2−6.一神教の司祭さま、怪しい儀式を執り行う
聖都アラスラクト中央街区。
一神教の重要施設が集まるその街の中枢部の奥深く。
暗闇を僅かな蝋燭がぼんやりと照らし出す。
巨大な地下聖堂には、歴代の勇者と討滅された魔王の彫像が並ぶ。
一神教が捧げてきた犠牲と平和への闘争の象徴たちが整列する暗闇の最前列、聖堂の中心には主神にして唯神アトロポスの偶像がひときわ存在を主張しており、その猊下にて祈りを捧げる一人の男の姿があった。
「天目の我等の神よ、我が祈りを聞き給え」
腰布だけを纏って跪くのは長身痩躯、青白い男。
エスト・フラメという名のその司祭は、かつてライナと他の従者共々焼き尽くされた筈の男だった。
暗闇の中で独り、信奉する神の像を見上げ、無感情のままで祈りを捧げる。
「神の御代、神の理想郷は未だ遠く、魔王の種は依然として発芽を止めず」
静かなる祈りは、静寂の聖堂に染み入るように消えゆく。
蝋燭の火が、風もなく揺れる。
厳かな聖堂ではあるが、同時に灯りに影が蠢き、不気味さも併せ持つ。
「市井には祀ろわぬ者溢れ、敬虔なる下僕たちはその心に影を落としております」
司祭エスト・フラメは固く手を結び、その額には汗を浮かべる。
体躯を流れる汗、その皮膚に浮かぶ数々の幾何学模様と文字の群れ。
祈りとともに明滅を繰り返すその印章は、この世界の文字では無い。
「我が血肉を与え給うた天目の神よ、今一度この身に奇跡を」
赤銅、脈動、激毒。
エストの血管が浮かび上がり、心臓が過負荷に悲鳴を上げる。
世界創世の残滓は小さき人形の躯体を焦がし、その力の一端を示す。
「我、エスト・フラメの名に於いて乞い願う」
血潮が流れ、聖堂を汚す。
足元からダラダラと広がる赤は、体躯に刻まれた紋様と同じモノを床へと描き出す。
天目の神による“魔術”だ。
「我が血を返上し願うは、粛清の刃」
祈りは強く。
言の葉は鋭く。
命を燃やしてエストは詠う。
「魔王を滅ぼす平和の裁定、滅魔の奇跡」
呼応する明滅、脈動が大きくなる。
神に捧げる詠唱。
その最後の一節。
それを、エストは目を見開いて叫んだ。
「天より来たれ、盲目なる人の火よ!」
その瞬間、床に描かれた錆色の幾何学模様が弾け飛ぶ。
巻き起こる旋風。
大きく揺らぐ灯り。
風が収まった時、司祭エストの目の前には一人の女が横たわっていた。
「滅魔の、勇者…!」
血走った目が、狂気的な笑みが、儀式の成功を示していた。
白い裸体にエストと同じ幾何学模様が刻まれた女。
一神教の転生者の秘密とは、この特殊な召喚方法による。
女の幾何学模様は段々と薄れていき、やがて見えなくなった。
聖女ライナにも刻まれていた《篝火の処女》は、ただの支配ギフトではない。
一神教のみが扱う魔術儀式、その成果による魔術刻印なのだ。
上位ギフトでも解除できず、消去するには刻印された人間が死ぬしかない。
…もしくは、同じ魔術で解呪や上書き無効化を施すしか。
「大いなる天目の神よ、感謝致します!ミルラ・アトロポス!」
歓喜に咽び泣くエストだったが、散々極まった後にようやく平静を取り戻し、後ろに置いていた司祭装束を纏う。
それから血染めで横たわる新たな聖女を抱きかかえ、勇者たちの彫像を横切って別室に入ると、浅い水場に横たえる。
地熱によって仄かに温かいために白く湯気が昇る中、血を洗い流し、身体の傷などを確認してから、身体を拭いてローブを着せる。
全ては新たな勇者候補のため。
全ては神の元に理想郷を作るため。
この身は全て神の与え給うたギフト。
無表情に、無感情に進められる手順の合間、司祭エストの頭の中は、神のための思考で溢れていた。
「大いなる天目の神よ、必ずや魔王の種を駆逐してみせましょうぞ…!」
後書きウサギ小話
けん…えつ?編
とある警備隊詰め所の自動書記日誌より
「なぁ、司祭エスト様って、毎回勇者候補を連れてくる時、生気がないよな」
「意識の無い勇者候補、綺麗に洗われた肢体、薄手のローブ。あとは…判るな?」
「いやいや、まさか、な?」
「不敬罪でしょっぴくぞ、お前ら…」
聖職者による性的ぎゃk[以下規制]
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