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2−29.転生者さん、犬と遊ぶ

滝原シュンヤ。


28才、エリートサラリーマン、年収は900万。


客先でのプレゼンの帰り道、誰かに刺されて意識が飛んだ。


間違いなく死んだ。


が、気が付いたら樹海にいた。


これが流行りの異世界転生というやつか。


死んでも死なないあたり、俺はツイてるらしい。


異世界転生なら付きもののチートがあるもんだと思ってステータスを探すも見つけられず、宛もなく森を彷徨い、突然獣に襲われたかと思ったら、こんどは獣人に捕らえられて牢獄入り。


一体なんだってこんな事になったのか。


転生したからには、異世界で活躍する未来が待ってるんだろ?


早くしろよ。


こんなストレスフルな序盤は要らないから、さっさとスキップしてくれ。


…いや待て。


そうか分かったぞ。


これは俺を信奉する下僕を増やすイベントか何かなんだな。


「なぁ、君らもあの犬どもに捕まったのかい?」


牢獄に捕らわれている他の人に声をかける。


捕まってるのは他に3人。


一人はJKっぽい。もう一人は筋骨隆々の男、それと眼鏡のデブだ。


最初に答えたのはJK。


きっと将来のハーレムの一人なんだろうが、ちょっと好みとは違うんだよなー。


「皆そうだよ。樹海にいたのを助けられた、の間違いだけどね」


あと犬じゃなくてウェアウルフね、と余計な一言。


声だけは割と好みなだけに、イライラがひどい。


「助けられた、ねぇ。じゃ、なんで牢屋に入れられてるんだろうね」


おっと心の声が漏れてしまった。


そのうち躾けてやる。


次に言葉を発したのは眼鏡デブ。


「助かっただけ幸運じゃない?」


コイツはマジで役立たずそうな気配ビンビンで、同期で真っ先に蹴落とした奴に似ていた。


「…平和ボケめ」


特に言うことはない。


最後に発言したのは筋骨隆々な男。


犬どもにも負けなさそうな身体付きだ。


おおかた建設作業員か何かだろう。


下僕になったら俺が上手く使ってやる。


「飯も世話もあるだけマシだ。少なくともすぐに殺される訳じゃない。脱出のチャンスくらいあるさ」


ほう。


割とまともな事を言うじゃないか。


結果として、この筋肉ヒゲダルマの言うことは正しかった。


その事を、俺はしばらく後に知る事となる。





「全員ここから出て、俺に付いてこい」


翌日の昼過ぎ。


薄味の昼食を取り終える頃に、それは起こった。


犬どもの中でも立派そうな剣を下げた奴がやってきて、そう言ったのだ。


犬のクセに命令するとは無礼な奴め。


内心そうは思ったが、ここで暴れても仕方ない事は樹海で学習済みだ。


順に牢から出され、木床と鉄壁の奇妙な牢獄を出る。


どうなってるんだ、この建物。


犬に付いていくと、犬どもの集落の広場に連れ出された。


辺りには数十の犬と、時折まじる人間の姿。


首輪が付いているということは奴隷か。


本当に異世界なんだな、ここ。


辺りを観察しているが、逃げる隙がない。


そうしているうちに広場の人だかりの中心にたどり着いた。


中心には幼女の犬。


黒髪、華奢な身体、馬鹿そうな顔つき。


ここまで俺を連れてきた犬が言う。


「お前たちに自由になるための挑戦を許す」


手で幼女を指し示し、犬はこう言った。


「誰かがこの者に一撃でも攻撃を加えられれば、全員を自由にしてやろう」


犬どもは強いが、コイツなら一発くらい。


そう思わせる程度には弱そうに見える。


しかし、一番に出るべきは俺じゃない。


筋肉ヒゲダルマ、出番だぞ。


「…俺がやろう」


男が一歩前にでると、犬が言う。


「貴様の名は薬師寺リンドウだったな?」


薬師寺リンドウ…?


聞いたことのある名前だな。


なんだったか。


「これを使う事を許可する」


リンドウが犬から渡されたのは長さ40センチくらいの棒。


いわゆる警棒だ。


「それほどの力量か…」


リンドウが何か呟いたが、シュンヤの耳には届かない。


「では、存分に挑むが良い」


犬が離れ、リンドウが構えた。


ジリジリとにじり寄るリンドウ。


あんな小さい奴相手にビビりやがって。


さっさとやれよ。


「ッ!」


最小限の踏み込みで小手を狙う。


だが、幼女の姿は既にない。


!?


いつの間に動いた?


先読みしたのか?!


地に手を付く幼女。


驚愕と空振る警棒。


コマ送りになる光景は、身体ごと回転して回し蹴りを放つ幼女をはっきりと捉えていた。


地を転がる大男、見下ろす幼女。


勝敗は誰が見ても明らかだったが、シュンヤだけは内心で悪態をつく。


思い出したぞ!


薬師寺リンドウ!


凶悪犯を検挙した警官!


クソの役にも立たねえじゃねぇか!


見せかけの図体しやがって!


お前なんか要らねぇよ、クソが!


「…俺の負けだ。好きにしろ」


項垂れるリンドウに犬が近付く。


「良い踏み込みだった。それを返して下がるが良い」


リンドウは警棒を返すと、シュンヤたちの元へ戻ってきた。


あまりにも悔しげな顔つきに、シュンヤの内心の悪態も鳴りを潜める。


シュンヤはこの時点で名乗りを上げるべきだった。


そうすれば、少しくらいは勇気を認められていたかもしれなかったのに。


「では次の者。前に出るがいい」


三者三様に思いがあり、一瞬の沈黙があった。


デブ眼鏡は意に返さず、JKは敗れたリンドウを見て、シュンヤは他者を窺った。


誰かが言葉を発する前に一歩を踏み出したのは、JKであった。


「じゃ、ウチが行く」


まるで散歩に行くように軽やかに。


しかし、シュンヤからは見えぬ瞳は鋭利に。


「剣崎エイリ、だな?」


犬による名の確認に頷くと、犬が差し出したのはまさかの刀だった。


「これを使う事を許可する」


受け取って刃を見たエイリが目を見張る。


「こんな業物を…?!……俄然燃えるじゃない!」


「励むが良い」


「言われなくても!」


エイリが刀を抜く。


鞘は投げないあたり礼儀を感じるが、シュンヤにそれを感じるだけの知識も感性もない。


ただただか弱いように見えていたJKが、いきなり刀を構えて飛び出したので、驚愕するしかなかったのだ。


そこでようやく思い出す。


剣崎エイリ。


高校生バトルマニアの配信者。


ガチの戦闘経験こそないが、剣術家の家に生まれ、居合道、剣道、格闘技各種を渡り歩き、道場破りで敵をなぎ倒す謎のクレイジーバトルガール。


……動画は偽物ではなく、ガチのガチだったらしい。


一閃、二閃。


烈帛と震脚にも似た踏み込み。


リンドウとは違って、一点に重く鋭い。


横に縦に振られる白刃をものともせず避ける幼女だが、少なくともリンドウよりは可能性がありそうだ。


シュンヤは驚愕が残りつつも自由に手が届く希望を垣間見た。


しかし勝敗は一瞬であった。


「?!」


白刃、止輝(その刃、動きを失う)


鋭い拍が響くと、幼女の白魚の手が、刀を挟んで留めおいていたのだ。


「……!」


カタカタ鍔が鳴る。


エイリが力を入れているのに、刀は動かない。


動きを止められ、心を折られたエイリはそのまま敗北を認めた。


事ここに至り、シュンヤは焦りを感じ始めていた。


「次!お前が行けよ!」


自棄になりデブを前に出す。


コイツなら無様に負けてくれる。


そうすれば、俺が負けてもカッコがつくだろ。


その程度の認識だった。


「相楽リョウ、だったな」


柔道経験者だったらしく、デブのくせに体捌きが上手い。


無様に負けるどころか果敢に向かっていくではないか。


「さて、最後はお前だ」


犬が迫る。


「滝原シュンヤ。お前はこの中の好きなものを選んで良い」


剣、棒、弓矢に、斧。


どれも使える訳ねぇだろ。


俺は、エリートだぞ。


馬鹿にするのも、大概にしろよ。


そうだ。


「これ、使わせろよ!」


犬が下げていた剣を抜く。


「おい、それを使って良いとはーーー」


「グレイン、良いよ」


幼女がニヤリと嘲った。


その余裕ヅラ、ぶっ壊してやる!


「死ねよ、犬風情が!」


ちょっと重いが十分使える。


横薙ぎに振るう剣を、幼女は避けようともしない。


その瞬間、シュンヤにははっきりと声が聞こえた。



「お前は要らない。自由にしてやるよ」



剣を掴み、逆の腕を掴み、幼女はニンマリ嘲って告げる。


「ーー《夢幻鏡の刃(ヴォーパルエッジ)》」


そして腹パン。


盛大にぶっ飛ばされ、俺は痛みで起き上がる事もできずに倒れ伏す。


「グレイン。コレはつまみだしてちょうだい」


「御意」


朦朧とする意識が戻って来たのは、門から外に放り出され、門が閉められた後だった。


傷が痛む。


口が切れている。


クソが。


睨んでも門は開くわけもなく。


「あ、ぁ?」


気付けば手には紙切れが握らされていた。


『お前は自由だ。好きに生きるが良い。ちなみにお前のギフトは《焔の担い手(フレイムトーチ)》だぞ♡気が向いたら使え♪』


あのクソガキ!


何故か読めるメモ。


破って捨ててやろうかと思ったが、ギフトとやらが気になった。


ステータスは無かったが、これは魔法的な何かかもしれない。


………………一応、試しておくか。



手のひらを閉じた門に向ける。




「ーーー《焔の担い手(フレイムトーチ)》」





唱えた瞬間、焔が飛び出た。






門ではなく、俺の方へと。







手を焼き切り、腕を焼き切り、顔を焼く。








熱いとか、痛いとか、感じるまでもない。









一瞬で弾けた。










何が起こったのかわからず、俺は死んだ。











カルシャのギフトによる反射など、シュンヤには理解しようもなかったし、出来ても無駄だっただろう。


四人の捕獲された転生者の中で唯一ハズレだった男は、中身もハズレだということを、延々と散々と証明してしまったのだ。


故にカルシャは切り捨てた。


こうして哀れな頭は弾け飛び、滝原シュンヤという転生者は、そのハズレだらけの転生ライフに自ら幕を下ろす事となったのだった。


後書きウサギ小話

もしも採用面接だったら…編



「薬師寺リンドウ、警官…護衛のようなもの、特技は体術です」


「採用」


「剣崎エイリ、切れたナイフ、バトルマニアでぇーす」


「採用」


「相楽リョウ、戦えます、身体柔らかいです、頑張ります」


「採用」


「滝原シュンヤ、エリート、採用しなよ、損させないから、さっ!」


「パーフェクト不採用」


君の瞳にフレイムトーチ!


完!

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