2−27.新たな勇者さま、現る
聖都東門街。
一神教施設のとある館。
地方都市グリサの街区長アルバート・ヘリオンは、受付の僧兵に案内されて会場に立ち入る。
絢爛な迎賓館。
その大広間には、既に数十人の司祭の姿があった。
「これはこれは、アルノー街区長殿。貴方も招待されていたのですね」
「おや、クラム副街区長殿?あのような片田舎にも招待状が届くとは驚きですな」
「ギステト街区長代理までいらっしゃっているとは、珍しい事もあるものですねぇ」
既にグラス片手にギスギスとした会話をしている。
各街から2、3名といったところか。
街区を取り纏める街区長級の者ばかりだ。
街区長という肩書は地方都市の最高峰であり、聖都へ登るための最低限ライン。
多くの街区長は金とコネを駆使した既得権益狙いの俗物で聖職者とは程遠い。
アルバートもその例に漏れず、次期街区長の指名依頼と聖都への招待状が届けば、その意味は当然昇格だと考えていた。
だが、グリサは比較的貧困層側の都市。
この面子の中では、アルバートの序列は下から数えた方が早い。
次期候補から積まれた献金と昇格の事実にウキウキと次期街区長の推薦状をしたため、一張羅に豪奢な馬車を用意し、聖都に向かったのだがどうやら違うらしい。
(どういう事だ?やはり昇格ではないのか?しかし摘発にしては数が多すぎる…)
どうやらそうではないらしいと気付いたのは、ようやく現地の施設に着いてからだ。
派手な馬車がいくつも並んでいれば、異変にも気付くというもの。
ここに通されて、比較的聖都に近い街区長たちが軒並みがん首を揃えているのは最早異様で想定外すぎた。
聖都に呼び出された各地の街区長たちは、今度こそ自分が昇格し聖都入りできるものと喜び勇んでやってきた訳だが、同じく街区長に就く者が多く集められている状況を見て、小物らしく互いに牽制しあっている訳だ。
よもや全員が昇格する筈はない。
誰が蹴落とされ、誰が昇格するのか、まさに疑心暗鬼。
誰かが情報を握っていないか、互いに探り合っていた。
その中でもアルバートはかなり遅い到着だったらしく、幸いというべきか、ほどなくして会合が始まる。
グラスに葡萄酒。
異様と僅かな緊張を紛らわすため、一口口に含む。
広間の奥、二階に続く階段から降りてくるのは、ここ聖都東門区の司祭長の一人。
用意されたお立ち台で、式次第を開く少し青白い顔。
昇格すれば同じ立場となるはずの役職の司祭には表情がなく、法衣は少し大きめで不恰好だった。
(なんだ?清貧組か?やけに不恰好なやつを表に立たせたな…)
清貧組とは、金を積まずに司祭長になった者の事だ。
それ以上昇格はなく、街区長あがりから見れば完全なる負け組なのだが、どうにも違和感がある。
「…お集まりの皆様方、まずは聖都まではるばるお越し頂きありがとうございます」
当たり障りのない定型文の挨拶が、いささか生気の不足した声で発せられる。
だがそんなものはどうでも良い。
重要なのは、この会合の主題の発表だ。
粛清か昇格か、はたまた何かのお披露目か。
この状況、自身の粛清以外ならどれでも良い。
早く、教えてくれ。
アルバートかそんなことを考えつつ聞いていると、ようやく待ち望んだ主題が明かされる。
「さて、本日お集まり頂いたのは、新しい勇者のお披露目をするためで御座います」
どよめく。
混じる安堵の色。
皆考えていた事は同じなのだろう。
祝事である勇者のお披露目ならば、同時の粛清の前列はなく、なんなら多数の昇格もあり得る。
「新しき勇者は、支勇特別司祭エスト様が迎え入れられました転生者に御座います」
また転生勇者か。
ギフトの質を考えれば、まぁ仕方のない事だが。
こちらの世界の人間では戦闘系以外も授かるからな。
さて、またひょろっとした若者だろうか。
「では、盛大な拍手を以てお迎え下さい」
司会と同じように二階の扉が開き、僧兵とともに勇者が階段を降りてくる。
女だ。
胸は少し足りないが、健康的で引き締まった身体をしている。
つやのある肌に肩までの黒髪。
若いな。
こないだ死んだライナよりは少し年上か。
組み伏せてやりたくなる生意気そうな顔だ。
欲望を抱くくらいには女の色気がある。
「あたしの名前は小鳥遊ヒヨリ。縁あって勇者として呼ばれました。よろしくお願いします」
今までの転生勇者たちと同じで、少し緊張している異世界人っぽい反応だ。
まだこの世界に慣れていないのだろう。
上手く取り入れば、いいコネになるかも知れない。
アルバートはそんな事を考えたが、事はそのとおりには運ばなかった。
「ヒヨリ様は転生して間もなく、今宵はこれにて退出となります。皆様には別のご報告も御座いますので、今しばらくこの場にてお待ち下さい」
新人勇者は階段を登り、そそくさと二階に引っ込んでしまう。
代わりに、意外な人物が現れた。
「皆様、ご機嫌麗しゅう御座います」
二階の反対の扉から現れたその人物に、周囲がざわめく。
白金の法衣。
神の加護を示す冠。
金の錫杖。
普段お目にかかる事などない、高貴なる司祭の頂点。
「教皇、様…だと?」
一神教最高司祭、教皇ルミニクス・ハンナデルカ。
街区長級では直接会うことすら叶わないような権力者である。
ざわつくのも仕方のない事であった。
「さて、本日は皆様に嬉しいご報告が御座います」
生の教皇をこんなにも近い距離で見られることなど無い。
男とも女ともとれる美しい容姿。
装具に負けぬ顔立ち。
その一言で、この場の街区長たちは虜になった。
ルミニクスのくちびるが小さく歪む。
「今日から皆様は、聖都の大司祭長となるのです」
異例の全員昇格。
アルバートたち街区長は知らぬ事だったが、ライナが惨殺した者たちの補充のための昇格だった。
そして、聖都入りする事になった時点で。
「同時に、皆様に残念なお知らせも御座います」
街区長たちの穢れた精神は、不要なモノとなった。
教皇が開くギフトの力によって、魅了されたすべての街区長の心が割れる。
「さぁ、心を染め上げ、ともに世界を神の御代へと導きましょう」
心は砕け、残されたのは一神教への忠誠心。
数十人の傀儡司祭が生まれ、一神教は失った信徒を補充する。
教皇の慈愛に満ちた微笑みは、そんな司祭たちを静かに見守っていた。
後書きウサギ小話
いわゆるテンプレ?編
「なんか邪悪な気配を感じるわ」
「小生もゾワッとしたでござる」
「これはあれだわ、良い人ぶった奴が悪い奴だった的な気配だわ」
「聖人こそ悪人、よくある設定でござるな」
「…設定言うなよ、身も蓋もない」
神様ラスボスありがち説!
完!




