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2−11.最弱ウサギさん、狩猟に興じる

大門を抜けて樹海の中。


集落から離れれば、そこは人の立ち入らない未開地のままだ。


だが。


「さて、森に来た訳だけど、確かに獣の気配が少ないわね?」


耳をそばだてるが、開拓当初は多く聞こえていた獣の息遣いや足音はあまり聞こえない。


「ツワブキ殿の言うとおり、組織的な狩猟が行われている結果、弱い獣は離れて強い獣だけが残っている状態かと」


グレインにも匂いで判るらしいが、さほど気にしていない様子。


ただ、狩猟の結果にしては急速すぎる。


「聞こえる音が少なすぎる気がするけど…」


ウェアウルフに怯えるにしても、身体の大きな獣までいっせいに居なくなったみたいだ。


何か別のモノが潜んでいて、そっちを恐れている、なんて考えた方がしっくりくる。


だが、カルシャは普段森に入らない。


心配しすぎるくらいのカルシャは取り越し苦労も多い。


「採取の護衛で森には入りますが、いつも通りですよ」


気にはなるが、ここはグレインの言葉を素直に受け取っておこう。


「まぁ良いわ。さっさと獲物を探すわよ」


警戒だけ怠らなければ問題ないのだ。


少し進むと獣道に出た。


「ちょうどレソルガオオトカゲが近くにいそうですね」


グレインが指さした先には何枚か剥がれ落ちた鱗が落ちている。


「木に身体を擦り付けた跡ですね」


鱗が生え変わるタイミングだったのだろう。


古く乾燥した鱗は、集めて加工すれば防具に出来そうな感じだ。


「ちょうど良いわね。ソイツを狩るわ」


鉄茨工法を応用すれば何かできるかもしれないし、試してみる価値はあると思われる。


「理性も無いようなモンスターなんて余裕よね、モルガナ?」

「私達の糸で斬々バラバラだわ、ヴィヴィアン」


だから、バラバラじゃ困るのよね。


「アンタたち、食用なんだからそれじゃダメよ」


食用でも加工用でも、出来るだけキレイに仕留めたい。


「レソルガオオトカゲは可食部が多いので、出来るだけ傷付けず仕留めたいですね」


解体する時に革と鱗を剥げれば上々だ。


「そういう事」


カルシャとグレインの言葉に、妖精たちは疑問符を浮かべた。


「じゃあ何処を狙おうかしら?」

「頭?それとも心臓?」


前に一度見たあの熱線糸だと、問答無用で一刀両断だろう。


グレインはそれを知らないので、普通に答える。


「血抜きを考えれば首ですね」


だが、それだと動脈ごと首が落ちるだろう。


「アンタたちの糸は鋭すぎるのよね」


間違いなく血の噴水だ。


そう言うと、妖精たちはニヤニヤした。


「縛り付ける事もできるわよね、モルガナ?」

「自由自在、千変万化よね、ヴィヴィアン?」


自慢げだ。


ちょっとウザい。


だが、熱線糸ではなく蜘蛛の糸みたいにできるのなら、その方が良い。


「自信ありげね。じゃ、捕獲で行きましょうか?」


うまく捕まれられれば、もしかしたら生き血も採取出来るかもしれない。


「では罠を仕掛けて誘導しましょう。捕えたら首を割いて屠殺、血抜きして持ち帰りという流れで」


「おっけー」


トカゲ捕獲クエスト、開始である。





タタタターン、タラタタタ、タータータン!


あっさり捕獲!


クエスト完了!


チートコード入れたクエみたいな幕引きである。


戦闘描写?


そんなものは川に捨ててきたわ!


「弱すぎじゃない?」


妖精たちの糸で編まれたネットに巨大なトカゲがぶら下がる。


「カルシャ様と妖精姉妹様が強すぎるんですよ」


グレインは会話しつつも手際が良かった。


身をよじるトカゲの首を裂き、革袋に血を溜める。


実に鮮やかだ。


流石肉食系亜人。


獲物の処理は任せておこう。


「魔王にビビらない魔物なんていないわ。ね、モルガナ?」

「隠していても威圧感バリバリだものね、ヴィヴィアン?」


妖精たちは多少欲求不満っぽい。


カルシャもカルシャで、遭遇した瞬間後ずさりしながら威嚇されるなんて、被捕食者にあるまじき経験をしてしまった。


トカゲが弱い訳じゃない。


ただのモンスターに対して、カルシャが強くなりすぎたのだ。


ちょっと不安げにグレインに問いかける。


「…そんなに威圧感、ある?」


「少なくとも存在感はありますね」


言葉を濁すが、苦笑いが全てを物語る。


「これでもか弱いウサギさんなんだけどなぁ」


カルシャは笑った。


グレインは己の主のその顔を見て思う。


生き延びる事は強さとイコールにはならない。


しかしながら、強さが積み重なって生き延びるという事はよくある。


明言こそしないが、カルシャはそういう存在だと言える。


生き残る事に執着した結果、聖女ライナさえ下したモンスターなのだ。


弱い訳が無いし、気配を消しても残り香のようなモノを感じる。


ここ最近の開拓を経て、グレインは改めて主の強さを知った。


「どの口が言うのかしらね、モルガナ?」

「げっ歯類チックな癖に牙だらけだわ、ヴィヴィアン」


「あぁん?毟るわよ?」


カルシャは強さに無自覚ではないが、過小評価しているように見える。


「怖いわねー、モルガナ」

「蛮族だわ、ヴィヴィアン」


安心せず、慢心せず、常に怯えを秘めている。


心の有り様が弱者なのだ。


いつも弱みを見せない。


エリスやツワブキ、レイジに対して、少しだけチラつくくらいだ。


「グレイン、こいつ等シメていいわよ」


最近、それが少しだけグレインにも向けられるようになった。


信頼の証だ。


臣下としてこれ程嬉しい事はない。


「では遠慮なく」


故にグレインは心中でひざまずく。


臣下として御身のお役に立てるのなら、この身をも焼き尽くそう。


焼き尽くす光を宿す獣は、弱者たる君主に改めて忠誠を誓う。


ウェアウルフの忠義は、それほどまでに重たいものなのである。



後書きウサギ小話

便利な糸 編



「その糸ってなんなの?」


「ギフトの糸よね、モルガナ?」

「空気中から吸い出した成分の塊よね、ヴィヴィアン?」


「謎糸だわ…」


「鋭くもなるし、粘着させられもする。まさに万能…」


「でもその正体は菌類なのよね、モルガナ?」

「納豆とかいうダークマターなのよね、ヴィヴィアン?」


「臭そうだな、おい!」


まさかの納豆!


完!

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