37.最凶聖女さま、悪夢の魔王を見つける
ウェアウルフの喝采に包まれる集落だったが、それは長く続かなかった。
何故なら、森の方から猛烈な殺気が現れたからである。
「見ぃつけた♪」
悠々と歩いて集落に入ってくる聖女ライナ・クロムウェル。
まるで街を散策するような態度だが、その出で立ちは完全なる戦装束。
ミスリルで固められたフルメイル、そして鈍く輝く聖剣。
外套はボロボロで、全体的に血塗れだったのだろう、どす黒く酸化した血染みが点在している。
まるで死霊の騎士のようだった。
どうやら死んでいなかったらしい。
あの重度の火傷から生き残り、さらにカルシャまで辿り着くとは、なんて執念深い奴なのか。
コイツの相手を出来るのはカルシャだけだろう。
目配せすると、エリスたちが察して動く。
ウェアウルフたちを下がらせて、カルシャは変身してから前に出る。
一番馴染むルシャーリアの姿で、カルシャはライナを出迎えた。
「久しぶりね、聖女さん」
穏やかなのは言葉だけだ。
身体は最大級の脅威に対して、緊張と恐怖を抱いている。
コイツの恐ろしさはギフトの数による。
今はそこに底知れぬ何かが上乗せされており、それがカルシャの本能を刺激しているのだ。
「ええ。とっても逢いたかったわ、ウサギさん」
表面だけがにこやかに見えるので、余計に恐ろしい。
目だけがギラついているのが、それを加速させていた。
「てっきり死んだものと思ってたけど、どうやって生き延びた訳?」
せっかくの手駒をむざむざ殺される訳には行かない。
私自身も死にたくはない。
つまり、私自身がコイツを退けるしかない。
考えろ。
必勝への道を。
会話の中で糸口を見つけるんだ。
そんなカルシャの内心など知らず、ライナはにこやかに語る。
「神の奇跡、とでも言っておくわ。それより…面白い話、聞きたくない?」
「聞かせてもらおうかしら」
そんな風に始まった聖女の言葉。
それは昔話であった。
「偽りの聖女が居たの。転生者で、一神教の傀儡だった」
一神教の召喚式の中で目覚めた聖女。
一度目の生を殺人によって奪われた少女は、一神教の傀儡として二度目の生を受けた。
表面的には服従し、傀儡状態を脱するための反逆心だけを持ち続けていたが、それもある日唐突に終わりを告げた。
「ある日、従者も自身の命も失った。理不尽な死は二回目だったわ」
魔王の力を持つウサギに焼き尽くされたからだ。
それはそれは理不尽な死だった。
なんせ出会い頭の衝突事故のようなもの。
全身火傷で動けずに、誰も来ない遺跡の深部で一人きり。
但し、それは最悪の死ではあったが、最悪の結末ではなかった。
「だからなのか、私は復讐と聖女の力を手に入れた」
上位者への覚醒。
種の取得が起きたのだ。
もっとも、それが幸運なのかは知らない。
しかし、今こうして立ちはだかるライナには、間違いなく上位者の種が芽吹いている。
カルシャの中の革命が、危険と高揚を叫んでいるのだ。
ライナは笑っていた。
「一神教の胡散臭い司祭共は、いずれ全員殺してやるわ」
それは復讐なのだろう。
自由を奪った者への報復だ。
そして、それは止まる事を知らない。
「でも、一番殺したいのはあいつ等じゃないの」
獰猛な笑みを一身に受ける。
「誰なのかしらね」
受け流し、カルシャは槍をしっかりと握った。
「あは。そんなの解ってるでしょう?」
その言葉。
その視線。
その意志。
「 オ マ エ だ よ ! ! カ ル シ ャ ・ グ リ ム ぅ ! ! 私 を 殺 し た 報 い は き っ ち り 受 け て 貰 う ぞ ! ! 」
その全てが、カルシャ・グリムという復讐対象へと注がれていた。
「怖い聖女さまだこと。それって逆恨みよ?」
だが、先にカルシャにちょっかいをかけたのはライナの方だ。
カルシャからすれば、殺らねば殺られる状況だった。
遅かれ早かれ衝突していた事に違いはない。
それを恨まれても困る。
お前だってモンスターを殺し回っただろ?
「知った事か!私は死んだ!オマエが殺した!それで十分だ!」
そんな事は関係ない。
全ては殺し殺された、その点だけに起因する。
聖剣を構え、ライナはカルシャに跳びかかる。
「お盛んね。良いわ、相手してあげる」
両手で槍を構え、カルシャはそれを迎え撃つ。
魔王と聖女。
魔物と人の戦いが、今まさに開幕する。
後書きウサギ小話
陰口編
「何あれ、コスプレのつもりかしらね、ヴィヴィアン?」
「しっ!見ちゃ駄目、絡まれるわよ、モルガナ」
「笑ってるっすよ、不気味っすね…」
「完全にイっちゃってるでござるな…」
「ちょっとないよね」
「…アンタ、酷い言われようね」
「煩い!放っとけ!」
ご乱心の代償!
完!




