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4.最弱ウサギさん、手配書が回る

この世界は、人間、動物、モンスターで成り立っている。


調べてもいないし、確かめてもいない。


あくまでそういうモノだと、私が思っているだけだ。


かつて魔王と呼ばれるモンスターたちの統率者が居て、この世界の覇権を争っていた。その頃の人間たちはギフトこそ与えられていたが、統率された軍勢に蹂躙され、狩られる対象だった。


これらの知識は、人間たちの歴史書による。


今は魔王などいない。


モンスターは強大ながらも、狩られる側に成り果てた。


転生者と呼ばれる英雄召喚魔術被術者たちの登場によって。


異世界からの来訪者たち、その進んだ技術は人間たちを発展させ、魔王を討ち滅ぼすに至り、私たちモンスターはこうして手配書をかかれ、追われる立場なのである。


「カルシャ姉、それ、なんです?」


エリスが指差すのは、カルシャの握りしめる一枚の紙。

いくつかの顔と特徴、名前が書かれている。


「私の手配書」


カルシャ・グリム。


少女の名乗る名前は、人間たちの間で拡がりつつあるらしい。


まぁ、今までかなりの転生者を狩りとってきたのだ。それも致し方ない。


そんな事をカルシャが考えていると、隣からエリスが覗き込んで来る。


「へへっ、有名人っすね」


「頭がお花畑なの、アンタ…」


「いやぁ、それほどでもぉ」


「褒めてないし」


ボロボロローブの裸族オオカミ幼女は、相変わらずアホな子だった。





「ここらで良いか」


街道から離れて、森の中へ入り込んだカルシャたちは、少し拓けた場所に荷物をおろした。


「エリス、見張りよろしく」


エリスは言われるまま警戒態勢に入る。


が、カルシャのやる事が気になるらしい。


「カルシャ姉、何するんです?」


「ギフトの整理と確認よ」


言って、カルシャは倒木の上に座ると、ギフトの効果を消した。


「…カルシャ姉って、ホントにハジメウサギなんすね」


変身が解除されて、カルシャの本来の姿が露わになる。


真っ白な、角の生えたウサギだ。


ハジメウサギ。


人間たちが最初に狩るモンスターの末席。


カルシャ・グリムは、ハジメウサギ変異体なのである。


ウェアウルフたるエリスとは、食物連鎖の上下関係にあたる。


「ヨダレ垂らすな」


「すみません、つい本能で」


デロリする口元から鋭い犬歯がのぞく。


「余計怖いんですけど!」


「またまたぁ、僕よりダンチで強い癖にぃ」


ギフトの所持数と経験により、カルシャはエリスよりは確実に強い。


「それはそれ、これはこれよ」


しかし、本能的危険性への恐怖は拭えないものである。


こういう物言いと態度だが、けっこうなビビリなのを、カルシャは自覚している。そして、それが今までの生存に繋がっている事も。


「馬鹿な事言ってないで、あたりの警戒しなさいよ」


「はいはいー、解ってますよー」


「全く…気が抜けてるんだから」


改めて、カルシャはとあるギフトを開く。


「《時計修理の妖精(チクタクノーム)》」


ギフトが効果を現すと、カルシャの周囲に幻影が現れる。それはパネル状で、マス目が沢山刻まれた粘土板のように見える。


ギフトの一覧表だ。


カルシャが呪い授かったギフトは光っており、今まで100以上取得してきたのだが、ようやく5分の1が光っているかどうか。


(前回確認してから10個くらい増えてるけど、相変わらず埋まっていかないわね)


粘土板は複数の群に分かれており、属性や効果によって規則正しく並んでいる。呪い堕ちても重複するようなギフトは取得出来ないため、進めば進む程ギフトを手に入れるのは難しくなっていくだろう。


だが、嬉しい誤算もあった。


(これ、奪い取ったやつじゃないな?《尖焔の射手(ブレイズアーチ)》ってなんだ?)


効果を確認すると、《焔の射手(フレイムアーチ)》と同じような効果だが、当たった相手の防御能力を下げる効果があるようだ。


この間取得した《焔の射手(フレイムアーチ)》の一つ上の板には、この間まで何も光って居なかった。


(もしかして、板がある程度埋まると上位ギフトに派生するのかしら?)


既に持っていた《焔の尖剣(フレイムシャード)》は防御能力を下げる効果の焔を武器に付与するギフトだが、これと合わさって、上位ギフトが生まれた?


仮説だが、直感的に正しい気がする。


改めて見直すと、他にもいくつか知らないギフトが増えていた。


収集出来ていないギフトは名称不明だが、どのような効果があるのかは粘土板に刻まれている。これなら、効果から派生元を推測できるかもしれない。


(なるほどねぇ。これでもギフトは増えるのか)


これからは派生も考えてギフト収集をした方が良さそうだ。


そんな事を考えている時だった。


「カルシャ姉、人間が近付いてる」


静かに呟かれたエリスの警告を、カルシャの耳は聞き逃さなかった。


すぐさま耳を立てると、遠くの方で鎧の金属が擦れる音がする。


「狩人…、いえ、魔物ハンターかも」


こんな森の奥深くまで、しかも町や街道から外れた場所にやってくる人間は限られている。


「魔物ハンター?」


「名前の通りよ。モンスター専門の狩人の事。で、数は?」


「匂い的には3人っす」


3人か。


カルシャはエリスに作戦を伝える。


「じゃあ、いい?よく聞きなさいよ」





「なんだぁ?はぐれウェアウルフ一匹かよ!」


大柄な男。全身革鎧で額あて。獲物は両刃の片手剣と手斧。


「良いじゃない。その手の奴隷としては高値で売れるわ」

ギリースーツの女。武器いらずでギフトで戦う系なのだろうか。


「見たところガキだが、歯向かうんなら容赦しねぇぞ」


眼帯スキン。めっちゃ強面。まさかの腰巻きナックルマン。


威圧感凄まじい中、エリスはボロをギュッと握りしめた。


(ヒイィ!カルシャ姉ヒドイっすよぉ!こんな役目、めちゃくちゃ怖いんですけどぉ!聞いてないんですけどぉ!!)


「あ、あのぉ、痛いのだけは勘弁して下さいっす…」


早く、早くぅ!


内心ヒヤヒヤしながら、エリスは下手に出て相手の態度を窺う。


「やけに素直だな?ま、俺らの強さにビビっちまうのは当然か!」


扱いやすい馬鹿なのがいて助かる。


エリスはオロオロしているふりをした。


「いいから、早く拘束しなさいよ」


ギリーが急かすが、作戦は順調だ。


「痛っ!」


片手剣男が突然声を上げる。


「どうしたのよ」


「蛇に噛まれたんだよ」


舌打ちした男につられてギリーがそちらに目をやると、すでに蛇は茂みに消えゆく所だ。ギリーは治療のため、大柄な男の傷口を見ようとしゃがむ。その瞬間、藪から蛇が飛び出した。


「痛っ…、鎧の隙間から噛まれた」


ギリーの脇に噛み付いた蛇は再び茂みに消えた。


「おい、なんかおかしいぞ!」


眼帯が騒ぐ。


こんなに蛇がいるはずがない。


こんなに正確に襲いかかる蛇が、動物な訳がない。


その思考の隙を狙って、エリスが動いた。


「シャッ!」


木漏れ日に反射する一閃。


ボロの下で隠し持っていた短剣が光る。


「ガッ!」


スキンヘッドの腹筋を浅く切り裂く。


「へへっ!油断したっすね!」


軽業一足、エリスは後ろの木の枝に跳び移ると、魔物ハンター一行を嘲笑う。


「このガキ!」


スキンヘッドが激昂して、エリスのいる木へと走り寄るが。


「カルシャ姉!」


カルシャが動く方が早かった。


「あ゛?!」


何処からともなく現れた蛇が、スキンヘッドを首吊りにしたのだ。


「《鏡移しの呪い(ヴォーパルバニッシュ)》」


ギフトを呪い堕とし、首を締め上げるカルシャの姿は、すでにハジメウサギでは無い。


「エリス、あとはアンタだけでも始末できるわ、多分」


毛皮に蛇の尾、人型の魔獣、鵺の模倣。


エリスが木から降りる頃には、スキンヘッドは窒息死していた。蛇の尾が噛んだ時にギフトは堕落済みで、マルチギフトでも無い限りは無力化出来ているはず。


エリスにはギフトによる強化を施してあり、幼女の見た目に反してゴリラ並みの膂力になっている。


元々素早く身軽なので、油断しなければ死にはしないだろう、多分。


「多分てなんすか、多分て!」


「アンタ、絶望的にツキが無いから」


「…そうっすね。気を付けます」


思い当たるフシがあるようだ。


そして、切り替えが早いのはこの幼女の良いところだ。


「で、カルシャ姉は?」


「あと1人堕とす」


さっきエリスは3人と言ったが、音は4人分。


匂い消しした奴が控えていたのだ。


隠れている奴は、状況判断が優れているらしい。


すでに仲間を見捨てて逃げ出している。


「了解っす。じゃ、片付けときますね」


「それがエリスの最期の言葉だった…」


「妙なナレーションやめてよぉ!」


余裕ぶるとか、ようじょのくせになまいきだ。


そんな感じで主従がじゃれついていると、片手剣男が後ずさった。


「なんなんだよ、こいつら…」


そんな呟きに、エリスが自信満々に教えてやる。


「知らないんすか?カルシャ・グリムとその従者、エリス・レッサカルシャっすよ!」



後書きウサギ小話

お花畑の正体は・・・?編




「カルシャ姉、それ、なんです?」


エリスが指差すのは、カルシャの握りしめる一枚の紙。


いくつかの顔と特徴、名前が書かれている。


「私の手配書」


「へへっ、有名人っすね」


「頭がお花畑なの、アンタ…」


「いやぁ、それほどでもぉ」


「褒めてないし…って、アンタ頭に何付けてんの?」


「えっ?キノコですけど?可愛くないっすか?」


冬虫夏草!


完!

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