27.最弱ウサギさん、吹雪に見舞われる
さて、目的地について少し整理しよう。
硝子剣山シルカルト霊峰。
センテの街から遥か先にある極寒の山だ。
名前の通り、結晶化した鉱石が至る所に存在し、途絶えぬ雪景色も相まって幻想的な光景を保つ未開の土地。
そこに巣食うモンスターも別格の強さで、二つ名をもつモンスターを多く排出してきた悪名高い土地でもある。
環境とモンスターの両面からなる天然の要塞という訳だ。
流石に付近までの街道はなく、最近距離の街でしっかりと準備を整えて挑むのが普通だ。
ま、そもそも普通だ、と言える程の数の挑戦者はいない。
噂では神の槍なるものが封印されているとも言われているが、今回の目的はそれじゃない。
6合目あたりの水晶洞に棲むジャバウォックを討伐する事。
ギフト獲得権を得たらすぐに撤退。
潜る。殺す。帰る。
単純である。
単純である筈、だったのだが。
「こんな猛吹雪、聞いてないわよ!?」
視界一面の白ノイズ。
耳当てが無かったら耳が凍り付く程の悪天候である。
「カルシャ姉ー、僕なんだか眠くなってきたっすよー」
ギフトで毛皮姿になっているエリスでさえこの調子だ。
「いやいや、寝たら死ぬから!」
頭をひっぱたくと手がかじかんで痛い。
「落ち着くでござるよ」
「落ち着けるか!」
黒から白に変わった忍び装束?なるものは身体にフィットした薄手一枚。
なんで一番薄着のコイツが平気なのか謎。
そうこうしているうちにレイジが先の方を指差す。
「どうせキャンプは張らなきゃいけなかったんだ。あそこに避難しよう」
それは山肌に口を開けた小さな洞窟のようだった。
*
「生き返ったっす!」
「生き返ったわね」
「生き返るねぇ」
水晶だらけの洞窟で携帯燃料の焚き火を囲む。
枯れ枝どころか雑草もないので、ギフトと異世界技術には頭が上がらない。
「人間であるレイジ殿はともかく、魔物なのに寒さに弱すぎでは?」
「アンタねぇ、ウサギもウェアウルフもこんな過酷な環境に適してる訳ないじゃない」
むしろ薄着で平気なツワブキの方が異常なのである。
「そいえばか弱き魔物でしたな」
「その半笑いはやめろ」
「はっはっは」
本当によく解らない奴だ。
こうして嫌味や冗談は言うが、魔王になるための情報には嘘がない…ように感じる。
もしウソなら、こんな吹雪の中に来ないだろう。
それでも、こうも過酷だと問いたくなる。
「ねぇ、本当にこんな場所にジャバウォックがいる訳?」
だいたいそのジャバウォックも生物なら、こんな環境下で生きられるのか?
そんなカルシャの疑問に、ツワブキは断言した。
「それは間違いないでござる」
「証拠は?」
「小生がかつて挑んで負けたでござる」
戦ったのなら実在はするのだろう。
革命の系統ギフトだから、ツワブキにとってもギフト条件だった訳だ。
「アンタもこのギフトが欲しかった訳ね」
「カルシャ殿も知っての通り、ギフトを奪い去るギフトは有能に過ぎる故」
確かに有能だ。
《鏡写しの呪い》がなければ、カルシャはギフトを増やせなかったし、こうして魔王の種を持って遠征する事も無かっただろう。
ツワブキもギフト泥棒していたのだろうか?
「アンタは派生元持ってたの?」
「いや、持ってはいなかった」
聞けば、当時のツワブキには数個のギフトしかなかった。
そのせいでジャバウォックには勝てなかったらしい。
「一神教の命令がありましてな。一神教には授ける算段があったのでしょう」
そうでなければ、上位ギフトの解放条件を満たした所で授からないからだ。
つまり、下位ギフトであれば、一神教はギフトを授ける事ができる。
そういう事なのだろうか?
「疑問なんだけど、一神教は自在にギフトを授けられるの?」
「小生にもよく解らないのが正直な所。妖精を飼っているのか、それともギフトを授ける本があるか、或いはギフトを授けるギフトなのか、検討もつかぬでござる」
ツワブキは知らないらしい。
「元・勇者候補でも知らないのね」
「勇者候補など、一神教にとっては替えのきく駒でしか無いでござるよ」
転生者は湧いて出る。
言う事を聞かなかったり、能力不足なら別の者を用意すれば良い。
そういう扱いと言う事だ。
カルシャたちのように遺跡に到達し、魔導書を手にしたのであれば転生者の確保は容易だろう。
「転生者と勇者候補の違いはなんなんだろうね」
「それは判るでござるよ?」
ツワブキ曰く。
「一神教の勇者候補は、絶対に召喚される場所が決まっているでござる」
「何処よ?」
「聖都アラスラクトの中枢にある聖櫃でござる」
「聖櫃?」
聖都は一神教の総本山として有名なので判るが、聖櫃なんて言葉は初めて聞いた。
「左様。一神教の中枢、教皇のお膝元には、遺跡群の中でも多機能化した遺跡があり、その機能を一部解析して利用しているでござる」
歴史を改ざんする奴らの考える事だ。
「改造転生者ってとこかしらね」
どうせ都合の良いギフトを押し付けたりしているのだろう。
「勇者候補たちには特殊なギフトが埋め込まれているでござる」
カルシャの想像通り、勇者候補たちには特殊な枷がはめられていた。
「《篝火の処女》というギフトは、一神教の高位司祭が持つペンダントを鍵として、拘束・苦痛・五感遮断、その他あらゆる人間の権利を剥奪できる」
拷問にも使えるし、調教にも使える。痛み、苦しみ、恥辱に侮辱、なんでもあり。
それを身体に物理的に埋め込む。
ギフトを与えるというよりは、ギフトの効果を持つアイテムを埋め込む、という形だ。
「酷い話っすね」
「奴隷なんて比較にならないわね」
奴隷の拘束など、可愛いものだ。
せいぜい多少の苦痛を与え、おとなしくさせるだけなのだから。
「奴隷の首輪に込められたギフトの上位互換でござるよ」
ツワブキがそれを証明する。
「で、アンタにもそれが埋められている?」
「いや、小生に埋められたギフトはすでに消えている」
「消せるんだ?」
意外だ。
物理的に取り出したのか?
今度のカルシャの予想は外れた。
「死にかけて、いつの間にか助かって、そしたら消えていたでござる」
急に曖昧な話になる。
「はぁ?意味解らないわよ?」
だが、それはツワブキ自身にも理解できていない事だからだった。
「小生にも判らないでござる。ただ、死にかけて幻聴を聴いた後、助かったと同時に消えていたでござる」
結局、その話題に関してはそれ以上ツワブキからは何も得るものはなかった。
後書きウサギ小話
テンプレ転生とは・・・編
「転生者と勇者候補の違いはなんなんだろうね」
「それは判るでござるよ?」
ツワブキ曰く。
「一神教の勇者候補は、俺Tueeee!したい扱いやすい奴が選ばれるでござる」
「チート脳筋かよ!?」
異世界マウンティング転生者!
完!




