26.最弱ウサギさん、ぷちオコになる
「道中で小生の持つ情報を共有しておくでござる」
街道を行く最中、ツワブキによって上位者のギフトについての情報が語られる。
「上位者のためのギフトは、どの種を持つかによって獲得可能な種類が変わるでござる」
曰く、上位者の種は全部で11あり、それぞれに固有のギフトがある。一神教によって秘匿された事実によれば、上位者ギフトは一つ持つだけでも強大な力となり、ただ種を持つものとは一線を画すという。
そこまではカルシャも知っていたが、それぞれ固有であるため、種を持たない系統に関しては条件を満たしてもギフトを得ることはできないらしい。
「粘土板で確認したけど、やっぱり全部は手に入らないのね」
今までギフトを集めて来たが、ここで全てを得られない事が確定してしまった。
少し落胆である。
戦争がしたい訳ではないが、全てが輝く粘土板を見たかった。
まぁ、言っても仕方のない事だ。
ツワブキはカルシャの内心など知らず、さらに続ける。
「因みに、小生ももつ革命の種だが、この系統のギフトはそんなに多くない」
数にすれば10個程らしい。
「革命なだけあって、一撃必殺とか暗殺とかだものね」
「さすがカルシャ殿。よく見ておられるな」
粘土板の系統を追えば、なんとなく見える。
特定の対象、特定の条件下でのみ、一撃必殺的に、または暗殺として、もしくは無敵になる。
そんなギフトばかりだ。
嵌まれば強いが、そこに持っていく戦いのセンスが問われるだろう。
だが、根本的弱者であるカルシャにとっては、切り札は何枚あっても良いのだ。
取れるものはできるだけ持っておきたい。
「効果は見えるからね。問題なのは取得条件よ」
取得条件がよく解らないのだ。
「例えば、“天駆ける狼の魂を捧げよ”なら、どうすれば良いの?」
ここは一神教とツワブキの諜報能力の出番である。
期待に漏れず、ツワブキはすらすらと答えを教えてくれた。
「それは《太陽喰らいの狼》の獲得条件でござるな?それは単純に、天駆ける狼を殺せばいいでござる」
「魂を捧げよってのは、つまり該当する奴を殺せば解放される訳ね」
だとするとあとは、対象が何か、だな。
「あくまで獲得権が得られるだけで、派生元が必要ではあるが、カルシャ殿には関係ない話でござったな」
下位のギフトはかなり集まっているから、むしろ足りないものの方が少ない。
《業火の射手》の解放条件はきっとマスティコアか遺跡の守護竜だったのだろう。
偶然とはいえラッキーだった。
「で、天駆ける狼ってのはどいつの事よ?」
マスティコアレベルなら多少苦労するかもしれないが、ギフト獲得は容易だ。
ちょっとウキウキする。
どいつを殺せばいいのかしら?
そんなカルシャに対してツワブキが答えたモンスターの名は。
「スコルかハティ、マーナガルム、グラーシャラボラスあたりならどれでも良かった筈でござる」
ものすごく有名どころの名前だった。
「…それ、どのモンスターも滅多に出会えない最強格のモンスターだよね?」
あ然としたカルシャに替わってレイジが言った通り、マスティコアなどゴミクズに見える奴らである。
最強格モンスターの中でも特殊な個体に与えられる二つ名に近い。
「はっはっは。守りの硬い遺跡で門番していたりするでござるな」
ツワブキも知っていて軽々しく言うのだから、カルシャはぷちオコである。
「笑い事じゃないわよ!」
だが、ツワブキも不可能な事では無いという判断らしい。
「上位者ギフトなんてそんなモノでござるよ。それに、魔王のギフトを既に所持しているカルシャ殿なら、狩るのは可能でござる」
「確かにあの炎なら余程の奴じゃなきゃ殺せそうだけど…」
聖女も焼き尽くした業火である。
少々強いモンスターでも殺せるは殺せると思うが。
あれ?
ちょっと待てよ?
「ん?っていうか、他のギフトの条件も同じ感じなの?」
もしかしてだけど。
「だからそう言ってるでござる」
もしかしてだけど。
「ちょっと待ってよ」
「紅蓮に霞む魔犬は?」
「ナベリウス、ケルベロス、ガルム、オルトロスあたりでござるな」
「じゃ、じゃあ大気凍えさす竜は?」
「それはクエレプレ、ヨルムンガンド、バラウールとか」
「どれも特別に危ない奴らだらけじゃない!?」
それって私を殺そうとしてるんじゃないの?!
そういうことだろっ?
カルシャが不満をいうと、ツワブキは失笑して肩をすくめた。
「いやいや、上位者だからって裏技みたいに楽チンできる訳ないでござろう?」
だいたい奪い集めたとはいえ、ギフトいっぱい持ってる時点で相当優遇されてるでござる。
つまり、ギフトが欲しいなら戦えと?
「頭痛くなってきた…」
ツワブキはカルシャに止めを刺しに来る。
「そもそも今までが楽チン過ぎたのでござる」
魔王になるならちょっとは苦労を味わうでござるよー、とはツワブキの言。
カルシャが何も言い返せずにいると、横からエリスがはいはいと手を上げた。
「ちょっと良いっすか?」
「…何よ?」
やさぐれカルシャさんである。
そんなカルシャの圧にも負けず、エリスが言う。
「そんなに魔王のギフトって必要っすかね?」
「?」
当たり前じゃない。
要らなきゃこんなに悩まないわよ。
だが、次のエリスの言葉は、カルシャに本来のスタンスを思い出させた。
「カルシャ姉はギフト収集が目的っすけど、そこまで危険を冒してまで欲しいんすか?」
あ、そっか。
別に使いどころ無いし、命の方が大事じゃない?
魔王の種があるからって、無理に集める必要なんてない。
よく考えて見れば、知識欲と収集目的で始めたギフト集めだけど、危険を冒してまでの必要性など無いのだ。
勇者やら強いモンスターやらに出会ってきたために必要だと思っていたが、妖精たちの言葉だって無碍にしたじゃない。
「…言われてみれば、命張ってまで取るまでも無い、かも?」
カルシャ・グリムになってから、ハジメウサギとしての信条が疎かになっていたのかも。
「どちらにせよ、険しい場所にしか遺跡も生息地も無い。条件のモンスターに辿り着くまで行ってみて、その時ダメなら退けば良いでござる」
ツワブキの提案を聞いて、カルシャは改めて考える。
命が第一。ギフトはその次。
ギフトは死なずに取れそうなら取る。
それだけの事じゃない。
エリスに気付かされたのは不本意だが、冷静を取り戻したカルシャはウサギらしい選択をする。
「わかった。じゃあ、アンタから見て、一番狩りやすいのはどいつ?」
できる事ならやる。
「そうさな…《幻想鏡の刃》の条件の“ジャバウォック”なら、強さも相性も悪くないでござるな」
響き的には《鏡写しの呪い》に似てる。
後で確認しておこう。
さて、これで方針決定だ。
「じゃあソイツ探しに行くわよ。後は見つけてから考えるわ」
やれるなら殺る。
やれないなら、もうどうとでもなれ。
どうせギフト集めてれば何処かで狩らなきゃ進めないんだ。
最終的に生き残れれば万事オッケーだ、この野郎!
「カルシャ姉、ちょっと自棄っすね」
「かもね」
こうして一行の行き先は決まった。
世界の果てと呼ばれるうちの一つ。
硝子剣山シルカルト霊峰。
過酷な白銀の世界である。
後書きウサギ小話
それって何てチート?編
「ん?っていうか、他のギフトの条件も同じ感じなの?」
「だからそう言ってるでござる」
「ちょっと待ってよ」
「紅蓮に霞む魔犬は?」
「ナベリウス、ケルベロス、ガルム、オルトロスあたりでござるな」
「じゃ、じゃあ大気凍えさす竜は?」
「それはクエレプレ、ヨルムンガンド、バラウールとか」
「どれも特別に危ない奴らだらけじゃない!?」
「いやいや、上位者だからって裏技みたいに楽チンできる訳ないでござろう?」
「…はぁー、どっかにモンスター一瞬で殺せるネコとか配信されてないかしら。あれならすぐにクエ終わるのに」
「おともウェアウルフの存在意義はっ?!」
それなんて悪魔猫?!
完!




