29.最弱ウサギさん、生存本能全開
苦悶の叫びを上げながらのたうち回るジャバウォック。
その動きも徐々に弱々しく衰退していく。
鏡のギフトは強力なのだろうが、封じられれば魔王の力に敵う存在ではなかったらしい。
勝因は溶岩によって失われた鏡面の鉱石。
熱によって溶け出し、または融解した溶岩の付着によって虚像は歪んだのだ。
鏡を身に着けて初めて効果を発揮するギフトで助かった。
カルシャは自身の作戦がうまく行った事に安堵する。
魔王の炎で周辺の鉱石を溶かし、ジャバウォックの纏う鏡面化した鉱石を鋳潰す事でギフトを封じる作戦だったが、少し簡単に行き過ぎた気もする。
溶岩がうまく身体に降り掛かった事、溶け落ちる溶岩を反射しなかった事、ぎりぎりまで鏡のギフトを使われなかった事は、単なる幸運に過ぎなかった。
誰かが溶岩を踏んだり被ったりしてもダメだったし、ブレスも即死級だった。
魔王の火と熱対策で《拒絶の外套》を全員に纏わせたが、その効果も如何ほどだったか。
蹲るジャバウォックを見て、カルシャはそんな事を考えていた。
そして、目の前にいたが故に、その異変に最初に気付く事となる。
揺らぐ炎の中で、強烈な気配が立ち上る。
「?!まだ終わってない!」
炎の中で咆哮が上がる。
衝撃波にも似た震撃に、洞窟が震えた。
炎がかき消され、ジャバウォックの真の姿が晒される。
漆黒の体表、紅の瞳、鋭い爪に牙。
鉱石を失ってかなり痩せ細った身体が露わになるが、それを補って余りある威容があった。
後ろ脚を引き、片翼が垂れ下がり、胸は焼け爛れて肋骨が見えてはいるが、まさしく最上位モンスターたる威圧感だ。
「ユルサヌ!ユルサヌゾ、ハムシドモメ!」
怒りに燃えるジャバウォックは叫んだ。
ビリビリと空気が震える程の音声に、カルシャの本能が全力アラートするが、目の前のドラゴンから視線を外す訳にはいかない。
むしろ逃げ出そうものなら、背中から串刺し肉団子まっしぐらだ。
考えろ。
コイツをなんとかする手段を。
すぐさまブレスが吹き付けられ、カルシャは跳んで回避する。
しかし、魔王の炎で焼き尽くせなかった代償は大きい。
連続で放たれるブレスは執拗にカルシャを狙い撃つため、カルシャも必死で回避するしかない。
エリスたちも本体に攻撃を試みてブレスを止めようとしてくれるが、鉱石を失って身軽になったジャバウォックは器用に回避をしながらブレスを撒き散らし続ける。
カルシャだから避けられる。
カルシャが標的だから味方が被弾しない。
打開策は思いつかない。
ヤバイ。
まずい。
このままじゃ、死ぬ。
最上位に気軽に挑戦した罰なのか?
カルシャは焦りつつも回避を続ける。
シャードブレスのせいで、至る所に剣山が出来上がっている。
足場が、なくなっていく。
やがて。
「あぁっ!?」
地面に逆立つ鉱石を踏み抜いた。
灼熱を踏んだかと思った。
痛み自体は我慢できる。
だが、一瞬の隙は致命的だった。
「カルシャ姉!?」
エリスの悲痛な叫びと共に、シャードブレスが迫る。
一瞬が伸長する。
死に際の超感覚という奴だろうか。
カルシャの頭は妙に冷静で、迫り来る鉱石の棘すら見える気がした。
鋭い破片が、この後すぐにこの身を刺し貫くだろう。
痛そうだ。
足の痛みよりもずっと。
それも一瞬の事で、きっとすぐに死ぬ。
すぐに終わる。
ゴミクズのように死んで、朽ち果てて、終わる。
心音が、ドクリ。
あぁ、なんて無意味。
そんなのは嫌だ。
死にたくなど、無い。
だが、現実の棘はすぐそこに迫っている。
はっきりとその尖端が見える。
カルシャはそれを見て、叫んだ。
「ーーーー《拒絶の外套》!」
ギフトが開かれる。
人の手では間に合わない窮地を、神の御手たるギフトが救う。
薄く広がる拒絶の意志が、凶刃を悉く弾き、防ぐ。
「死んでたまるか!」
続けざまにギフトを開ける。
「《生命の泉》!」
かつて遺跡の守護者から奪った癒やしのギフトが、カルシャの足を修復する。
血走って紅く変色した瞳が、打開策を探す。
見つけた。
アレだ。
「《巨人の暴力》!」
剛力のギフトを開けながら、カルシャは跳躍する。
目指すはジャバウォックの背後。
溶岩で根本が脆くなった人間大の水晶柱。
ブレスの間隔、ブレスの速度、爪の届く範囲。
全てを知覚し、全てを回避し、カルシャの身体は生き残るための活路を踏みしだく。
これこそが革命の力。
ジャバウォックはかつての魔王の成れの果てであり、その身には異形の種が潜んでいる。
蘇り、生まれ変わる竜の正体は、力の摩耗した魔王の残滓なのだ。
故に、逆転するための活力を《革命の徒》が与えている。
カルシャの手が軽々と巨大な鉱石を引き抜き、ジャバウォックが振り向いたその時には、すでにカルシャは準備動作を終えていた。
即ち、持ち上げ、振りかぶり、振り下ろす。
その直後。
「つ ぶ れ ろ !」
焼け爛れた肋骨を易々と貫いた鉱石が、ジャバウォックの命を刈り取った。
スマートさの欠片も無い、血みどろの末の勝利であった。
後書きウサギ小話
自分ルール全開 編
カルシャの手が軽々と巨大な鉱石を引き抜き、ジャバウォックが振り向いたその時には、すでにカルシャは準備動作を終えていた。
即ち、持ち上げ、振りかぶり、振り下ろす。
その直後。
「つ ぶ れ ろ !」
「い や で す ー ! はいバリア!バリア張ったから無敵ですー効きませーん」
小学生男子の謎ルール!
完!




