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2−22.悪夢の魔王さま、運命に抗う

「カルシャ殿ー!」


「コレは…何という事…」


立ち尽くすカルシャの背後から、ようやくツワブキたちが追いつく。


そして、石門前の惨劇を目の当たりにした。


惨殺された3人、焼け焦げた周囲、腹の裂けたエリスの亡骸を見て絶句した。


未だ燻る木々、煤けた匂いは留まり、まるで事実を認めたくないと駄々をこねるみたい。


何という有様か。


元より殺し殺される獣の定めとはいえ、誰がこの結果を予想しようか。


眠るように死んでいるその顔には、悔しさが見て取れる。


だが、それかどのような経緯をたどった想いなのか、一切は既に闇の中だ。


きっと有ったであろう別れも想いも伝わる事なく、一番の臣下は事切れていた。


「………………ーーーーーーーーーー」


それを余りにも静かに見下ろしたまま、カルシャは微動だにしない。


ツワブキやグレインからは、カルシャの顔は覗えない。


その背中は後悔や未練が透けて見えるような気がした。


だが、かけるべき言葉は見つけられず、臣下たちはただただ見つめる事しか出来ずにいる。


痛々しい黙祷だった。


それは幾らの時が経ってからの事か。


余りにも長く、しかし一瞬にも似た時を経て、カルシャの口が開かれる。


カルシャは墓標のように突き立った御旗の前に告げた。


「ーーーーエリスと戦闘班の3人を、御所へ運んでちょうだい」


その言葉は、手を尽くす、と告げていた。


「しかし、エリス殿はもう…」


エリスの身体は既に冷たく、血は流れきっている。


ここから蘇生する事など、あり得ない。


それを言いかけたグレインの悔しげな言葉を、カルシャは語気強く遮った。


「ーー良いから!…運んで」


「…御意」


そう言われて命令を拒否するグレインではない。


戦闘班3人とともに、エリスの死体を丁重に持ち上げ、御所へと運んでいく。


「ツワブキ。レイジとニーフェを御所へ」


「御意」


星の瞬く明るい空。


魔王は独り、晴天の虚空を恨めしそうに見上げた。





その晩、レイジとニーフェから報告を受けたカルシャは、外壁警戒を指示した後、今晩に限り、緊急でない報告の一切を受けず、御所に立ち入る事を禁じた。


夜が明けるまでの数時間。


カルシャは誰にも会わず、誰とも喋らず、ただ御所の中で懸命に戦ったであろう臣下たちの亡骸を前にしていた。


その心の中で何が渦巻いていたのか。


その結論を他の臣下たちが聞くのは、夜明けよりしばし経った頃。


いつも御前会議を開いていた時間になった頃であった。





「一晩考えて決めたんだけど、皆聞いてくれる?」


集められたのはいつもの顔ぶれ。


レイジ、ツワブキ、妖精姉妹にグレインとニーフェ。


今は物言わぬエリスと、神殿から持ち帰った鎖薙剣皇(クサナギノツルギオウ)も同席。


その面々から見たカルシャはいつものカルシャだった。


至極、普段通り。


あれだけ激昂して地虫を焼却した人物とは思えない落ち着き様なので、カルシャの決断かどのようなものなのか、この場の誰にも予想が付かなかった。


カルシャは静かに語りだす。


「私の決断は、こうよ」


言ってカルシャは立ち上がり、神威の刀を取り上げる。


「ーーー異形の魔王の力を取り込む」


それは変質を容認する決断だった。


妖精たちから種を受け取る際に却下した、自身の変質を伴う力を受け入れる。


それが何を意味するのか、それで何を為そうとしているのか。


ツワブキが問いかける。


「…カルシャ殿。御身はその力で何を為そうとしているでござるか」


カルシャの目は本気だった。


説明は一見、不可解な問い返しから。


「この樹海に、どうしてあんな地虫がいたと思う?」


ここから先はカルシャの想像も含む。


「ベニグソクムカデは聖都の西の砂漠地帯に生息する地虫よ。寄生した人間がこんな遠い場所にいるなんておかしい」


いつでも知識は役に立つ。


判断材料を増やして、より正しい判断を導いてくれる。


生きた餌に卵を産み付けるこの地虫は、砂漠地帯などの乾燥した土地に生息する。


寄生された餌は麻痺して動けなくなる上に、卵は一日かからずに孵化して餌を食い破るのだから、このレソルガ樹海にいるはずが無い。


ましてや、寄生されているのに普通に戦ったなど、尋常ではない。


「黒幕がいるのよ。何処の誰だかは知らないけど」


状況証拠から判断するに、あの人間を操っていた奴がいる。


「復讐、でござるか」


「復讐はするわ、いずれね。でも、今じゃない」


今はそんな事はしない。


報いを受けさせるには、それ相応の準備がいる。


だから、カルシャが決めたのはエリスについて。


「私が決めたのは、エリスの異形化よ」


ここでようやくコイツの出番だ。


「この剣には異形の魔王の魂が宿ってる。それを私は受け入れる」


神殿からの帰り道、コイツから話を聞いていた。


竜魔王ゲッコウという、異形の種を芽吹かせた魔王の話だ。


そいつは異形へ変化を成し遂げつつも、理性を最後まで失わなかった。


その理由がこの神剣であり、ウォロクの法衣と同じように魂を宿したアイテムなのだ。


「異形の種を得る事は出来ないけど、ギフトを一つだけ受け継げるのよ」


ウォロクとの違いは、カルシャの持つ種と違うという点。


カルシャには異形の素質があり、受け継ぐ事は出来るものの、ウォロクから受け継いだ程の力は得られない。


「私は《改造の王笏(ワンドオブリビルド)》を手に入れる」


それが上位者ギフト1つ分。


その分の力で、変身能力の上位互換である改造を選ぶのだ。


このギフトであれば、死した身体すら改造し、生きているように動くようにも出来る。


そして、あわよくば。


「エリスを生き返らせる事は出来ないけど、不死種(・・・)に改造する事は出来るわ」


生ける屍。


精神を呼び戻せるかまでは解らない。


「ゾンビ化、でござるな?」


心が戻らずただの死体人形になるか、それとも心まで戻って吸血種になるか。


暴走するかもしれないし、しないかもしれない。


でも。


やってみなければ始まらないし、可能性はゼロじゃない。


「…下僕が勝手に死ぬなんて、赦さない。絶対に呼び戻してやる」


他人の運命なんて知らないけど、出来る事はやってやる。


「運命なんて掃いて捨ててやるわ。私がルールになってやるんだから」


何故なら、私が魔王だから。


ビクビクして生きていくのは止めだ。


力を持って、他の魔王の話を聞いて、カルシャは少しだけ変わった。


わざわざ攻めてくる奴がいるんなら、徹底的に叩いてやる。


「だから、アンタたちも覚悟しなさいよね」


最弱ウサギは臆病者で。


真の悪夢は、復讐からは生まれない。


「ーーー勝手に死ぬなんて、赦さないから」


ニヤリと歪んだ口元から八重歯が覗く。


最凶魔王は苛烈だ。


悪夢は最初から悪夢なのだ。



後書きウサギ小話

生きてる?!編



「黒幕がいるのよ。何処の誰だかは知らないけど」


「バレちゃあ仕方ないっすね」


「テッテレーン」


「ドッキリかよ!」


黒幕感ゼロ!


完!


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