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31.最弱ウサギさん、魔王の名を襲名する

「なんとまぁ凄いモノを見つけたでござるな」


ツワブキはこの槍を知っているらしい。


「なんなの、これ」


「昔とある魔王が振るっていた槍でござるよ」


魔王の礼装か。


道理で上位者にしか扱えないような代物の筈だ。


ツワブキは一神教が破棄した書物の知識を引用してくれた。


「知識と厭世の魔王ウォロク・スピアル、その数ある武器の一つがその“凍てつく炎の円舞槍(ガーレ・ヴォルツ)”でござる」


かつて滅ぼされた魔王ウォロク・スピアルは、数多くのギフト、数多くの武具を有した強力な魔王だった。魔王軍も屈強で、よく鍛えられており、歴代魔王の中でもかなり強力な部類だったという。


しかしそれも数十人の勇者に倒され、今は亡き者である。


「魔王の槍、ね」


そんな槍が何故こんな所に埋まっていたのか。


どんな効果のある槍なのか。


「これ、どんな槍なの?」


試しに聞いてみると、答えが返ってくる。


…改めて便利な奴だな、ツワブキ。


「魔王録に記載されていた情報によると、その槍は熱量を奪って凍えさせる事と、奪った熱量を炎にして吐き出す事ができるでござる」


「それで“凍てつく炎”なのね」


結局近接戦闘向けの武器だな。


「カルシャ姉、強い武器が手に入ってラッキーっすね」


「どうせなら生存能力上がる奴が欲しかったわ」


エリスが言う通りラッキーなのだが、どうせなら生存率上がる奴が良かったな。


そんな会話をしていると、背後から声がした。


『済まんな、武器しか残っておらなんで』


振り向けば、壊れた玉座だったものに座る法衣の男がいる。


「誰?!」


黒髪、金眼、筋骨隆々で無愛想なその男。


その正体は、とんでもない奴だった。


『我が名は識魔王ウォロク・スピアル。その槍の元・持ち主だ』


「魔王…?!」


一同驚きである。


だが、魔王ウォロクは武器を構えようとしたカルシャたちを制した。


『そう身構えるな。この身はそこのボロに残った残留思念に過ぎん』


「ボロ?あぁ、玉座に埋まってたのね」


指差すのは玉座に埋まる黒い布地。


所々金の刺繍がされている。


元々は服か何かだったのだろう。


ボロに包まれて骨も幾らか見受けられる。


『我が骸はジルバの奴に囚われていたからな』


また知らない名前が出てきた。


誰よ、ジルバって。


「ジルバ?」


聞き返すと、すぐに判明した。


『先程お前が殺した奴だよ。幻魔王ジルバ・オ・クロックだ』


魔王、ねぇ。


私はが殺したのはただのモンスターだった筈なんだけど。


「ジャバウォックとしか聞いてないけど、上位者ではあったわね」


でも確かに上位者だった。


「幻魔王ジルバ…かなり前に討伐された事になっているが、ジャバウォックがその成れの果てだった訳か」


レイジの言う通り、傭兵互助会や一神教の公式記録によれば、かなり昔に討伐されている魔王の筈。


それが何らかの理由で生き延びて、ああなっていたという訳か。


推測は立てられるが、魔王ウォロクの知っている事は一神教によって情報統制されており、カルシャたちには伝わっていない。


ウォロクの方もその事に気付いたらしい。


『ふぅむ?だいぶ知識にズレがあるようだな』


暗に魔王の癖に、と言われた気がしたが。


「魔王がいた時代なんて遥か昔のだもの。書物も残されていないから知りようがない」


こちとらただのウサギである。


知るかそんな事。


そんなカルシャの言葉を聞いて、ウォロクがこう提案する。


『では、僅かではあるが我が知識を分けてやろう』


魔王として恥ずかしくないようにな、という心の声が付きで。


残留思念だからか、音声以外の情報までだだ漏れである。


「いや、要らないけど」


なので即刻拒否してやる。


ついイラッとしてやった。後悔はしていない。


『え?我が知識だよ?識魔王って呼ばれてた魔王の我の知識だよ?』


ちょっと焦ってる。


いい気味よ。


「うん、要らないけど」


あ、ダメ押ししたら地団駄踏んだ。


『くぅー生意気な小娘め!我が残留思念じゃなかったら処してる所だぞ!』


子供か。


そもそも要らないって言ってる相手に押し付けようとするアンタが悪いんじゃないの。


魔王だからって何でも我儘通ると思うなよ。


「だって今の世に魔王なんていないし、魔王になる気なんて無いもの」


魔王になって良いことなんて無いでしょ?


危ない事は出来る限りしたくないの。


カルシャの言葉を聞いたウォロクは騒ぐのをやめて、元の無愛想に戻った。


『魔王になる気が無い、か。魔王はなりたくてなれるモノではないし、なるべくしてなるモノだぞ』


魔王とは職業ではなく運命なのだ。


言わば世界の理であり、その存在・存続に個人の意志は関係ない。


だが、カルシャからしてみれば知ったこっちゃない。


「そんなの知らないわよ。私は生存本能と知識欲だけで生きてるんだから」


そう言うと、ウォロクは失笑をこぼした。


『歴代魔王たちが聞いたら鼻で笑いそうな小物感だな…』


小物で結構。


死んだら終わりなんだから、死なないように我儘に生きる。


「でも、その魔王たちは皆んな死んだ。そうでしょ?」


それがカルシャ・グリムの在り方である。


『確かにな』


「生き残るのが最優先。死んでたまるかっての」


それを邪魔するなら、容赦しない。


障害を排除出来ないなら、恥も外聞もなく、逃げる。


これに尽きる。


命あってこそだ。


当たり前でしょ?


『種を二つも持つ癖にちっちゃい奴だな』


「煩いわね。ボロ引き裂くわよ」


『はっはっは。胆力は充分なようだな』


笑うな。


死んでる癖に。


「結局何が言いたい訳?結論を言いなさいよ」


つまり何なんだ?


まどろっこしい。


ジト目のカルシャに対して、ウォロクはニヤリとした。


『お前に魔王の力をやる。どうせ放っておけば朽ちるのみだ。それならまだ活用できる生きた奴に与えた方が良い』


単に無に帰すよりは良い。


カルシャからしても、力の増加は生存に繋がる。


一応ウィンウィンの取引だ。


「…まぁ、くれるなら貰うけど」


カルシャの消極的な賛同に、ウォロクはすぐに譲渡を行うと告げる。


『ボロを拾ってくれ。触ればすぐに与えられる』


「はいはい」


手を伸ばす。


その時、ウォロクが思い出したかのように呟いた。


『あ、ちなみにこのボロだが、元々我が法衣だから』


なにっ?!


「古着かよ!ばっちいなぁ」


モンスターがおまいう案件だが、カルシャはかなり綺麗好きなので、筋肉男の古着と言われるとちょっと抵抗感がある。


っていうか、間違いなくばっちいだろ。


鉱石に埋まってたとはいえ、死体を包んでたんだから。


何気に失礼な事を考えるカルシャに、ウォロクが吠える。


『ばっちい言うな。これでもまだ人間特効が効いてるんだからな!』


「え、そうなの?」


どうやら結構有能なアイテムらしい。


人間特効があるなら、対勇者戦闘する場合に有利だ。


『我が思念がそうさせる。人間相手にはすこぶるよく効くから、ついでに活用してくれ』


元・魔王のお墨付きだった。


ありがたく頂戴しておくか。


「考えとくわ」


使い方は追々考えるとしよう。


『では譲渡といくか』


「いつでも良いわよ」


ボロを掲げてその時を待つ。


カルシャを前に、識魔王ウォロクの残滓は詠いだした。


これも古の魔術なるものなのだろうか?


『我が力、我が知識、我が加護をこの者へ与えよ。これは祝福である。さぁ讃えよ、新たなる魔王の誕生を』


…って、今なんつった?


「え゛」


新たなる魔王、だとぅ?!


止めようと思ったが、身体が動かない。


くっ!


謀ったな!


死人の癖に!


『汝、新たなる魔王の名、夢魔王を以て世界を謳歌するが良い』


ウォロクの詠唱が閉じられ、カルシャは自身に力が漲るのを感じる。


同時に知識も溢れ、ギフトも増えた。


そして身体の硬直が解けると同時に叫ぶ。


「ちょっと!?魔王になるなんて聞いてないわよ?!」


カルシャの言葉にウォロクはニヤニヤ。


『もう譲渡しちゃったもんねー、我知らないもーん』


かー!騙された!


あ、薄れていくぞ?!


まさかのやり逃げかよ!?


「あ、こら!消えるんじゃない!待てこの老害!」


『バハハーイ』


残留思念は消えて、後には槍とボロと魔王の力が託された。


「くっ!逃げられた!」


地団駄を踏む。


やられた!


悔しい!


そんなタイミングで傅くツワブキ。


「カルシャ殿、魔王就任おめでとうございます」


「ツワブキ!お前これを狙ってたな?!」


槍の穂先を向けるが、ツワブキは涼しい顔だ。


「はっはっは、なんの事やら」


「騙された!」


このままお前の身体も涼しくしてやろうか?!


思わず槍の力を使ってしまいそうだ。


「まぁまぁカルシャ姉、落ち着いてください」


「落ち着けるかっての!」


エリスが宥めてくるが、不本意な魔王襲名への文句が消える訳もない。


それでもエリスはカルシャの目を見て言う。


「魔王でも僕は付いていくっすよ」


「エリス…」


真剣な眼差し。


思えばそれなりに長く付き合ってきた仲である。


エリスなら、解ってくれる…



「だって魔王になった瞬間、美味しそうな匂いがマシマシっすからね!」



訳がなかった!


テヘペロすんな!


「まさかの食欲魔王!?くぅー信じた私が馬鹿だった!」


私の周りは詐欺師だらけかよ!


裏切られた気持ちでいっぱいだった。


そうなるとレイジだけが救いだ。


「しかし、ここに種持ちが三人、本物の魔王が一人。凄い運命的だよね」


「まぁ、アンタはただの転生者だもんね」


普通っていいな。


「羨ましくは…ないかな」


「ですよねー」


そんなやり取りをしてから、レイジはツワブキに向き直る。


「ここまでの展開かなり作為的で、他に黒幕がいると思うんだけど、そろそろ白状してくれないかな、ツワブキ」


結論から言うと、ツワブキはやはり信用ならない奴だった。


「ふぅむ。気付いておられたか。ならば場所を移す必要があるでござる」


直接的に敵対しないが、ツワブキといると危険が舞い込んでくる気がする。


とはいえ、これは聞かざるを得ないだろう。


「これ以上何処に行くってのよ」


カルシャの問いに、ツワブキはとある地名を告げる。


「ベルグ湖でござる」


それは、双子の妖精が棲む湖のほとりであった。


後書きウサギ小話

それ言っちゃう?編



「カルシャ殿、魔王就任おめでとうございます」


「ツワブキ!お前これを狙ってたな?!」


「はっはっは、なんの事やら」


「騙された!」


このままお前の身体も涼しくしてやろうか?!


思わず槍の力を使ってしまいそうだ。


「まぁまぁカルーア姉、落ち着いてください」


「人の名前を酔わなそうでガブガブいっちゃうお酒みたいに間違えるなよ!私の名前はカルシャよ!」


「失礼、噛みました」


「違う、わざとだ…!」


「かみまみた」


「わざとじゃない?!」


「儂は見た」


「突然のジジイ化?!」


後書きだから許してね!


完!


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