2−2.悪夢の魔王さま、オオカミさんから慕われる
御前会議が終わり、そろそろ昼の時間になりつつある。
「もう昼か。ドミナスの街まではどれくらいかかるの?」
「ウェアウルフの足で片道3日半くらいです」
「結構遠いのね」
街道もなく、ウェアウルフたちもあまり森をでないため、基本的に獣道だそうだ。
「道中森の中ですので、どうしてもそれくらいはかかりますね」
一応いくつかは休憩所があるらしいが、それもそんなに数がある訳ではない。
「今日出ると樹海で寝る事になる故、出立は明日にした方が良いでござるよ」
ツワブキの言うとおり、今日一日しっかりと準備してから出かけるべきだろう。
「そうね。まずは食事にしましょうか」
そうと決まれば、まずは腹ごしらえだ。
カルシャの決定に、ぐでーんとしていた原本ようじょが飛び起きる。
「わーい!お昼っす!お肉っすぅ!」
一同は仮の御所を出て、集落中心の焚き火付近へと移動する。
「…単純すぎだわ、ヴィヴィアン」
「毒の嗅ぎ分けも出来なそうね、モルガナ」
妖精たちの悪口も何のその、エリスはご機嫌だった。
「食事に不満がなくて羨ましい限りだよ」
それを見て、レイジも思わず苦笑を零す。
「ここのお肉は新鮮で味も良いっすからねぇ。僕には天国っすよ」
「レソルガの森は獣が豊富ですからね」
メインは肉。あとは野草と果物、根菜や芋。
これらを蒸したり焼いたり煮たりして、シルカルト霊峰の麓近くで採れる希少な岩塩を少しまぶす。
ウェアウルフたちは元々薄味でも平気らしく、また岩塩自体貴重なので、集落にはあまりストックが無い。街ならば塩ギフト職人がいるので大概は間に合うのだが、ここではそうもいかない。
料理が運ばれてくる。
巨大な皿代わりの植物の葉、その上には丸焼きの獣。
小さめの獣と植物類も幾らか乗っている。
見た目はワイルドだが、人間や人間の料理に慣れた者にとっては、やはり味気ないモノではある。
カルシャ一同にのみ配られている僅かな岩塩も微々たるものだ。
しかし、この小さめのヤツ。
ちょっと気になるな。
「…まさかウサギ狩りしてないでしょうね?」
「勿論していませんよ。主に鹿や猪ですから安心して下さい」
小さめの奴は、大きな齧歯類らしい。
ならば良し。
他のは大きさからして、ただの獣ではなくモンスターの方だろう。
これだけの数、これだけの大きさのモノを狩るとなると一苦労だ。
流石に戦闘…いや、狩猟に長けている。
ウェアウルフたちにギフトを与える事ができれば、一気に戦力アップできそうなのだが。
後で妖精たちに聞いてみるか。
カルシャがそんな事を考えていると、エリスよりも小さな女の子が両手で何かを差し出してきた。
食事は運ばれてきているが、なんだろうか?
「まおうさまー、これあげる!」
「ありがとう。なんの果物かしら?」
受け取ると、それは手のひらより少し大きい黄色の果実だ。
センテでは見た事が無かったが、良い香りが漂う。
「ソイルの実だよ!甘くて美味しいの!」
そう言うと、女の子は恥ずかしそうにしてすぐに離れていく。
食事は別の者が運んで来てくれたし、私だけ特別?
カルシャの疑問を察して、グレインが補足する。
「あの子の親はこの間怪我を負ったうちの一人なんです。あの子も感謝しているみたいですね」
傭兵オーガにやられたのか。
「感謝だけじゃ駄目よ。これからちゃんと借りは返してもらうんだからね?」
あれは自作自演なのだが、バレていない。
適当な姿に変身して、カルシャ自身がここを襲うように依頼したのだ。
当然、彼らの忠誠心を手に入れるため。
死人を出さないタイミングは難しかった。
「勿論です。受けた恩義は忘れませんよ、ウェアウルフは」
騙した事に罪悪感はない。
そもそも、ウェアウルフたちは手駒でしかない。
極論を言えば、一番懐いているエリスでさえ、必要なら捨てる。
「期待してるわ」
私はそういう生き物。
そういうモンスター。
知識欲と生存欲が一番の自分勝手なやつ。
人の運命とかどうでも良くて、影響したくないし、されたくもない。
矜持はないし、死にたくないし。
だけど、魔王になると決めた以上、必要な事はやる。
やった事に対して出来るだけの責任は負う。
これは私が少しだけ変わったから出来た決断。
例えば手駒や拠点を整える事。
その生死、生活に責任を持つ事。
面倒くさいけど、不思議と悪くない。
私も少しずつ変わっているらしい。
多分、生きる事以外にも余裕が出てきたからだと思う。
生存欲と知識欲に、他の何かが混じっていく。
真なる魔王と最弱ウサギの間。
この頃のカルシャはそんな過渡期真っ最中だった。
後書きウサギ小話
食は盲目 編
「お肉うまーい!」
「まだまだあるでござるよ」
「いくらでも食べられそうっす!」
「これを身体につけると、美味しく感じるらしいよ」
レイ)つ塩
「ムフー!うまうま!むしゃー!」
「これも振りかけるでござる」
ツワ)つ胡椒
「がつがつ!ばりばり!」
「寒くないように火を炊くね!」
レイ)つ火
「ついでに蓋もするでござる!」
ツワ)つ蓋
「いつの間にか僕が炙られてるぅ?!」
注文の多い料理店!
完!




