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28.最弱ウサギさん、鏡の魔物と出会う

「ここからは洞窟内でござるよ」


ツワブキの先導で辿り着いたのは水晶洞窟の入り口だった。


「この先にジャバウォックがいるのね」


多くの突起に砕けた破片。


痛々しい石の内臓の様。


何処からか光が射しているらしく、乱反射した光たちが洞窟を妖しく照らしていた。


揺れる幻想の結晶。


じっと見ていたら吸い込まれてしまいそうな夢幻。


こんな所に棲むジャバウォックとは、一体何者なのか。


それはツワブキがよく知っていた。


「ジャバウォックは夢幻鏡の竜と呼ばれている。その名の通り鏡の如き鱗で覆われているでござる」


水晶洞窟に棲み、水晶を食み、水晶の寝床で眠る。


無限の鏡の煌めきを独り占めするドラゴン。


曰く、ソレは死ぬ事はなく、殺されるたびに水晶から再び生まれ落ちるのだとか。


そして既にソレは何千年もの間、この夢うつつの時空間を生きている。らしい。


「目がチカチカしそうっすね」


途方もない話に、目だけでなく頭がまで痛くなりそうだ。


「ちなみに、実戦だと目くらましだけでは済まないでござるよ」


ツワブキは苦々しい思い出に顔をしかめていた。


「どういう事?」


カルシャが問うと、ツワブキは話し始める。


「ジャバウォックには鏡のギフトがあるでござる」


そうしてツワブキが告げたのは、ひとつのギフトの名前だった。


鏡合わせの自責(ミラージュペイン)


相手の攻撃を受け止め、跳ね返すギフトだ。


正確には、鏡状のものに写った攻撃を虚像中に留め、それを真逆に反転させて解放する。


多くの場合はそれが攻撃であり、どんな攻撃もこのギフトの前に無効化され、多くの挑戦者が反射した自分の攻撃に沈んだ。


ジャバウォックの代名詞として悪名高いギフトらしい。


「鏡のギフトねぇ…」


鏡と称されるギフトの番人、という印象を受ける。


モンスターは神に反逆した存在のはずなのに、まるで神の授けるギフトを守っているみたいだ。


カルシャは違和感を覚えるが、それを口にはしなかった。


「小生の調べによると、鏡のギフトは体表の滑らかな鱗を乱せば弱体化するでござる」


これみよがしに弱点か。


さっきの違和感は余計に色を濃くした。


「リソースは?」


「一神教の秘匿文書庫の複数の書物に記載されていた故、信憑性は高いでござる」


見たことは無いが、焚書などの情報統制から保護された知識群である。


きっと信用に足る情報なのだろう。


「昔の人間たちはこんな奥地のモンスターも調べてたのね」


ここまで来る事すら大変なのに、どうにかして弱点を見つけ、最終的に生還しているのだから、尊敬に値する。


それを複数人が成し遂げているのだから、人間と言う奴は恐ろしい。


「人間は開拓する生き物だからね」


「そのおかげで心の準備が出来るんだから文句は無いわ」 

人間の知識とはいえ、先人の知恵に頼れるのなら、遠慮なくそうさせてもらう。


「鱗を乱すってどうすればいいんすかね」


エリスの言う通り、具体的な策が必要だ。


ツワブキに視線を向けると、ツワブキは経験による意見を述べる。


「一度負けた経験から言わせてもらうと、奴の鱗はこの水晶洞と同じで硬い。しかも洞窟の景色と同化して視認が難しいでござる」


洞窟内全体の水晶、その揺れる反射光によって見えにくく、捉えづらい。鱗も水晶と同じで硬く、傷がつきにくい。


それだけでも隙がないのに、さらにギフトまで使う。


「前はどうやったのよ?」


「塗料をかけてやれば鏡を無効化できると考えたが、見事に塗料ごと跳ね返されたでござる」


ギフトである以上、常々反射する訳ではないのだろうが、それでも厄介な事に変わりはない。


「直接干渉は難しい訳ね」


地道に削るのが正攻法なのだろう。


「割っちゃえれば楽チンなんすけどね」


普通の鏡ならね。


鏡、か。


エリスの言葉に、カルシャはふと思いつく。


「それなら、こんな作戦はどう?」





水晶洞の奥の奥。


ひときわ大きな結晶が乱立する大広間、その玉座。


まるで侵略者を迎え撃つためだけに設えられたようなその舞台に、目的のジャバウォックは悠然と座していた。


「いた。アレがジャバウォックね…」


カルシャの目に映るのは、全身を水晶で覆われ、光と虚像を纏うドラゴンの姿。


身じろぎしなければ、そこに居ることすら気付けないかもしれない。


静かな寝息をたてて、時折僅かに揺れる。


眠っているのなら好都合だ。


舞台の塩梅も悪くない。


一気に片を付ける。


「さっさと終わらせるわよ」


三人の頷きを確認すると、カルシャはすぐさまギフトを開けた。


「ーーーー《業火の射手(ブラストアーチ)》!」


轟々と燃え盛る炎。


その円弧がジャバウォックへと伸びていく。


その頭上へと(・・・・・・)


「次々行くわよ!《業火の射手(ブラストアーチ)》!」


ジャバウォックの足元に着弾した業火は爆ぜ、火種が飛び散った。


同時に騒音と熱に目を覚ましたジャバウォックが吠えたけり、カルシャたちを侵略者と認める。


「散開しなさい!」


溶けた鉱石が雨の如くしたたる玉座から、ジャバウォックは大きく息を吸い込んで、それから勢いよく吐き出す。


カルシャたちが四散したその場を、鉱石の破片が貫いて行く。


口元の鉱石や周囲の破片を巻き込んだ竜の息吹だ。


シャードブレスとでも呼ぼうか。


避けられなければ、一瞬で串刺し血塗れの肉塊に変身できるステキな吐息。


初撃以外はギフトを放つカルシャに狙いが定まって、一気に回避難度が上がる。


だが、俊敏さと器用さを発揮できる鵺状態のカルシャには当たらない。


乱発されるブレスを避けながら、カルシャはさらなる業火を放つ。


「ーー《業火の射手(ブラストアーチ)》!」


天井から垂れ下がる塊を焦がし、溶岩に戻された鉱石が飛び散る。


ジャバウォックはうっとおしそうに顔を背ける。


カルシャがジャバウォックなら、ダメージが無いので明らかに牽制されていると判断してかなり苛つくだろう。


それこそが作戦である。


そろそろ良いだろう。


「エリス!」


カルシャが叫んだ瞬間、鉱石の影から飛び出したエリス。


溶けた鉱石を踏まないように慎重に、しかし威力を殺さないよう大胆な跳躍を経て、獣化したエリスの爪がジャバウォックの後ろ脚を切り裂く。


「ーーーコシャクナムシケラドモメ!《鏡合わせの自責(ミラージュペイン)》!」


伝家の宝刀、鏡のギフトが開帳される。


切り裂かれた後ろ脚、その痛みが跳ね返る。


エリスはその傷を負う。


その筈だった。


「カルシャ姉、成功っすよ!」


揚々と離脱するエリスに、ジャバウォックは叫んだ。


「ムシケラドモメ!ナニヲシタ!」


種明かしはしない。


まだ終わってないもの。


「畳み掛けるわよ!」


駆けるカルシャと、その前に翻る影三つ。


一つ。


再び跳んだエリスは、次に脇腹を殴りつける。


痛痒に反応してギフトを開けるが、やはり鏡合わせは発動しない。


そして、その動作が次の攻撃への布石だ。


「《剣の処刑台(セイバークラフト)》!我が手に来たれ聖剣ナハルグラート!」


レイジの剣製。


見たことのある武器を一時的に複製するそれによって呼び出された紫の聖剣。


ナハルグラートは魔王殺しの聖剣であり、現在の勇者のうちの一人が所持するひとふりである。


複製とはいえ聖剣。


本物には及ばないものの、レイジの聖剣はジャバウォックの翼の付け根から前足にかけて、大きく竜皮を切り裂いた。


流石に歴戦のドラゴンだけあり、ギフトに頼り切りな転生者たちとは違って、すぐさまギフトからブレスに切り替えて反撃するが、レイジも手慣れたもので、ブレスはその背中すら捉えない。


「《亡者の糾弾(デッドアレスト)》」


ツワブキのギフトにより、溶岩が死者を模す。


死者たちはジャバウォックに取り付き、その身体を縛り付けた。


死者たちは尚も蠢き、ジャバウォックの鉱石を剥がし取っていく。


その最中。


「燃え尽きろ、その魂まで!《業火の射手(ブラストアーチ)》!」


ドラゴンの正面。


射程範囲から考えれば近すぎる距離で、カルシャは魔王の力を解き放つ。


千度の炎。


鱗を、皮膚を、肉を、骨を焼き尽くさんとする炎が、ジャバウォックを飲み込む。


カルシャは煌々と燃え盛るその炎を眺めていた。



後書きウサギ小話

性格豹変 編


「聖剣ナハルグラートなんて何処で見たのよ?」


「こないだセンテに勇者が来てた時だよ」


「え?知らないんだけど?!」


「カルシャは喜々として転生狩りしてたからね」


転生狩りの時の鵺カルシャ↓


『アハハ!もっといい声で鳴きな!』


蛇の尾ピシィ!ピシィ!


「…確かに喜々として狩ってたわ」


女王サマ!


完!


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