2−1.悪夢の魔王さま、御前会議をひらく
第2節.ウサギクラフト魔王譚
いかにして悪夢の魔王は一神教と敵対したのか?
カルシャ・グリムは紆余曲折の末に魔王となった。いずれ轟くその御名は悪夢と征服の魔王アーデカルシャ。しかしその時は未だ遠く、カルシャは自身の安全平穏のために拠点を整備する事に。
しかしそこに現れる一神教の魔の手。
襲い来る敵の後ろに垣間見えるのは、果たして何者なのか。
魔王としての運命が、ゆっくりと動き出す。
第2節.ウサギクラフト魔王譚
この世界には魔王と呼ばれる存在がいた。
それは絶対的な力の象徴たるギフトを数多く所持し、多くのモンスターを従える王だった。
人々に絶望と恐怖を与える魔物の王。
人が頂点足り得ない事を証明する存在。
かつては人々を絶滅にさえ追い込みかけた人類敵。
だが、今や魔王と呼ばれる存在は公に途絶えて久しい。
人々が造りだした英雄創生魔術、その成果によって召喚される異世界からの来訪者のせいだ。
転生者。
世界規模で稼動し続ける魔術機構により、異世界で死した資質ある者の残滓。
魔術によって形作られた泥人形。
そんな人ならざる人がギフトを携え、勇者となり、魔王たちを駆逐したのだ。
結果として訪れたのは、魔王という脅威なき平和。
人という種の繁栄。
魔物と呼ばれる者たちの急速な衰退。
人類にとってモンスターは脅威ではあるが、種を脅かすほどではなく、いずれは家畜のように牙を抜かれるだろう。
公には、魔王はいない。
世界を牛耳る一神教によって、もしくは、転生者だらけの傭兵互助会や勇者たちによって、今日も人の世界は平和に保たれている。
…あくまでも、公には。
*
レソルガ樹海。
人里離れた辺境の森の奥。
ひっそりと佇む集落の中の一番大きな家に、いくつかの影が集まっていた。
ランタンが照らすその数は7。
「さて。集落の仮復旧に目処がついてきたから、そろそろ今後の方針を決めようと思うんだけど」
黒髪にオオカミの耳、それと尻尾。ようじょの姿。
背後には掲げられた煌めく御旗。
角もつウサギの印。
悪夢と征服の魔王アーデカルシャ・グリムレクスを名乗る者カルシャである。
「臣下が増えたから、まずはこの集落を整備するのが急務だと思うんだけど、皆はどう思う?」
集落の状況は、壊滅状態から多少立ち直って、それぞれの寝床は確保できている。食料は前から森の果実や木の実、狩猟による肉や魚で賄っていたので、多少塩っけが恋しいくらいだ。
急場凌ぎならば問題なかったが、元々の住人であるウェアウルフたちならともかく、カルシャたちには物足りなくなってきていた。
そんな理由からのカルシャの発言だが、成り行きで魔王を襲名し、図らずしも聖女ライナを撃破したカルシャは、別に統治や侵略に目覚めた訳ではない。
単に拠点の防衛力や持久力を高めた方が、襲われた際の危険性が下がるからだ。それが引いては生存可能性の上昇に繋がる。
表向き魔王しているようで中身は生存本能ばりばり、正体は最弱種族のウサギさん。
それがカルシャ・グリムなのである。
「僕も拠点を整備するのには賛成だね。今までみたいに皆で旅をするのは難しい」
参謀その1。
転生者、橘レイジ。
優男。気障。センテの街の傭兵。
モンスターであるカルシャを好きだと言って憚らず、そのまま味方としてついてきた変わり者。
ギフトを暴く魔眼と一時的に見たことのある剣を複製する2つのギフトを持つレイジは、カルシャのギフト集めに貢献してきた切れ者だ。
50程の所帯では移動もままならない。
それ程備蓄はないし、何よりウェアウルフたちは旅慣れしていない。
レイジはこう提案する。
「防衛、居住、食料の三つが大事だけど、取り急ぎは食料備蓄、それから区画整理した住居かな」
それに対する賛同を示すのは、全身黒ずくめの頭巾男。
「小生もその方針で良いと思うでござる」
参謀その2。
転生者にして元・勇者候補者、ツワブキ・ヤサカ。
革命の上位者で、一神教の傘下にいた事があり、半不老不死。
元々隠密らしく、凄まじく胡散臭い奴だが、その知識と戦闘力、諜報能力はとても便利。
但し、カルシャの直属ではなく妖精たちの臣下にあたる。
「付け加えるとすれば、建設や農業に向いたギフトを持つ奴隷か転生者を迎え入れる事をオススメするでござるよ」
ツワブキの意見はこうだ。
「小生が考えるに、拠点整備をするにはやはり専門ギフトがある方が手っ取り早いでござる」
この世界のギフトには、非戦闘用のものも数多く存在する。
例えば、土くれなどから一定の大きさの石を創造するギフト。
これは建設系ギフトの中でも有名かつ一般的で、街道の整備や城壁、家屋などの建設資材として使われる。
同じようなギフトで漆喰を創造するものがあったり、穴を掘る、溝を掘る、無機物の形を変えるなどのギフトも存在する。
転生者には戦闘用ばかり発現し、カルシャは転生者ばかり狙うため、その手のギフトには縁が無いが、確かに便利なギフトだろう。
そんな話の中、難しい話について来れない奴が約1名。
「僕は日向ぼっこできる場所とお肉があれば何でも良いっすよー」
下僕にして影武者、おバカようじょ。
カルシャと同じ姿のウェアウルフ、エリス・レッサカルシャ。
正真正銘ウェアウルフだが、これでも魔王の素質あり。
信じられない。
これが上位者なのかと頭を抱えるレベルだった。
「はぁー…アンタは能天気で良いわねぇ。仮にも魔王の姿なんだから、しゃっきりしてなさいよね」
カルシャがギフトで姿を模倣する相手が、このエリスである。魔王アーデカルシャはウェアウルフ希少種の魔王という触れ込みなのだ。
苦言を呈する。
エリスはだらけきっていた。
「カルシャ姉こそ、もうちょいだらけた方が良いっすよぅ?」
でろーん。
机に伸びるようじょ。
「オオカミの効果音とは思えないわね…」
肉食動物ってなんだっけ?
そんなオオカミようじょに対して辛辣なのは、カルシャだけでは無い。
「全く弛んでるわ、ね?ヴィヴィアン」
「本当にだらしないオオカミさんね、モルガナ」
妖精女王の双子、ヴィヴィアンとモルガナ。
ギフトを与える妖精の王族である。
「ホントに上位者なのか怪しいものだわ」
世界創世の魔術師アデルカ・クロトの使い魔、コルナ・ラケシスの継承者たち。
カルシャやエリスに上位者の種を与えたのもコイツらの力だ。
エリスはコイツらから確実に災厄の種を与えられているが、それでも疑ってしまう。
「これではせっかく植えた種も泣いてるわ、ヴィヴィアン」
「魔王の素質も箪笥の肥やしよね、モルガナ」
妖精たちの言うとおり、もう少し活かして欲しいものだ。
魔王の影武者なのだから、戦えないのでは困るし、弱くても困る。
少々鈍臭いところはあるものの、槍の稽古をつけているツワブキが褒めているあたり資質はあるのだろうし、カルシャほど多彩なギフトを使えずとも強くなれそうなものだが。
「明日から頑張るっすよー」
暖簾に腕押し、糠に釘。
駄犬ようじょに真剣さ具合は感じられなかった。
「私から一つ提案なのですが」
そんな会話の切れ目を見計らって、もう一人のウェアウルフ・ソルガ戦士長グレインが手を上げる。
「言ってみて」
発言を促すと、グレインは言う。
「レソルガの森を抜けてしばらく行った辺りにドミナスという街があります。そこでは奴隷売買が盛んなのですが、ご覧になりますか?」
ドミナスには武器や防具の買い出しのため偶にいく事があり、人型モンスターも多少出入りする比較的緩い街で、大きな奴隷市場があるらしい。
この集落にいる数名も元々は奴隷として売られていたため、集落の蓄えで買い取って自由にしたのだ。
「レイジ、軍資金はどんな感じ?」
「ランクにもよるけど、奴隷数人なら買えると思うよ」
転生者狩りで蓄えた軍資金にはまだ余裕があるようだ。
ここに腰を据えるのであれば、近くの街を確認しておくのも悪くない。
「…とりあえず見てみましょうかね」
こうしてカルシャはドミナスの奴隷市場を視察する事にした。
後書きウサギ小話
頭の付加価値 編
「そいえばウェアウルフって幾らくらいなの?」
「私が開放した者たちでしたら、それなりの仕立ての剣が買えるくらいですね」
「叩き売られてるのね」
「ウェアウルフ自体は強くないモンスター扱いでござるからなぁ」
「人型の魔物の強みは、その思考力にあると思うんだけどねぇ」
「その点で言えば、場合によっては破格でござるな」
ツワブキはグレインを見て言う。
「まぁ、全く役に立たない場合もあるけどね」
カルシャはぐでーんとした妹分を見て言う。
「む?なんか言ったっすか??」
知らぬが仏!
完!




