2−12.最弱ウサギさん、さらなる力を求める
キィン。
小気味よく甲高い音が鳴る。
「ツワブキ」
語られるウサギの言の葉。
鋼の泣く音とともに届き、対する黒装束もまた、鈍色の刃と共に言葉を紡ぐ。
「何でござるか?」
呼び掛けに問いかけ。
一合、二合と交わされる刃を打つ音。
剣舞の最中でさえ、音は滞ることなく響く。
「そろそろ次の革命ギフトが欲しい」
カルシャ・グリムとツワブキ・ヤサカ。
尖鉄都市グリム・ソルガの中でも頂点の戦力である二人の鍛錬にて、二人は会話をしながら武器を振るう。
本気の仕合ではなく、組手に近い鍛錬だ。
決まった型を使い、互いに攻め合う。
それでも会話しながらここまで戦える者は、この二人だけだろう。
その中でも最大戦力であるカルシャは、さらなる力を求めていた。
魔王さえ殺す、革命の力を。
斬撃に迎撃。
「ギフトの獲得条件は?」
鋭い三段突きを躱し、身を翻すツワブキの言葉。
カルシャは追撃の踏み込みとともに答えを投げる。
「“天秤掲げる汎裁定者の断罪”、“荒龍の御霊宿りし剣の王の調伏”、“悪竜討ち取りし英霊の影の殺害”のどれかが良いわね」
追撃の横凪ぎ、叩き付け、斬り上げ。
発した吐息が研ぎ澄ます一撃。
それらに直刀を添わせ、柔らかく槍を反らす。
相変わらず見事な技量だ。
思考の途中、返答と腕に仕込んだ暗器が動時に踊った。
「順にマス・アストライア、鎖薙剣皇、ゲオルギウス・イフでござるな」
三連撃。
左右に揺さぶられる。
懐に入られる前に後方へ。
「なんか厄介そうな名前ばかりね…」
強めに払うとツワブキとの距離が開き、暗器が小刀である事が解った。
腕甲に仕込まれていたらしい。
油断ならない奴め。
ギフトなしでは絶対に勝てない。
エリスは当たり前に負け、レイジも児戯の如く。
グレインがようやく一撃を与え、カルシャでも数回当てられるかどうか。
「前にも言ったでござるが、上位者ギフトなんてそんなんだらけでござるよ」
熟練の影、刺客は飄々として軽い。
読めない、胡散臭い、そして侮れない。
停止は一瞬、踏み込みと迎撃が再開される。
「どれが良いと思う?」
連撃を後退しながら弾く。
リズミカルに鳴く虹と鈍。
切っ先は合い逆しまに踊り、口先は吐息に跳ねる。
「カルシャ殿と相性が良いのは鎖薙剣皇であろうなぁ。ほか2つは炎も氷も効かないでござる」
一神教の情報にはいつも助けられ、同時に畏怖する。
どこまで知っている?
いつから蓄えられている?
底知れない。
ツワブキは言葉尻に合わせて直刀を跳ね上げる。
対してカルシャは身体を捻り、回転から石突を突き出す。
狙いは鳩尾。
容赦は無い。
「鎖薙剣皇なら効くわけ?」
何故なら必要ない。
あっさり躱し、クロスカウンター。
暗器が荒ぶり、首筋をさらう。
鮮やかな暗殺劇。
「炎はダメでござる。一神教の記録によれば、雨を司る竜故、使うなら氷。熱量奪取も恐らく有効でござるな」
凶刃は首を掻くこと能わず、遮るようにたなびく御旗へ。
魔王の怨念が切断を防ぎ、カルシャは思い切り跳躍する。
「同属性でも上位者だから一応有効って事ね」
渾身の頭突き。
カルシャの脳天が顎を狙うが、ツワブキは宙に浮きかけた身体を器用に捻ると、膝を当てようとする。
「然り。後は風の杭も有効でござる」
だが、ぎりぎり間に合わない。
頭突きはツワブキの脛を弾き飛ばし、お互いが再び距離を取る。
ジャリ、とグリーヴの足裏が芝をにじった。
「あんなの、狙って撃てないわよ?」
槍の間合い。
一足で届く至近距離。
構えは解かず、ツワブキの様子を窺う。
「だからこその切り札でござろう?」
殺気こそ薄いが、隙は無い。
何処からでも反撃される。
そんな雰囲気。
「まぁね」
いつか追い抜いてやる。
カルシャがそう思った瞬間。
「今日はここまでにするでござる」
ツワブキは構えを解いて弛緩した。
技量はまだまだ遠く。
「ん。ありがとうございました」
それは開拓の進むグリム・ソルガのとある午後の事。
カルシャはまた上を見上げるだけに終わったのだった。
後書きウサギ小話
隠密?編
「ツワブキ、何食べてるの?」
「これでござるか?」
「美味しそうじゃないの」
「賽の目に切った寒天、茹でた豆、小豆餡、求肥、杏にみつをかけたやつでござるよ?」
それあんみつ!
甘!




