2−31.最弱ウサギさん、来客対応を迫られる
レソルガ樹海の底、埋没した遺跡はまだ稼働していた。
センテでカルシャたちが潜った遺跡と同じように、罠があり、モンスターがおり、守護者が眠るその遺跡、その最奥。
ここもまたセンテと同じで、メンテナンスのための制御室と居住区が備え付けられているが、そこに立ち入るものは久しく無い。
ただ計器やモニターが、英雄創成のために動き続けるのみ。
転生者は死者のデータに基づいて作られるため、システム全体で扱えるデータ総量が決まっており、新たな転生者は今や空席待ちの状態だった。
転生者が死亡した時にシステム上のデータは削除され、その空き容量で次が抽選される。
弱者を淘汰するために、死亡エンドが多い場所では空き容量が優先的に消費されるようになっているので、レソルガ樹海では必然的に多くの転生者か淘汰され、新しい者に成り代わっていた。
今回もカルシャによって追い出された転生者の空き容量は、レソルガでの転生者作成に費やされ、新たな転生者を吐き出す。
そのはずだった。
「肉体生成過程でエラーが発生しました。擬似霊魂構築過程緊急停止します」
唐突なビープ音とともに、エラーメッセージが流れる。
聞くものなどおらず、まして対処などされないエラーの表示。
システムはエラー個体の構築をやめるが、観測機器は地上で組み上がっていく転生者の様子をしっかりと捉えていた。
地上を監視するモニター。
そこに映り込む姿。
立ち尽くすそのシルエットは人間。
但し、エラーを吐いた個体は魂をコピーされず、生産システムからも切り離され、あとは獣に食われて消費されるだけだ。
既にシステムは再稼働。
エラーを削除して次の転生者抽選を始めている。
だが、地上監視モニターだけは、その異常を見つめ続けていた。
レソルガ樹海。
名もなき転生者たちの墓場。
死霊悪霊に成り果てた魂の漂う場所。
魂の無い空虚な身体が放置されていたら、どうなるか?
「オオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!」
拒絶反応。
魂が無くとも容れ物は入るべき形を知っており、異なるものを拒絶するが、それも絶叫ひとつ上げることくらいしか叶わない。
項垂れる。
人に適さない魂が哀れな身体を作り変える。
盛り上がる肉。
裂けた皮膚。
骨が再構築される。
変化が収まった時、ソレには翼があり、角があり、尻尾があり、鋭利な鉤爪があり、邪悪な意志があった。
「ーーーーカルシャ・グリムぅぅぅううう!!!」
人知れず魔王を殺すモンスターが生まれた事を、カルシャたちはまだ誰も知らない。
森の奥底で、獣は凄まじい生誕を恨んでいた。
*
エイリ、リンドウ、リョウの3人が臣下に加わってから数日。
3人はギフトの扱いを覚え、ウェアウルフたちとも馴染んでいた。
「リンドウ殿は飲み込みが早いので、すぐ追い抜かれてしまいそうですね!」
「すぐに追い抜いてやるさ」
リンドウはグレインと訓練。
警棒を短メイスに持ち替え、もう片方の手にはスパイク付きガントレット。
ギフトも身体強化と精神異常耐性。
なんて筋肉ダルマ。
当面裏切りそうにないけど、肉弾戦したら面倒臭そうな感じに伸びつつある。
で、リョウの方は何故か子供たちに懐かれてる。
多分元々の性格で子供好きなんだろうな。
私にはムリ。
あくまで駒だから相手するけど、直接なんて鬱陶しくてやってられないもの。
ギフトも強化系だけど位階が低いし、このままニーフェの副官に変えようかしら。
ニーフェも色々仕事が増えてきてるから、そろそろ分担が必要だろうし、後でレイジと相談しよう。
で、やっぱりというか何というか。
ヤバイのはエイリちゃんである。
「アカーン!アカンて、エイリちゃーん!ギャフーン!ギェー!あばばばばば!おぅえええー!」
神剣の哀れな悲鳴が聞こえる。
あのケイオスビースト相手に普通に戦ってる。
しかも押してる。
刀を的確に扱える人材が少ない中、ゲッコウを使いこなす。
加えて、バトルマニアを自称するだけあり、センスが半端ない。
攻撃を避ける、蹴っ飛ばす、受け流す。
刀を純粋に攻撃だけに使う。
しかもケイオスビースト相手に峰打ち。
ヤバイ。
大当たりなのは間違いが、とにかくヤバイ。
狂犬がこっちに牙を剥く可能性がある以上、何かしら枷を用意しなければ恐怖するくらいのヤバさだ。
「ウサギさん、ウサギさん」
「あの娘、気になるでしょ」
ふわーっとやってきたのは妖精双子。
広場の脇で訓練を見ている横にやってきて、カルシャにこんな事を言う。
「あの娘、資質があるわよ、ウサギさん」
「あの娘の種は《上位者》よ、ウサギさん」
「…マジで?」
「マジも大マジよ、ね、ヴィヴィアン?」
「そうよ。あれだけの逸材なかなかないわよ、ね、モルガナ?」
「ますます敵に回しちゃいけない娘なのね、エイリ…」
ケイオスビーストも大概だが、それ以上にエイリは鋭すぎる。
まさにキレたナイフ。
こんな危険分子が異世界で普通に暮らしてたとか、どうなってるのよ、全く…。
「アンタたち的に、転生者に種を与えるのはどうなの?盟約とやらに違反しない訳?」
「ウサギさんの臣下なら大丈夫よ、ね、ヴィヴィアン?」
「ウサギさんなら寝返っても処理してくれるわよね、モルガナ?」
「私まかせかよ!」
まぁいいや。
種を与えるかどうか、いつ与えるかは、ちょっと考える。
私が制御出来ないのは困るもの。
ゲッコウの悲鳴が響く中、カルシャの中で転生者たちの処遇の方向性が決まりつつあった。
そんな時だった。
「■■■■■■■■■ーーー!!!!」
都市の外から、とんでもなく大きな咆哮が耳朶を撃った。
耳の良いカルシャ、改造されたケイオスビーストだけでなく、普通のウェアウルフや人間まで気付く程の音と振動。
エリスの時の事が脳裏をよぎる。
それが思考を走り抜ける前に、カルシャは御旗を引っ掴んで駆け出していた。
もう、誰も勝手に死ぬのは許さないわよ…!
後書きウサギ小話
期待の新人・・・?編
「ウサギさん、ウサギさん」
「あの娘、気になるでしょ」
「良い身体と目付きしてるわ」
「あの娘、資質があるわよ、ウサギさん」
「あの娘の種は《依存偏愛》よ、ウサギさん」
「ヤンデレJK…これはっ、流行る!」
「エイリ、お姉様の熱い愛情、ほしいの♡」
「ふおぉぉぉおおお!??急に背後に立つんじゃないわよ?!」
エリスの本能、エイリの愛情!
寒!(背筋凍る的な意味で!)




