33.最弱ウサギさん、不本意ながら魔王を名乗る
歴史が完全に記憶されている妖精サイドの話は衝撃的だった。
この世界は、魔術師アデルカ・クロトが形造った世界らしい。
遺跡群と転生者システム、ギフト、妖精、人間すら、その創造物のうちなのだそうだ。
だとすれば、ギフトを集めた先には一体何があるのか。
答えは知らない。
魔術師になるという事は判るが、それが何を意味するのかは不明だ。
今まで一生懸命集めてきたギフトだが、その正体もわかってきた。
魔術師の力の断片だそうだ。
なにそれ。
興味がない訳じゃない。
話が壮大すぎてちょっとついていけてないが。
まぁ、時間はあるのだ。
好奇心に従って、少しずつ解明すれば良い。
知的探索者カルシャ・グリムが次に目指すべきは何か。
そうだな。
例えば、世界が一人の魔術師の創造物だというのなら。
全てが創造物だというのなら、その証拠を探してみても良いだろう。
知るという行為は、正直楽しい。
未知を潰していく感覚は、野山で駆けずり回っていた頃からすれば、最高の娯楽だ。
だが、それも危険を侵さないで済む範囲で、という前提ありきだ。
私はあくまでもウサギ。
最弱種族がベースにある事は変わらない。
いつ襲われて死んでもおかしくないのだ。
魔王を襲名・引き継いでしまったのは仕方ない。
今更辞退も出来なさそうだし、させてもくれなさそうだし。
しつこいんだよなー、あの双子。
ツワブキは有能だけど、双子の手下だし、ちょっと面倒くさいし。
…まぁ、なんとかなるか。
馬鹿だけどエリスもいるし、胡散臭さはあるけどレイジもいるし。
ちょっと考え方の視点を変えてみようじゃない。
こうして、私ことカルシャ・グリムは、とある決意を固めた。
ここから先の私の行動は、ただの生存戦略ではない。
死にたくない魔王のための、出来るだけ危険を排除した侵略運営だ。
目指せ、安全第一。
目指せ、世界征服。
*
「と言う事で、改めて魔王やるわ」
「おー、ぱちぱちぱちぱち」
祝福なんて要らない。
だって成り行きでの襲名だからね。
「新たなる歴史の幕開けでござるな」
おだてるなよ、胡散臭いぞ。
とはいえ、魔王になるのに名前がそのままなのはいただけないだろう。
「と言う事で、改名します」
なんか知らないけど、称号まで与えられたしね。
「識魔王ウォロクから授かった夢魔王に合わせて名前を変えるんだね?」
「そうよ」
夢魔王なんて、ちょっとファンシーすぎやしない?
自称だったらちょっと引くわ。
「で、新しい名前は何にするんすか?」
実はもう考えてある。
「夢魔王アーデカルシャ。アーデカルシャ・グリムレクス」
カルシャ・グリムを内包する魔王の名前。
夢は夢はでも、私は悪夢なのである。
「意味合いは、“大いなる狩人・悪夢の魔王”と言った所でござるか?」
「長いから“悪夢と征服の魔王”ってとこね」
ツワブキは転生者の癖によく言葉を知っている。
この名前にはちゃんと意味があるのだ。
「なんかカッコいいっすね。僕もまた改名しよーかな…」
「なに他人事みたいな事言ってるのよ、アンタ」
そして、エリスには重大な役目がある。
「え?」
「え?じゃないわよ。アンタ、これから先は私の影武者なんだからね?」
馬鹿も大概にしてくれないと、恥ずかしい魔王になっちゃうんだからね。
ちゃんとしてくれないと困るわよ。
「え゛」
マジっすか。
影武者役が顔で語るな。
そんな魔王があるか、このお馬鹿。
「いい?私が魔王を名乗る時は今後原則アンタに変身した状態だから」
せめて無表情を通しなさいよね。
「つまり、アーデカルシャは僕の姿をした魔王?」
黒毛皮のウェアウルフの魔王。
獣耳の魔王だ。
ただのウェアウルフでは格好が付かないから、希少種のブラッド・ベルセルクってことにしましょうかね。
ルシャーリアの姿は魔王お付きのメイドにでも使うか。
「そういう事よ。解ったら槍の練習しときなさい?」
メイン武器は今後は槍。
影武者と言えど、メインの武器が扱えないのは困る。
苦手なら余計にしっかり練習してもらわなきゃね。
ニンマリすると、エリスは苦々しい顔をした。
「うへー、マジっすか…」
「喜びなさい?言い換えれば私とアンタの合作魔王よ?」
ものは言いよう。
馬鹿とハサミはなんとやら。
「う…それはちょっと、いや、かなり嬉しいっすね」
「あとは言葉遣いと態度と表情もね」
飴と鞭。
ご利用は計画的に、である。
「…うー、解ったっす」
嫌々なエリスのやる気を起こさせてから、カルシャはツワブキに命じる。
「アンタはこの槍のレプリカ作って」
「え、小生が?」
何故?という顔だが、コイツならどうにかする。
「アンタならどうとでも出来るでしょ。レプリカでいいのよ、エリスに持たせる奴だから」
「御意。仰せのままに」
適当では困るが、魔王になる以上コイツが裏切ることは無い。
そのあたりは信頼できる。
「急に魔王らしくなったね」
「使える奴は誰でも使うわ。下手打って死ぬのは御免だもの」
レイジが言うのも最もだが、行動指針が死なない事である以上、必要な事は必要なのだ。
いくらギフトのおかげで死ににくくなっても絶対という事はあり得ない。
特に、魔王なんてものは勇者に倒されるものでしょ?
気を付けすぎるなんてことは無いもの。
「で、僕はどうする?」
レイジへの命令は、主に臣下に関してだが…。
「アンタは味方に出来そうなウェアウルフの集落を探して」
「ウェアウルフの?」
エリスと同じウェアウルフ。
「そうよ。臣下がいる方が楽だもの。忠誠心があるならなお良い」
「なるほどね。部下にするには悪くないな」
忠誠心が強い。
恩を売れればなお良い。
エリス程の信頼度でなくとも、味方にするなら裏切らない奴に限る。
で、最後は双子の妖精たちだ。
「で、アンタたちは私の手伝いよ」
縫い物できる手が必要なのだ。
「何をするのかしらね、ヴィヴィアン」
「見当も付かないわ、モルガナ」
ギフトによる糸を操る彼女らなら最適な筈だ。
「アンタたちは、この槍とボロを改造するのよ」
魔王の旗印作成のためにね。
後書きウサギ小話
元・勇者候補の力 編
「はっ!よっ!痛っ!ほっ!えい!痛い!」
「オオカミさんが一生懸命だわ、ヴィヴィアン」
「だけどぶきっちょだから自分を叩いてるわ、モルガナ」
「エリス殿は槍を使いこなすのにかなり時間がかかりそうでござるなぁ」
「そんな事言うならツワブキが教えてくれっすよー」
「構わないが…小生は厳しいでござるよ?」
「あら?オオカミさんがツワブキから槍を教わるみたいだわ、ヴィヴィアン」
「あらあら鬼教官に教わるなんて無茶するわね、モルガナ」
「ひー!鬼!悪魔!魔王!」
「相変わらず武器捌きが上手いわね、ヴィヴィアン」
「得意ではない棒術でも一本が数本に見えるわ、モルガナ」
「笑止千万!疾風迅雷!電光石火ァ!」
「痛っ!痛っ!痛いっすぅ!」
ようじょぎゃくたい!
※特別な訓練を受けたようじょが出演しています。
良い子は真似しないでね!
完!




