。


「お姉様ぁ!ウチも戦います!」


エイリである。


しかも、先程までケイオスビーストと戦っていたため、制服の下にはトカゲの鱗革を加工した帷子、制服の上には部分的にプレートを装備しており、いつでも戦えますといった格好。


「な!アンタは中に居なさいよ!?」


カルシャには自身で戦うつもりしかなかったので、エイリを下がらせようとした。


だが、エイリは既に抜き身のゲッコウを握っており、その目は戦いを求めて輝いていた。


「ウチは戦うためにここに居るんですよ?」


確かに戦闘要員のつもりではあるが…。


「カルシャ嬢、エイリちゃんは本気やで。戦わせてやってーな」


エイリの意志に、ゲッコウも思うところがあるらしい。


「…それに、お姉様は此処のトップ。いつまでも最前線にいる人じゃダメですよ?」


エイリの言葉が最後のひと押しになる。


臣下を信用できない魔王なんて、確かに格好悪い。


「あぁもう!解ったわよ!初っ端はアンタに任せる。退けって命令には従いなさいよ?」


生き残る事。


魔王である事。


カルシャの中で少しずつ価値観が変わっている事に、カルシャ自身はまだ気付いて居ない。


「ありがとうございます、お姉様♡」


エイリが前に出る。


「まずは確認!《精緻の魔眼(ホークアイ)》!」


エイリのギフトの1つは、位階1の魔眼である。


これは自動調整スコープのようなもので、視力を最大5倍に補正してくれる。


今まさに、エイリは少し離れた敵の姿を観察しているところだろう。


「なるほどなるほど」


カルシャも目は良い方だが、流石にギフト程ではない。


今のエイリなら、敵の外皮など細部まで観察出来ているだろう。


「ーーーこれなら、戦える」


どうやら観察は終わったらしい。


ついでに戦闘イメージも湧いたようだ。


敵の足もちょうど止まった。


「そこの悪魔さん、此処が魔王アーデカルシャ様の居城って知ってる?」


エイリが声をかけると、悪魔は吠えたける。


「■■■■ーー!!」


意味不明の言語だ。


意味は解らないが、意図は解った。


「問答無用って訳ね!」


煌めく悪魔の鉤爪、踊る神剣の切っ先。


悪魔が飛びかかるのと、エイリが進路を塞ぐのは同時だった。


「アナタの相手はウチだよ!」


「■■、■■■!」


文句を言っているらしい。


だが、そんな事はどうでもいい。


エイリにとっては、命を賭けられる程の戦いかどうか、それだけが重要なのだ。


「行くよ!《砕骨斬(フレームブレイク)》!」


刀を握られる前に爪を弾く。


同時に展開したギフト、その効力が刃に宿ったのを確認してから、エイリは悪魔にその切っ先を向ける。


ーーー剣崎白糸(シライト)流“魚跳ね(ウオハネ)”。


踏み込みと共に突き出す刃。


一段目が浅く、更に踏み込んで二段目を必中とする二段構えの刺突剣。


フェイントとリーチの詐称を兼ねる剣に、悪魔は一段目を弾こうと反応した。


浅く潜り込む剣先は黒光りする鉤爪に絡まり、その動きを止めんとするが、ギフトの効果がそれを許さない。


「残念!無念!一昨日来やがれ!」


刃に触れた鉤爪が震える。


砕骨斬(フレームブレイク)》の効力によって、刃に触れたモノは振動によって構造を揺さぶられる。


刀身を握らせず、エイリの二段目が悪魔の腕を突き、刀を捻り抜いた事で筋肉を酷く切り裂いた。


ご丁寧にそちらにも振動が伝わり、傷口はぐちゃぐちゃだ。


「まだまだぁ!」


ーーー剣崎白糸流“二重沙糸月(フタエサイトヅキ)”。


無事なもう片方を無造作に繰り出す悪魔に対して、エイリは至近距離から更に詰め寄り、コンパクトな斬り上げを繰り出す。


続けざまに肩で体当たりをかまし、下がり際に斬り上げを残す。


ダメージを与えつつ距離を空ける剣技だ。


結果、悪魔の鉤爪はエイリを捕える事はなく、逆にエイリの振動する斬撃によって片腕と腹の表層をズタズタにされた。


「■、■!■■!■■!!」


怒っていた。


まるで地団駄を踏む子供のようだ。


エイリは強い。


そして容赦がない。


三度目の剣技。


ーーー剣崎白糸流“水紋(スイモン)”。


地団駄など隙でしかないとばかりに踏み込み。


横に薙いだ刀、その反動で左に跳ぶ。


返す刀でもう一つ。


腹に二つの線が刻まれる。


一歩、二歩。


大きく跳んで距離を開けるのと、悪魔が膝を付くのは同時だった。


「■■■……、……■、■■!」


「…さっさと本気出せよ、グズ」


流石バトルマニア。


余裕こいて敵に本気を出させようとしやかる。


戦闘民族か?戦闘民族なのか?


カルシャの不安を他所に、悪魔はブツブツ言うのをやめて、雄叫びを上げた。


「■■■■、■■■、《■■■■■(*****)》!」


全く何を言っているのかは不明だが、それがギフト開放である事だけは理解した。


悪魔の筋肉が蠕動する。


ウネウネと盛り上がり、人型を逸脱していく。


それに伴って翼が増え、尻尾には棘が生える。


凶悪な姿になり変わると、エイリがつけた傷も消えていた。


「そうこなくっちゃ♡」


このおバカめ。


敵に本気を出させる前に決着着けろよ。


仕留めそこねたら、戦うの私なんだぞ。


あと、勝手に死んだら怒るからな。


カルシャの予想通り、戦いは加速する。


悪魔もエイリもスピードを上げた。


悪魔は翼を羽ばたかせ、エイリは踏み込みと反動、純粋な体捌きによって。


大型の獣とハンターの狩りの様相だ。


狂気じみた技術の粋が、純粋な暴力に挑みかかっている。


嵐のような爪、掠める腕に刃を合わせる。


強化された皮膚には、神剣でさえ僅かな傷を付ける事しか出来ない。


連続で繰り出される拳に鉤爪。


ひらり後退し、潜り込んでは斬りつける。


エイリには攻撃系ギフトが一つしかない。


砕骨斬が効かないのであれば、実質ギフトなしで戦うようなもの。


カルシャであればすぐさま退く。


だが、狂犬エイリは笑っていた。


「楽しいぃ!その強さ、もっと魅せてみなよ!」


ヤバイな。


興奮してやがる。


冷静ならともかく、あれじゃどっかで攻撃喰らう。


「ーーーー《空蝉の変容(ヘンシン)》」


姿を鵺に。


いつでも蛇を伸ばせるように構えておく。


カルシャの直感は正しく、その瞬間はすぐにやってきた。


「■■■■■■■!!」


エイリの技術を真似た悪魔が、少しだけ踏み込みを深くしたのだ。


それまでギリギリで避けてきたエイリは、咄嗟に腕を犠牲にして防御したが、片手がやられては刀を満足には振るえまい。


立ち上がろうとするエイリに、カルシャは蛇尾を巻き付けて回収、無理やり下がらせた。


「アンタはここまで。後は私の番よ」


これ以上やっても、傷が増えるだけだ。


悪魔にはまともなダメージは入っていない。


「お姉様、ウチはまだ…!」


「その腕で戦うの?」


技術は上回っても圧倒的に攻撃力が足りないのだ。


これでは勝利も掴めない。


「……《強化再生(リベンジゲイン)》」


悔しげに回復ギフトを開くエイリ。


「そのまま下がってなさい」


背中越しにカルシャは笑いかける。


「ーーーー魔王の戦い、見せてあげるわ」



後書きウサギ小話

神剣うるさ型?編



「そこの悪魔さん、此処が魔王アーデカルシャ様の居城って知ってる?」


「■■■■ーー!!」


よーく知ってるで!夢魔王とかいうイタい娘ちゃんの城やろ!


「問答無用って訳ね!」


モチのロンよ!積極的に煽って行きまっせ!


「アナタの相手はウチだよ!」


「■■、■■■!」


えっ、いいんですか、JK相手だなんて!


くっ、ゲッコウの思考と脳内アテレコがだだ漏れで集中出来ないっ!


この駄剣がっ!


完!

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