24.最強勇者さん、悪夢と相まみえる
「さて、持ってく物はこれくらいか」
遺跡最奥の居住区にて必要なものの引き上げに来たカルシャは手早く荷物を纏める。
「勇者様に会う前に逃げないとね」
そんな呟きをこぼすカルシャが地下で逃げる準備をしていた頃、勇者ライナ一行は遺跡の入り口に来ていた。
「まずは遺跡のシステムの状態の確認が必要かしらね」
転生者が召喚されない原因を特定するには、可能性の高い所から確認するのが最短だ。
先ずは遺跡を確認する。
「エスト。遺跡制御部までのルートは?」
「こちらに」
差し出された地図を確認する。
遺跡内の入り組んだ地図だが、そこには赤いラインが足されている。
一神教の高位司祭のみが知る、遺跡内の比較的安全な通路だ。罠の情報も記載されており、他に比べて安全なのは一目瞭然だった。
距離を測る。
「1時間もあれば着きそうね。さっそく行きましょう」
だいたいだが、モンスターの遭遇さえ気を付ければそれくらいだろう。
「では、先頭は僕が」
「お願いね、リクス」
騎士が先頭、ライナの横にレメル、殿でエストが続く。
リクスは地図を持ち、罠とモンスターに気をつける。
ライナはオールラウンダーかつ護衛対象。
レメルには実戦能力は無い。
エストは中〜遠距離系のギフトを持つので、必然的にこの隊列となる。
殆ど一本道だ。
元々脱出用の緊急通路なのだろう。
少し狭めで大型モンスターは入れず、地上出口も正面ではないし、最奥まで最短ルートだ。
道中情報を確認しよう。
「エスト。改めてシステムについて教えてくれる?」
「仰せのままに」
司祭エストは語る。
「遺跡と呼ばれるものは、転生者を複製する装置の制御装置になります」
英雄創生魔術。
転生者を創り出し、魔王を駆逐するためにしたためられた魔術で、遥か昔に途絶えた技術の残滓。
異世界を観測し、ギフトに適合する死者を複製する。そのエネルギーを地下龍脈から吸い上げ、魔術を管理し、人の世を繁栄に導くために作られたソレは、今は一部の一神教徒のみが使い方を心得ている。
一神教が不要な知識として一般から奪い去った技術の情報は、今や一神教の上層部のみが知る秘密なのだ。
「システムの故障の可能性は?」
「恐らく無いでしょう。遺跡群は相互修復機能がありますゆえ」
ここセンテ遺跡の他にも、同様の遺跡は世界各地に点在する。
物理的に破壊し尽くさない限りは、自動で壊れた魔術を修復するらしい。
つくづくオーパーツみたいな奴。
システム側に問題があるとすれば、残る可能性はエネルギー不足だ。
「だとすれば、龍脈の変化によるエネルギー不足か」
そして、あとは第三者の介入。
「もしくは、転生者が刈り取られている」
龍脈は生命の源にして、大地の血管だと言われている。
そう簡単に変わるとは思えない。
可能性は、第三者の方が高い。
これにはライナ自身の願望も含まれている。
「私としては後者である事を望むわ。その方がわかり易いもの」
イメージしやすい奴もいる。
そのギフトも、転生狩りも、条件としては合っている。
「事件の影にカルシャ・グリムが居るとお考えで?」
ルシャーリア・ルークスの皮を被った不明のモンスター。
一体何者なのか。
どうやってギフトを奪うのか。
どんな戦い方をするのか。
もしあのルシャーリアがカルシャ・グリムなのだとすれば、あの余裕の裏にはなにがあるのか。
不明で、不吉で、不穏。
もし本当にギフトを奪えるのなら、埋め込まれたギフトを奪ってくれはしないだろうか。
エストの方をチラリと見やる。
それも含めて。
「あくまで願望よ」
今のライナは聖女である。
一神教の敬虔なる信者、その教えの奇跡の結晶。
「世界の魔力が不足したり、修復不能な技術が壊れているより、解決するのが楽でしょう?」
同時に縛られる者である。
一神教に都合が良いように動かされる傀儡。
「それに、勇者なら悪い魔物を狩るのが仕事だわ」
まだ勇者という肩書の方が良い。
聖人君子なんてクソ喰らえだ。
その時だった。
「っ!前方接敵!」
リクスの鋭い警告に一同が前の暗闇を見据える。
キラリと鋭い一本角の先端が灯りを反射した。
「ウサギっ?!」
その正体はハジメウサギだった。
「シャッ!」
だが、とてつもなく速い。
「速い!」
剣をスカったリクスを抜いて、ライナに突進するウサギ。
ライナは即座に反応してギフトを開陳する。
「レメル下がりなさい!《雷光の射手》!」
だが、ウサギの方が上手だ。
大きく跳躍、壁へ、天井へ足場を移し、一気にライナの背後を取る。
時間が伸長する。
極度のストレスが、時間感覚を鈍化させる。
「シャー!」
味方を巻き込みそうで躊躇するエストを尻目に、ウサギは額の角を突き立てる。
まっすぐライナに向かって。
偶然にも足をもつれさせ、間に倒れ込んだレメルの脇腹に。
「ぁ、う?」
一瞬だった。
「ーーー《鏡映しの呪い》」
聞き慣れぬギフトの発動。
熱い液体が飛び散り、ライナの顔を濡らす。
至近距離で、レメルが長い角に刺し貫かれ、脇から心臓、胸を突き破って即死するのを、ライナはまざまざと見せつけられた。
同時に理解した。
奇襲とはいえ、偶然レメルが盾にならなければ、貫かれていたのはライナだったという事を。
「レメル!?」
ウサギが頭を振ってレメルの身体を放り捨て、エストの背後に着地する。
壁に放られたレメルを抱える。
ウサギへの注視は怠らない。
動きが止まった事で、ウサギの身体にいくつか物が括られているのが解った。
「このウサギ、只者じゃない」
「そうね。ただのモンスターではないわ」
もはや言うまでもない。
コイツは。
「だって、私は悪夢の狩人なんだから」
カルシャ・グリム。
恩恵喰らいの悪夢である。
後書きウサギ小話
聖人君子の勇者・・・?編
「事件の影にカルシャ・グリムが居るとお考えで?」
ルシャーリア・ルークスの皮を被った不明のモンスター。
一体何者なのか。
どうやってギフトを奪うのか。
どんな戦い方をするのか。
もしあのルシャーリアがカルシャ・グリムなのだとすれば、あの余裕の裏にはなにがあるのか。
…そんな事はどうでもいい。
なんでもいいけど、魔物は叩き潰す!(๑•̀ㅁ•́๑)✧
単なる脳筋!
完!




