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34.最凶聖女さま、ご乱心する

闇夜。


星明りが照らす僅かな石造りの廊下。


アーチと燭台と荘厳な装飾。


吐き気がする。


ゆっくりと静かに歩く。


その手には鈍く輝く聖剣。


苛烈なる乙女の聖剣(カルハレッテ)》は、前の戦闘で魔王の炎に炙られたが、輝きを失うことは無かった。


それどころか、復讐の聖女となった持ち主を認めてすらいる。


聖剣ではあるが、それは使い手の純粋さしか見ない。


今や世界の理不尽への怒りと復讐に染まるライナを、純粋なる者として認めているのだ。


聖女(ドミナント)》と《復讐(エリニュス)


今のライナは、一神教の傀儡だった頃のライナではない。


既に上位者として覚醒し、辛うじて焼け残っていたレメルの記録簿“記憶の魔導書(ペイジレスブック)”を解読し、上位者として何をすれば良いか、どうしたら強いギフトが手に入るかを理解した。


見た目や傷は治ったが、その心は既に聖女に非ず。


理不尽を呪って上位者となったライナの行動基準は、復讐心にある。


「殺してやる…私を縛ったあいつ等を」


此処は一神教の聖堂。


その中でも、高位司祭が住まう区画である。


復讐のギフトは手に入れた。


何体ものモンスターを屠っていたために、ギフトの取得条件は殆ど揃っており、簡単だった。


扉を開ける。


大広間。


一神教の高位司祭の会合は、定例通り行われていた。


「何者だ?!司祭会は聖域であるぞ!」


門番代わりの司祭が詰め寄ってくるが、ライナは無視して広間の中心に進む。


「お久しぶりね、司祭の皆様がた」


フードを取ると、ライナの妖しい笑みが露わになる。


しばらく行方不明だったライナの姿に司祭たちはどよめいた。


勇者にして聖女ライナは、一神教の発表では病で床に付している事になっている。


その裏で転生者減少の異変と唐突な失踪があり、監視役の司祭と書記官、護衛騎士の痕跡も消えていたため、ライナたちは魔王級のモンスターに襲われたと考えられていたのだ。


今回の司祭会でも、ライナ失踪の原因究明と次の勇者候補について話し合われる筈だった。


それが一体どうした事か。


輝く聖剣を携えて、舞い戻ってきたのだ。


聖女のままである事は聖剣が示しているが、その真意が読めない。


その心の内を代表して、ある司祭が問いかける。


「聖女ライナ・クロムウェルよ。よくぞ戻った。これまでに何があったか聞かせてくれるか?」


その言葉に、ライナは笑みをわずかに深くした。


「魔王の種に襲われて、瀕死に陥っていました」


センテの遺跡にて遭遇したウサギ。


正体不明の魔王の種、カルシャ・グリム。


レメルの記録簿から気付いた事実は、あのウサギが放った炎が魔王の力であるという事。


「それから、私自身が上位者として覚醒しました」


幻聴が何者の仕業だったのか、ライナには解らない。


だが、事実として上位者への道は開かれた。


素晴らしいギフトも手に入った。


偽りの聖女としての枷も千切れた。


「それは幸運。神の御意思だな!して、何に目覚めたのだ?」


その事を、ここにいる司祭たちはまだ知らない。


知らず、ライナの口角が吊り上がる。


嗜虐心から。


「一つは《聖女(ドミナント)》」


焦らして。


それから、落とす。



「ーーーもう一つは、《復讐(エリニュス)》」



聖女という単語に浮き足立つ司祭たちを襲ったのは、疑問だった。


復讐(エリニュス)》?


なんで、聖女にそんな種が?


そして、何故聖剣は輝いたままなのだ?


聖なる者を祝福する筈の聖剣だと、司祭たちは勘違いしていた。


純粋なる悪も存在する。


純粋なる聖でも、場合によっては悪をなす。


例えば、聖女の敵からみた聖女は悪夢そのものだ。


司祭たちはまさか自分たちが襲われるなどとは、微塵も思って居なかった。


だから対応が遅れた。


もっとも、対応といっても逃げるか偽りの聖女によって拘束するかの二択であり、そのどちらも有効ではなかったのだが。


「ーーーー《略奪の報いの呪い(ネメシス・ライト)》」


ライナのギフトが光を放つ。


照らし出された会合の広間。


その最奥に鎮座する神の偶像、その小さな傷すら暴き出す報復の光は、人から奪った罪人を私刑に処する。


即ち、ギフト使用者が何かを奪ったと認識した対象に、その重さに応じた罰を与えるのだ。


今回の場合は、ライナを縛り付け、好きに扱った罰。


全員、死刑。


あらゆる責め苦を用意した。


飢え、渇き、窒息、腐敗、裂傷、殴打、焼身、感電、圧殺、五感喪失、精神拷問。


あとは何があったかな?


数十名の聖職者たちが一斉に喚き苦しみ死に至る光景は、ある意味圧巻だった。


これは位階の高いギフトを持つほど、数を持つほど抵抗できる。


そういうギフトだ。


恐らくあのウサギには効かないだろう。


その一方、この司祭たちは抵抗力が殆ど皆無だった。


聖職者が聞いて呆れる。


聖職者なら奇跡の一つでも起こしてみろよ。


人造聖女に殺されるなんて、なんてお笑いぐさなの?


「き、さま…裏切った、のか?」


おや?


喋れる奴がまだ居たのか。


這ってまで足元に来るとは見上げた根性だ。


コイツは裂傷だな。


至るところに切り傷があり、血塗れだ。


「裏切ったも何も、私は端から味方じゃないんですよ?」


頭を踏みつける。


そして、嘲う。


「私は枷を引き千切った。もう神なんて崇めないわ」


聖女は立ち去る。


司祭たちの骸はひどい有様だった。


まるで魔物に襲われた様だった。


それも、多種多様の。


一神教司祭惨殺事件。


それは一神教の内部のみで秘密裏に処理された。


しかし、一神教の内部に大きな波紋を引き起こす重大な事件となったのである。


この日以降、聖女ライナは死亡した事になった。


聖女ライナは一神教の敵…唯一神アトロポスの敵として認定されたのである。


後書きウサギ小話

シックスセンス?編



「あら?今回私でてた?」


「出てないっすよ?」


「なんか物凄く悪寒がしたんだけど、気のせいかしら…」


「気のせいっすよ、気のせい。あと何話かしたら聖女が襲ってくるとか、絶対気のせいっすよ」


「アンタそれ、フラグって言うのよ」


聖女襲撃の予感!


完!

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