35.悪夢の魔王さま、ウェアウルフの集落へ
夢魔王アーデカルシャ・グリムレクスは静かに侵略を開始した。
凍てつく炎の御旗を掲げ、数少ない腹心を連れて、世界を牛耳るための計画を練った。
その手始め。
「もうすぐ目的地だよ」
レイジの言葉に頷くのは、黒髪に狼の耳、尻尾を揺らす幼女。
その肩には幼女には大きすぎる旗印。
乱反射する柄に、赤黒い布地、角持つウサギの刺繍。
“凍炎の夢魔王御旗”
やがて悪夢と征服の魔王として恐れられる存在の象徴となるソレは、チラチラと雪の結晶を零しながら揺れる。
「準備は良いわね?」
アーデカルシャの言葉にめいめいが頷くと、小さな魔王は満足げに、不敵に笑い、それからこう言った。
「夢魔王アーデカルシャ、進撃するわよ」
*
人里離れた森の中。
ウェアウルフの中でも人と関わらぬ部族・ソルガの集落はひっそりと存在した。
ソルガ部族の集落は、人にも侵されぬ平穏な生活を送ってきた。
ギフトを与え給うた神にも感謝し、良き行いを積み重ねてきた。
それなのに、今、集落は全滅の危機に瀕している。
流れのオーガのせいだ。
異様に強い。
ウェアウルフの爪も牙も効果が無い。
ギフトも凄まじい。
夜襲にして奇襲とはいえ、戦闘に長けている筈のウェアウルフが、こうも一方的に蹂躙されるなどと、部族の誰が思っただろうか?
ソルガの戦士・グレインは静かに武器を取った。
死への恐怖は無い。
あるのは家族を友人を害された怒りだ。
宝剣シャルアーノは家宝であり、ギフトを封じられた剣だ。
これを以てオーガを討つ。
出来なければ、ソルガはそこまでの部族だったという事。
決意を秘めて、グレインは戦場となっている広場へと躍り出た。
「ゴォアァ!」
唸りを上げるオーガが四頭。
襲撃開始からそんなに時間は経っていない。
今の所、被害は家屋がいくつか倒壊。怪我人は出ているが、死者は無し。
若い戦士たちがなんとか食い止めているが、それも時間の問題だ。
剣を振りかぶって飛びかかる。
オーガの腕を薄く切り裂き、殴打されそうになった戦士を助けた。
かわりにオーガの敵意がグレインに向く。
「ゴォ!ガァ!」
吠えたける醜悪な鬼。
言葉を理解しない原始的な獣人。
心を持つウェアウルフが、そんな獣にやられていいのか?
答えは否だ。
棍棒を振り回すオーガに対して、グレインは剣の切っ先を向ける。
「《聖なる雷光》!」
宝剣シャルアーノ。
四位の雷鳴封じたり、と刻まれたギフト付きの両刃剣から、白い雷撃が迸る。
瞬く間にオーガに着弾したそれは、オーガの身体を焼いた。
しかし、オーガは死なない。
怒りの雄叫びを上げると、火傷まみれの身体のままでグレインに突っ込んでくる。
「《巨人の力》」
剛力となるギフトを使う。
鍛え上げられたグレインの肉体に、ギフトの力がさらなる力を与える。
振り下ろされたオーガの棍棒を宝剣が受ける。
膝を折る事なく受け止めると、グレインは棍棒を押し返し、オーガの土手っ腹を斬りつけるがやはり効果が薄い。
「硬いな!《聖なる雷光》!」
飛び退きながら放つ雷撃は、しかしやはり致命傷を与えない。
これと同じのがあと3体もいるのだ。
頭が痛くなる。
だが、泣き言を言っている場合ではない。
これ以上集落での狼藉は許さない。
「《夜の獣》!」
獣の血を滾らすギフトを開けると、鬼に再び飛びかかる。
剣と牙と爪。
角と棍棒と拳。
殴り、殴られ、斬りつけ、噛みつかれ、血が流れ、血を流す。
攻防とすら呼べない泥仕合だ。
お互いどちらかが死なねば止まらない闘争。
獣である以上、縄張り争いに負ける訳には行かない。
次に奴がギフトを開けた時が勝負の別れ目だ。
大技の隙を狙う。
「ゴゥ!ガ!《滅殺閃》!」
腰だめに構えた棍棒が真一文字に振り抜かれ、その延長線の建物が切り裂かれる。
真空の刃。
グレインはその正体にこそ気付かなかったが、それが迫っている事だけは感知して、一気に姿勢を下げる。
四足歩行。
獣になりきり猛チャージ。
懐に這入り込んで股ぐらを斬り上げる。
いかな鬼とはいえ、急所を斬られて動じない訳はない。
態勢が崩れた所で跳躍、脳天に剣を付き立てる。
絶命。
血しぶきだけが勝利の証。
ようやく辺りを確認する余裕が出来て、周りを見ると、残りの3体もなんとか倒す事が出来たようだ。
奇跡的に死んだ者は居なかった。
「ウオオォォォ!!!」
勝鬨を上げる。
他の戦士たちも続いて吠える。
ソルガ族の勝利だった。
…敵が四体だけだったなら。
「グ!ガ!斥候ガ死ンダカ!使エン奴ラメ!」
ドカドカと乗り込んでくる第二波。
先の四体よりも理性的で、格好も違う。
先の斥候が棍棒だけだったのに対して、次は10体を超える。
しかも、武者鎧と大太刀を引っ提げ、言語を理解しているのだ。
グレインは直感した。
勝てない。
ここで死ぬのはソルガの方だ。
「グハ!犬ノクセニ善ク殺シタ!褒メテヤルゾ」
構える鬼。
先程の棍棒の奴と同じ構えだが、威圧感は桁違いだった。
勝てない。
死ぬ。
グレインが絶望を目の当たりにした時。
「まだ絶望するには早いわよ、オオカミさん」
グレインは駆け抜ける一迅の風、黒く輝くケモノを見た。
後書きウサギ小話
溢れ出す・・・編
「さあ始まりました、ウェアウルフ対オーガの異種族格闘技戦。今日の解説はウェアウルフのエリスさんに来ていただいています」
「どうも、解説役のエリスっす。早速ですが、本来であればこの数ならウェアウルフが圧勝する筈なんすが、このピンチや如何に」
「ふっふっふ。戦闘が得意なウェアウルフを倒せる奴を探した結果がコイツらなのです!オーガ傭兵団、高かったのよ?」
「おっと、これは傭兵オーガっすか。道理で強いはずっすね」
「アンタにあげたレプリカより高かったのよ」
「ミスリル槍より高いんすか?!」
「それなりに有名らしくって、街で小さい土地が買えるらしいわよ?」
溢れる資金力!
完!




