7.最弱ウサギさん、遺跡にて危機に陥る
センテ神殿遺跡。
センテの街から少し離れた森の地下に造られた古い神殿だ。
元々隠された神殿であり、侵入者を阻むシステムが今でも稼働している。そして、腕と運の良い者が時折遺跡に眠る宝を持ち帰って生還する事もあるような、夢と危険の同居する遺跡だ。
「今回の目的は、第4層にあるらしいとある本」
遺跡に本。
神殿らしい宝物だろう。
「どんな本なの?」
「書かれた内容のギフトを授かる本」
レイジの質問に答えてやると、二人共驚いた表情になった。
「マジっすか」
「マジも大マジよ。私は一度だけギフト本を見たことがある。もしかしたら偽物かも知れないけどね」
古い古い図書館の奥深くで埃まみれで虫食い跡だらけの本だった。
実際に獲得できるか試したところ、使用済みだったらしくギフト獲得はできなかったのだが、ギフトを多数授かるカルシャには漠然と本物なのだと感じられた。
具体的には、呪い堕とす時の感覚に似たものを感じたのだ。
「で、それがセンテ遺跡にあるんだ?」
「情報が正しければ、ね」
酒場の与太話の真偽など定かでは無い。
だが、カルシャの直感がそこに行けと言っていた。
「僕の報酬は?」
「これくらいでどう?」
傭兵の護衛の報酬の1.5倍。
革袋に詰めた硬貨を見せる。
「…その半分で良いよ。その代わりー」
ひどく真面目な顔つきで、レイジはカルシャに言う。
「ーーー終わったらデートしない?」
ひどく軽いお誘いだった。
「ルシャ姉、顔、顔…」
エリスに言われて表情筋を働かせる。
恐らく相当ひどい表情だったに違いない。
「気が向いたらで構わないよ」
「ま、成功したら考えないでも無いわ」
何を考えているのか、相変わらずよく解らない男だ。
*
そんな会話を地上でしてから、はや数時間。
先頭で罠を警戒しながら進むエリスに続いてカルシャ、最後尾をレイジが進んでいく。
地下に広がる遺跡はひんやりとして、湿気っている。
こんな調子で本が傷まないのか心配だが、何故かこの手の物は劣化しない。
原理は知らないが、もし本物ならきちんと状態を保って残されている筈だ。
徘徊するモンスターを避け、罠を見つけては解除し、または迂回して下の階へと進んでいく。ウェアウルフの鼻とウサギの耳、傭兵の観察力によってここまで戦闘なし。
かなりの快挙だろう。
既に第三層。
ゴールは近い。
いくつか既に宝物も手に入れた。
そんな折。
「それにしてもーーー」
レイジがふと、呟く。
「ーーー初任務の護衛で全滅して帰ってきてから、よくここまで立ち直ったよね、ルシャーリア」
姿だけを真似たカルシャ、そのオリジナルの名前を。
通行証に書かれた名前は、ルシャーリア・ルークス。
モンスターに滅ぼされた何処だか知らない村の唯一の生き残りにして、カルシャが殺した新米傭兵。
「わざわざ調べたの?」
そのオリジナルを、レイジは知っていた。
いつから?
万が一正体がバレたら?
カルシャの中で、処理した場合に足が付く事と、このまま放置する危険性が揺らぐ。
動揺を隠しながら、カルシャは平静を装って会話を続ける。
「いいや、前から知ってたよ。なんせ、同時期の傭兵登録だったからね」
「なら、私の噂も知っているでしょ?」
護衛対象も仲間も見捨てて逃げ帰った腰抜け。
ルシャーリアを模倣する際に作ったシナリオ。
護衛対象共々モンスターに襲われて壊滅し、一人で帰還する。
互助会発行の傭兵証だけを持ち帰り、報告を上げて、臆病者で失敗した新米として孤立して、やがて忘れられる。
この男は、そんな他人を覚えている一部の奇特な人間だったらしい。
「僕は信じないよ」
「変わってるわ、アンタ」
カルシャは足を止めた。
そして、腰に下げた真新しい剣の柄に手をかける。
カルシャに合わせてエリスも立ち止まり、レイジもまた立ち止まった。
「旅に出て帰ってくる度に少しずつ強くなっていってる気がしてたけど、遺跡を進む様子を見て確信したよ」
振り向いたカルシャの目を見て、レイジは言う。
「君はとても強い。僕なんかじゃ足元にも及ばない」
「…よく解ったわね」
レイジの目は、カルシャがルシャーリアではない事を見抜いている。
そんな気がした。
レイジは告白する。
「誰にも言ってなかったけど、僕はマルチギフトだからね」
レイジの目が金色に染まった。
「君のギフトが見える」
その瞬間カルシャが剣を抜き、レイジが慌てて両手を上げる。
「待ってくれ。敵対する気は無い」
「どういう事?」
訝しむカルシャに対して、レイジは言い切った。
「君が好きだ。だから、本当の君が知りたいんだ、カルシャ・グリム」
後書きウサギ小話
目的の本とは・・・編
「今回の目的は、第4層にあるらしいとある本」
遺跡に本。
神殿らしい宝物だろう。
「どんな本なの?」
「ヱロ本」
下ネタ!
完!