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2−20.覚醒ようじょさん、強敵と戦う

終演の冷たい雨は止まない。


エリスが繰り出した鋭い蹴り上げによって、不気味な侵入者は倒された。


結果として、犠牲者は3人。


戦闘班のうちの一組だ。


これでも最小限の犠牲だったと言えよう。


未だ滾る内腑、その熱を吐息に吐き出す。


傍に転がる仲間たちだったモノに内心謝罪を告げながら、エリスは頭蓋ごと砕かれたハンターへと近寄る。


生死の確認をしなければ。


「…自分のした事ながら、凄い光景っすね」


ハンターの下顎は砕けて左右に割れ、そのまま鼻腔を踏み抜いて脳髄を破壊していた。


厄災の力をぶん回すとこうなるらしい。


途方もない暴力が己の身に宿っていると再認識させられ、冷水を浴びせられたみたいに冷静になった。


どんな顔だったかすら解らない有様のハンターに、しかし同情も憐憫もない。


攻め込んできたのはお前だ。


最初に殺したのはお前だ。


「…よもや獣の摂理を忘れてはいないっすよね?」


殺し殺されるのが獣。


そこに心はなく、道理もない。


敵対したら最後、言葉や心を尽くして互いに和解しようとしない限り、敵は獣と同義だ。


人間はモンスターを敵としてみなす。


今回もそうだっただけの事。


簡単な事だ。


いつでも起こりうる悪夢だという事なのだから。


だから。


「何…、何だ、この違和感…?」


弱肉強食も常に起こりうる。


エリスは言い知れぬ感覚を覚える。


嗚呼、まるで蛹の孵化を握り潰す光景。


それ即ち。



「堪ら、ぬ血で、誘う、ものだ、ものだ、ものだ、モノダ、カカカ、カカカ!」



弱者だと思い込み、逆に牙を剥かれるのもまた、常。


壊れた喉から発せられる異音とともに、ビクビクと死んだハンターの身体が跳ねる。


爆ぜるような肥大化。


先程仲間たちから溢れたような色と同じ肉塊が脈動する。


変身?


それとも変質?


いずれにせよこれは人では無く、まともな生き物ですらない。


大きな肉塊と化したハンター。


脈動と異音と腐臭。


バキボキ、ゴリゴリ、ミリ、メリ。


およそ人体が奏でて良い音ではない。


取捨選択、破壊と再生、再構築は見事に、鮮やかに。


生理的嫌音をたて、死体=肢体がすらりと伸び上がる。


その威容。


見上げる。


後ずさる。


嫌悪から?畏怖から?


本能が告げている。


危険である、と。


「えづく、えづく、えづく、えづく、づくづくづくづくづくづくづくづく、え?」


意味不明、支離滅裂、破滅の落し子。


ゆうにハンター三人分の位置に頭があり、黄色くつるんとした複眼がいっせいにエリスを見つめる。


びっしりと整列した視線の群れ。


その一つ一つに殺意はなく、代わりにあるのは食欲。


黒光りする甲殻、滑らかに蠢く千の足、しなる巨体。


エリスが割った顎がぶら下がる口には人など容易く砕くであろう大顎。


地虫、ベニグソクムカデ。


人間などの生物に産み付けられた卵から孵化し、甚大な食欲を備える厄災の害虫である。


緊張から、槍を握る手が震える。


「ケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノセツリセツリセツリセツリセツリセツリセツリセツリ、ワスレテイナイッスヨネ?」


大顎が軋んで、嘲ったような気がした。


次の瞬間、鎌首をもたげていた地虫が牙を剥く。


「?!」


咄嗟に避ける。


地面が抉れていた。


ゾットする程の大穴だ。


獣化を解いていたら死んでいた。


だが、ここで退けば都市が死ぬ。


カルシャの築いた拠点も、臣下もいなくなる。


それは…それだけは、断じて許す訳にいかない。


本能(きょうふ)勇気(りせい)で抑え付け、エリスは槍を握りしめて吠えたける。


「ウェアウルフを!舐めるな!」


剛力、山をも崩す。


渾身の力を込めた一閃とともに飛びかかり、ムカデの腹を切り裂く。


が、浅い。


衝撃に手が痺れる。


分厚い甲殻は骨由来らしい。


すこぶる硬く、ミスリルの槍ですら砕けなかった。


すぐさま飛び退けば、大顎が降る。


足を止めた時が死ぬ時だ。


死んでたまるか。


「シャッ!」


また弾かれる。


浅い傷を重ねるなんて芸当は、エリスには無理だ。


だが、諦めることはしない。


硬いなら砕けるまで斬る。


倒れないなら倒れるまでやる。


死ななければ負けじゃない。


飛び跳ねる、転がる、掻い潜る。


無様に踊って巨体のしなる攻撃を回避し、傷を作り続ける。


さぞ苛立たしいだろう。


さぞ鬱陶しいだろう。


なんたって、主人にすらウザいと言わせるくらいなのだ。


しつこくて当たり前でしょ?


「シャァア!」


この時、エリスは熱く冷たい刃そのものだった。


災厄の炎を纏う槍を振るう、ひとふりの武力そのものだった。


エリスに植えられた上位者の種は、ようやく地からその芽を現したのだ。



後書きウサギ小話

心の中の愛しの魔王さま、編



さぞ苛立たしいだろう。


さぞ鬱陶しいだろう。


なんたって、主人にすらウザいと言わせるくらいなのだ。


しつこくて当たり前でしょ?


心の中のカルシャ)『そうね、ウザ暑苦しいわ(¯―¯)』


僕の心の中でもしどい!


完!



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