38.悪夢の魔王さま、最凶聖女と戦う
「喰らえ!《聖女の鉄槌》」
「穿て!《煌氷牙》!」
聖女の鉄拳と魔王の氷晶が激突する。
位階6のギフト同士破壊力は凄まじく、砕かれた結晶が次々と集落を破壊する。
ウェアウルフたちを下がらせて正解だった。
こんな猛攻、エリスでも耐えられない。
接近してくるライナに合わせて槍で迎撃するが、手数が多い。
一旦仕切り直しだ。
強めに打ち付けると、いっそう甲高く金属が鳴く。
衝撃は一部が音となり、残りは槍を通じてカルシャの腕を痺れさせた。
なんて重さだ。
衝撃を殺すために後ろに跳んだのに、なお残るこの痺れ。
もっとも、衝撃を痛感しているのはライナも同じらしい。
獰猛な笑みを浮かべたままで手を握っては開いてを繰り返している。
いやはや、聖剣が納められても全く安心出来ない。
「《煌氷牙》!」
槍の穂先はウサギの角。
この身はウサギの如く疾く駆ける。
氷牙とともに飛来して、左右の揺さぶりから鋭く突き出す。
「謳え!《苛烈なる乙女の聖剣》!」
聖剣、抜刀。
対するライナは最小限の動きで聖剣を抜き放つ。
纏う陽炎、その熱は魔王のギフトすら溶かす高温。
飛来する氷晶を溶かしつつ、槍の穂先をいなす。
その上にカウンターまで決めようとしてくるから恐ろしい。
一撃離脱戦法で、被弾しない立ち回り。
死んでたまるか。
一進一退、圧されるように見せかけて、少しずつ集落を離れる。
開けた場所よりか森の中の方がカルシャの脚力を活かせる。
それに、近くに味方がいては炎が使えない。
ライナがよく喋ったのは戦闘開始までで、戦い始めてからは殆ど無言だ。
煽ってもボロは出そうにない。
地力の差を考えると、あまり長期戦には持ち込みたくないのだが。
「執念深いのね、聖女さんって」
かかるとは思えないが、会話を試みてみるか。
隙なく槍を構える。
果たしてライナは応じるだろうか。
カルシャが立ち止まった事で、悠然と歩み近付いてくるライナは、依然として獰猛に笑っている。
その歪んだ口元が、会話に応じた。
「私は元々そういう人間なの。もし元の世界に戻れるのなら、私を殺した奴だって殺してやるわ!」
もはや枷など存在しないのだ。
聖女としては終わっている。
人間の守護者たり得ない。
「オマエはどうなの?殺し殺されるモンスターの中でも知性あるオマエは、例えば仲間を殺されたら?自分が殺されそうになったら?どうする?」
そのような問いかけをする時点で、コイツは既に聖女じゃない。
「私は獣よ。生存本能に従うまでだわ。仲間が殺されたって、強い相手には復讐なんて出来ない。返り討ちにあうだけだもの」
聖女なんてものは、狂った人間だ。
別にモンスターでも変わらない。
聖女は人々を守る存在だが、その勘定に本人が居ない。
過去の聖女や聖者たちの記録を見る限り、人を守ったり人に殺されたり自己犠牲の果てに死んでいった。
英雄的で献身的で、一神教だけに都合が良い。
カルシャが聖女を嫌う理由はそこだ。
他者を守る、なんて行動は、余裕があってこそ可能なのだ。
だからカルシャは他人の命を滅多に預からない。
干渉もしない。
助けもしない。
もののついでも無ければ、今頃エリスすら居ない筈。
この聖女さまは種こそ持っているが、本質は復讐の方だ。
大人しく聖女さまをやっていてくれれば良かったものを。
「私は私を害する者を許さない!例え相手が強くたって、刃を納める理由にはならない!」
そんな奴は獣には居ない。
人間はこれだから面倒くさい。
「それを理解できるように、オマエを倒してから、仲間を殺すわ!それを見届けさせてから、オマエを殺す!」
剣を片手に構える。
「なら、やってみなさいよ」
再び戦端が開かれる。
剣と槍が舞い踊る。
鋼と鋼の打ち合う音。
ルシャーリアの姿でなければ、鍛錬を積んでいなければ、太刀打ち出来なかっただろう。
盾のギフト、疾風のギフトを織り交ぜて、戦いはさらに加速していく。
脚の跳躍・速度を活かして大きく動くカルシャ。
鉄拳と聖剣で正確に迎撃とカウンターを狙うライナ。
ぶつかるたびに、交錯するたびに、衝撃波が迸る。
森の木々が震え、上位者たちの一挙手一投足に怯える。
散りゆく葉、千切れゆく枝、砕ける幹に、抉られる地面。
ギフトによって荒らされていく戦いの場に、暗く重たい雲が垂れ込める。
旋律は重たく、多重の音に。
雫を落とし始めた黒雲の下、聖女と魔王は踊る。
ここまでは互角の戦いだった。
後書きウサギ小話
真面目な話の時は・・・編
「カルシャさん、行ってしまったね…」
「あれこそ魔王の背中でござるよ」
「皆ルシャ姉を信じて大人しく待つっすよ」
「気にならないのかい?」
「シリアスな時は大人しくしてろって、故郷のばっちゃが言ってたっす!」
ギャグキャラ要因!
完!




