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5.ようじょ、奴隷デビューする

前に人間の歴史書を読んだことがある。


確か《知識の紙魚(ナレッジイーター)》を獲得してしばらく経った頃に、ギフトの成果を確認するためだった。


他人の知識を食い荒らすギフトは、鏡の呪いと似ている。


接触で発動する点もそうだが、何より喰った知識を覚える事ができるのだ。


私は人間としておかしくない程度の知識を集め、その成果として一日人間の町を歩いて回った。


人間というものを観察し、実際の人間たちの日常を見た。


その際に図書館に行ったのだが、歴史書はその時に目にした。


「なんなの、これ…」


驚愕した。


人間という種の長さに恐れ慄いた。


モンスターは長寿だが、殺されるし、群れる種も少ないので、おおよそ歴史など無い。この時の私にはウサギの事しか解っていなかったが、それでも悠久の時を紡いで、その軌跡が残されている事に恐れを感じた訳だ。


それでも、私の知識欲は恐怖に勝った。


理解したい訳ではない。


人間になりたい訳ではない。


しかし、ただ知りたいと思った。


ギフトを集めるのだって、それと変わらない。


どうやら私という奴は、何でも知りたがりのようなのだ。


ギフトという膨大な力の果てに何があるのか。


私はただ、知りたかった。





「あら?ルシャさんじゃない!久しぶりね!」


センテの街は、カルシャにとっても知らない場所では無かった。


「6月ぶりくらいかしら?今日は泊まってく?」


底抜けに明るい受付嬢に合うのも何度目か。


ルシャは仮名だ。


宿代を考える。


「とりあえず3日間で」


それだけあれば十分だろう。


受付嬢は帳簿にペンを走らせるが、カルシャの後ろの幼女に気付いて手を止めた。


「その子は?」


「連れよ」


「ルシャさんも一人じゃない時があるのね」


「まぁ、ね」


エリスは終始ニコニコしていた。





「言っとくけど、アンタは留守番よ?」


「え゛っ」


ニコニコから一変、エリスは絶望した。


「いや、流石に奴隷証のないモンスターつれて歩けないわ。この街の規則だと、万が一バレたら殺されるわよ?」


センテの街は大きく、そして規則が厳しい。


奴隷として無力化されていないモンスターはこの街に持ち込み禁止なのだ。それが例え最弱のハジメウサギでも、持ち込まれた事が解った場合には街の傭兵がモンスターをグサリ、だ。


「この服と帽子はそういう事だったんすね…」


幸い耳としっぽが隠れれば、ウェアウルフは人に見える。


「アンタも死にたくないでしょ?大人しくしてなさいよね」


エリス自体はまぁ、どうでも良い。


しかし、そこから芋づる式に自身に危害が及ばないとも限らない。


特にエリスは運が無いので余計心配なのである。


「カルシャ姉は?」


「私は装備とかの買い出しと情報収集」


手持ち金をじゃらりじゃらり。


転生者を狩る度に持ち物を奪い去って換金してきたので、けっこうな額のはずだ。そろそろ質の良い防具が買えるだろう。


「ずるいっす」


「煩いわね、下僕」


「都合の良い下僕扱い!」


エリスの抗議もほろろ、カルシャは容赦なく踵を返す。


「そもそも自称じゃない。文句は聞かないわよ」





カルシャは図書館が好きだ。


本の匂いや静けさ、雰囲気が好きだ。


タダで知識を得られるのも良い。


「や、ルシャさん、久しぶり」


だが、コイツは苦手だった。


読書中、勝手に隣の席に座り、話しかけてくる男。


「…本は静かに読むものよ」


「真面目だね」


装備を見繕い、消耗品を補充して、食料を調達してから図書館に来たが、どうやらカルシャが街に戻ってきている事を聞きつけたらしい。


「アンタも諦め悪いのね。適当にあしらってるの、気付いてる?」


視線が気になって本に集中できない。


目の前の男、橘レイジはニカッと笑った。


暑苦しい。


「君の事が知りたいんだ」


「私は知られたくないけど」


「厳しいなぁ」


その上うっとおしい。


どうして付きまとうのか、理解に苦しむ。


人間はこんなにも執着するものだったか?


「私は一人が良いの。放っておいてくれる?」


突き放すが、レイジは既にエリスの事を掴んでいた。


「今回は連れがいるんだって?」


「しつこい」


あまり深くエリスについて突っ込まれるのは良くない。


ボロを出してしまう可能性がある。


カルシャは仕方なく溜息。


読みかけの本を手に席を立つ。


「何処へ?良ければ食事でもーーー」


レイジの声を背中に、カルシャは宿に帰る事にした。





「エリス、お土産」


「わープレゼントだ!って!コレ、奴隷証じゃないっすか!」


解った瞬間、ベッドに叩きつける。


大人しく待っていたご褒美をあげたのに、なんて失礼な奴だ。


まだ値札もついてるピカピカの黒鉄だぞ。ありがたくつけろよ。


「そうよ?だから?さっさとつけなさいよ」


「問答無用?!」


「なんならボコしてから力ずくでもいいのよ?」


「しどい!いつも以上にしどい!」


涙目になるエリスの前でシャドーする握りこぶしが唸る唸る。


「で?どうする?殴っちゃう?殴っちゃう??」


「うぅ…わかりましたよぅ、つけますぅ!」


「よし」


半ば強制だった。


「で、僕をホントに下僕にして、何するんです?」


泣く泣く首輪を自分で嵌めたエリスは、カルシャに問う。


しかし、カルシャはあっけらかんと、こう返した。


「大丈夫よ、何もしないし。っていうか、ホントに奴隷にするわけじゃないし」


疑問符を浮かべるエリスに対して、カルシャはどこか遠くを見る。


「色々あるのよ」




後書きウサギ小話

本の虫最強説 編



「や、ルシャさん、久しぶり」


だが、コイツは苦手だった。


読書中、勝手に隣の席に座り、話しかけてくる男。


「…本は静かに読むものよ」


「真面目だね」


そういって何か話している男を無視して本に目を落とす。


・・・


・・・


・・・


・・・


数時間後。


「はぁ、読み終えた・・・」


「…ようやく話が出来るね、ルシャさん」


「まだいたの?もう一冊読むから待ってて」


読書の鬼!


完!

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