2−19.悪夢の魔王さま、神域の主と対峙する
大きな石門の前にカルシャが立つと、石門のとある一点に目が吸い寄せられた。
そこには認識できない文字で何か書いてある。
「…封じられし扉開きたくば、上位者の資格を示せ」
意味だけは読み取れる。
「読めるでござるか?」
ツワブキが僅かに驚いたが、カルシャは癪だった。
知らない知識を勝手に読まされるのは、無知だと言われているようで気分が悪い。
「…違う。読まされてるのよ、この扉の仕掛けに」
これはギフトじゃない。
妖精たちの力と同じだ。
「これもまた魔術、でござろうな」
魔術。
一体何なのか。
今は考えないでおく。
石門に手を当てると、石の冷たい感触とは別に、痺れるような感覚が走った。
だが、無視してそのまま手をつけ続ける。
石門の文字に従って、カルシャは資格を示すべく名乗りを上げた。
「…我が名はアーデカルシャ・グリムレクス。識魔王ウォロクの力を受け継ぎし夢魔王にして、この身に《魔王種》と《革命の徒》を宿しし者。我が身に資格があるならば応えよ、その封印を解き放て」
名乗りを上げた瞬間、身体を這い回る何かを感じた。
生き物ではない。
内側まで弄られる感覚。
ギフトによる偽りの身体、その中心にあるウサギ本体を直接触れてくる。
完全に変質していてウサギが埋まっていることなんてないのに、そんな風に感じる。
正直気持ち悪い。
いや、そんな生ぬるい感触ではなく、悍ましいとさえ思える。
今まで生きてきて初めて味わう感覚だ。
だが、これが門を開くための試練であると同時に理解する。
魔術とやらがカルシャを試しているのだ。
門を開くべきか否か。
封じられた者を拝謁する資格を、見極めているのだ。
悍ましい詮索は長く続いていたが、それもややあって終わった。
嘔吐感と嫌悪感を残して、唐突に。
わだかまる胃の重さを抑えながら、カルシャはゆっくりと石門から手を離し、一歩、二歩と後ずさる。
審判やいかに。
しばしの沈黙。
石門を見上げると、不可解な文字列に目が寄る。
《汝、アーデカルシャ・グリムレクスとその侍従ツワブキ・ヤサカの拝謁を認め、ここに封印を解き放たん》
その文字列の意味を認識した瞬間、石門がゆっくりと動き出す。
ゴリゴリと石の削れる音、巨石の動く振動を伴って、八頭竜の図柄が割れ、石門が奥に開いていく。
真っ暗闇の神域が、今まさに開かれた。
「グレインたちは待機。この先はアンタたちじゃ歯が立たないわ」
拝謁を許されたのはカルシャとツワブキのみ。
「悔しいですが仕方ないですね。ご武運を」
「行くわよ、ツワブキ」
「御意」
いざ神域へ。
魔王様と竜神剣の対面である。
*
入った瞬間スポットライトが灯り、目の前に台座に突き立てられた剣が現れる。
そして。
「新参さん、いらっしゃーい」
「「は?」」
桂○枝かよ!
いや、誰かは知らないけど、そんな感じだぞ!
誰が喋ったのかと周りを見回すと、該当しそうなのが目の前にある剣しかない。
コイツか?
コイツなのか?!
ひょっとして神剣って、本当に神剣なの?!
「…いや、ノリ悪いで。はいどーもーって入ってきてくれな」
再び剣が喋る。
本当に音を発している訳ではなく、思念を送られているっぽい。
なんなんだ、いきなり急展開すぎるぞ。
そして神剣のキャラクターにいささか混乱しているぞ。
「…ちょっと待って、理解が追いつかないわ」
「…それは、追いつかないではなく、拒否してるのでは?」
どうやらツワブキにも聞こえているらしい。
カルシャの頭がイカれた訳ではなさそうなので、ひとまず安心だが、全然安心できる材料がなかった。
なんて矛盾だ。
「久しぶりのお客さんやから歓迎してんのに何なん?不満なん?…あ、ウサギだから溜まってるん?」
「うざ絡み!」
しかも下ネタだ。
万年発情期とか言うんじゃねー!
「まるで飲み屋のオヤジみたいでござるな…」
まるでっていうか、そのものだと思うが。
あ、コイツ思念通話だから全部聞かれちゃうのか?
しかし本当に呑んでるみたいな絡み方だな、…面倒くさ。
「面倒くさい言うなや!ったく、呑まずにやってられるかい、こんな封印生活!」
「キレられた!?」
しかも本当に呑んだくれなのかよ!
あれか?
その台座にお供えしてあるの、神酒か?神酒なのか?
「まさか此方でもキレる老人を見ることになるとは…」
やれやれすると、剣が再びキレ散らかす。
「老人言うな!イケジジ言わんかい!」
「えぇ…自称(困惑)」
「だいたいイケジジかどうかも判断つかないでござるが」
っていうかジジイなのね。
「はぁー、人が歓迎してんのに、最初からボケ散らかしよってまぁ!」
「いやお前だよ!」
「ボケ散らかして回収しないのはお主でござるよ!?」
ダブルツッコミもほろろ、剣のジジイはカッカと笑う。
「冗談はさておき、この神殿最奥までよく来た!」
「確認だけど、アンタが鎖薙剣皇で良いのかしら?」
「如何にも。儂が鎖薙剣皇…と言いたいところなんやけど、違うのよね」
テヘペロ♪
汚いジジイでイメージ画像を流すな!
「違うんかい!」
全くとんだ精神汚染だな!
「いや、本体はほれ、後ろ見てみ?」
剣に言われるまま、台座の後ろを見やる。
暗闇がさぁと晴れると、台座の後ろは数歩で絶壁。
地下深くまで拡がる空間があり、そこを埋める何者かが沈黙していた。
「何よ、コレ…」
「大きすぎるでござるな…」
拡がる腐臭の大元。
鋭い角に棘。
人が隠れる程のサイズの鱗。
八つの頭に十六の眼。
腐りかけてもなお、威容を失わない神の化身。
全貌の見えないソレは、巨大な八頭竜であった。
「…これが、儂の本体だった」
剣はしみじみ零す。
「だった?」
「もう封印されて永い。異形の種の侵食が進んだせいで、もう制御できひんくなってる。頭も腐ってもうてるしな」
確かに頭は一部が白骨化しており、目玉は溶けているものもある。
じっと見るとけっこうグロいので目線を戻した。
「じゃ、アンタは何者なのよ?」
さて、本題はコイツだ。
「本体が無事だった頃に、いずれくる精神崩壊の準備として、その時の正常な精神をコピーした刀が儂や。いわゆる分霊みたいなもんやな」
異形の種《異形》。
上位者の中でも、魔王の種より強大になる可能性がある種だ。
その代わりに、元の姿を失くし、自己崩壊する者もあるという種。
コイツはかつて異形の魔王だった。
「アンタも種持ちだったのね」
「そうや。この剣は崩壊に備えて本体の尾に仕込んどったんやけど、封印前に運悪く摘出されてしまってなぁ。で、本体は精神崩壊して暴走、なんとか封印に持ち込んだ当時の勇者によって、この水底の神殿に閉じ込められたって訳や」
いつの話だかは知らないが、この巨体を封じたのだから、さぞ強い勇者だったのだろう。
凄まじい戦いだったに違いない。
ギフトを得るには、この巨体の封印を解き、倒す必要があるという事だ。
…マジで言ってる?
冗談きついんだけど。
普通に死んじゃうやつじゃん。
帰っていいかな?いいよね?誰かいいって言ってよ!
「ではギフト獲得のためには、この竜本体を倒さなければならない、ということでござるか?」
わかりやすくツワブキがとどめを刺しにきたが、神剣の答えは意外なものだった。
「あー、それなら別に本体じゃなくてもええんちゃう?」
へ?
どゆこと?
その疑問を抱いた瞬間、石門や竜の時と同じように視線が誘導されていく。
台座から向かって右の端の方、作業台のような場所に剣が山積みになっている。
神剣と同じ形状のものが無数に、無造作に、だ。
「…なにあれ?」
「複製した神剣や」
軽く言うわね。
「つまりアンタ?」
あれが喋ったら、さぞ煩いでしょうねぇ…。
「まぁそういうこっちゃな」
焼き払いたい衝動に駆られるが、いったん抑える。
「あれを折ればいいわけ?」
ギフトの条件は、“荒龍の御霊宿りし剣の王の調伏”だったはずだが、そんな事で良いのかしら。
「んー、まぁ…試しにやってみ?」
まぁそう言うのなら、やってみよう。
ポキっとな。
脆っ。
刃もボロボロだし、およそ金属の重さじゃない。
まるで乾いて固まった土塊みたい。
本当にこんなんで良いの?
もっとバトル展開だと思ってたんだけど。
…いや、まぁ、戦わないで済むなら越したことはないけどね?
とにかく、確認だ。
「《時計修理の妖精》」
ギフト一覧を開く。
さてさて、どうかな。
革命系列、下から見ていくと、果たして。
「獲得できてる…」
えぇ…。
こんなんでええんかいな。
おっと、移ってしまった、やばいやばい。
「複製には自我もないし折られても痛くも痒くもないんやけど、結局元々の神剣である儂しか喋られへんから、アイツら全く意味なかったんや」
元々刀だったが、コピーしたら情報量に耐えられなかったらしく、あんな状態になってしまったらしい。
「コピーのコピーは作れなかったんでござるな」
なんだただのコピーガードか。
多分だが、種やギフトの情報まで神剣にも完全にコピーされておらず、土塊コピーの方はもはや破損データみたいなものなのだろう。
異世界知識がこんな所で役に立つとは、何でも読んで見ておくものだ。
神剣は言う。
「な、儂を連れ出してくれへんか?」
「なんでよ」
「煩いのが増えるのは困るでござるなぁ…」
カルシャもツワブキも面倒くさいという顔をする。
「いや、静かにするんで、一生のお願いや!」
「アンタ死なないじゃないの…」
「軽々しい一生のお願いでござるなぁ…」
どう考えても守られないだろ、その条件。
約束は破るためにあるんやで、とか平気で言いそう。
ここは容赦なく利益と天秤だ。
「…アンタ、何が出来るの?」
「ウォロクと同じや」
ほほう?
私の中を覗き見た事は一旦脇に置くとして、中々興味深い事を言うわね。
「…魔王の力をくれるって事?」
「おう。儂には武器としての力はない。ただの良い刀ってだけや。けど、異形由来の力を託す事は出来る。幸い、嬢ちゃんは異形の素質もあるみたいやからな」
異形の力、ね。
ところで。
「なんとなく想像ついてるけど、いつ確認したのよ」
「石門通ったやろ?あん時」
スキミングで個人情報だだ漏れ案件だった。
…まぁ良い。いや、良くないけど、良い事にしておいて。
「デメリットは?」
「無い」
「メリットは?」
「変身した時の能力アップ、異形ギフトの解禁」
異形化や精神汚染がないなら、良い取引だ。
「魅力的じゃない」
「せやろ?」
次にコイツ側。
「アンタのメリットは?」
「暇な封印生活からの脱却」
「デメリットは?」
「本体が朽ち果てる」
?
すでに時間経過で腐ってるけど。
「もう腐ってるじゃないの」
「放っといてもあと百年保たんし、実質デメリットなしやな」
確かに。
「解った。連れてく」
「おおきに」
仮契約だ。
「でも、受けるかどうかは帰ってからじっくり決めるわ」
妖精の双子にも意見を聞いてからでも遅くはない。
ウォロクの時みたいに勝手に何か押し付けられても困るし。
そんな事を考えつつ、神剣の握りを取る。
「あ、ちょっとまって。まだ抜かーーー」
神剣が何かを言いかけるのと、台座から切っ先が抜けるのは同時であった。
カチッ!…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
おっとぉ?
何か嫌な予感しかしないぞぅ?
「え、何この振動」
「あー、まだ抜くな言う前に抜きおって!崩れるからさっさと逃げるぞ!」
的確な説明ありがとう。
「「はぁ!?」」
ツワブキと声がハモる。
そして回れ右。
入り口に向かって走り出す。
「封印破られんように爆破トラップがあるっちゅうに、オノレスパっと抜きよってからに!」
「聞いてない!」
「言う前やったからな!」
石門飛び出し、待機中のグレインに叫ぶ。
「カルシャ殿、この揺れは…?」/「いいから逃げるわよ!走りなさい!」
「…っ、了解!」
言葉が物理的に交錯。
駆け出す獣足四つ。
瞬時に察するグレインは偉い!
訳わからずも追随する戦闘班もよく訓練されてる!
「とにかく走るでござるぅ!」
ツワブキが焦るって相当だぞ!
くそう!皆無事に帰ったら褒めてやるぅ!
「死ぬぅ!死んじゃうぅ!圧死水死は勘弁してよぅ!」
ちくしょう、自分の運の無さがにくい(涙目)!
後書きウサギ小話
そのコピー、違法じゃね?編
「複製には自我もないし折られても痛くも痒くもないんやけど、結局元々の神剣である儂しか喋られへんから、アイツら全く意味なかったんや」
「コピーのコピーは作れなかったんでござるな」
「いや、ちょっと待って…なんか、ここにマークが…」
_人 人 人 人 人_
> © EN○X <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
ジパングのヒミコさま!
完!




