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2−18.最弱ウサギさん、封じられし神域へ立ち入る

時間は少し遡る。


ハンターが襲撃する前、カルシャたちが遺跡に足を踏み入れ、探索をし始めた頃。


「さて、皆敵の気配とか匂いは感じる?」


湿気った広い通路を行く。


カルシャの耳には動くものの音は無い。


ウェアウルフたちの鼻はどうか。


「少なくとも、今は生き物の匂いは感じませんね」


代表してグレインが答える。


そして、僅かに顔をしかめた。


「…かび臭さと僅かな腐臭はありますが」


かび臭さはともかく、腐臭か。


湖の生き物が誤って入り込み、そのまま死んだのか。


そうであれば良いが、そうでない場合を想定しておくべきだろう。


「不死種やゾンビというパターンもあり得るわ。警戒は怠らないで」


この世界には死してなお動くものもいれば、端から死なない(恐らく極端に死ににくい、が正しい)ものもいる。


死霊なるものもいるとか居ないとか。


それらにギフトは効くのだろうか?


未知の敵は恐ろしいが、今更ビビっても仕方ない。


…遭遇した時に考えるしかないだろう。


あまり危険な橋は渡りたくはないのだが。


「で、どのように探索していくでござるか?」


「魔導書にも載ってない、アンタも詳細を知らない、じゃ、手探りしかないわね」


最初にエリスとレイジを連れて潜ったセンテ遺跡を思い出す。


あの時は罠とモンスターは避けて通ったが、こっちでも基本は同じだ。


警戒する。


無用な戦闘は避ける。


「手分けしますか?」


「いいえ。どんなモンスターがいるか判らない以上、下手に分散しない方がいいわ」


個別撃破なんてされたら困るじゃない。


私だけなら生き延びる自信はあるし、固まっていた方が良い。


さて。


通路は渡り廊下のようで、前後に進むことができる。


進むべきは。


「僅かに風が吹いている。向こうからでござるな」


ツワブキが一方を指さす。


「…確か、地底大河と繋がってるって噂もあったわね?もしそうなら風下に向かえば深部に近いかしら」


レソルカルト河に限らず、大きな湖の底は世界の裏側まで河が流れている。


世界はどこまでも平らで、空も大地も神の造り給うた楽園。


太陽と星(てんのひかり)さえ、神の与えた恩恵であるというのが一神教の教義で、地底河の噂はそこから類推されたものだ。


もちろん、誰かが確かめた訳ではない。


「どちらに向かうとて情報がないのは同じ。カルシャ殿の方針に従うでござるよ」


「じゃ、こっちから探索するわ。罠と敵には警戒して」


カルシャの一存で、風下へ進む。


カビてはいるが、水底に沈んでいたためか、建築自体の劣化はそこまで進んでいないっぽい。


あるいは鉄茨工法のように補強がされているのかも。


滑らかに削られた石材、そこに這う苔と湿り気。


何処から入り込んだのか、小さな蟹が歩いている。


相変わらず静かだ。


足音だけがくぐもった空間に響いて消える。


ふと思い至り、カルシャはツワブキに尋ねた。


「ところで、クサナギノツルギオウって聞き慣れない言葉なんだけど、ひょっとして異世界由来の言葉だったりする?」


今まで戦ったモンスターの中には、そういうモンスターも居た。


今回もそうなのだろうか?


「お察しの通り、異世界の神話から引用されているでござるな」


「神話、ね」


異世界では多くの神と呼ばれるものがいるらしい。


モンスターも神も実在はしないらしいが、逸話は多くあるそうだ。


このモンスターもそのうちの一つから名付けられている。


「クサナギノツルギという神剣があるのでござる」


そんな語り口からツワブキが語るのは、とある神話の一節。


八俣大蛇という龍がおり、それをスサノオノミコトなる者が退治した。


倒された八俣大蛇の尾を切り裂いて出てきたのがそのクサナギノツルギだそうだ。


龍の身体に剣が埋まっていた、と。


別名アメノムラクモノツルギとも言うらしい。


雨を降らせる竜神の剣。


それが異世界でいうクサナギノツルギだそうだ。


「で、それを持つ皇が今回のターゲットってことね」


人型か竜か。


「名前が微妙に違うので、実際は別物かもしれないでござるが、似ている名前である以上、全く似ていない事はないと思う」


てっきりそのものかと思ったが違うらしい。


「そうなの?」


聞き返すと、ツワブキは説明してくれる。


「本来は草を薙ぐという意味が当てられているが、今から狙う奴は鎖を薙ぐという字が当てられているでござる」


なんでも漢字という文字そのものに意味がある文字で綴られた名前だそうで、読み方だけでは真に意味するものを示さないのだとか。


「草と鎖じゃ大違いね。っていうか、音だけじゃ判断できないじゃないの、そんな事」


異世界知識を知らなければまともに名前すら読み解けないとか。


「小生は一神教の書物で表記を見たから知っているが、確かに解らないでござろうな」


「大事な事なのに伝わらないじゃない」


「小生の出身地では、文字に意味があり、二重三重にも意味が重ねられる。ここに封じられた魔王も、元々は異世界出身の転生者だったのかもしれませんな」


この世界では文字は音を表す記号だ。


言葉があって、音が当てはめられ、表記された記号になっている。


ツワブキの言うとおり、ここに封じられたモノは異世界の異物なのかもしれない。


だが、それならどうしてこの世界の理であるギフトの獲得条件に異物が含まれているのか。


…ギフトの秘密を暴くには、まだまだ情報が足りないらしい。


「深く考えるのはまた今度にしておくか」


考えるのはやめだ。


今は目の前に集中する。


渡り廊下を抜けると、吹き抜けのある大空間にでた。


見下ろすと底は見えず、暗闇がわだかまる。


「深いわね。本当に地底に繋がってるんじゃない?」


両サイドには壁画と足場、中央には一直線に広い階段がずっと下まで伸びて、闇に飲まれている。


「壁画を見る限り、かなり古い遺跡でござるな」


ツワブキも文字自体は知っているが、読めるほどの知識はないらしい。


妖精たちがいれば読めたかもしれないな。


どちらにせよ、今読めないなら意味はない。


進むべきは下だ。


階段を下る。


「どこまで続くのかしらね…」


壁画も続くし、闇も途切れない。


手元のランタンだけが唯一の灯りだ。


ウェアウルフは夜目が効くが、元々灯りがない場所では流石に見えない。


戦うにしても苦戦しそうだな。


そんな事を考えつつ階段を下り続けること十数分。


「お?ようやく地の底に到着かしらね」


降りた先には大きな台座に油皿。


覗いて見ると、埃をかぶっているものの、油が満ちていた。


ランタンから火を移してやると、辺りが一気に明るくなる。


「…どうやら目的地についたみたいね」


見渡す巨大な空間。


台座がいくつも立ち並び、直線で道を指し示す。


壁面には八頭の巨大な地竜の姿。


その竜さえ余裕でくぐれる程の石門。


雲と雨と濁流と剣、そして戒めるが如き鎖が這い回る意匠。


鎖薙剣皇(クサナギノツルギオウ)の御所、で、ござるな」



後書きウサギ小話

遺跡と言えば・・・編



「遺跡にはトラップが付き物よね」


「大玉とか棘付き落下天井とか迫る壁、落とし穴とかでござるか?」


「異世界にもあるの?」


「だいたい最後は大爆発、遺跡破壊オチでござるな」


「え、ちょっと待って、爆死圧死水死諸々勘弁願いたいんだけど!?」


「大丈夫でござるよ、フィクションだから」


「いやいや、これ、まさにフィクションだからね?!」


あからさまなフラグ!


完!


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